10話 彼にとってのヒーロー
9,10話は番外編みたいなものなんで本筋に絡むかは今んとこ未定です。
偶然か必然か、職業やスキルといった新たな力に目覚めた人類。
その力をどのように振るうかは本人次第。
誰かを救うため。己の願望を満たすため。自分が生きたいように生きるのも誰かの為に生きていくのも、全ては本人の自由であり責任だ。
この、神の奇跡とも呼ばれる「ワールド・アップデート」において一部の人間には類を見ない強力な力が与えられていた。
後に彼らはその身に宿した権能を振りかざし、モンスターや地球外生命体、果ては人類同士の争いで強烈な輝きを放つことになる。しかしそれは未来の話。
今はまだ、黎明期。各々が自分に与えられた力を知る段階。
・アメリカ、カリフォルニア州オークランド
「……よし、OKだライアン。カメラを回してくれ」
「……3..2..1..0」
「…やあ、みんな!Mr.Dragonだ!
ん?名前がいつもと違うじゃないかって??…そんな君には俺に生えたこのクールな鱗を見せてやろう!……オーマイゴッド、偽物じゃないぞ!!みんなご存じの神の奇跡で、この俺は何を隠そうドラゴン人間に生まれ変わったんだからな!!」
動画撮影用のカメラを構える僕、ライアン・ジャスフィールドは現役のプロスポーツ選手。とあるMLBの球団でエースを務めている。
高校時代からベースボールにおいて州、いや全米No.1と目されていた僕は、そのまま大学でも結果を残し無事MLBのドラフトで1位指名された。
プロとしてのキャリアも約5年目。ハードなトレーニング、タイトなスケジュール。まだ若手ではあるがチームの主力として、僕には責任と期待がのし掛かっていた。
「今日の動画はタイトルにもある通りだ!!ドラゴン人間になった俺のNewパワーをお前らに見せつけるためにカメラを回してるんだ!!」
本当なら、今頃僕はサンフランシスコのマウンドでチームを引っ張っている最中だ。本来僕が——怪我をしていなければ。
「今回の動画はチャンネル史上最高に面白い企画になるだろうな!!そんな予感がビンビンするぜ!!」
後悔はあるが、過ぎ去ったことは仕方の無いことだ。どうやら復帰に支障は無いらしいので、1ヶ月程地元のオークランドで療養している。
その間に旧友を温めようと友人達を訪ねたりホームパーティーに参加したりと、久しぶりに穏やかな時間を過ごしていた。
今日は、そんな旧友の中でも一番の親友エリックの家を訪ね——何故か動画撮影に付き合わされている。
僕の親友、エリックは昔から派手なのが好きだった。
スポーツや勉強といった才能は、残念ながら一切無い。エリックはその分、なんというか、悪目立ちとか悪戯に精を出す目立ちたがり屋だった。
物怖じしたり、へこたれたりしない性格は昔から。
ダンスパーティーで司会のmcをジャックして自作曲を発表、全然盛り上がらず大ブーイングで終わったのは良い思い出だ。(僕も音楽隊として参加させられた)
仕返しなのか、翌年のパーティーに1000匹のゴキブリをばら蒔いたのは流石にやりすぎだった。この町の同級生はエリックのことを「ゴキブリ」って覚えてる。
話が逸れた。
ビッグになりたいと常々言っていたエリックは卒業してそのままNewTuberになると言い出した。
両親からは止められていたし、地元の友達でも影でバカにするやつらもいた。それでもエリックは、ふらふらと夢を追いかけている。
「それで、今回エリックは何をするんだい?」
「良く聞いてくれた!まず見て欲しいものが有るんだ——堅龍守護!!」
エリックが突然叫んだかと思うと、彼の前に突然虹色の大きなプレートのようなもの——バリア?——が出現した。
「……ふぅ、スキルってのは結構疲れるもんだなぁ!
今回の企画は、このバリアの強度を試していこうと思うんだ!
