試練 2
ガチャ
「ふぅ…」
ツンツン
『んっ』
「つ!!」
ガチャ、バタバタバタ
『んっ?』
木曜日の朝、俺は妖精さんに起こされた
(いや、母さんじゃないということは姉ちゃんか)
確認は出来なかったが、たぶんそうだろう
(なんだったんだろう、用事があれば声をかけてくれればいいのに)
リビングに降りたが誰もいなかった
(朝食は用意してある、先に行ったのかな?)
用意されていた朝食を食べて、学校へ向かった
『おはよ』
「おーす龍司、なんか疲れてそうだな」
「おはよ高梨君、元気がないわね」
『んー、そうかな?』
「昨日よりは元気はないな」
『そうか、ちょっと寝足りないのかもな』
昨日の夜は、あまり眠れなかった
(色々と考え過ぎたかな)
周りの友人でさえ気がつくのだから、間違いなくそうなのであろう
(今日はちゃんと寝ないとな)
双葉と真白は、予鈴ギリギリに教室に入ってきた
(なんか目が赤いな、少しクマもある)
何をしてるとか連絡はもらってはいないが、あからさまに疲れているようだった
授業中、俺はふと気になり二人を見た
双葉は何か震えているようだった
(えっ!)
真白を見ると、涙を流していた
『ま、真白?』
「っ!」
真白はこちらと目が合うと、自分が涙を流している事に、気がついたみたいだった
「大丈夫」
そして涙を拭って、また前を向いていた
(大丈夫って、大丈夫じゃねぇだろ)
何故そんな無理をするのか、真白の涙を見た俺は、心が痛くなっていた
お昼休みはみんなで食べていたが、誰も話さず、ただ黙々と食べて終わった
(もしかしたら、明日までは聞いてはいけないのかもしれないな)
そのまま一言も交わす事なく、昼休みは終わった
午後は元気がない様子だが、なんとか授業は受けているようだった
(明日には、終わるんだよな)
俺は不安になったが、姉を信じるしかなかった
「高梨君」
放課後になり、真白が声かけてきた
『どうした、真白』
「今日は部活動はなしにするみたいだから、明日は絶対に来て」
『わかってるよ、真白大丈夫か?』
「大丈夫、ありがとう」
生気のない顔で、淡々と話をしていた
双葉と真白の二人が教室を出てから、俺は学校を出た
(今日はいつもより早いから、どうするかな)
家に帰るのは早いと思う
(ちょっと考えたいな)
家の近くにある、昔幼馴染と遊んだ公園に向かった
日はまだ明るく、学校帰りの小学生が遊んでいた
『俺もあの頃は、泥だらけになって走り回ったなぁ』
過去の事もあり、一部は記憶が欠落しているが、公園で遊んだ事は覚えていた
「高梨君」
後ろから、声がかけられた
『黒音、そういえば家が近いんだっけか』
「うん、まぁ…そうね」
『そういえば、この前も一緒に来たよな』
「何か、思い出せた?」
『いや、相変わらずかな』
「そう」
黒音も、いつもより元気がないようだった
「ねぇ、聞いたのだけど、漫画研究部が後一人足りないって本当?」
『あー、まぁそうだな、今姉が探してくれてるみたいだけど』
「それ、私が入ったら駄目かな?」
『どうだろう、料理部はいいのか?』
「もういる意味がないから、辞めるわ」
(いる意味がない?)
