試練 1
『接触禁止?』
休み明けの月曜日の朝に、漫画研究部を廃部にしないために、あと一人をどうするか姉に相談をしていた
「そう、考えてもみなさい。四月に入学してから最近まで、怒涛の勢いで過ぎていったけど、スキンシップや関係の進みが過度ではないかと思ったわ」
『…たしかに』
「だから、一週間ほどただの友人として接してみて、気持ちが冷めないか確認するのよ」
『なるほど…』
「もしそれで関係が終わるなら、その程度の気持ちだったという事だし」
『ふむ…』
姉の言うことは一理ある、俺も流されてはいたけど気がついたら三人に囲まれていた
(いや、最近は姉ちゃんも結構酷いよな)
『それって』
「ん?」
『姉ちゃんも?』
「…そうよ!」
少し頬を染めながら、答えてきた
「私もちょっと悔しいというか、あの子達に対抗して最近は色々とやりすぎたから、反省期間を設けようかと…」
『ふむ』
俺も、少しの間一人になって、整理したい気持ちもあったし、ちょうどいいのかもしれない
『わかった、そうしよう』
「その代わり、漫画研究部が潰れないように考えておくわ」
『わかった、ありがとう』
姉と相談し、今週一週間を過ごしてみることになった
「接触禁止!!?」
家を出て早々に俺に抱きついた三人に、姉が説明をした
「そうよ、金曜日の放課後までただの友人として接してみて、客観的に弟との関係を考えて欲しい」
「それは、高梨さんもですか?」
「ええ、私も弟とは、金曜日までは何もしないわ」
「わかりました」
三人はショックを受けつつも、受け入れる様子だった
「とりあえず、約束だったし、朝は学校に着くまではいいわ。それ以降は最近のようなスキンシップなどは禁止で、あくまでも友人として接しなさい」
「わかりました…」
金曜日までの充電をしたいのか、学校に着くまで三人が離れる事はなかった
「じゃあ、約束は守るのよ」
『了解』
姉達と分かれ教室に向かった、双葉と真白は少し離れてついてきていた
「おはよ、龍司。今日も熱々…じゃないな」
いつもなら、俺に抱きついてくる真白達が大人しいのを見て、大樹が困惑していた
「え?何、お前ら別れたの?」
「え!?本当に?」
大樹の声に、黒音も反応する
「違う!」
二人が否定した
『まぁ、ちょっとした実験みたいなものかね』
「へー、そうなのか」
大樹には後で、説明してやろうと思った
昼休みに入り弁当を食べようと思ったら、おそるおそる二人が声をかけてきた
「ね、ねぇ高梨君、友人だからお昼ご飯はいいよね?」
『あー、それはいいんじゃないかな』
「おー食べよう食べよう」
朝の件を説明した大樹も、受け入れていた
(んー、二人共少し元気ないかな?)
まだ始まって数時間なので、俺の気のせいだったのかもしれない
放課後部室に入ると、姉が待っていた
監視しにきたのかと思ったが、違ったらしい
「今日の放課後から金曜日の朝まで、登下校を一緒にするのも禁止ね」
「ええー!!」
「当たり前よ、私も一人でするわ」
(やる時は、結構徹底的にやるんだな)
登下校はせめて一緒にいられると思ってたのか、三人が困惑している
「暫くは三人で帰って、色々と考えなさい」
『もし変な男に絡まれたら、すぐにかけつけるので連絡下さいね』
それだけは、言っておいた
『おー』
久しぶりに、一人で下校する
俺を視界に入れるのもなるべく禁止との事で、少し早めに俺だけ下校をしている
(なんか新鮮というか、久しぶりな気持ち)
いつも両腕に抱きつかれていたので、今日は体が軽かった
(んー?意外と悪くはないんじゃないかな)
姉の提案は突然だったが、意外にもありだと思った
「ただいま〜」
『ああ、姉ちゃんおかえり』
「三人を、送ってきたわ」
『ああ、なるほどね』
「夕飯は?」
『今日は母さんが早くて、作ってくれてるよ』
「そうなんだ、先にお風呂でも入ろうかな」
『もう少しかかるみたいだから、いいと思うよ』
「わかった」
その後、夕食を取り風呂に入って寝るまで、一人で過ごせた
姉も遊びに来ることはなく、ゆっくり考える事が出来た
『そういえば、先輩から声かけてきてくれたんだよな』
入学して早々に、柊先輩に声をかけられて漫画研究部に入部したのを思い出した
『真白も、毒吐いてきて怖かったしなぁ』
当時は冷たい態度を取られたなぁと、思い返していた
(この約二ヶ月間を整理するには、ちょうど良かったのかも)
俺は、姉に感謝をしながら眠りについた
火曜日の朝、今日は姉ではなく出勤前の母に起こされた
『姉ちゃんおはよう』
「おはよ」
姉はもう着替えて、ニュースを観ながら朝食を食べていた
(んー少し元気ない?)
