一葉と 1
「…司」
「……司!」
「龍司!」
『ふぁい!?』
呼ばれて目を開けると、百合が俺を起こしに来てくれていた
(え、寝過ごした?今何時だ)
外を見るとまだ薄く光が入ってくる程度だった
『六時じゃね…?』
外の暗さに疑問を持ち時計を見ると、いつもならまだ寝てる時間だった
『早すぎだろ、約束は九時だぞ』
「それは知ってるのだけど、ちょっと私とお母さん用事があるから七時に家を出て欲しいの」
『え、マジで?』
「うん」
『ふぁぁぁ、マジか〜』
昨日は結局寝付くまで時間がかかったため、思ったより睡眠は取れていなかった
『すぐに降りるよ』
「急いでシャワー浴びて来なさい、お母さんがセットしてくれるらしいから」
『あ〜わかった』
百合に言われてすぐに部屋を出た、シャワーを浴びてリビングに入ると、母が仕事道具を用意して待っていた
『母さんおはよう』
「龍ちゃんおはよう、ごめんなさいね〜今日は早めに出て欲しいの」
『それはいいけど、そういえば皆来るのは何時だっけ?』
今週の土日は母が休みなので、皆に化粧の仕方や髪のセットなどを教えてもらう話になっていた
「午後の一時からよ、その前にやる事があるの」
『あ〜なるほど』
皆が来るのは昼頃らしい、今日は一葉は俺と出かけるので参加は明日のみの予定だった
「よし、いいわよ」
『母さんありがとう』
時刻は七時を過ぎるくらいだった、用事があるなら邪魔にならないように家を出る事にした
「仲良く過ごしてきてね」
『わかってる、言ってきます』
二人に見送られ家を出た
(さて、どうするかな)
約束の場所まで来たがまだ八時にもならない、この時間だとやってるのはカフェくらいだった
(朝御飯も食べてないしモーニングとコーヒーでも飲むか)
カウンターで注文しゆっくり時間を潰すために、奥の席で朝食を取ることにした
「あの、相席いいですか?」
『いやすいません、待ち合わせしてるので』
先程からもう七人目の女性に声をかけられている
店内はまだ朝なので余り客もおらず、席も空いてるはずなのだが声をかけてくる女性が何人もいる
(今日はやけに声かけられるな、奥だから場所が悪かったのかな)
さすがに全部が全部笑顔で声をかけられるので、勧誘などとは言わないけどそれにしても多かった
(もう早めに出るか)
朝食も食べ終わり、約束の時間まで後三十分ほどだったので店から出ることにした
「え、あの人良くない?」
「芸能人かな?」
(え、そんな人いるの?)
そんな声が聞こえて振り返って店内を見たが、女性客ばかりだった
(気の所為か、とりあえず待とう)
店から出て待ち合わせの場所まで移動をした
「これから出ます、今日は楽しみです」
メッセージが届いて確認をすると、一葉から来ていた
『俺も楽しみだよ、気をつけて来てね』
そう返して待つことにした
「あの〜すいません」
『ごめんなさい』
外に出てからも、もう五人目の女性に話かけられていた
(外見だけで俺の何がいいんだ?中身も知らないのに)
自分では自分の容姿についてはわからなかった、元々髪を伸ばしていた頃は、学校でも女子に好かれるどころか異性として興味の対象になってなかったからだ
(霞みたいに運命とか言われたらどうしようもないけど)
今自分の傍にいてくれる五人は、理由はともかく普段から会話などをしていて、問題はないと判断してくれていると思ってる
(贅沢な話だよな、本来なら彼女とか一人のはずなのに)
おおやけには付き合っているとは言ってはいない、そのせいで学校では他の皆に迷惑をかけているところもある
(そろそろどうにかしないとな)
今週の月曜日から毎日が急がしかった、来週以降も自分や他の皆が、周りから色々言われるなら考えないといけないと思えた
(結局髪切ったらもっと大事になってるし…)
いい意味で話題にはなっているらしいが、結局は静かに過ごさせてもらえないのは辛いと思った
(ん?なんだろう)
待ち合わせの時間まであと少しといったところで、少し周辺が騒がしく感じ始めた
少し先に目を向けると、女性に声をかける男達がいた
(なんだろう綺麗な人だな、女優みたい)
遠目でもわかるくらいに綺麗な女性が、男達に声をかけられている
(近くで撮影とかあるのかな、芸能人ならマネージャーとか近くにいそうだけど)
気にはなったが自分も待ち合わせをしてる立場だし、他の女性は見ないで一葉を待とうと視線を他に向けた
「おはよう龍司君、待たせたかな?」
一葉の声が聞こえたのは先程見ていた方だった
『えっ?』
視線を一葉に向けると、先程の女優かと思うくらい綺麗な女性がいた
「どう?おかしくないかな?」
『は、え?』
(やばいやばいやばい!)
自分が待ち合わせしていた相手が先程の女性とは思わず、夢をみているのかと思った
『か、一葉?』
「そ、そうだけど…やっぱりおかしいかな?」
一葉の容姿は、本来なら画面の向こうで見るものじゃないかというくらい綺麗で、服装や化粧そして髪型もこれからドラマの撮影ですと言われても納得の出来る状態だった
(母さん、やりすぎだろ…凄いな)
おそらく母がやったのだろう、プロの仕事を見せられて俺は感動をしていた
「龍司君?」
『ああ、ごめん…一葉が綺麗過ぎて驚いていたよ』
「え!?う、嬉しい」
両手を頬に添えて喜んでいる姿が凄く可愛く見えた
「龍司君も凄く良いよ!」
一葉が笑顔で言ってくれる、その笑顔が更に綺麗に見えた
(やばい…外見で人に惚れるとかまたしたくないのに)
この前の霞の時を思い出す、あの時も軽めにやってくれた母の仕上げた霞は凄く可愛かった
(こんなに変わるのか、いやでも元々の素材も悪くないはずだしな)
女性限定だが自分の目には間違いないと思っている、母や百合も綺麗だがそれ以外でここまで良いと思った女性はいなかった
(どうしよう、俺今日は大丈夫だろうか)
正直一葉を見ることさえ出来ない、それくらい俺の中での今日の一葉は特別な存在だった
「む〜、ずっと考え事してる!」
頬を膨らませて拗ねる一葉でさえも、更に可愛く見える
『ごめん、でも一葉が綺麗だし可愛い過ぎて俺はどうしたら…』
「え、嬉しい…でもそれじゃ何も出来ないよ」
俺の腕に抱きついた一葉が、少し引っ張ってくる
「私も龍司君と同じ気持ちだよ、周りの皆が見てて恥ずかしいから行こう」
そう耳元で囁いた一葉から、今日は色気も感じ取れた
「今日はいっぱい楽しもうね」
『ああごめん一葉、行こうか』
沢山の人に見られながら、その場から歩き始めた




