幼馴染の告白
最近、彼の周辺の行動には不安を感じる
「実験的なものかね」
いつも彼に付きまとっていた子達が、距離を置いてるのだ
期間は短いらしいのだが、それが終わったら何か取り返しのつかない事になりそうで不安になる
(もしかしたら、彼の傍にいていいのか試されてるのでは?)
その考えが正しいなら、この状況に乗り遅れたら私には、二度とチャンスは来ない
そう感じて、どう行動すべきか考えていた
(金曜日…)
彼らの実験が終わる日、私にとってのラストチャンス
(一か八か、行くしかない)
そして、彼が教室を出た後についていった
予想通り彼の姉は、私に敵対心を隠す事はなかった
(当たり前よね)
過去に彼を傷つけ、その後も自分の身が可愛くて嘘をついた女だ、許されるはずもない
(でも、もう二度と後悔はしたくない)
そして、私は全てを話す事にした
私の幼馴染、高梨龍司とは、同じ病院で産まれ家も隣で、親同士の交流も産まれる前からあったそうだ
彼より私の方が先だったため、お姉ちゃんとしてよろしくねと言われていた
それからは、ほんの少し先に産まれた私は彼を引っ張り、ずっと傍にいて毎日のように遊んだ
晴れていれば公園に行き、雨ならお互いの家で過ごす
それは、中学生になるまでずっと続いていた
中学校に上がってすぐに、男子に告白された
私は幼馴染以外には興味はなかったので、すぐに断ったのだがそれが考えるきっかけになった
いつも傍にいて当たり前だと思っていたが、何かきっかけがあれば彼は私の傍から離れてしまう
(それは私にとって、どうなのだろうか)
それまではずっと傍にいる存在で、このまま行けば将来的には結婚もするのではないかと、子供の頃から読んでいた漫画などでイメージをしていた
(他の人には、取られたくないなぁ)
明確ではないが、彼の事を好きかもしれないと、意識するきっかけはそこで起きた
(うん、私のものでいて欲しい)
だからお姉さんである私から、彼に告白しようと思った
『もっと二人の仲を深めて行きたいから、私と付き合って欲しい』
そう告白した日、彼は顔を真っ赤にしていたが、返事は間違いなく駄目ではない様子だった
(良かった、私と同じ気持ちでいてくれたのね)
そう喜びたかったのに、たまたま同級生が近くを通った
下校時に勢いで告白したため、道路の真ん中だったのがよくなかった。公園とかお互いの部屋とか場所を選ぶべきだったのだ
(この告白は二人のもので、大切にしたい)
『ごめん、今日は帰るね。返事は明日お願い』
そう言って、彼から離れて帰宅した
その時の判断が間違っていたと、それから三年悔み続けるのだが、その日は後悔の始まりの日となった
その時に恥ずかしがらず返事を待つか、一度解散した後に彼の家に返事をもらいに行くべきだった
次の日の朝、彼を迎えに行こうと家から出ると、私に告白してきた男がいた
『ねぇ、告白は断ったよね?』
「そうなの?俺はそう思ってなかったよ」
(嘘でしょ、ちゃんと断ったじゃない)
朝から最悪の気分になった、前日までの幸せをぶち壊しにされたようだった
『あの時にちゃんと断りました、だから来ないで下さい』
「そう、なら今日だけでいいから一緒に登校してよ」
(はぁ?何言ってるのこいつ)
『え?なんで』
「一回だけ!チャンスを下さい」
(こいつしつこい、このままじゃ彼に見られちゃう)
私は悩んだ、だけど大事な幼馴染に疑われたくないと思って
『わかった、一回だけ行くから二度と近寄らないで』
「本当に?ありがとう」
その後私の横を歩く男は色々と話かけてきていたが、私は幼馴染との事ばかりを考えていて、聞いてもなかったし周りも見てなかった
教室に入ると、その男や私の周りに人が集まってきた
「お前、黒音と付き合ったのかよ!」
「いいなぁ、俺も黒音さん狙ってたのに」
『えっ、違っ…』
(ハメられた)
私と学校に登校する事によって、嘘を事実にしようとしたのだ
(そんなわけない、こんな男となんか)
私はその事を否定しようとしていたが、話を聞いてもらえなかった
「え〜でも〜、黒音さん昨日、高梨君に告白してたよね?」
(…見られていた?)
