外見か中身か
「ねぇねぇ、黒音さんちょっといい?」
俺の目の前の席に座る桜が、同じ教室の女子に話しかけられていた
(珍しい事もあるものだな)
少し前から話をするようになった桜は、普段は一人でいることが多く、最近は昼の弁当や放課後の部活で一緒だが、俺達以外の女子と話をしている姿は珍しかった
「何?」
そんなに仲がいいわけではないのだろう、桜の返事は素っ気無いものだった
「あ、いきなりごめんね。黒音さんって彼氏とかいるのかなって」
そう言われて俺の方をチラッと見てきた桜は、少し溜め息をつきながら応えた
「はぁ、別にいないわよ」
(まぁおおやけに、俺達付き合ってますとかではないしなぁ)
俺は二人の会話を聞きながら外を見た
俺の座る窓際から外を見ると授業用に使われるグラウンドがあり、百合と一葉が次の授業なのか外に出ていた
(百合の周りは人が多いな、一葉は逆に一人なのか)
人気者の百合と、学校では地味で目立たない一葉の二人の姿が目に入った
(あ、目が合った)
一葉を見ていたら目が合い、向こうも気がついたらしく軽く手を振り笑顔を向けてくる
(可愛いのにな、なんか勿体ないな)
軽く手を振り返し、俺だけに向ける笑顔を周りに向ければ、一人でいることもないのではないかと思った
「それでね、もし良かったらカラオケとかどうかなって」
外に向けていた視線を戻すと、まだ二人の会話は続いていた
「カラオケなんて行ってどうするの?」
「私の友達とか他の男の子とかも来るんだけど、黒音さんの事も気になっている人がいてね」
(なるほど、形式上はカラオケの誘いだが本命はそこか)
少し視線を周りに向けると何かそわそわとしている男子が数人いた、二人の会話を気にしているようだった
「私?」
「そう!黒音さん美人だし、結構男子からの人気も高いんだよ」
(へ〜、やはりそうなのか)
俺の前に座る黒音桜は、身長は160センチほどだろうかスラッとした体型に、肩の下まであるストレートな黒髪が綺麗だ
普段は眼鏡をかけているが、運動をする時は眼鏡を外しているのもポイントが高いのかもしれない
(黙っていれば美人だが、喋るとツンデレだよな)
それが俺の桜に対する印象だったが、周りは普段喋らない分桜に対する理想が高くなってるのかもしれない
(まぁそれでも桜はいい女だとは思うけどな)
今のところ俺にだけしか見せてない姿があるかもしれない、俺はそう思っていた
「興味がないからいいわ」
呆れた顔をしている、目の前の女子の話には本当に興味がない様だった
前からたまに気づいていたが、こちらの方に向く男子の視線は、霞や双葉だけではなく桜にも向いていたのだと感じた
「やっぱり…そこの高梨君と付き合っているの?」
「えっ」
(えっ)
桜と話をする女子は、俺の方を向いて指してきた
「結構噂になってるからさ、手を繋いでいたとか真白さんや柊さんも高梨君と仲が良いって」
(まぁそうだろうな)
周りから見ればそう見えて当たり前なのだろう、登下校も誰にも見られてないことなどないのだから
「ん〜でも高梨君って前髪が長くて目が見えないし、なんか地味で格好よくはないよね」
席一個分の距離で俺が聞こえるのも構わないのか、結構厳しい事を言われた
(あ〜やっぱ周りからしたら、俺ってそんなイメージか)
俺の事は別に何と言われようが構わないし、話をしたことも無い女子には興味がないから別に良かったのだが
「そんな事ない!」
「そんな事ないわよ!」
桜だけではなく、霞と双葉も叫んだ
(二人共聞いていたのか)
「龍司君は格好いいわ、他の男子なんか目に入らないくらいにね」
霞と双葉も頷いていた
「へ、へぇ、そうなんだ」
いきなり叫ばれて驚いたのか、桜に話かけた女子はたじろいでいた
(三人共嬉しいんだけどさ)
遠目で見ていた男子や他のクラスメートも「やっぱりあいつらそうなのか」などと言っていた
「私、龍司君以外の男に興味ないから」
「あ、うん…ごめんね」
桜に言われると、その女子は離れていった
『そんなつっぱねなくても、カラオケぐらい友達と行くのもありだと思うのだが』
桜に小さな声で声をかけたのだが
「他の男子なんかと行きたくないわよ、あの子も話したこともない子だったし」
友達ではなかったらしい、俺の事を悪く言ったのが許せないと言われたのは素直に嬉しかった
(う〜ん、やはり近々髪を切るかな)
周りからの印象が良くないことは自覚はしていたが、自分だけではなく他の皆のために変えるべきなんだと思えた
「なんであんなやつに女が寄るんだ、弱みでも握ってるのか」
「なんで高梨君なんかに、真白さんや柊さんっておかしいよね」
こういう言葉が聞こえてくると、本当に申し訳なくなった
本人達は勿論聞こえていて無視をしてるのだろう、だけどそれを言わせないのが俺のやるべき事ではないのか、そう前から思っていた
『三人共ありがとうな』
放課後に部室で、三人には御礼を言った
「何かあったの?」
一葉はその場にいなかったので、気になったみたいだ
「龍司君を悪く言われた」
「何それ!許せない」
霞の言葉に一葉も怒ってくれた
『俺が悪いんですよ、こんな見た目ですものね』
「外見じゃない!中身なんだよ、それに外見だって…」
皆の言ってくれる言葉が嬉しくて、涙が出そうになった
『だから近々髪を切ろうと思います』
「えぇ!?」
「それはいいけど、他の女子が寄ってきたらどうするの?」
桜がよくわからない事を言っている、そんな事あるわけないのに
(でも百合にもこの前似たような事言われたな)
『そんな事あるわけないだろ、でも見栄えが少しでもよくなるようにしたいなと思ってるよ』
(皆の傍にいて恥ずかしくないようにしないと)
「本気で言ってるの?」
『ああ、俺は本気だよ。少しでも皆が恥ずかしくないようにしないと』
「そんな事ないのに…でもそっか、そうなると私達もよね」
「そうだよね、龍司君のお母さんっていつ休みなんだっけ?」
「母さん?来週の土日あたりは休みとか聞いたような」
「高梨さんにも後で相談してみよう、私達も頑張りましょう」
一葉達は気合を入れていた
『皆は今のままでも可愛いと思うけど』
俺は正直に思っている事を口に出したが、四人は納得をしている様子ではなかった
「真白ちゃん」
『えっ?』
「この前龍司君のお母さんにしてもらった真白ちゃんを見て、惚れ直してたんだよね?」
『うっ』
あの時の霞は、こんな美少女がいるのかと驚いて、あえて思い出さないようにしていた
(外見で惚れ直したとか、なんかダサいじゃないか)
「だから私達も変わりたいの!そしたら龍司君と…」
『えっ、何?』
「今は言えないの!」
目の前の四人は皆顔を赤くして、何かを想像している様だった
「百合と母さんには後で相談しておくよ」
そう話をして今日は帰ることにした
「なるほどね〜」
帰宅して百合に話をすると、週末は空けておくように言われた
「私が行ってる美容室に行こうよ、お母さんもおすすめのとこだから」
『あ〜それなら安心かも?』
本当は百合か母に切ってもらうのもありかと思っていたのだが、久しぶりだからちゃんとしたとこでやるように提案された
「ふふふ、楽しみね〜」
少しでも皆に相応しい男になりたい、そう思えた日だった




