土曜日 午前
「じゃあ行ってくるね」
『ああ、行ってらっしゃい』
土曜日の朝、霞との約束があるので八時に起きて、百合がバイトに行くのを見送った
俺が相談したバイトの件は、母と現場で聞いておいてくれるそうだった
(さて今日はどうやって過ごすかな)
お昼はオムライスの予定だが、それを作るのは少しゆっくりしてからでもいい
(朝ご飯もまだだしなぁ、霞がそろそろ来るなら朝ご飯にフレンチトーストもありだな)
一応確認で玄関を開けて外を見てみた、時刻は八時半を過ぎた頃だったが家の前で霞が待っているのが見えた
『霞!』
「あ、龍司君」
霞に気がつき声をかけると、九時まで待つつもりだったのか読んでいた小説をしまってこちらに来た
『おはよ、霞』
「うんおはよう」
『来てたなら気にせずに、家に入って良かったのに』
「約束は九時だったから」
霞は律儀に約束の時間まで待ってからと思っていたらしい、ただ約束とはいえ家の前でずっと待たせるのはしたくなかった
(一応確認して良かった)
霞に気がつかなかったら、九時まで外にいさせるところだった
『とりあえず入って』
「お邪魔します」
霞を家に入れて、リビングに案内した
「龍司君」
ソファーに荷物を置いた霞が近づいてきた
「おはようのちゅーしたい」
そう言いながら正面から抱きついてくる
『そういうのは寝起きにするものじゃないのか』
そうは言いつつも、霞の希望に応えて抱きしめながらキスをした
『そういえば朝ご飯は食べたか?』
唇を離してから声をかける、霞は少し考えてからお腹を擦った
「お昼くらいにオムライスを作ると思ったから、実は食べてない」
ご飯の話をして反応したのかお腹が鳴り、少し頬を染めて恥ずかしそうにしていた
『ちょうど良かった、朝ご飯を作ろうと思ってて一緒にフレンチトーストを作ろうか』
「食べたい」
『よし、準備するからな』
冷蔵庫から卵とバターと牛乳を取り出し、砂糖とパンを用意した
『お好みでジャムやメープルシロップをかけたりもありだが、今回はお昼もあるからシンプルにしようか』
「うん」
難しい工程はないので、なるべく霞にやらせてあげることにした
『まずはボウルに卵と牛乳と砂糖を入れよう』
「あっ」
卵を割ってボウルに落とすと、黄身が二つ出てきた
『珍しいな、霞は運がいいな』
「龍司君といるから」
俺の言葉に、霞が嬉しそうに反応する
『そう言われると嬉しいかも、そしたらそれを混ぜよう』
「うん」
霞がボウルにあけたものをかき混ぜる、良い感じに混ざったのを確認して次の工程に移る
『そしたらパンを浸したいから、パンを切ろう』
家にあったのは四枚切りの厚めのやつだったので、少し染み込ませるのが良さそうだ
『どう切りたい?縦長の二枚か四角に四枚か』
「食べやすく四つに切る?」
『霞が食べやすい形にするといいよ』
女の子だし、小柄な霞は口も小さかった
「こんな感じ?」
まな板に置いたパンを丁寧に切っていく、前に一緒に野菜を切った時よりはスムーズになっていた
『あれ、成長してる』
「家で少し練習した」
俺に見せたかったのだろうか、家でも包丁で切るのを練習していたらしい
『霞は偉いな』
ちゃんと努力をしていた事を、俺は褒めてあげた
『そしたら切ったパンを、先程のボウルの中に沈めて染み込ませよう』
「うん」
霞はパンを取りボウルに入れる、菜箸を使い器用に沈ませたり裏返したりしていた
『厚めだからしっかり染み込ませてな』
霞にそちらを任せて、焼くためのフライパンを用意する
『とりあえず火にかけて、霞、そこのバターをフライパンに落として』
「うん」
フライパンを霞に持たせて、落としたバターを全体に広めるように動かしてもらう
『そうそう良い感じ』