やはりあの時の女子は、クラスメートだった
入学したてで顔をちゃんと覚えていなかったが、見たことがあるなと思ってはいた
「おい黒音、どうなってるんだよ」
「二股してるって事?最悪じゃん」
『え、いや…』
(どうしよう、このままじゃ彼に迷惑がかかる)
私が招いた失敗で、彼に迷惑がかかるのは避けたかった
(彼ならわかってくれるはず、一度終わらせよう)
「黒音早く答えろよ」
「あんた二股してるなら、どうなるかわかってるんでしょうね」
『そんなわけないよ、私は彼とそんな関係じゃないわ』
「それなら見せてみろよ」
「そうよ、私は聞いたんだからね」
その時、彼が教室に入ってきた
「あ、おはよう」
『おはよ』
昨日私が告白した幼馴染は、朝から頬を赤くして近寄ってきた
(ごめんね、後でちゃんと説明するから)
『昨日の件だけど』
「うん」
『あれは、嘘だから』
「え?」
『ただの罰ゲームよ、私があんたなんかに告白するわけないじゃない』
「え、どうして…」
(私の大切な幼馴染ならわかってくれる、だから今だけはごめんなさい)
『迷惑なんだけど!あなたの事、好きになる人なんかいるわけないじゃない!!』
「…」
彼は驚いていた、当たり前だ、逆の立場なら自分の置かれている状況が、理解できるはずもなかった
それから彼は机に座り、全く反応をしなくなった
放課後もいつのまにかいなくなっていたが、私は追いかける前にする事があった
バチンッ!
「いってぇ」
『最低ね、二度と近寄らないで』
私を騙した男を置いて、彼の家の方へ駆け出した
『いた!』
彼の家の近くで、ふらふらと歩く幼馴染を見つけた
『朝の事はごめん、アレは嘘なの』
「…」
『ねぇお願い、信じて』
「…」
『私は、あなただけが好きなの!』
「…」
彼は私の言葉に反応することもなく、家に入って行った
(どうして…)
私の大切な幼馴染なら理解してくれる、そう信じていた
だけど、簡単に砕けてしまうとは思わなかった
それから私は、自分のした事に後悔し二日休んだ
金曜日だから学校に行けと親に言われ、私は行きたくなかったがなんとか登校をした
(何これ)
教室に入ると、数日前とは空気が違っていた
(雰囲気が悪い、誰も話かけてこないし)
幼馴染は登校していたが孤立しているようだった
(え?なんで汚れているの?バックも泥だらけ)
幼馴染に何か起きているのではないか、私は急に不安になった
そのまま放課後になり、幼馴染に声をかけようと思ったが、いなくなっていた
帰る支度をしていると、教室の入り口で誰かが揉めていた
(あれは、お姉さん?)
幼馴染の姉が、クラスメートに怒鳴っているところだった
(何かあったの?)
