24話 JKも悩む
9話ぶりに未来ちゃん出てきます。
「未来~
お風呂上がったわよ~」
「は~~い」
調べものをしていた私は、一旦スマホを置く。折角のお風呂が冷めては勿体ない。そそくさと脱衣所へ向かった。
「…はふぅーー」
湯船に浸かると、そこまで疲れてないつもりの身体でも癒された気になってしまう。
しばらくボーッとしていたが、つい先程までしていた調べもののことを思い出し色々と考えてしまう。
世間はダンジョンやスキルの話題で持ちきりだが、私を悩ませるのはもっと現実的な問題。
——バイトどうしようかな…
きっかけは、職場でのお母さんの出世。
17年間、朝早くから仕事に向かっては夜中遅く帰宅する生活だったお母さんは、出世により家庭で使える時間が大幅に増えた。
「未来…ホントにありがとう。
あなたがこんなにしっかりしたお姉ちゃんだったお陰で、お母さんも頑張ってこれたわ。これから、空いた時間は自分のために使いなさいね」
私が放課後の大半を家事に費やしていたのを気にしていた母。別に私も家族のためにしていたことなので、後悔は何も無かった。
むしろお母さんにこそ自由な時間を過ごして欲しかったが、
「毎日家族揃ってお夕飯を食べれるのが、いっちばん幸せ!」
なんて言ってくれる。
結果、3,4年間私が担当していた家事当番のほとんどを母がしてくれることになった。
突然ぽっかりと空いた私の放課後タイム。
とりあえず私は周囲の友達に倣って、アルバイトを始めようと考えた。
そこで色々な求人サイトを覗いていたのだが…いまいちピンと来ない。
飲食店や雑貨店、イベントバイトにコンビニバイト。検索をかければたくさん出てくるが、どれを見てもピンと来ない。
お小遣いは十分貰えてるし、浪費する予定もない。細々とした私の趣味——料理や読書——にお金を掛けることもない。
「高時給!」、「稼げます!」
そういったキャッチコピーが、魅力的に映らない。どちらかと言えば、仕事内容や職場で出来る人との繋がりを優先したい。
そんな取り留めの無いことを考えながら、暫く湯船を楽しむ。
何となく、幸せな悩みだなあと感じた。
初めての給料が出たら、ようたとあいりにも何か買ってあげよっと。
ドライヤーで髪を乾かしながら、再び求人サイトを流し見る。……やっぱなんだかなー
ググッとくるバイトが中々見つからない。仕方ないので求人サイト画面を離れ、返信を溜めていたLI◯Eを開く。
みさきからだ……「このバイト激アツ!!一緒に応募しない?」
これまたタイムリーな。
URLをタップすると、何やら採用情報のページに飛ばされる。
「……お?」
ステータス採用…?なにそれ?
気になった私は、少し真剣に文章を読むことにした。
『※このアルバイトは単発、または長期の募集になります。
唯一無二の職業を持っている!
見たこと無いスキルを持っている!
飛び抜けたパラメータがある!
どんな特徴でも大丈夫。性別、年齢不問!
あなたのステータスを活かして新時代のアルバイトを始めませんか?
先ずはステータス提出の単発アルバイトから。何と、ステータスを提出して幾つかの質問に答えるだけで1万円!1時間ぐらいで終わっちゃう簡単なお仕事です。勿論、どんなステータスをお持ちの方でも日当はお支払します!
その後選抜を行い、見事長期アルバイトに採用された方にはなんと、破格の時給1万円!こちらの業務内容は主に所持スキルや魔法の検証、それを用いた訓練のモニター等になります!安全には最大限配慮して行うので安心してくださいね♪
それでは、皆様のご応募お待ちしております。
(株)野田コーポレーション ステータス事業部』
……怪しすぎる。
1時間で1万円?にわかには信じられない。
何か危ないことをさせられるのではないか?…もしかしてダンジョンへ突撃させられたりとか。
掲載されてるサイト自体は大手のサイトなので、そこは信用できるのか?
みさきに「…怪しくない?」と送ると、
「んーでもステータス教えるだけで1万円貰えるんだったらアリっしょ!」
…まあ、それもそうか。
単発のステータス提出だけやって、不安そうなら長期の方は断れば良いし。
何より、普段は鈍い私の勘が告げる。
面白いことになりそうだ、と。
非日常の刺激に釣られた私は、友達と一緒にこの怪しいアルバイトを受けることに決めた。
◆◆◆
その日は授業が大分長引いてしまい、漸く塾を出たのが22:00を過ぎた頃だった。
酷い空腹だ。
遅い時間、小遣いも心許ないがこれ以上は耐えることが出来ない。
食欲に負けた僕はコンビニでおにぎりを買った。本当は昆布が良かったのだが、売り切れていたのでシーチキン。
夏にしては涼しい夜道を歩いていると、向こうから制服姿の女の子が歩いてくる。ここら辺は人通りも少ないので、時間も相まって珍しく感じた。
段々と近付き、その制服が僕と同じ高校のものだと分かった。同時に俯きながら歩く女の子の姿に微かな見覚えを感じ始める。
思い出した。あれは二つ隣のクラスの弥生さんだ。
たしか、数日前から急に学校に来なくなったんじゃなかったっけ?まあ、ここ何日か何故か学校に来ない学生が増えているので彼女だけと言うわけではないが。
……こんなところで何してるんだろう。
少し面喰らっていると、目が合ってしまった。
「…あれ?