最初はピッチングマシンや体当たりから初めて、クリアしていったら最後はピストルだ!面白そうだろう??」
「…………。」
いくら銃社会と言っても、好き勝手に発砲などしたら当然通報される。
今は"神の奇跡"で色々と忙しい時期だ。モンスターや能力で悪さをする者が出てきている。
発砲音1つでみんなが最悪を想像するだろう。
特にエリックは実家で撮影してるのだからそんなこと絶対やってはいけない。
僕は、そっとカメラを止めた。
「エリック、ピストルはダメだ。他のアイデアを考えてくれ。」
「俺の家にはピストルしかないんだ!ライアンの実家はライフル置いてるんだっけか??」
「そういうことじゃないだろ!!周りに迷惑がかかるって言ってるんだよ!!」
結局、僕が急遽動画に登場してエリックに全力の死球を投げた。
戦士となった僕のステータスも乗っかっていたのか、有り得ない球速のピッチングだったけど——エリックのバリアは破れなかった。
「……療養中だってのに、もしこの動画がバズったら僕がコーチに怒られるじゃないか……」
「ははは!そんときは始球式にでも呼んでくれ!」
軽口を叩くも編集中のエリックは、真剣に画面と向き合っている。
もしかしたら彼なりに焦っているのかもしれない。動画を投稿し出してもう数年経つ。同級生も結婚や昇進を経験してる中、結果が出てない自分に対して考えることがあるのだろう。
昔からそうだった。どんな悪戯でも全力で真剣。本気で取り組んで、その結果人に煙たがられていた。
…………やっぱり、こいつに動画投稿者は向いてないんじゃないかな
「ところで、まだ鱗しか見てなかったけどエリックはどんなステータスなんだい?」
エリックの体の一部には三、四枚程の龍の鱗が生えていた。
ここアメリカではタトゥーを入れる人もそれなりにいる。あんまり目立つことはないだろう。
「うーん、説明するより見てもらった方が早いな……ステータス」
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Name:エリック・フレイジャー
Type:龍人種
Job:堅龍士 (Unique)
Lv.1
HP:1200/1200
SP:340/340
MP:330/330
AGI:112
STR:785
END:889
DEX:84
LUC:203
《Skill》
・堅龍守護 SS (Lv.1/10)
・耐久強化 B (Lv.1/10)
・生命力強化 B (Lv.1/10)
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「……これ、かなり強くないかな??」
「俺自身も大分身体能力が上がった自覚はあるけど……今度調べてみるか」
「ホントに種族も違うんだね……職業の所にあるUniqueってのも初めて見たよ」
神の奇跡からもう2日は経った。
色んな人と情報交換したり、インターネットでステータスを公表している人も見かけたけど……エリックのステータスは正直違うレベルだと思う。
「こんなに高いステータスなら、政府が集めるダンジョン特務兵として徴兵されるんじゃないかな?」
「あのテレビで言ってたやつか??俺も義務だからステータスは送ったけど……もし徴兵されたら生配信でもして登録者を増やしてやるよ……ダンジョンに入るとしたら、能力的に真っ先に使い潰されるけどな!fu○k!!」
「まあこんなに守備型だとね……エリックらしいけどね」
「???俺らしい?ステータスが??」
「うん」
幼少期の僕の家庭は、ここら辺ではあんまり見ない貧しい家庭だった。
身長も低く、周りの子と比べてみすぼらしい僕は毎日苛められていた。
殴られる、蹴られる、陰口、暴言。子供らしい純粋な悪意の矛先として、これ以上と無い絶好の標的が僕だった。
仕事を頑張っている両親は帰りが遅く、心配を掛けたくなくて誰にも助けを求めることが出来なかった。子供ながらに死にたいとも思ったし、毎日一人で泣いていたんだ。
そんなときエリックがこの町に引っ越してきた。
いきなり声をかけてきて、良く一人で居た僕を捕まえては悪戯の準備に付き合わせてきた。カエルを用意したり、花火を仕込んだり……
そういった、ホントに人が嫌がることを喜ばれるとか面白いと思ってもらえるっていう、NewTuberとして致命的なズレはあるけど、
エリックは、寂しそうにしてる人、悲しそうな人がいると放っておけないヤツなんだ。
一緒にいるときに苛められそうになると必ず守ってくれたし助けてくれた。エリック流のやり方でやり返してくれた。
一緒にボコボコにされたりもしたけど、エリックがしっかりやり返してくれるからかいじめも徐々に無くなっていった。
そんなエリックが、人を守るスキルを持っているのは僕からしたら納得だった。
僕だけかもしれないけど。
このうだつの上がらない男が、僕にとってのヒーローだ。
「……そろそろ帰ろうかな。エリックも編集頑張って」
「おう!次は絶対バズってやるからコーチに怒られたら教えてくれ!!」
ちなみにエリックが公開した動画は、MLBでエースでもある僕が出てたのに全然バズらなかった。
エリックのステータスは世界でも有数のものだったらしく、数年でこの国を代表する最強の一人だ。最前線を届けるダンジョン配信によりNewTubeの登録者数が世界一になってしまい、今では僕より有名。最早僕だけじゃなくて全米のヒーロー。
「絶壁の守護者」「アメリカの盾」なんて呼ばれたりしてファンもたくさんいる。以前とは見違えるような生活だ。
次会った時には何か奢ってもらおうかな。
NewTube……アメリカ合衆国カリフォルニア州サンブルーノに本社を置く世界最大のオンライン動画共有プラットフォーム。NewTubeに動画を投稿するユーザーのことをNewTuber と呼称することが多い。
次から野田視点戻ります。