親と子
『お母さん、話があるんだけど』
木曜日の夜、弟との事について母と話しをすることにした
母は今日も遅めの帰宅をし、夕飯を食べて風呂から上がり、リビングでテレビを見ていた
まだ母が寝る時間ではない、弟は、部屋の前を通ったら静かだったので、寝ているようで都合が良かった
「話?」
『うん、大事な話』
「そう」
母はテレビを消して立ち上がり、いつも食事をするテーブルの椅子に座った
『ゆっくりしてたのに、ごめんなさい』
謝りながら、母の対面に座った
「別にいいわ、それで話って?」
まずは弟の近況について話す事にした、柊さんや真白ちゃんとの仲の進展と、双葉ちゃんやあの女の事
「そう、随分とモテてるのね、そしてあの子か」
『最近弟に、やけに接触してるみたいなの』
「あの子ね、高校生活を全て捨ててもいいから、龍ちゃんとの仲を取り戻したい。そう言って進学先を聞いてきた事があるの」
『え?私はそれ聞いてない』
「無駄になると思ってたからねぇ、でも釘はしっかり刺しておいたわ」
『そうなんだ』
母はいつも教えてくれるから、今回の件は寝耳に水だった
弟と同じ進学先なのはたまたまで、中学の時と同じく関わることはないと思ってたからだ
家から近いし、地元の人間率が高まるのは、当たり前というのもあった
「それで、大事な話って?」
『単刀直入に言うと、将来的に龍司と結婚をしたい』
母の目を見て、真っすぐに伝えた
「それは、どうして?」
『中学の時は、姉として弟を大切にしてたと思う』
(そう、弟を姉として守ろうとしていた)
『一緒にいるのが心地よくて、ずっとこのままだと思ってた』
姉として、壊れてしまった弟を支えて行く、そう思っていた
『でも、高校に入学してから変化があって、毎日他の子達が弟にアピールしてる話を聞いて…』
(嫉妬して、手放すのが惜しくなったのかな)
柊さんに言ったように、弟離れも考えた時もあった
『姉としてより、一人の女として傍にいたくなったと思う』
本当なら、弟の幸せだけを願って、この気持ちはなかった事にするべきだったのかもしれない
(だけど、やっぱり好きだから)
『だから、ずっと一緒にいたい。そのけじめをつけるために結婚をしたい』
「それを、龍ちゃんは知ってるの?」
『まだちゃんと話はしてないけど、でも本気で伝える』
「はぁ…そっか、振られる可能性は考えてないのね」
実際弟には話をしてないが、私の言う事は全て受け入れてきた弟だからこそ、信用していた
「別に私は構わないわ、あなたの事は信用してるし、馬鹿な判断をする子ではないと思ってるから」
『え、それって』
「だけど、その前に」
母は振り返って、リビングの入り口を見ていた
「龍司、いるんでしょ?入って来なさい」
(えっ?)
『嘘っ』
「はい」
弟が、リビングに入ってきた
「そこに座りなさい」
母に促されて、私の隣に座った
「聞き耳を立てるのは、よくないわね」
「いや、眠れなくて…水を飲もうして降りたら」
「何か聞こえたの?」
「姉ちゃんが、結婚するって」
(ちゃんと聞かれてはいなかった?)
弟は落ち込んでいるのか、下を向いていた
「それで、どう思うの?」
「姉ちゃんは綺麗だし、優しいし料理や掃除も出来るし、モテるのだろうと思ってたけど…」
「寂しい?」
「それは、そうだよ」
(そう思って、くれてるんだ)
弟に言われて、むず痒いというか嬉しくはあった
「それは弟として?それとも男として?」
(男してだったら嬉しいけど、違うんだろうな)
「うーん、弟としてじゃないと言えば嘘になるだろうけど」
(まぁ、そうよね)
「一人の男としても、気になってるかもしれない」
(っ!!)
そう言われて、抱きつきたくなったが我慢した
横を見ると、少し顔が赤くなっている弟がいる
「はぁ…あんたたち、経験って一人しかないでしょ」
(経験…)
経験とは、やはり男と女のって事だろう
「私もさ、お父さんだけだったのよね」
『お母さん、何を言って』
「知ってるわよ、二人の事だもの」
『…』
(バレて、いた…?)
