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GW最終日 2

「ごゆっくり〜」


先輩の母の声を背に、リビングを出た


『お邪魔します』


「どうぞどうぞ、何もない部屋だけど」


女性の部屋に入るのは、姉を除けば始めてだったが、男の部屋と違ってやはり女の子の部屋である


料理を一緒にしてる時に、ふわっと漂ってくる甘い匂いと同じ匂いを感じて、先輩の部屋だなぁと思った


勉強や漫画を描くためだろうと思われる勉強机と椅子、その横にベッドがあり猫のぬいぐるみが二匹いた


本棚には主に小説や女性が好みそうなタイトルの漫画があった、姉が持っているものも何冊かある


床に座る時に使うのか、低めの折りたたみの机が壁に立てかけてあり、後は小さな引き出し付きの衣類ケースがあった


先輩は、俺が部屋を見てるのが恥ずかしいのか


「引き出しとか開けないでね!下着とかあるから!」


『先輩、それはフリですか?』


「違うもん!」


俺が言った冗談に慌てるが、きちんと整頓されてて綺麗な部屋だなと思った


「欲しいならあげるけど…」


横で先輩が顔を赤くしながら、何かボソボソと言っているがよく聞こえなかった




とりあえず座ってと言われて、部屋の中央の床に座り、隣に先輩も座った


「そういえばね、たまに描いてる漫画を活動実績として出版社に見せに行くのだけど」


『そんなこともしてるのですか!?』


「うん、学校にわかる形で報告しなきゃだから」


俺はただ部室で読書してるだけだから申し訳ない

先輩は、部活動の維持のために、頑張っているのだなと思った


「前は、恋愛経験がないせいで漫画にリアリティがないと言われてて、でも最近は良くなったって褒められたの」


『おー』


やはり、実体験みたいなものが与える影響はあるのだろう


『そういえばさっき、先輩のお母さんが先輩に彼氏がみたいな話してましたもんね』


「え?違っ」


『あ、これ!』


俺は立ち上がって、本棚から一冊の漫画を取り出した


『これ、姉が途中まで持ってて読みたかったやつなんですよね』


「違うの!」


後ろから、腰から腹に向かって手が回される感触があった、漫画研究部に誘われた時に、先輩にされた時と同じだと思い出した


「私は彼氏はいないの!私の漫画が良くなったのは、高梨君のおかげなの!」


『え?先輩それって』


「きゃっ」


先輩の方に身体ごと振り向いたら、先輩が驚いて手を離そうとして、足がもつれて後ろに倒れそうになる


『危ない!』


床に後頭部から倒れそうになった先輩の頭に、右手を回し一緒に倒れてしまった


『いてて、先輩大丈夫ですか?』


「あ…」


気づけば先輩を押し倒す形になってしまった、後頭部に手を回してたおかげで頭は打ってなかったようだが


「…」


先輩を押しつぶす事はなかったが、右手は後頭部、左手は先輩の顔の横で、片手では支えられなかったので先輩の顔が目の前にあり、目が合っていた


(………)


部屋には音がせず、ただ心臓の音がうるさく聴こえる感覚がする


『え、近っ!』


俺は驚いて、左手に力を入れて距離を離そうとした


「…いいよ」


先輩が視線を横に逸らし、頬を染めた


(いいよ?)


俺は先輩の言った事がわからず固まってしまった


「もぅ!だから、いいよ…」


両手を俺の首に回し、俺の顔を引き寄せた


(え、つまりそういう事)