家族だからわかるのか、そう感じた
「行ってきます」
『行ってらっしゃい』
姉は、俺より先に出て行った
『さて、行くかな』
暫くして、俺も学校へ向かった
家を出て、周りを見渡す
(そういえば、最近は毎日みんなが来ていたな)
朝の登校も体が軽く、痛い視線も来なかった
「龍司、おはよう」
『おはよう大樹』
「高梨君、おはよう」
「ああ黒音、おはよう」
教室に入ると、二人はまだ来てなかった
暫くして教室に入ってきたが、少し元気がなさそうだった
お昼は、昨日と同じくみんなで食べた
放課後も、これといって何もなく過ごして終わり、先週ほどの会話もなく、柊先輩も大人しく元気がないようだった
『ふ〜終わった〜』
まだ火曜日なのに、少し長く感じて疲れてしまった
(会話が減ったせいか、時間が過ぎるのが遅いのかもな)
そういう意味では、みんなの存在は大きかったのかもと思った
今日の夜も、部屋で思い出していた
『そういえば先輩を助けて、後日放課後送るようになって』
最近はランニングなどの運動は続けているが、あまり人間観察をしなくなった
『GWは、双葉を助けて、先輩や真白と…』
あの時はどうして俺なんかと思ったが、いや今でもわからないけど
(二人から、好意を示してくれたんだよなぁ)
あの時の事を思い出しながら、眠りについた
水曜日の朝、今日も母が起こしてくれた
リビングに入ると、もう姉は登校したようでいなかった
(生徒会の仕事かな?)
俺は朝食を食べて、向かうことにした
登校中に、腕を組んで歩くカップルを見た
『うーむ』
俺達も、他の人から見ればあんな感じなのだろう
(まぁ、隣が一人ではないんだが…)
客観的に見れば、羨ましいと思えるような状況だったのだろうと思った
(まぁそれも、終わるのかもな)
それはそれで仕方ないよなと、そう思いながら登校をした
『おはよ大樹』
「おーす、龍司」
「高梨君、おはよう」
まだ双葉と真白は、来てなかった
「そういえば、どうなんだ?」
『ん、何が?』
「例の件だよ」
『ああ、まぁ順調なんじゃないか?』
「そ、そうか?二人は遅いな」
『まぁ、色々あるんじゃないかな』
(俺を迎えに来てた時は、無理をさせてたのかもしれないな)
無理に早起きをさせていたのかもしれないと、少し反省をした
「高梨君は、彼女とか欲しくないの?」
「俺は欲しいぜ!」
「東本君には、聞いてないわ!」
「うわ、酷い…」
『俺は…どうだろうな』
「私と…付き合うのもありよ?」
『いや、それはないな』
「なんでよ!」
(彼女か…でも好意を向けてくれていた三人がいなくなったら、少し寂しいかもな)
『まぁ、俺なんかにそんな価値はないよ』
「そんな事はないと思うけどな」
「そんな事ないわよ!」
『ははは、ありがとう』
そういう会話をしていたら、二人が登校してきた
(ん〜?昨日よりも暗いな)
二人は、あからさまに元気がないようだった
昼休み、弁当を食べた後に、これといった会話がないので読書をしていた
ふにふに
右手の指に感触を感じて見ると、真白が触っていた
『真白?』
泣きそうになりながら俺の指を触っていた真白は、声をかけると驚いたようにこちらを見て離れていった
(どうしたのだろう、大丈夫かな)
いつもとは違う真白の様子に、心配になった
五限が終わり、大樹とトイレに向かう時に正面から双葉が来た
すれ違う時に手を握られる感じがして見ると、こちらを見上げて目を潤ませていたが、すぐに離れて行った
(双葉も、大丈夫かな?)
昨日までと違い、二人の様子がおかしくなったので、心配になる
放課後部室に行くと、柊先輩が下を向いて漫画を描いていた
いつもと違う様子が気になって見ると、原稿に涙が落ちている
(え、泣いてる?)
『先輩、どうしたんですか?』
ビクッと反応した先輩が
「ううん、何でもないの…」
(何でもないわけはないけど…)
心配だったが、それ以上は聞く事が出来なかった
「私達、先に帰るね」
放課後集まったメンバーは、皆元気がなく一時間ほどで先に帰っていった
俺はスペアキーを預かっているので、少ししてから帰る事にした
(しかし…先輩も他の二人も、何かあったのかな)
心配ではあるが聞くことも出来ないので、帰宅をした
その日の夜、昼以降に見たことを思い出していた
(真白も双葉も先輩も、まさか今回の件が原因ではないよな)
姉が与えた試練はそこまでの効果があるのかと、疑問に思ったが
(まぁたしかに、ちょっと寂しいよな)
前に比べてスキンシップはなくなり、会話も結構減ってしまった
(当たり前じゃないんだよな)
それまでの当たり前が、次からは当たり前ではなくなる
(直前まで傍にいた存在が、突如いなくなることをあるものな)
ニュースの事故などで、そういう話はよくある
俺だって家族や友人が、ある日いきなり事故にあって亡くなったりしたら悲しい
(生きてるみたいだが、いなくなった幼馴染もいたしな)
この前の土日に、真白や柊先輩と過ごした事を思い出した
(あの時は、真白の事を愛おしいと感じたな、柊先輩は温かくて一緒にいて…幸せだった)
そう考えると、俺も寂しいのかもしれないと思って色々考えて昨日よりは寝れなかった
あと二日、どのような結果になっても受け入れないといけない




