漫画研究部 2
「一名様ごあんな〜い!」
さっきまでいた特別棟一階の図書室から、四階の奥にある漫画研究部まで部長さんについていく
時刻は16時を過ぎるくらい、あと一時間もすれば日が暮れるだろう
「ファイト〜」という運動部の声が、窓硝子を越えて校舎の中まで響いてくる
桜木高校の授業は朝八時から一限が始まり、一授業50分休憩10分の午前四限、昼休み一時間を挟んで午後は13時からニ限をやり、LHRをして部活動の時間となる
これといった議題がなければLHRはないようなものだが、今日はすぐに終わったので15時頃から図書室で本を探していた
基本的に部活動は18時まで、終わり次第速やかに下校と学校のルールで定めている
(あまりにも遅いと危険もあるだろうしな…)
「着いたよ、入って入って!」
『失礼します』
(部長さん、嬉しそうだな)
そう思いながら入った部室は、想像してた通り本棚が並んでいて、そこにジャンルごとに分けた本がびっしり並べられていた
「んーと、これかな? どう?」
『あ、これです。ありがとうございます』
「うんうん、見つかって良かったね。ところで…」
『ありがとうございました!失礼します!!』
(本命はこれか!)
本を受け取った俺は素早く部室から出ようとしたんだが、ふわっと後ろからいい匂いがした…
初動が遅かったらしい、見事に後ろから部長さんに抱きつかれた…
(いいタックルだ、世界狙えるぜ)
というのは冗談で
『あ、あの…』
「待って話だけでも聞いて!」
『いや、あの…わかりましたから、その…抱きつくのは…』
「あわわわ、ごめんね」
顔を真っ赤にしながら、俺から距離を取る部長さんを見て
(ちょっと可愛いと思ったじゃないか…)
そう思ってしまった
『それで話というのは?』
「ふぅ…ごめんなさい、実は春に卒業した人がいた関係で部員が足りないの」
桜木高校の部活としての維持の条件の一つに、部員は最低五人以上、活動実績も必要とある
「活動実績は私が…あのたいしたことはないんだけど漫画を描いていて…」
『おー凄いですね』
「だから後は部員の確保だけでいいの!たまに顔出してくれればいいし、暇な時は部室で読書してるだけでいいから!」
『まぁ…それくらいなら別に、ちょっとやりたいことあるので来れない日もあるかもですが…』
「大丈夫!あと部室の本は、好きに読んでくれていいから!」
『いいでしょう、交渉成立だ』
ガッと部長さんと俺は握手をした、のだが徐々に顔が赤くなっていく
「じゃあ明日からお願いね、私は三年の柊一葉」
『俺は一年の高梨龍司です』
「高梨君ね、あとは今日は来てないんだけど、ニ年生が一人と、私の妹も含めた一年生がニ人いるから、それはまた後日紹介するね」
『了解しました、またお願いします』
「うん!よろしくね!」
こうして俺の漫画研究部への入部が、決まったのだった
(今日もいつものニ人か)
漫画研究部の部室に入ると、すぐ目の前に六人が座って会議出来るくらいの机がある
サイズはだいたい、縦ニメートル、横三メートルの長机
入口から見て右奥には部長の柊先輩が、その手前には一年で同じクラスの真白霞がいた
『お疲れ様です』
「高梨君、こんにちは。お疲れ様なんて、仕事でもしてきたの〜?」
『いや、そういう事じゃないですけどこんにちは』
「チッ」
…
…
おかしいな…俺と先輩の挨拶に、舌打ちのノイズが入ってたような気がする
チラッと真白の方も見ても、無表情で手元の本を読んでいる姿しか見れない
気のせいということにして、本棚から栞を挟んでおいた読みかけの本を取り出して、自分の定位置である柊先輩の対面に座って続きを読み始める
そういえば、さっきの舌打ちの犯人こと真白霞…
俺と同じクラスで話をしたことはないが、噂で聞いたのは男女問わず塩対応で、特に男子には冷たく、容赦無い言葉を浴びせる事から《氷姫》と呼ばれているらしい
ただそれも真白に告白した男子限定の話らしく、普段は誰とも基本会話せずに読書をしている
身長は140センチくらいで、体型は痩せてる割には意外に出るとこは出てて、ハーフとかなのかな?少し青みを帯びた髪型はショートボブで、ストレートに伸びた前髪が目を隠しているが、少しの分け目から出る目や顔を見ると、神秘的で可愛いと思う人がいるのかもしれない…
「あれあれ〜?高梨君、真白ちゃんが気になるの?」
「しねっ」
(しまった…少し考え事をしながら見過ぎたか、つか死ねって今言いました?)
『いやいや違いますよ、次読む本どうしようかなぁって思いまして…ほらっ先輩の後ろのラノベもありかなぁって…』
「ふーん?それならいいんだけど、告白はちゃんと本人に口で伝えるのよ?」
「こ◯す」
『あ、はい…』
なんか殺意MAXな言葉が、途中途中飛んで来るんだよな…
もう真白の事を見るのは止めよう…
先程から俺の視線に気づいて突っ込みを入れてくれた柊先輩は、身長は150センチ半ばほど、体型は真白ほどではないが痩せていて、胸もそれなりにあると思う
髪は少しくせっ毛があるのか、今は三つ編みにした髪を左肩から前に垂らして、前髪は眉毛より下くらいで眼鏡をかけている
(口元のホクロがちょっとセクシーって感じかねぇ、一見地味目なんだが何か違和感があるんだよな…)
素材は悪くないのに、何かわざとらしいというか…
ニ人を見てると、俺の趣味の悪い癖が出そうだな…
「あらら?今度は私?」
「帰れ」
『いや違います!すいません!』
謝ってる時点でアウトだと思いはしたが、女性は男の視線に気がつくってのは、本当なんだなって思わせられる
てか俺前髪が目を隠すカーテンになってるのに、よくわかったな…
《暖簾》、それが俺が周りから呼ばれているあだ名
過去に起きた事が原因で、周りを見たくなくなって前髪を伸ばし続けた結果、ついたあだ名である
(なんだかんだで、もう1時間か)
『すいません明日の準備があるので、今日は帰りますね。』
「明日は金曜日だから、料理部ね」
『はい、食材買わないとなので、また来ます!』
「あっちが終わって、時間があったら顔出してね〜」
『善処します』
「またね、高梨君」
『お疲れ様でした!』
(真白にはガン無視されてるが、先輩が挨拶してくれたから良しとしましょうかね)
そう思い、部室から出た