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PROLOGUE  作者: 都呂々 饂飩
1章
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(5)

 訓練場でのひと悶着から二時間後、緊急の救援要請が入り、SGFは出動を命じられた。


「なんてこった」

 フレッドは、出撃前の準備中頭を抱えていた。


「ご愁傷さまだな。フレッド」

 マイクが顔に嫌味な笑みを貼り付けて、茶化すように励ましてくる。


「こっちは笑ってる場合じゃねェーんだよ! ああ最悪だ。なんでオレがあの問題児とチームを組まなきゃいけなねェーんだよ!」

「仕方がないだろう。実戦経験の浅い新人を一人にしていてはすぐに死んでしまう」


 移送ヘリに積み込む備品の入ったケースを抱えたウォルターが、至って冷静に言ってくる。


「だからって。あのガキはねェーだろ。それともお前は嫌じゃないのかよ?」

「嫌も何も、命令に従う以外に選択肢はないだろう」


 ウォルターの意見は全くもって正論だったが、フレッドは納得がいかなかった。

 先ほど行われた出撃前のミーティングにおいて、チームの割り振りが行われた。SGFで三人一組のチームで任務にあたることが基本だ。そして経験の浅い新人は、経験豊富なベテラン隊員二人とチームを組み、実戦で経験を積んでいかなければいけない。


 しかしフレッドとウォルターは、よりにもよってあのイザベラという少女とチームを組む羽目になったのだった。


「とりあえず、最低限、顔を合わせて自己紹介くらいは済ませておくべきだろう」

「まじかよ」


 ウォルターの提案に対し、フレッドは心底嫌そうなに顔を歪めて拒んだが、戦場において命を預け合う以上、最低限の連携は取れていけないといけないわけで、やはりお互いの顔くらいはきちんと認識する必要があるのは間違いなかった。


 結局は、渋々イザベラに声をかけることに同意する。


「がんばれよー」

 対岸の火事だと思って呑気に手を振って見送ってくるマイクが忌々しかった。


 ◇


 イザベラはすでに電磁拡張式強化外骨格、通称BF(ブーストフレーム)の着用を終えていた。。


 BFとは、見た目は薄い全身タイツの上にプロテクターを合体させた単なる戦闘服だが、その実、首筋部分についた起動スイッチをONに切り替えることで、BF内部に編み込まれたミクロ単位の神経伝達繊維を通して全身に特殊な電流を流し、装着者の全身の筋肉組織や神経を刺激、活性化させる。これにより、装着者の肉体のリミッターが強制的に解除され、飛躍的な運動能力が得られる。


 故にBFは単なる防具の一種ではなく、戦車や戦闘機にも匹敵する戦術兵装として使用されている。高度な軍事的技術が使用されているという事情から、BFの使用はSGFなどの一部の特殊部隊にしか認められず、また特殊部隊配属後に受けるBF適合改造手術による肉体のチューニングが必須となる。

ただし、適合改造手術によるチューニングを施してもなお、着用者にかかる多大な身体的な負荷を完全に拭うことはできていない。


「あーっと。その。何か困っていることはないか?」


 面倒だと思いつつも、一応先輩として先に声をかけておくべきだろうと、軽いジャブのつもりで声をかけた。

 するといきなり特大のストレートが返ってきた。


「別に。必要なことは全て事前研修で習ってるから問題ない。それより任務以外では話しかけないでって言ったでしょ」


 キッと親の仇でも見るような剣幕で振り向いたイザベラは、開口一番容赦なく罵声を浴びせてきた。研ぎ澄まされたナイフみたいな少女だと思っていたが、その印象は概ね当たっていたらしい。反抗期の子どもと接しているようなものだ。


「やっぱ、やめとこうぜ。オレらがどんだけ気を回したって、相手に打ち解ける気がないなら意味ないって」

 早速、フレッドのやる気メータは、一瞬のうちにゼロ急降下した。


「そういうわけにもいかんだろう」

 ウォルターは呆れたように小さくため息を吐くと、フレッドの肩を軽く叩き、場所を変わるように促す。フレッドはつまらなさそうに少し後ろに下がって、子持ち経験者のお手並みを拝見することにした。


 長身なことに加え、何を考えているのか全く読めない鉄仮面のように冷たく不愛想な男が、目の前に立ったことで、それまで高飛車だったイザベラが警戒するように押し黙った。慎重に相手の出方を窺う様は警戒心の強い野良猫のよう。


「俺はウォルター。そしてコイツがフレッド。今日、チームを組む者同士、顔くらいは把握しておいた方がいいだろう。よろしく頼む」


 ウォルターがそう簡潔に自己紹介すると、おもむろに右手を差し出した。不意を衝かれたのか、イザベラの肩が微かに跳ねた。


「名前なんてどうでもいい。けど、敵と間違えて殺さないようにだけは気を付ける」


 最後まで差し出された手を握ることはなく、イザベラは縁起でもないことを呟くと一人歩いていってしまった。

 だが、それまでの尖りきった態度と比べると、イザベラの勢いがわずかに削がれているようだった。


 フレッドは、そんな二人のやり取りをおもしろくなさそうに見つめていた。何がおもしろくないのかと問われれば、それは、自分とウォルターとで、イザベラの接し方が全く異なることに、だ。


 イザベラのフレッドに対する態度は、マイクや他の隊員同様、あからさまに相手を見下したような感じだった。一方でウォルターに対しては、口調こそ強がってはいたが明らかに脅威を感じている風だった。それがどうにも気にくわない。


「なんでオレの話しかけたときは反発するのに、お前が話したときはしないんだ?」

 ガキに舐められているという苛立ちをぶつけるように、フレッドは地面の小石を蹴る。


「あの子はまだ子どもだ。いくらSGFに選抜される実力があったとしても、中身は十代の女の子だ。そんな子がいきなり、大人の男ばかりの精鋭部隊に入っているんだ。周りに舐められないよう、必死で虚勢を張るのは当然と思わないか?」

「そんな殊勝な玉には見えねェけどな。そもそもなんでうちなんかに入ったんだ? SGFは志願兵を募ってその中から試験を突破した人間しか入れねェだろ?」

「さあな。それは本人に直接聞いてみないとわからないな」


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