名前と趣味と桜と
土日が明けて、また平日がやってきた
『おはよう、みんな』
「おはよう、高梨君」
「高梨君、おはようございます」
「あ、龍司君おはよう」
先輩が土曜日の事をアピールしたいのか、名前で呼んできた
『う、柊先輩おはようございます』
「むー、一葉!」
名字呼びしたのが嫌だったのか、頬を膨らませて抗議をしていた
(言わないと拗ねそうだな)
『か、一葉…おはようございます』
「うんうん」
一葉は、笑顔で頷いている
「えっ?土曜日何かあったの?」
俺達のやり取りに、双葉以外は、目を丸くして驚いていた
「何にもないよ〜」
『なんでもないです…』
「ねぇ、どういう事?」
「気になる」
「その話は聞いてないなぁ」
(いやいきなり名前呼びになれば、そうなるよな)
『いや、ただ名前で呼んでと、言われただけですよ!』
「へぇ、じゃあ私達も名前で呼んでよ」
名前を呼ばなかった四人に囲まれた
『え、改まると恥ずかしいなぁ』
「いいから〜」
(これをやらないと、学校に行けなさそうだ…)
『じゃあ、双葉、は呼んでるか』
「うん、龍司君」
双葉は笑顔で答えた
『か、霞』
「はい、龍司君」
霞は少し照れていた
『黒音』
「なんでよ!」
(いや、なんか黒音は、黒音なんだよなぁ)
「ねぇねぇ龍司、私は〜?」
『姉ちゃん』
「おい」
一言で、不機嫌になっていた
『すいません、百合さん』
「さんは、外しなさい」
『ゆ、百合?』
「よしよし、龍司」
(満足そうなのはいいんだけど…)
『いや、母さんの前では呼べないよ』
「そんなことないわよ」
「ねぇ!私は〜!」
『黒音』
「だから、なんでよ!」
「もういいわ、ほら行くわよ」
「ちょっと、待ってってば〜」
今日は月曜日なので、黒音と二人で登校し、他のメンバーは少し後ろからついてくるみたいだ
「ねぇ、龍司君」
『何?黒音』
「もう、桜って呼んでよ!」
『んー、もうちょっと仲良くなってから?』
「なんで!?キスだってしたじゃない!」
(ちょっと待て、周りに人いるから!あと少し後ろから何か圧があるから!)
『う〜ん…じゃあ、桜』
「うん!」
桜は小さくガッツポーズをして、喜んでいた
「ねぇ、手を繋いでもいい?」
『ああ、いいよ』
最近は腕を組まれてばかりだったので、手を繋ぐだけなのは新鮮だと思った
「…」
『…』
暫く手を繋いだまま、歩いていた
「ね、ねぇ、今日の放課後なんだけどさ」
『うん?』
「また公園に行かない?」
『公園?』
「うん」
(公園って、家の近くのあそこかな)
桜に誕生日プレゼントを、渡す事になったところだ
『いいよ』
「本当に、やった!」
あの日の事を思い出すと、少し恥ずかしくなった
『…』
チラッと後ろを見ると、姉を主導に四人で仲良く話しながら歩いていたので安心した
(うまくやれそうかな?)
これからみんなで、仲良くやれていけるといいなと思った
学校に着いたので、各自教室に移動ということで分かれた
さすがに目立つので、教室まで手を繋ぐのは許してもらった
「おーす、龍司」
大樹は変わらず、朝から元気に挨拶をしてきた
『おはよう、大樹』
「おはよう、東本君」
「おはよう」
「東本君おはよう」
「…え?ええ!?」
大樹が朝から困惑していた
『どうした大樹』
「いやいやいや、おかしいだろ」
『?』
「?」
(なんかあったっけ?)