「バターの良い匂いがする」
『お腹空くよな』
バターの匂いだけで二人のお腹が鳴る音が聞こえる
『そしたら先程の染み込ませたパンを、フライパンに並べて』
「うん、こんな感じ?」
霞はボウルからパンを取り出し、フライパンに綺麗に並べていった
『後は表と裏を焼き目がつくくらいに焼いて』
「うん」
霞は何度かパンをひっくり返して綺麗に焼いていた
『うん、そろそろ良さそう』
棚から皿を取り出し、霞が焼いたパンを置きやすいような位置に並べた
「これでいい?」
『うん良いよ、良く出来てる』
「良かった」
工程としては難しいものではないが、うまく出来て嬉しいようだった
『先食べてていいよ、俺も焼くから』
先に焼いた四つは、二枚の皿に二個ずつ置いてあった
『こっちを焼きながら霞の焼いてくれたのを食べるから、霞は後は座って食べてて』
霞が焼いてる間に第二陣は染み込ませておいた、お昼があるとはいえ、パン一枚分を半分ずつは足りないのでもう一枚を焼く
『はい、霞の分』
「ありがとう」
追加で焼いた分を霞の皿に置いていく、自分のも皿に置いてから椅子に座って一緒に食べた
『美味しかったな』
「うん、自分で作るとなお美味しい」
霞は自分で料理をする楽しみを、感じてくれているのかもしれない
『片付けするから少し休んでて』
食後に紅茶を淹れて霞には座っててもらう、そして洗い物などを終わらせてから自分の分も飲んだ
「ご馳走さまでした」
『ああとりあえずご飯食べちゃったし、どうしようか』
霞が来てから一時間ほどが経過した、先程朝食を取ったのでお昼を食べるのは昼頃に調整したかった
「二時間はある」
『そうだな、遅めの朝食にしたから二時間くらいは空けたいかな』
「それなら、エッチな事する?」
『えっ?』
霞がそう言いながら近づいてきた
『いきなりだな、どうした?』
「この前柊先輩としてたから、次は私の番がいい」
『そうなのか、それは俺は構わないけど…でも今日はそのつもりではなかったんだけど』
午後に一葉とそういう事をするつもりだとは言えないが、霞の気持ちに応えるのもしないとなとは思ってはいる
「私も今日はそのつもりではなかったから大丈夫、ただその気持ちは伝えたかった」
『なるほど、ちゃんと霞の気持ちには応えられるようにするよ』
今日でなくていいならそれはそれで助かるし、なるべくタイミングを見計らって応えてあげたいと思った
「そういえば来週の木曜日、放課後付き合って欲しい」
『木曜日?霞と登下校の日だから問題はないな』
日替わりの登下校の日も、ちょうど霞の日なので都合が良かった
「楽しみにしてる、その日は特別な日だから絶対にお願いします」
そう言いながら俺に抱きついてきた、俺は理由はわからないが霞が望むならと優しく抱きしめた
「龍司君、好き」
『俺もだよ』
暫く抱きしめあった後、離れた霞は持ってきたバッグから何かを取り出した
「あと二時間あるなら、これを観よう?」
『んっ?いいよ』
霞が取り出したものは、少し前に話題になったゴールデンレトリバーが出てくる映画だった
『へ〜パールに似てるな』
パッケージを見ると、出てくる犬が霞の愛犬に結構似ている
「これパール」
『えっ!?マジで?』
「うん、お母さんの知り合いの関係で映画に出た」
『お〜、凄いな』
パッケージを見直すと、何度も見たことがあるパールの姿がそのまま写っている
『話題にもなってたし楽しみだな』
「出演した関係で最近届いたから、実はこれ発売前のやつ」
関係者向けのものなのだろうか、先に観れるのは特別感があった
『じゃあこれ観てお昼を作ろうか』
「うん」
霞の持ってきたDVDを観てパールの活躍を観て楽しんだ、土曜日の午前は朝から良い日を過ごせた




