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過去と未来

(うーむ)


黒音が、幼馴染との過去の話をしている


(この話、俺の事なんだよな?)


多少記憶にありそうな話もあるのだが、大半は欠落しているのかわからなかった


(正直、誰かに殴られた事以外、覚えてないな)


周りの女の子達も、話を聞きながら泣いている様子だった


(黒音がずっと孤立してたという話は、泣いちゃうよな)


唯一姉だけは、険しい表情で聞いていた


(そういえば姉ちゃんは、全部わかってるのかな)


俺の記憶の大半は、失われている


(と言っても、姉から聞いた話でしか知らないのだがな…)







黒音の話が終わり視線を感じて見ると、姉がこちらを見ていた


(え、俺?)


黒音の話を聞いていても、正直自分の事のように感じられなかった


(姉ちゃんには悪いけど、もう終わった過去の事なんか、どうでもいいんだよな)


記憶がない過去を思い出そうとしても、結局は悪い過去なのだから、自分が不幸になるだけだ


(それなら、未来の事を考えたいな)


俺が今いる状況というのは、普通では考えられない事なのだろう


(姉と許婚で、好意を持ってくれている女の子が複数いる。この状況より難しい問題なんかあるのか?)


その事に比べれば、過去の話というものはどうでも良かった


(一部記憶になくもないけど、手っ取り早く終わらせたいな)


そう思い、口を開いた








『悪いけど、全く覚えてない』


「えっ」

「はっ?」


黒音と姉は、俺のその答えを想像してなかったようだ


「本当に、覚えてないの?」


『覚えてない、正直どうでもいい』


「どうでもいいって…」


『言い方が悪かったな、すまない。本当にほぼ記憶にないんだ。話を聞いてると、碌でもない過去だったと思うし、そんなのに時間を使うなら、未来の話をしたい』


「龍司、あんた」


『姉ちゃんもわかってくれ、俺はこれからのみんなとの未来の話をしたい。いやそれも、今日どうなるかわからないけど…』


泣いてた子達が、顔を上げて俺の顔を見ていた


「本当に、それでいいの?」


『いいよ、この話を聞いて黒音に何を言うってんだ?それなら明るい話がしたいかな』


「…」


姉が少し黙って、考えていた


「それならそれでいいわよ、あんたが後悔しないならね」


『する後悔も、俺にはないからさ』


(大雑把な話だけど、俺は過去に何かあって、自分は駄目だとずっと思っていたからなぁ)


それも最近は、好意を持ってくれている皆のおかげで、信じられる相手にだけはと思えてきた


『だからこの事はもういいよ、黒音も話してくれてありがとう。みんなも大丈夫かな?』


「私達は、知りたかった事が聞けたから、大丈夫です」


泣いて目を腫らした柊先輩達が、俺や姉そして黒音を見た


「この話を聞けたからこそ、高梨君への想いは強くなりましたけどね」


頬を染めながらそう話す先輩は、何か決意を決めた顔をしていた


「そう、それなら話は次に行きましょう。あなたも座りなさい」


姉に促されて、黒音が椅子に座る




「さて、今週過ごしてみてどうだったの?」


姉が言うと、柊先輩が手を上げた


「まずは私から言います、今週は一人で考える時間と、双葉と真白さんと三人で考える時間を持ちました」


柊先輩は、俺と姉を交互に見て話を始めた


「個人では、高梨君と初めてあった時の事や助けられた時の事、どうして私は高梨君を好きなのか、もう一度思い返しました」


(先輩に好かれるために助けたわけでもなかったけど、それもまた一つの理由なんだよな)


人が人を好きになるのに、理由なんてものはない。理屈じゃないと先輩に泣かれた事を思い出した


「三人で話をしたのは、私達は本当に高梨君の傍にいられるような、価値のある女なのかという事でした」


(価値のある女?先輩達は何を言ってるんだ)


『ちょっと、待ってくれ』


「龍司、全てを聞くまで黙ってなさい」


『…』


(俺こそ、傍にいてもらえるような価値のある男じゃないだろ)


先輩の口から、そんな言葉を言わせてしまう自分に、泣きそうになった


「私達は、今は自信を持って言えません。でもいつか高梨君にいてくれて良かったと思われるような、女性になりたいと思います」


先輩はそう言って、俺を見た


(そんなことないよ…俺はそんな風には思わない)


「高梨君、私はずっと高梨君を好きな気持ちは変わらないよ。だから嫌じゃなければずっと傍にいたいな」


笑顔でそう言う先輩に、俺は頷いて返した




「次は私、柊先輩が話をしたところは同じ気持ちでいい」


そう言って、真白は話しを始めた


「高梨君とは、理由があって運命の人だと確信している。だから気持ちは変わる事はない」


(真白らしい理由だな)


運命の人、真白はずっとその言葉を胸に、俺に好意を見せてくれていた


「ただ最近ずっとくっついていたから、寂しくて学校で泣いて見られたのが恥ずかしかった」


頬を染めながら下を向いて話す真白は、チラッと俺の目を見て目が合うとまた下を向いた




「次は私ですね、私は最近高梨君に一目惚れしたので、二人ほどダメージを受けてないつもりだったのですが」


双葉はそう言いながらも、先程の話を聞いて赤くした目で俺を見ていた


「高梨君に触れられない、もっと高梨君の事を知りたいのにそれが出来なくなると、考えたら辛くなってきて」


(双葉も、そう思ってくれていたんだな)


「だから姉が先とか、真白さんが先とかも関係ないな、好きな気持ちに順番はないなって思いました。私は変わらず好きですよ高梨君の事」


(そうなんだな、好きな気持ちってそういうものなんだな)


