御披露目
「龍司、起きなさ〜い」
髪を切った次の日の朝、今日は百合に起こされた
『ん〜おはよう百合』
「おはよ、やっぱり髪が短くなったからあまり寝癖はないわね」
『そう?』
百合が俺の髪を触りながら、寝癖を確かめていた
「抱き心地はどうかな〜」
百合の両手に引かれて、顔が胸に埋まる
「ん〜ちょっとチクチクする」
『百合、朝からは止めてくれよ〜』
「ん〜な〜に?」
俺が唸っていると、頭を離され唇を重ねてきた
「おはようのちゅ〜ね」
『そういう事じゃないんだが』
お互い頬を染めながら朝の挨拶をした
起きてから百合の後に続き一階へ降り、リビングに入る前に洗面所で寝癖を確認してみる
(我ながら随分とバッサリいってしまったな)
昨日切った髪を見ながら、少し跳ねている髪を直した
(これで皆への印象が変わって、霞達が悪く言われなければ良いけど)
俺にとって大事なのは他の五人であり、自分の事はそこまで気にしてはなかった
だが今回の件で自分が変わらないと周りに迷惑をかけるのだと実感した
(正直切ってから皆に良く言われたのは嬉しかったな)
「龍司いつまでやってるの?」
色々考えていたら、百合が呼びに来てしまった
朝食を食べて家から出ると、皆が待っていてくれた
「龍司君、おはよ〜」
『おはよう』
一葉はやはり学校では髪型は三つ編みでいくらしい、だが前髪を切った分明るい印象になっていた
霞は昨日みたいなセットはされてはいないが、前髪がなくなり綺麗な目が見えていた
双葉は予定より髪を切っていて、俺ほどではないが結構変わっている。今日は昨日ほど整えず落ち着かせていた
桜は昨日巻いていた顔周りの髪は真っ直ぐにおろし、普段とあまり変わらない感じにしていた
百合は言うまでもなくそこまで切らなかったので変化はないが、元々仕上がってるので言うことがない
『皆朝から可愛いけど、昨日よりは落ち着かせてるんだね』
「当たり前だよ!可愛いのは龍司君の前だけでいいの!」
『っ!』
(なるほど、たしかに学校でわざわざ他の人のために見せるものでもないのか)
五人の俺への意識が強い事が嬉しかった
『皆ありがとう』
「こちらこそだよ、これからも私達だけの龍司君でいてね」
『勿論だよ、それ以外考えてないから』
俺は皆を安心させたくて、正直な気持ちを伝えた
「今日は特に学校では気をつけなさい」
いつもとは違い、今日は周りを囲まれるように皆で登校していた
『どうしたの?皆』
「周りを見て」
霞に言われて周りを見ると、いつも通り他の学生に見られているのはわかった
『いつもと変わらない気がするんだけど』
ある意味名物になってるのだろう、俺が日替わりで女の子と登校しているのは、同じ通学路を通う学生には当たり前になっていた
「他の女の子達の視線やばいよね〜」
一葉に指された先を見ると、三人組の女の子達がこちらをチラチラ見ながら話をしていた
『う〜ん、どういう事?』
「皆龍司君を見ているのよ」
桜に言われて他の方を見ると、別の女の子がこちらをずっと見ていた
『見世物みたくなってるな』
「今まで全く興味なかったくせに、手のひら返してこの状況だからね」
『よくわからないけど、少ししたら落ち着くでしょ』
(先週まで女の子達と歩いてた男が、違う男に変わったとでも思われてるのかもしれない)
すぐに飽きられるだろうから心配はいらないだろうと思った、自分の教室に入るまでは…
「お、お前…龍司なのか?」
教室に入ると早々に大樹に声をかけられた
『そうだよ、わからないのか?』
俺の周りに霞達がいたから確信出来たのであろう、驚いていた大樹が徐々に落ち着いた
「前から髪切れと言っていたが、ここまで変わるとはな」
『おかしくないか?』
「おかしいどころかやばいよ、これから大変だろうな。柊さん達も苦労するね、いや他の皆も大変そうだな」
まだクラスメートが少ない時間だったのでそこまでではなかったのだが、人が増えるにつれ徐々にうるさくなってきた
「え、あれ誰?」
「はっ?高梨?マジかよ」
「あんないいなら、もっと早く知りたかった」
「柊さんやばくね?」
「真白さん可愛い!」
「真白さん達何かあったのかな?」
教室の人数が増えていき、どんどん周りの声がうるさくなる
しまいには他の教室の生徒まで、見に来るようになっていた
「お前ら予鈴なっているぞ〜、ん?お前高梨か?」
予鈴がなるまで人が溢れていて、担任の声で散っていった
『高梨ですけどわかりませんか?』
「いや、髪切ったのか。凄い変わったな」
担任も珍しく驚いていた
授業中も、窓際の一番後ろなのにやけに見られている気がしていた。視線を向けるとクラスメートの女子と目があってすぐに視線を逸らされた
(なんだろう、何かおかしいのかな?)