怒鳴っていた幼馴染の姉が、急に走り去った。私はそれが気になって追いかけていた
(たしかこちらの方に…)
幼馴染の姉は足が速かったので、だいたいの方向しかわからなかった
校舎裏の方で声が聞こえて向かうと、正面から男達が逃げてきた
(あれは、私に告白してきた男)
先頭を走って逃げてるのは、私を嵌めたあの最低な男だった
(なんでこいつらが)
そう思った先に見えたのは、信じられない光景だった
『嘘…』
そこには幼馴染が倒れていて、それを姉が助けていた
(…)
私は先程見た光景が頭から離れず、自分がした事に後悔をしていた
(私のせいで)
100メートルほど先には、彼を連れて歩く姉の姿があった
(どうしよう…)
彼らが家に入るのを見届けて、一度家に帰った
『謝らないと』
少し考えてから、私は幼馴染の家に向かった
だが、出てきた姉が怖くて本当の事を言えず誤魔化してしまった
その後の事は、覚えていない
ただ、幼馴染の姉に両頬を叩かれた後は、頭が真っ白になり、気がついたら両親からあの家には二度と関わるなと言われていた
そして次の週からは、更に雰囲気が変わっていった
まず廊下に上級生が歩いてる事が増え、クラスメートがよく呼び出しをされる事が増えた
噂で、幼馴染がいじめを受けていたのも聞いた
(私があんな事しなければ…ごめんなさい)
幼馴染は、週明けからは来なくなっていた
幼馴染をいじめていた筆頭の男は、私に告白した男だった
その男も数日したら学校にこなくなり、転校していった
その男の取り巻きみたいな仲間達も同じように消えていった
(何かが起きている…)
この違和感の正体に気がつく事は、その時は出来なかった
おかしいと思ったのは、一ヶ月ほどしてからだ
転校や不登校の生徒が増えていた時期が落ち着き、周りを見ると誰も私を見ていなかった
話かけられるのは勿論の事、体育やグループワークなど、私は誰とも関わることはなかった
廊下を歩くと、私の近くを通る上級生だけが私を見て舌打ちをしていた
(もしかして、意図的に私は孤立させられている?)
何かが私を孤立させているのは、今回の件があったから仕方ない事ではあるが、それなら何故いじめなどの対象にならないのか不思議ではあった
たしかに、当時騒ぎ立てた生徒は、ほぼ周りから消えていた
一部いても何かに怯えるように静かだった
その理由がわからぬまま、一学期が終わった
二学期になると、幼馴染が登校をしてきた
ただ違和感を感じるのは変わらなかった
朝と帰りはお姉さんが迎えに来ていた、トイレなどで廊下に出た時は、まるで護衛かのように上級生が周りについていた
私は、何度か教室内で声をかけてみたが、彼が反応する事はなかった
(二度と戻れないのかな)
私は自分のした事にずっと後悔していた
二年生に上がり、幼馴染の姉がいなくなった後も、彼の護衛は続いていた
まるで学校全体で、彼を護っているかのようだった
そして私も、ずっと一人のままだった
三年生に上がり上級生が消えたが、彼の護衛は消えてなかった
一つまたは二つ上の兄や姉を持つ同級生が、彼の護衛についていたからだ
ここまでとなると、さすがに理解した
意図的に護られている、そしてそれを指示しているのが彼の姉だ
一年生の最後に、女王と呼ばれる三年生がいるという話は聞こえてきた
そして、それに怯える同級生がいた
同級生の護衛は、どちらかというとフレンドリーでそれに応えるのか幼馴染も話をするようになっていた
(やっと他の人と、話せるようになったんだ)
その事は嬉しかったが、元々の原因を作ったのは私だった
そして私は、中学三年間は一人で過ごした
(これは罰だ、幼馴染を裏切った私への)
高校受験の時は、彼の進学先を知りたくて、たまたま会えた彼の母に聞いた
(高校三年間を犠牲にしてもいい、もう一度彼とやり直したい)
そう願って、幼馴染の母に話かけた
「二度とないわよ」
普段笑っている彼の母の目を見たのはその時が初めてだった
人生最大の恐怖を聞かれたら、その時だったと今では言えるだろう
そして、彼と同じ進学先へ合格し、現在漫画研究部の部室で今の話をしている
『これが全てです』
私の話を、皆黙って聞いていた
私ではなく、彼の事を聞いてショックだったのであろう、彼女達は泣いていた
「で?本当にそれが全て?」
『はい』
「ふーん、まぁだいたい私が知ってる事と合うわね」
『ごめんなさい、今更だとは思いますが許してください』
私は深く頭を下げた、これしか出来る事はなかった
「それは私が決める事じゃないわ、どうするの?」
問いかけられた彼は、ずっと考えているようだった
それから暫く、部室内には女の子の泣く声が響いていた
そして彼が、口を開いた
「悪いけど、全く覚えてない」
それが、彼の答えだった