やっと先輩の言う意味がわかったが、素直に受け入れられなかった


『はぁ……、先輩』


「んっ」


先輩は覚悟を決めたように、俺を受け入れようとしている


『俺は先輩が思ってるような、綺麗な人間ではありません。流されないで下さい』


先輩を抱きしめるような形にして、起き上がらせる


『こんなの漫画やアニメで起きる事かもしれませんが、流されないでもっと自分を大切にしてください!』


先輩は少し頬を染めながら、今自分に起きた事が信じられないかのような顔をしていた


呆然とする先輩を見て、俺は申し訳ない事をしたかもしれないと思ったが、先輩には自分を大切にして欲しかった




『すいません、帰りますね』


立ち上がろうとした


「ま、待って!」


『えっ、うわっ』


手を引っ張られたと思ったら、立ち上がる途中だったので姿勢が安定せずベッドに倒れる形になった


そして逆に、先輩に押し倒される形になった


いや、押し倒されたのかもしれない







目の前には、先輩の顔があった


「押し倒す側の目線って、こうなるんだね」


先輩は少し微笑みながら、でもちょっといたずらをしたかのような顔をしている


「ねぇ、さっきの私みたいに、いいよって言ってみて」


『先輩、だから』



「漫画やアニメの世界じゃない、現実なんだよ」



先輩の顔が近づき、唇が重なった






どれくらい経っただろう、一時間だろうか、二時間だろうか、実際はほんの数秒なのだが、俺は何も考えられなかった



「初めて、しちゃった」


顔を少し離して目を細めながら、いたずらな笑みを浮かべた


『どうして』


先輩と合う目を天井に向けた


「どうして?」


視線を戻すと、また先輩と目が合う


『どうして、こんな』


自分に、過去にあった事を思い出して、胸の奥から黒いもやが出てくるような、胸に痛みが走る感覚があった


「…好きなの」


ぽたぽたと、頬に落ちてくるものがあった

先輩の目から、涙が流れていた


「どうしてじゃないんだよ、ばか!」


「好きなの!好きで好きでしょうがないの!」


「理屈じゃない!理屈じゃないの」


目の前の先輩が言ってる事が、理解出来なかった


「理屈じゃない、あの日助けられてあなたがその人だと気づいてから、好きな気持ちが止まらないの!」


(ああ、この人は本気で、嘘じゃないんだな)


(俺は今どんな顔をして聞いてるだろう、きっと真顔だろうな)


目の前で泣く、先輩の奥にある天井を見て思う


(俺が普通だったら、先輩が幸せになってくれたのだろうか)


(わからない、でも…)


前に、姉に先輩を好きか嫌いか聞かれた

その時は、嫌いじゃないと答えた気がする


(今は…)


『先輩』


「うん」


『俺、好きな子がいたんだ』


「う、うん?」


『生まれた時から、ずっと一緒の幼馴染がいた』


姉や親以外の人に話すのは、初めてかもしれない


『中学に入学してすぐに、幼馴染に告白されたんだ』


「うん」


『その時は人が来て、返事が返せなくて』


あの時の事を思い出す

二人で下校している途中で、幼馴染から告白をされた

返事をしようとしたら、人が来て幼馴染は先に帰ってしまった


『次の日の朝、いつも迎えに来る幼馴染が来なくて、一人で登校して教室に入ったら…』


顔に熱いものが流れる感覚がする

俺を見下ろしている、目の前の、先輩のものではない


俺は、泣いているのかもしれない


『みんなが見てる前で、幼馴染に、俺は人に好かれるようなやつじゃないと言われた』


「っ!」


『その後の事は、暫く覚えていないんだ』


「うん…」


先輩がまた涙を流している


『高校に上がる少し前の事しか、もう覚えてはいない』


「うん」


『ごめん先輩、だから俺は人を好きになるって気持ちが、わからないんだ』








暫く、先輩の泣く声だけが聞こえた


(言わなければ良かったかな)


俺は少し後悔しかけたが、でもなんとなく先輩には聞いてほしかった


「ねぇ」


『はい』


「頑張ったね」


両手で、俺の頭を抱いて胸に引き寄せた


(温かい)


優しく感じる匂いと、温かさに触れて、さっきまで感じていた感覚は多少薄れた気がする


先輩が、少し体を離して、目を合わせて


「もう一度するから、嫌なら拒否して」


顔を近づけてきた








「高梨君は、私の事、嫌い?」


俺達は、その後ベッドの上に座っている

先輩は俺の横で、俺の腕を抱きしめていた


『嫌いではないです、どちらかというと…』


(ただ…)


『好きとか、付き合うとか、そういう感情を考えるのがまだ辛いです』


「そっか…」


先輩には、申し訳ない事をしたと思う


『ただ、先輩が俺を思ってくれてるのはなんとなくわかりました、姉や両親ぐらいしか信用出来なかったので…』





暫く先輩は黙っていた


俺も、先程の事を考えていて、言葉が出ない


「んー、今は付き合うとかそういう話はいいからさ」


『はい』


「私の気持ちは、さっき言った通りだから」


『はい』


『付き合わなくていいから、恋人みたいな関係になりたい』


『え?』


「いつかは変えてみせるから、だから今はそれでいい」


『それは先輩に悪いです、それに俺は…』


「その代わり、今よりもっと甘えさせて!」


(…わからん、先輩の言うことがわからん)


「つまり付き合わなくていいから恋人になって」


『すいません、わかりません』


「んー、今よりもっと仲良くなろう」


『それは、先輩とは仲良く?はなりたいと思ってますが…』


「深く考えなくていいの、ただ私は今よりももっと高梨君に近づくから、あなたも私に甘えて」


そう言って先輩が抱きしめていた腕を離し、首に両手をまわして抱きしめてきた


俺は、先輩を抱きしめ返す事は出来なかったが、温かいものは感じれた


「今日がスタートだから、また明日からよろしくね」


少なくとも、先輩に嫌われてはいないのだと思えた



(少しでも俺に出来る事があるなら、先輩にしてあげよう)



そう思えたのだった


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