気にはなっていたが指摘をされないので、一応問題はないと判断した
休み時間になると双葉や霞が他の女子に話かけられていて、俺の方もチラチラ見ていた
(珍しいものに群がり過ぎだろ)
俺にも話かけてくる男子や女子がいたが適当に話を合わせておいた
「私は前の高梨君でも良かったのにな」
そう言っていたのは、弟が転んだ時に話をした女子だった
(何か悲しそうな顔をしていたな)
その子は近寄ってくるわけではなく、他の女子と話をしているのが聞こえてきた
「高梨君って、特定の彼女はいないんだよね?」
放課後になり部室へ向かおうとしていたら、知らない女子が声をかけてきた
『誰?』
「あ、私の友達が高梨君の連絡先知りたいって言うんだけど」
『あ〜、ごめんって伝えておいて』
今日はこの手の会話は何度もあった
休み時間や昼休みの教室で声をかけてきたり、大樹とトイレに行く時も廊下で声をかけられた
(廊下もやけに人がいたな)
見世物なのかというくらい今日は注目されていた、霞や双葉も、男子に連絡先を交換して欲しいと言われ断っていた
『何か、今日は疲れた』
部室に着くと、やっと落ち着けると思った
「そうだろうね、三年の教室まで話が流れてたよ」
百合が言うには、俺達の事が他の学年まで流れていたらしい
「龍司の事紹介してくれって言われたし、ちょっとキレそうになったわ」
『えっ?なんで?』
「現金なものよね、今まで興味なかったくせにさ」
『う〜ん?』
百合が俺のためにキレそうになってくれたのは嬉しかったが、俺にそこまでの価値があるのかと疑問にはなった
「そういえば柊さんも男子に声かけられててさ」
「高梨さん、それは言わないで〜!」
『ああ、途中で百合が面白い事になってるとか言ってたやつか?』
「そうそう、柊さんが明るくなったって言ってる男子がいて、柊さんならイケるとか声かけて断られてるの」
『うぇっ?』
「言わないでよ〜!断った!断ったからね!」
今日は皆大変だったらしい、霞や双葉も部室で疲れた顔をして座っていた
『桜はまだ元気そうだな』
桜もそれなりに話かけられていたが、皆ほど疲れてはいなかった
「私に取り入って龍司君との関係を作りたいのが見え見えだったから、全部突っぱねたわ」
『なんか大変だったな』
「龍司君の事だからね!」
俺のために頑張ったと桜はアピールしていた
「今日はまだ序の口だからね、明日からが大変だわ」
百合が少し考えるように腕を組んで唸っていた
「いっそ数日学校を休むか」
『いや駄目だろ!』
百合のいきなりの提案に、俺は即ツッコミを入れてしまった
「とりあえず帰りましょう、帰りも気をつけるように」
部室を出て、帰宅する事にした
下駄箱へ行く途中や下校時の路でも、こちらをチラチラ見る学生がいた
(そんなに髪切ったくらいで珍しいのかね)
俺は他の人の考えが理解出来ないと思った。ただ霞や双葉がやけに男子が寄ってきていたので、明日以降も注意して見ておかないとなと思えた




