9話 放課後スーパーマーケット
とある村に、魔王が現れ人々を恐怖に陥れた。
とある町では傷ついた少年が年若い聖女により命を救われた。
とある男はそれまでの退屈な人生に別れを告げ、不確かな己の運とスキル、出来たばかりの仲間と共に新たな人生を進むことにした。
地球を生きる人類に新たな力が与えられた運命の日。
後に「ワールド・アップデート」と呼ばれる現象が起こったその日。
そんな非日常においても人の営みは変わらず続けられるものである。
とあるスーパーにも、日常の歩みを止めない女の子の姿があった。
♪♪♪
今日の夕食はカレーにします!
……そいえば先週の水曜日もカレーだった
二週連続であいり達にはちょっと申し訳ないけど、毎日献立を考えるのは本当に大変なのです。
それにお姉ちゃんは明後日のテスト勉強で忙しいのです。
ごめんね。
……え~と、にんじん、じゃがいも、……きゃあ!!玉ねぎ半額♡ラッキー♪
…………はぁあ~。それにしても世間がこんな状況なのにうちの学校は通常営業。
試験も無くなるかもってみんなで盛り上がってたのにな~
ピコンッ
あ、LI◯Eだ。
なになに、「めっちゃ練習したら水魔法使えた!ヤバい!」……そっかみさき魔法使いだったもんね。
いいな~魔法使い。スキルとかあんま分からないけど私も魔法使いたかったな~。
それに比べて私のステータスは……
===================================
Name:山田未来
Type:人間種
Job:粘魔従士
Lv.1
HP:110/110
SP:100/100
MP:90/90
AGI:22
STR:34
END:53
DEX:89
LUC:367
《Skill》
・粘魔契約 B (Lv.1/10)
・粘魔強化 B(Lv.1/10)
・粘魔鑑定 B(Lv.1/10)
===================================
最初はみんな、ステータスを見ても何がなんだか分からなかった。
でも、アニメが好きらしい早乙女君に聞いたら丁寧に教えてくれた。
それで分かったことは、私のステータスがクラスの中でもめちゃくちゃ普通ってこと。
HPやMP,SPはホントに平均くらい。AGIとかSTRは女子の中ではちょっと低いくらい。
唯一LUCだけ……みんなの3倍位有ったけど。
私ってそんな運良いっけ?て思っちゃった。
おまけに職業のスライムテイマー……。
早乙女君によると、スライムってのはアニメやゲームでは定番の人気キャラらしい。
スライムテイマーは恐らく、そんなスライムと仲良くなって戦う職業。あんま想像出来なかったけどポケモンと同じって言われて一気に分イメージ出来たなぁ。
誰とも被らなかったのは良かったんだけど、私の感想としてはイマイチパッとしないな~、て感じ。
うちのクラスで目立ってたのは、薙刀部の矢車さん。
戦姫って職業でLUC以外の全部の数値がみんなの2倍くらい有った。
もともとモデルさんみたいなスタイルで部活でも実績凄かったから目立ってたけど……キラキラしてていいなぁ~。
下校するときに見えた武道室では、防具をつけた男子が矢車さんに吹っ飛ばされてたっけ。ステータスが高かったら男子にも勝てるんだってちょっとびっくりしました。
……んー、まだルーは半分有るけど……もう1個買っとこ。カレーはルー混ぜた方が美味しいもんね。
あ、豚肉忘れてた!!
精肉コーナーはっと……
「あらっ!!みくちゃんじゃない~」
「あ、こんにちは!キミコおばさんも夕飯のお買い物ですか??」
「そうよぉ。久しぶりね~。
そいえばみくちゃんは出たの?アレ」
「アレってなんですか?」
「え~っと……ニュースで言ってた、すてー、たす?だったかしら?」
「ああ~、出ましたよ!キミコおばさんも出ました??」
「出たわよぉ。よく分からなかったけど私は『鑑定士』って職業らしいわ」
「え!鑑定士って当たりらしいですよ!すごいですね!」
そういえば早乙女君も確か鑑定士?だった。どうやら、アニメ等では鑑定士がとても強い職業らしい。
「そうなのかしら?私全然そういうの知らないからよく分からないのよねぇ」
「私も知らないんですけど、クラスの男の子が当たりって言ってましたよ!」
「じゃあ素直に喜ぶわ~。それにしても、あの変な声が聞こえてからニュースでは物騒なことばかりよねぇ、ホント怖いわぁ」
「そうなんですか??私帰ってすぐ来てるから、ニュース見れてなくて」
スマホも、電話は出来るけどインターネットはついさっきまで使えなかった。回線がパンクしてたとかなんとか。
そりゃあこんなことがいきなり起こったらみんなスマホで調べるよね。
ネットが使えるようになってからもニュースを見る暇がなかった。そんな大きな事件が起きてるなんて……お母さんもあいり達も大丈夫かな
後でLINEしよ。
「みくちゃんが元気なら安心ねぇ。お母さんにもよろしくお願いね」
「分かりました!ありがとうございます!」
ここ3、4年は私が家の家事担当だ。母子家庭のうちでは、お母さんが頑張って稼いできてくれている。毎日夜遅くまで頑張ってくれているので、家のことくらいは私が頑張らないと。
妹も弟も、そんなお母さんを見て育ってるからか素直で優しい子達だ。この前の誕生日は2人でケーキを作ってくれて思わずボロ泣きしてしまった。
……なんだろう、変な感じだ。
こんな非日常の世界でも、私の周りは変わることなく同じ日常を送る。
幸せだし、安心している。しているけど、どこかでこの非日常の、何て言うか、んーー、主人公?みたいなものになってみたい自分もいる。
「2346円になりますね~。みくちゃん袋つける?」
「大丈夫です!バッチリ持ってます!」
「いつもホントに偉いわね~。うちの息子にもみくちゃんみたいなお嫁さんもらって欲しいわホントに」
……毎日、部活も遊びもしないで家直行の私に彼氏が出来るのはいつなんでしょうか……。
うん、主人公はいいから、今年こそは恋愛したいかも。女子高生らしく。
花火大会とかイルミネーションとか遊園地とか。家族と行ってばっかだよ~。楽しいけど。
……うわ、スーパーだけで結構時間使っちゃった!
早く帰って夕御飯作らないと!!
♪♪♪
そんな彼女が、恋愛どころか薄暗いダンジョンの中でスライムに囲まれた生活を送り出すのはそう遠くない未来の話。