誕生日 3
「ただいま、久しぶりだな」
リビングのドアを開けて入ってきたのは、いつもはスーツを着て凛々しい男だが、本日は外行きのラフな格好をしていた
『と、父さん!?』
「お、龍司誕生日おめで…えっ?」
リビングに入ってきた父は、予想もしてなかった状況に驚いていた
「メ、メイド服だと…」
「あ、やばっ」
横を見ると、百合がバツの悪い顔をしていた
「あわわわわ、龍司君のお父さんですか?」
「きゃぁぁぁ、見ないで〜!」
皆がスカートと、胸元を押さえて叫んでいた
『父さん!とりあえず部屋から一回出て!』
「す、すまん!」
女の子達の悲鳴を聞いて後ろを向いた父は、リビングから一度出ていった
「いや〜、龍司も果報者だなぁ」
『父さん、帰るなら言ってよ』
「もうちょっと遅いと思ってたわ、失敗失敗」
百合は知っていたらしいが、父さんの帰る予定はもうちょっと遅めだったみたいだ。さすがに着替える時間も待たせるわけにはいかないので、部屋やプレゼントなどを少し片付けて父を呼び戻した
「龍司を驚かせたかったのだが、すまないね」
父には椅子に座ってもらいその対面に俺と百合が座っていて、他の皆はその後ろに立っていた
「話は聞いていたが、こうやって見ると凄い光景だな」
「龍司君のお父さん、今日はその、すいません」
一葉が父に謝るが、父は笑顔で俺達へ返した
「いやいや、いきなり部屋に入ってすまないね。お楽しみだったかな」
「えぇ!?」
そう言われて、一葉達は顔を真っ赤にしていた
「とりあえず父さんさ〜、いつまでいるの?」
『たしかに、俺は帰って来るのも聞いてなかった』
「ああ、すまないね。明日、また帰るよ」
父は単身赴任をしていて、会うのは半年ぶりくらいだった
「今日は龍司の誕生日を祝うのと、後は話は聞いていたからね、百合とも話がしたかった」
母から聞いているのだろう。最近の事も含め、父としての考えを伝えにきたのかもしれない
それでも父の顔は嫌そうな顔ではなく、どこか嬉しそうにしていた
「色々あったからな、今そうやって元気にしている息子を見れるのは嬉しいよ」
一瞬桜の方を見た気がしたが、すぐに俺の顔を見て笑っていた
「百合そして後ろの彼女達も、龍司の事を頼む」
父は真面目な顔になり、皆に向かって頭を下げた
『父さん…』
「龍司君のお父さん、頭を上げてください!」
頭を下げる父の様子に、皆が慌てていた
「龍司」
『ん?』
「今、幸せか?」
父が真っ直ぐに目を見てきた
『ああ勿論だよ、皆がいてくれるから俺は幸せだ』
「そうか、良かったな」
母や姉だけではなく、父にも苦労させたのだなと今再び実感した
『父さん、いつもありがとう』
近くにはいないが、いつも俺を支えてくれている家族なのだなと思えた
「皆さん、龍司の事をこれからもよろしくお願いします。百合もまた後で話そうか」
そう言うと、リビングの入り口を見た
「母さん、いるんだろ」
父の声に、リビングのドアが開いた
「あら、気づいてたのね〜」
『あ、母さん』
最近帰りが遅い母が、今日はもう帰ってきていた
「今日は午後半休をもらったのよ。明日も午前中お父さんを送り出したら、また午後から出るわ」
「もう、お父さんもお母さんも帰ってくるなら先に連絡してよ〜」
百合がスマートフォンの画面を見ながら、抗議をしていた
「言わない方が面白いでしょ、それに」
母が俺の後ろに立つ、皆を見た
「可愛い子達ね、今日は龍司のためにありがとうございます」
母も皆に頭を下げていた
「いえいえ、私達がしたかっただけなんです」
「うんうん、いい子達ね。龍司もちゃんと応えてあげるのよ」
『ああ、わかってるよ』
母の言葉に、今日の事をもう一度考えさせられた
「はいっ、チーズ」
俺を囲む形に女の子達が集まり、六人での写真を母が撮ってくれた。そして一葉がカメラを受け取り、俺達家族四人の写真も撮ってくれた
「さて母さん、行こうか」
母の手を取り、父が立ち上がった
「そうね、お母さん達二人でご飯に行くから、皆さんはまだまだゆっくりしてね」
二人は気を使ってくれたのか、リビングから出ようとしている
「あの、私達が帰りますから!」
申し訳なく思ったのか、一葉達が声をかけた
「いやいいんだ、せっかくの誕生日会の邪魔をして悪かったね。また夜に二人とは話すから、今は龍司の傍にいてあげてね」
「そうよ、こんな事今までなかったから私達も嬉しいわ〜」
『父さん、母さん、ありがとう』
俺と百合も立ち上がって、皆で入り口まで見送りに行った
「龍司」
『はい』
「誕生日なのはいいけど、あまりハメは外さないようにな」
『えっ』
「母さんから聞いたが、父さんも頑張って孫を沢山見るために稼ぐからな」
『ええ!?』
「…」
周りを見ると皆照れて、恥ずかしがっている
「ははは、ごゆっくり」
「行ってくるわね〜」
俺達のことを見て、二人は出ていった
「龍司君のお父さん、かっこよかったね」
「たしかに」
リビングに戻ると、皆が父の話をし始めた
「龍司君のお父さんだなって思ったもん、お母さんも綺麗な人だし」
「まぁ、私の母だから当然ね」
一葉の言葉に、百合が自慢げにしていた
『二人が帰って来るとは思わなかったから、びっくりしたよ』
百合は知っていたみたいだが、俺にはサプライズをしたかったのだろう
『でも嬉しかったかな』
「ふふふ、良かったわね」
百合も嬉しかったのだろう、顔に出ている
(父さんの様子だと百合との事も否定はしなそうだな)
母さんからは伝わっていたみたいなので、父さんのあの顔は安心していいなと思えた
「でもさすがに今日は、これ以上龍司にご奉仕は出来ないわね」
『えっ』
「残念だけど、そんな空気じゃなくなっちゃった。大丈夫よ、また後で二人の時に着てあげるわね」
笑顔で百合が近づいてきて、俺の肩に手を置いた
「でも皆一回くらいはね〜?」
「そうですね、これくらいなら」
そうして全員と唇を重ねて、誕生日会は終わりを迎えた
『今日はありがとうございました』
リビングの片付けと各々の着替えが終わり、帰る時間になった
「今日は龍司は主役だから、家で待ってなさい」
百合が全員を送ってくれるらしく、任せる事にした
「また会えるのは、月曜日かな?」
「寂しいけど…我慢する」
「今日はありがとうございました、龍司君ゆっくりしてね」
「あらためて、誕生日おめでとう」
『皆、ありがとう』
俺に笑顔を向けて、皆は帰って行った
百合が帰宅した後暫くすると、父と母が帰ってきた。その後、四人で最近の事などを話をする。俺と百合との事は、父も前から考えていた事もあったらしく肯定的だった
「何かあれば、協力はするよ」
他の子達とも仲良くするようにと言ってくれて、相手方の親と話の時は協力すると言ってくれた
(俺ってこんなに幸せだったんだな)
やっと最近、そう思えるようになった
次の日の日曜日の午前中、父が帰る前に皆で食事をしようと久しぶりに四人で外食となった。外行きの格好をしている父はやはり大人の男であり、自分にとって理想の男に見えた
(俺も将来は父さんのようになれるのだろうか)
未熟な自分を支えてくれる皆には、感謝をしないといけない。そう思える二日間だった