『それって』
「ねぇ、前に言ってた実験って明日終わりなのよね?」
『ああ、明日の放課後に、漫画研究部の部室に集合になっている』
「そう、ところでさ」
『えっ』
黒音が、正面から抱きついてきた
『え、どうした?』
「あのさ、私今日誕生日なんだ」
『おお、そうなのか。おめで…んっ』
黒音の顔が近づいて、唇を塞がれた
『んっ!』
暫くして、俺が肩に触れると、距離を離した
「ごめん、誕生日プレゼントありがとう」
『え、黒音』
「また、明日ね」
そう言って、黒音はどこかに走って行ってしまった
(え、なんで…)
俺はただ呆然とし、気がついたら家に着いていた
(黒音、どうして)
俺は、家に帰ってからも、公園での事を思い出していた
たまに、黒音の言動は、おかしいものがあった
(それでも、今日のような事には)
『明日、わかるのだろうか』
ベッドに横になり、考えながら眠ろうとしていた
(駄目だ、眠れない)
いくら目を瞑って横になっていても、眠れる様子がなかった
『水でも飲んで、一度落ち着こう』
部屋を出て、一階に降りた
(あれ?電気がついてる)
リビングは電気がついていて、母と姉の話が聞こえてきた
(結婚?姉ちゃんが…)
子供の頃から、ずっと面倒を見ていてくれた姉、中学から最近までは心の支えになってくれていた姉
(そっか…そうだよな)
姉の容姿や性格を考えたら、当たり前の話だった
もしかしたら、母の知り合いとかと、お見合い話が出てるのかもしれない
(戻ろう)
二階に戻ろうとした時に、母に声をかけられた
「龍司、いるんでしょ?入って来なさい」
『はい』
(母もいつもとは違う、大事な話なんだ)
先程の話は、正直聞きたくなかったが、姉に幸せになってもらうためにとリビングに入った
金曜日の朝は、一睡もせずに迎える事になった
(結局、眠れなかったな)
昨日の黒音の件だけではなく、母と姉から聞いた話が俺の眠りを妨げてしまった
(頭痛え、でも学校に行かないと)
いつもより早い時間に起き、一度シャワーを浴びようと脱衣所に向かった
『あっ』
「あっ」
そこには、同じくシャワーを浴びて出たばかりの、姉がいた
『姉ちゃん隠して!』
「ご、ごめん!」
姉ちゃんは顔を真っ赤にして、自分の身体をタオルで隠した
昨日の話を聞いてから、姉を意識してしまっている
「昨日の件は、また後で詳しく話すから」
『う、うん』
「今日も先に行くね、放課後はちゃんと来るのよ」
『わかってる』
姉は、朝から機嫌が良さそうだった
姉が出た後に、朝食を取り学校へと向かう、この姉から与えられた試練の最終日を、迎えるのであった
「おはよう、高梨君」
「高梨君、おはよう」
教室に入ると、待っていたのか双葉と真白が声をかけてきた
眠れなかったのか、目の下にクマが出てたが、顔は明るく晴れているようだった
「眠そうだね」
『俺も、色々と眠れなくて』
「そうなんだ」
『おはよう、黒音』
「おはよ」
黒音はこちらを振り向くことなく、返してきた
(放課後)
結果はどうなるかわからない、でも受け入れるしかないと思って一日を過ごす事にした
昼は、元気な様子を見せた二人と、少し会話をしながら弁当を食べた
黒音は相変わらず、前を向いたまま一人で食べていた
そして、放課後になった
双葉と真白は先に行き、俺は少し遅めに行くことにした
結果を聞くのが、怖かったというのもある
(どんな結果でも、受け入れないとな)
今までの関係が今日で終わるとしても、俺がみんなから与えてもらえたものは消えない、そう思いながら部室へと向かった
『お疲れ様です』
部室に入ると、姉はもちろんのこと、柊先輩、双葉、真白が座って待っていた
三人は俺の顔を見ると、表情が明るくなりその場から立ち上がろうとした
「まだだめよ!」
しかしそれを、姉が制止した
「大事な話をする前に、いるんでしょ?出てきなさい」
『えっ?』
姉にそう言われると、黒音が入ってきた
「あんたさ、何しに来たの?」
姉は、あからさまに不機嫌になった
「私も」
「はぁ?」
『姉ちゃん』
「あんたは黙ってなさい!」
朝の機嫌の良かった姉は、そこにはいなかった
(黒音は、何をしたのだろう)
立ち上がろうとしていた三人は、驚いて椅子に座りなおしていた
「私も、この部活に入れてください!」
(えっ?)
「あんた、自分が何を言ってるのかわかってるの?」
「わかってます、だから隠さず全てを話します」
「それで許されると、思ってるの?」
「わかりません、でも聞いて欲しいです」
「…」
(姉ちゃん、何の話をしているんだ)
暫く、黙って姉は考えていた
「はぁ…龍司、座りなさい」
俺は姉に促されて近くの椅子に座った
「次嘘ついたら、ただじゃ済まさないからね」
「わかってます」
そして、黒音は話始めた