「母さん、それは」
『お母さん、あのね』
「違うわ、別に駄目とは言ってないの」
『えっ』
「その前にまずは、龍司、あなた知ってるわね?」
「あ、うん」
(知っている?)
『え、何を』
「私達が、本当の親子じゃない事よ」
『あ…』
(やっぱり知ってたんだ)
「うん、中学一年の時に、夜中話してるの聞いた」
「さすがにそうじゃないと百合の事を受け入れないでしょ、いやあの時はそんな状況でもないか…」
うーん?っと母は唸っていた
「まぁ何にせよ、本当の姉弟だったら、二人がしている事を私は放置したりしないわ」
(色々と、全部バレてる…)
『お母さん、知ってて…』
「当たり前でしょ、母親なんだから」
『う、うん』
「だから今回の件も、いつ話が来るのかと思ってたわ」
そう言いながら、母は真っすぐ私の目を見てきた
「龍司」
「は、ふぁい!」
それまで黙っていた弟は、母に呼ばれて驚いたのか声が裏返っていた
「別にあなたの事も責めてないわ、で…お姉ちゃんはあなたと結婚したいらしいの」
「え…」
「あなたの事が、一人の男として好きなんだって、どうするの?」
「お、俺は、姉ちゃんの事…」
(どう答えるのだろう、聞くのが怖い)
「そういえば、最近は色々な女の子と仲良くなったみたいね」
「うっ」
「他の人と経験をしろとまでは言わないんだけど、もう少し恋愛の視野や経験を広げるのは、大事だと思うな」
(たしかに、龍司は周りの子に刺激を受けて、変わってきている)
「まだ高校に入学したばかりだしね、もう少し色々と経験したらどうかな?」
『私は龍司だけでいいわ!』
「それはそれでいいと思うわよ、でもこの子への好意を寄せてくれてる子達には失礼だと思うわ」
『…』
(たしかにそうかもしれない、私は龍司だけでいいけど、他の子達の気持ちは無視は出来ない)
特に龍司は優しい子だから、悩んでるのだろう
隣で考えてる弟を見た
(そうよね、こんな事なかなかないものね)
今私は、弟に群がる女の子達をふるいにかけていた
一度離れて冷静になれば、気持ちが変わるかもと思ったのもある
「色々と経験して男としての価値が上がった方が、百合にもいいと思うわよ」
『…たしかに』
「百合ももう少し、女としての器量を高めるべきね」
『うん…』
「まぁ私は別に、一人に絞る必要もないと思うけど」
「え!?」
『え!?』
「だってそうしたら、いっぱい孫が出来るじゃない?あー頑張って働いて貯金貯めとかないとなぁ」
母さんは勝手に妄想の世界に、行ってしまっている
(でもたしかに、今の状況で独占して、龍司の将来を決めるのはよくないか)
『ねぇ、龍司はどうしたい?』
「俺は、姉ちゃんの事、その、好きだけど…みんなの事も気になる」
(そうよね、せっかく好意を示してくれてるのに)
母や私がそういう男に育てたんだ、だから他の子にとって魅力があるのは当たり前なはず
(うーん、そっか)
『わかったわ、龍司愛してる』
「え!?」
『だけど、今は他の子も見てあげて』
「龍司の判断が将来的にどうなるかわからないけど、一人でも二人でも私は構わないわ」
「いや俺は構うんだけど…」
「わからないじゃない、今は一人に絞れるの?」
「それは…」
『うん…』
(今は、私だけってのは、難しいわよね)
「その代わり、二人は許婚って事でいいわ、お父さんにも話しておくわね」
『お母さん』
「百合もそれなら安心でしょ?」
『うん』
「その代わり、龍司に自由をあげなさい。そういえば明日終わりなのよね?」
『うん、明日の放課後結果が出るわ』
「そう、それなら残ってくれていた子がいたら、大切にしなさい」
「わかった」
私が三歳の時に母が再婚して、当時一歳の義弟が出来た
その頃は可愛い義弟が出来たと、可愛がっていただけだったけど、こんなに自分にとって大切な存在になるとは思ってなかった
『龍司、愛してる』
「はは、ありがとう」
お互い照れて、顔が見れなかった
明日は結果が出る、どんな結果が出ても、私だけは龍司の傍にいる
『今夜は寝れなそう…』
私は朝まで寝れないのであった