大樹がいきなりおかしなことを言うので、四人で首を傾げていた
「いやだって、今まで朝の挨拶ちゃんとされた事ないだろ」
『そうか?そんな事はないだろ』
「はっ、まさか、俺もとうとう主人公補正が…」
『なんじゃそりゃ』
俺は荷物を置いて、机に座った
前の席に座った桜は、振り向いて左手を握ってきた
『ん?』
「龍司君との放課後まで、今日一日の充電」
頬を染めながら、掴んだ手を擦っていた
「教室なら大丈夫」
そう言って、霞は後ろ側から抱きついてきた
「龍司君、温かい」
『霞、ほら、みんな見てるから』
「関係ない」
離れる様子はなかった
「私も、龍司君を充電したい」
双葉が、右手を握ってきた
『お好きにしてください』
「え、えっ?嘘だろ…」
大樹やクラスメートが、俺達を見て驚いていた
『ん?』
「金曜日から、いったい何があったんだよ!」
『え〜、色々?』
「名前呼びになってるし、羨ましいぞ龍司!」
『そんな事言われてもなぁ』
その後大樹にだけは、金曜日の事を説明し、理解してもらった
(他のクラスメートは、普段から関わりないしいいだろう)
迷惑をかけるわけでもないのに、人の色恋沙汰を気にされるのは本当に嫌だと思った
放課後になり、全員で部室に集まっていた
「そういえばさ、みんなもっと可愛くなりたくないの?龍司も真白ちゃん見て、惚れてたよね」
百合が、いきなり爆弾発言をした
「高梨さん、詳しくお願いします」
『俺はちょっと売店に…』
「龍司君は動かないで!」
席を立とうとしたら、いつの間にか双葉と桜に肩を押さえつけられていた
霞だけは椅子に座ったまま、頬を染めてもじもじしている
『うっ』
「さーて、詳しく聞きましょうかねぇ」
笑顔なのに、目が笑ってない一葉達がいた
「ふ〜ん、なるほどね〜」
俺はなんとか、みんなからの圧に耐えて説明をした
「うちの母親は、本当にプロなんだなって思うよね〜。他のみんなにも会いたいって言ってたわ」
百合の話を聞いて、母の休みと合う日に、みんなで高梨家に集まろうと話をしている
「それで、真白さんに惚れたんだ?」
『うっ』
みんなからの視線が痛い
「龍司君も男の子だもんね〜、まさか可愛くなったからって真白さんと」
『いやいや、してないですよ』
「もう少しだった」
『おい霞、この場でそんな冗談は…うっ』
後ろに回った桜に、チョークスリーパーをされた
『桜、ギブギブ!』
「ふ〜ん?」
『いや、違うんですって!』
「そういえば最近は、あの趣味はしてないの?」
百合の言葉に、みんなが反応した
「詳しくお願いします!」
『次は何を言うんだ、止めてくれ!』
ずっと俺の首は、桜の腕で動きを止められていた
「人間観察?龍司ってよく女の人を見てるよね」
(あ、終わった)
俺は、死を覚悟した
「その理由は?」
『理由?』
「うん、理由しだいでは締めるけど」
『ぐっ』
俺の言葉に、命が賭かっていた
『俺の周りってか、母と百合は美人で綺麗だし、化粧や服のセンスとかもあるだろ?だから俺も他の人を見て、似合いそうな髪型や服装を想像してたんだ』
「ふむふむ、なるほど」
『つまりは無罪です』
「それはどうかなぁ?」
(なんで〜!)
「龍司君、私達がいるのに他の人見るんだ」
『いや、それはみんなと出会う前だし、最近は辞めてみんなしか見てないよ』
「っ!」
そう言うと、みんな頬を染めて喜んでいた
「お母さんに化粧とか教わって、龍司の好みの女になってあげるのもありよね〜」
「いいですね〜」
「うんうん」
「お母さんに会うの楽しみだねぇ」
暫く土日は休みがないと言っていたので、早くても六月後半だろうが、みんなはその日を楽しみにしているようだ
「それじゃあ今日は、帰りましょうか」
「は〜い」
下駄箱までは全員で移動し、俺と桜以外は先に帰って行った
『じゃあ、行くか』
「うん」
朝と同じく、手を繋いで公園まで向かった
「今日は人いないね」
月曜日の夕方は、さすがに子供達も帰った後なのか、人一人いなかった
『そうだな』
「…」
沈みかけの太陽が、俺達だけの影を伸ばしていた
「ふふふ」
桜が急に離れて、こちらを見ていた
『どうした?』
「こうすると、私達の影がキスをしてるみたいね」
影を見ると、調整したのかいい形で重なっていた
『ばーか』
「ふふふ、なんかいいね、こういうの」
『ん?』
「本当はね、中学生の時からこうしたかったんだ」
『えっ』
「大好きな幼馴染と恋人になって、一緒に帰ったり、こうやって公園で遊んだり…」
『桜…お前』
「でも、私が壊しちゃった」
『っ!』
笑顔の桜は、涙を流していた
「ごめんね、私のせいで龍司君が」
『もういい』
俺は桜を、抱きしめた
『もういいんだ、俺はもう覚えてないから、気にしなくていい』
「うん、ごめんね」
暫く桜を抱きしめていた
少しして、俺の後ろ回った桜の手に力が入った
「ねぇ」
『ん?』
「キス、してもいい?」
『いいよ』
「んっ」
俺は、桜が望むままに受け入れた
「はぁ…龍司君の事ずっと好きだから、今度は離さないから」
『そうか』
「ねぇ、私ともそのうちしてくれる?」
『もっとお互いを知れてからな』
「うん、もう一度やり直そう」
日が落ちて暗くなるまで、二人で過ごした
「また明日ね」
『ああ、またな』
家の前まで着くと、隣の家だからと桜は帰って行った
家に入ると、百合がリビングでソファーに座り、テレビを見ていた
『ただいま、百合』
「龍司おかえり〜」
『ちょっといいか』
「うん?」
『放課後、なんであんなこと言ったんだ?』
「ん〜?みんなにもっと可愛くなって欲しかったからかな。龍司もそうなれば嬉しいでしょ」
『それはそうだが』
「あの子達、素材はかなりいいんだから、化けると思うけどね」
『それは、前から思ってた』
「だからいいじゃない、龍司も髪切るのありかもね〜」
『俺もそれは思ってる』
彼女達に恥じない男にならないとと思えるようになった
「お、いいねぇ、お母さんに相談しないと」
『俺も少しは、成長しないとな』
「龍司は、もう私達以外の女の子の事は、見ないよね?」
『当たり前だろ、これ以上はキャパオーバーだ』
「そっか、よしよし」
姉は、嬉しそうにしていた
(今でも大変なのに、これ以上はもたないわ)
俺はみんなの顔を思い出して、そう思うのであった