たしか…かわばた、くん??」
「う、うん。
4組の弥生さんだよね?」
同じ制服同士。顔も合わせたことがある仲で無視するのは忍びない。何となく会話が始まった。
「…たしか、学校休んでるんだっけ?
大丈夫?体調悪いの?」
「……ううん。
ちょっと、ね。色々あってさ」
俯きながら喋るその姿は、顔見知り程度である僕から見てさえ溌剌としていた彼女の印象とは余りにも掛け離れていた。
……彼女のことをちっとも知らない筈なのに、何故か無性に心配になってしまう。
何か困っているのなら、少しでも力になりたいと思った。
「…そうなんだ。今からどっか行くの?」
「ううん。少し、散歩でもしようかなって…」
「散歩か……でも、今から1人で歩くと危ないよ?ステータスの所為で最近治安悪いし」
スキルや魔法。つい昨日まで只の空想だとされてきたものが、現実になった。
善人、悪人問わずに超常の力を手に入れた結果……日本全体で、スキルや魔法を用いた「特殊犯罪」が発生した。
今はまだ1日に1件有るか無いかの頻度だが、先のことを考えると早急に手を打つべきだろう。何てことがここ最近、連日ニュースで取り上げられている。
「…それもそうだね。ありがとう、心配してくれて」
不意に笑顔を向けられ、ドキドキしてしまう。
なんだろう?さっきから変な感じがする。
今日学校で彼女の有ること無いことを噂しているのが聞こえた時、僕は一切何も思わなかった筈だ。
なのに、今目の前にいる彼女には……凄く感情が揺さぶられる。
「ここら辺でも最近誘拐事件が起きてるって聞くし……危ないから家まで送るよ」
普段は知り合いでもない女の子に絶対しないこと。最早別人の僕が喋っているようにすら感じてしまう。
「…やった♪ありがとう」
引き寄せられるように彼女の隣を歩く。どうやら校区内に住んでいるらしいので、それ程距離はないだろう。両親が心配する前にメッセージで連絡をしておく。
歩いている途中も、彼女から目が離せない。隣で何やら喋ってはいるが意識は彼女との会話には無い。
弥生さんて、こんな長い睫してたんだ…笑う時八重歯が出て可愛いな…瞳を見ると、身体毎吸い込まれそうで——
「はい!着いたよ、私のお家♪」
「…?!」
意識が向こう側から帰ってきた。
周囲を見渡すが、どこにも住居らしいものは見えず、
「…も、森??なんで??」
暗く、鬱蒼とした森のような場所。
ここだけ少し開いているお陰か、月光が差し込んでいる。
闇の中、妖しく微笑む彼女の姿だけはいやに鮮明だ。
「なんでって、私のお家まで送ってくれたんじゃん♪ありがと♡」
今日一番の笑顔を見せてくれた彼女は——空間に溶け込むかの様に、突如消えてしまった。
「?!んなっ?!?!」
突然のことにパニックが収まらない。
背筋を凍った舌で舐られるような、ゾワゾワする嫌な感覚。
今気づいたのだが、この森では一切の音が聞こえない。完璧な無音だ。
不気味を通り越して……余りにも異常。
堪らず唾を飲み込む。
「Gogyaaaa!!!」
な
「…ッッッ~!!!」
なんだなんだなんだ
右足がジンジンする。熱い
やばい絶対やばい死ぬ
なんだアイツ、怖い
どこだここ、痛い走る、逃げないと
「Gogggyyyyyy」
熱い足が熱い、走る
病院警察病院
スマホ
「Gyuooooooo!」
「Gogya,gogggg」
涙、鼻水、顔中ベトベトだ。
繋がらないスマホは右手から襲われて闇の中に消え去る
死ぬ
「フフフ」
怖い怖い怖い終わった死ぬ
「フフフフフ…」
「アハハハハ」
「Gyaaaaaaaaa!」
「Gogyaaaaaaaaa」
「Gyuoo」
「Goggggggggggggg」
あ
「おめでとう」
◆◆◆
「…うーん、外れ。1匹だけだしー、ゴブリンだしー。
男の子はゴブリン多いなー。何か関係有るのかなー??」
魔なる者達が巣くう森。
森の魔を統べる女王は目の前の醜い小鬼について暫く思考した後、
「まあどーでもいっか」
あっさりと意識から捨て去る。
「Googyiii」
元は別の存在だった小鬼は、知性を感じさせぬ野生の眼を闇に浮かべながら…この森を彷徨い続ける。
それはこの森に招かれた全ての者に訪れる結末。
「……まだまだかなー。もっもっと頑張らないと…やよいちゃんも頑張って連れてきてねー」
「…かしこまりました。」
一言だけ発し、姿を表していた制服の少女は再び闇に溶ける。
「…はぁーあー。早く一杯にならないかなー
時間かかりすぎー。」
残された少女は少しの間、憂鬱な気分に浸っていたが「ま、その内終わるか!」とポジティブに切り替える。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
暗黒の森に絶叫が響き渡った。
「お、もう次の子来てるじゃんか。どれどれ~??」
少女は、慣れた様子で絶叫の元へと向かう。
次は当たりが引けるかな?なんて——まるでガチャでも回すように
戦慄と恐怖が木霊する魔の森。
贄達の怨嗟が満ち足りるその時を心待ちにしながら、少女は向かう。
次の絶望の下へと。
少しこれまでに無いテイストで書きました。
こっから、野田陣営以外の再登場増えてくかもです。