人を好きになるということが、わからなくなってから、俺は好意に対して疑問を持つことが多かった


(理屈ではなく、順番でもなく、相手を思う気持ちなのかな)


その想いの強さが大事なのは、少しはわかった


(そうなると俺の気持ちは、どうすればいいんだろうか…)




「それであんたは?」


姉が、黒音を見た


「私は、ずっと気持ちは変わりません。ずっと高梨君を好きです」


「そう」


姉は多少不満そうだったが、受け入れたようだ


「それじゃあ、漫画研究部の五人目はあんたでいいのね」


「お願いします」


黒音が頭を下げる


「柊さんも、それでいいかな?」


「私は大丈夫です」


「そう、それならいいわ」


これで無事漫画研究部は、廃部を免れる事になった


「それじゃ次だけど、私と龍司は許婚になったわ、それで次だけど…」


「ちょっと待って!!」


柊先輩達が叫んだ






「えっ?高梨さんどういう事?」


「え、だから龍司と許婚になったから結婚をするわ、それで次だけど…」


『いやいや姉ちゃん、さすがにスルーはされないよ』


「チッ」


(いや、無理があるだろ)


他の四人が、俺を見てきた


『はぁ…ちゃんと説明をします』


俺は昨日の夜の事を、皆に話をした








「許婚…」


「先程の皆と同じで、私なりに考えて結論は出したわ」


みんな想像していなかったのか、話を聞いて驚いていた


「皆が龍司から離れるなら、責任を取って私が結婚をするつもりだっただけよ」


(言い訳にしても、無理があるな)


いつもの姉と違い、今日は少し冷静ではなかった


『もし俺の周りから皆がいなくなっても、姉が傍にいてくれると言ってくれました。だけど先程の話を聞いて、俺の事を変わらず好きでいてくれていると思いました』


「うん」


「それは変わらない」


『母からは一人じゃなく二人でもいいんじゃないかというのと、好意を持ってくれた人を大切にするように言われました』


「それはまだ、私達にもチャンスはあるって言う事?」


『チャンスなんて、上からな話はしたくありません。これからも、もし良ければお願いします』


「良かったぁ」


安心したのか、強張っていた皆の顔が緩んだ


『その上で、俺の話も聞いて欲しいです』


「はい」


全員が、俺の顔を見ている


『最後まで、ちゃんと聞いてからお願いします。今回の件、最初は一人になれて気持ち的にも、体も軽くなったと最初は思いました。そして皆との出会いや、過ごした時間を思い出していました』


最初は、前みたいな一人が気楽でいいなと思っていた


『しかし、日々過ぎていき真白達の様子を見て胸が痛くなってきて、当たり前だった事は、いつでも終わる時があるというのを意識しました』


自分が今いる状況は、望んでも手に入らないものだと思えた


『だからさっきの話を聞くまで、不安でしたよ。俺も寂しかったと思います』


「高梨君…」


『先輩が言った傍にいる価値、価値なんかいりません、ただ傍にいてくれればいい、それでお互いが幸せならばって思ってます』


少なくとも自分は、損得勘定で人との付き合いはしたくなかった


『ただ一つだけ不安があるとすれば、皆からもし俺に百パーセントの気持ちを貰えても、俺は気持ちを割り振るしかないのかということです』


俺は皆から全てを貰えても、俺は五人に振り分ける事しか出来ない


「そんな事ないよ!」


『先輩』


「私達だって、高梨君に百どころか千の気持ちをぶつけるから、高梨君も全員に千ずつぶつけてくれれば良いんだよ!」


(先輩は、面白い考えをするんだな)


『今すぐは難しいけど、努力します』


何か、少し気が晴れた


「だからこれから、皆で頑張って行こう!」


「うん、これからが本番」


「そうですね、私達の戦いはこれからですよね」


『それはちょっと違うけどな』


「あはは」


やっと部室に、笑いが流れた


「あと、高梨さんには負けません!!」


四人が、姉を見ていた


「ふーん、そうね…全員気持ちは変わらないでいいのよね」


姉に言われて、全員が頷いた


「それなら全員、婚約者とかでいいんじゃない?」


『えぇっ!?』


まさかの姉の発言に、皆驚いた


「とりあえず身内だけの話よ、その方が告白とかされても断りやすいでしょ?」


「なるほど」


たしかに双葉や真白は、定期的に告白されている


先輩や黒音もそういう事は、あるはず


「うちの母も、龍司に自由を与えなさいと言ってたから、私だけで独占する気はないわ」


母との約束は、ちゃんと守るようだった








「高梨君、これからいっぱい幸せになろうね」


柊先輩達が、座っている俺に抱きついてきた


「それで、今回の件はこれで無事終了と、言いたいところなんだけど」


話し合いが終わり、解散をしようとしていたところで、姉が口を開いた


「明日の土曜日は柊さんと双葉ちゃん、日曜日は真白ちゃんと私、この割り振りで過ごすのはどうかしら?」


(んっ?どういう事だ)


「皆、色々と我慢していて溜まってるでしょ?だから発散したいわよね」


「はい!そうですね」


笑顔で話す姉の気持ちを悟ったのか、三人が頷いた


「黒音、あんたは今回は休みよ。次回は考えておくわ」


「わかってます、昨日誕生日プレゼント貰えたので、我慢します」


(あ、やばっ)


そう言いながら、黒音は唇に指を当てた


『おっと用事を思い出し…』


ガシッと、肩が外れるような勢いで掴まれた


「たかなしく〜ん?」


(やべぇ、椅子ごと床が抜けちまう)


そう思うくらい、肩への圧力が凄かった


「土日は楽しもうね〜?」


『あはは…』


もう土日は好きにされよう、そう思うのであった


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