二つの約束 1
「高梨君、行くわよ」
放課後になり、前の席の黒音が振り向いて声をかけてきた
『え、どこに?』
「料理部よ、今日ミーティングでしょ」
(ん?どうして黒音がそれを知ってるんだ、もしかしてストーカー?)
『もしかして、ストー…』
「違うわよ!」
後半漏れていたらしい
「気がついてなかったのね、私も料理部よ」
『へー』
「何よ、さぁ行くわよ」
黒音が、早く行こうと腕を引っ張ってくる
「高梨君」
『ああ真白、終わったら行くから、部室で先輩と待っててくれ』
「わかった」
「ほら、高梨君!」
『はいはい、わかりましたよ』
黒音が催促するのが気に食わないのか、真白が機嫌が悪そうだった
(後でフォローするか)
教室を出て、黒音と料理部の部室に向かった
「そういえば、その、真白さんや先輩?って人とは付き合ってるの?」
(今日は朝から質問が多いな)
『付き合ってはないよ』
嘘は言ってはいない、自分が悪いのだが
「でも、周りから見たら親しく見えるわ」
(まぁ、しちゃってるしなぁ)
この前のGW最終日の事を思い出す、色々と濃い一日だった
『俺なんかと仲良くしてくれるのは、ありがたいよな』
本当にそう思ってる、高校に入学してからは毎日が忙しい
それは、二人のおかげだと思った
「なんかじゃない!」
急に、黒音が叫んだ
『ど、どうした?』
「あ、いや、ごめん」
『いや、いいけど』
「…」
そういうやり取りをしてる間に、料理部の部室に着いた
「高梨君は、この後はどうするの?」
『ああ、漫画研究部の部室に行くかな』
二人が今日も、一緒に帰ろうと待っててくれる、それは少し嬉しい事なのかもしれない
「そう、私も行こうかしら」
『いや、やめとけ』
「なんでよ!まぁ今日は、テニス部の方にも用事があるからいいわ」
黒音はテニス部と料理部を、掛け持ちしてるようだ
『じゃあ、また明日』
「ええ、また」
黒音と分かれて漫画研究部の部室へと向かった
「高梨くーん」
部室に入ると、先輩が抱きついてきた
『先輩、どうしました?』
「寂しかった」
(うっ、可愛い事を言っている)
正面から抱きついてきた先輩は、俺の胸で顔をグリグリとしていた
トンッと、後ろからも抱きつかれる感じがある
『真白』
「浮気は許さない」
急に、先輩の抱き締める力も強まった
『いやいや、してないよ?』
「黒音」
『ああ、あいつは席替え後、急に話かけてくるようになったな。今日は料理部も同じとわかったし』
「ストーカー」
『言い過ぎだが、まぁ今までは意識してなかった』
「意識してるの?」
不安そうに先輩が見上げてくる
『いえいえ、仲良くなりたいとは思ってないですよ』
(俺は先輩と真白で、いっぱいいっぱいです)
「あまりあの人には近寄らないで、嫌な気がする」
『んー?気をつけるよ。でもただのクラスメートだから』
「そこから始まる関係もあるんだよ!今までは狙ってたけど、話かける機会が来たってことなのかもだから」
(二人は心配性だな、でも…)
俺の事を好いてくれる人を、悲しませるような事は良くないと思った
『わかりました、とりあえず帰りますか』
三人で今日も学校から出た
「最近してくれないね」
帰り道、周りに人がいないのを見計らってか先輩が口に出した
「寂しい」
真白もこちらを見て言ってくる
してくれないとは、アレの事だろう
『いや、あの』
「ちゅー」
二人が左右から、こちらを見上げて目を瞑ってくる
『二人共落ち着いて、そんな軽々しくするものじゃないと思うよ』
「そんなことないもん!するだけで満たされるんだもん」
「したい」
二人は頬を染めながら、あの日を思い出してるかのように指で唇をなぞっていた
(うーん)
一人の男としては、求められるのは良い事なのかもしれないが
『付き合ってもない二人に、そういう事をするのはどうかなと思うし』
「そんな事ない!私は幸せだもの」
「付き合うなんてどうでもいい、結婚して」
先輩はともかく、真白は飛びすぎてる
『てか真白は、その考えはどうしてそうなったんだ?』
「言いたくない、どうしても聞きたいなら」
『聞きたいなら?』
「結婚して」
『意味がわからん』
どうしても、言いたくないようだ
「聞きたいなら、教えてもいいけど」
『うん』
見上げてまた目を瞑ってくる
『いやいや、だからさ、せめて家とか人に見られないところでするものだろ』
「家ならいいの!?」
二人が同時に反応してくる
『いや、例えばの話よ。普通恋人とかなら、家とかデート先でとか、シチュエーション的なものがあるんじゃないかと』
「たしかに」
二人は考えている、納得してくれたようだ
「じゃあ土日会いたい」
「私も家に来て欲しい」
(ああ、そうなるのか)
自分で言った事だが、墓穴をほったようだ
『土日か〜そういえば今週は、姉もモデルのバイトで、母も仕事でいないな』
「あ!じゃあ高梨君の家に行きたい!」
「私も行く」
『いやいや』
この二人が同時に家に来たら、何が起きるかわからない
「高梨君とお菓子作りたいな!」
それはいいのだが、先輩の家だとこの前みたくなるだろうし、また先輩の部屋でって事になったらあの事が思い出される
『んー、じゃあうちで作りますか』
「やったぁ!」
先輩が腕を掴みながら飛び跳ねて喜ぶ
「んっ」
真白が袖を引っ張ってきて、拗ねていた
「高梨君、うちに来て欲しい」
『真白の家?』
「パールが待ってるから、遊んで欲しい」
(パール、ああ真白の愛犬か)
初めて会った時から、凄くじゃれてくる犬だった
『じゃあどうしようか』
「私は、土曜日がいい」
「じゃあ私は日曜日」
真白が土曜日、先輩とは日曜日に決まった
「約束ね!楽しみにしてるんだから」
二人が嬉しそうにしてるので、俺も少しはそういう気持ちになれた
『そういうわけで、土日の予定あるから』
帰宅後、姉に報告した
「まぁ私はバイトだからいいけど、大丈夫?」
大丈夫とは二人との関係の事だろうか
『仲良くは出来てるよ』
「そうじゃなくて、はぁ…避妊はちゃんとするのよ」
『なんでそうなる!?』
姉にそんな説明は、一切してないのに
(いや、でも、そういう事なのか?)
「正直二人は、そういう気持ちを持ってると思うわよ。あんた鈍感だから注意しとくけど」
『うっ』
「別に二人が好きだと言うなら、それはそれでいいと思うわ。でも無責任な事をしたら駄目、相手の家族にも迷惑がかかるから」
『…たしかに』
姉にしては、珍しく真剣に話をしている
「だから、気をつけなさい」
『わかってる、二人の事は大切にしたいから、ゆっくりお互いを知って行きたい』
(俺の事なんかを、好いてくれるのはありがたいし、そういう事を求めてくれるのは、嬉しい事なんだろうけど)
相手方の家族にももちろん、自分の家族にも迷惑がかかるだろうから
(散々迷惑をかけて、心配をさせたからな)
「今日はもう寝るわよ」
最近、姉は毎日俺と寝るようになった
嫌ではないが、何かあるのかと心配になるのだった




