初ミッション 1
朝、登校し教室に入ったら、高梨さんと目があった
「柊さん、おはよ〜」
ニカッと笑いながら手を振ってきた
『おはようございます』
お辞儀を返し自分の机に座った
机の上に置いたバックに振動を感じ、取り出して確認したところメッセージが届いていた
「柊さんは恋愛経験はどれくらいあるの?」
『ごめんなさい、一度も異性と付き合った経験がありません、漫画や小説で得た知識しか…』
「謝らなくていいよ、それなら最初はこうしてみようか」
放課後、高梨君を誘って校舎内を歩いていた
吹奏楽部の演奏や合唱部の歌声、外からは運動部の掛け声など、普段は部室の中にいるので、こうやって廊下に出ると聞こえて来るのは新鮮だなと思った
今回の目的地はニ階の売店だった
金曜日の御礼をしたいので飲み物を奢りたいと、誘えば断る事はないだろうと言われ先程彼に声をかけた
最初は、気にしないでください大丈夫ですと言ってくれていたが、私がしたいからと頑張って強引に誘ったら来てくれた
『たまには放課後に、校舎内の散歩をするのもいいね』
「そうですね、いつもは読書ばかりしていますからね」
高梨さんからもらったアドバイスはこうだ
一、飲み物を奢るからと部室から連れ出す
ニ、少しでも多く会話をする
三、部室に戻るまでになるべく長くニ人で歩く
慣れというものは怖いもので、何度も繰り返せばそれが当たり前になるそうだ
だから私と一緒にいる時間が、長ければ長いほどいいと高梨さんが言っていた
そして本日の大一番、本命をどこで切り出すか
『私はイチゴオレにしようかな、高梨君は?』
「すいませんありがとうございます、ココアをお願いします」
『いいのいいの、気にしないで飲んで』
300ml入りで百円、付属のストローを挿して飲むパックタイプの飲み物を口に咥える
『んー、美味しい』
「そうですね、先輩はイチゴオレが好きなのですか?」
『結構イチゴオレを飲むことが多いかな、高梨君は?』
「目を覚ますならコーヒーを飲みますが、甘いものが欲しい時はココアですかね」
『ふーん…いただきっ』
パクッと、彼の手にあるココアのストローを咥え少し吸い込む
口の中にイチゴオレの甘さとは違った甘みが入ってきた
『…甘いね…』
口をストローから離すが、恥ずかしくて顔を上げられず床を見てしまった
『高梨君も!』
「は、はい!?」
『飲んでみて!』
顔を上げ手に持ったイチゴオレを、彼の胸の前に突き出す
「いいんですか!?」
『私も飲んだし、御礼!この前の御礼だから!』
「で、では…」
イチゴオレに少しの振動を感じると、中身が減って少し軽くなった気がした
『ぅぅぅ…美味しかった?』
「…はい」
ちょっと積極的過ぎたかもしれない
アドバイスだけに頼らず、自分でも無理しない程度に頑張ってみてと言われていたが、漫画で得た知識はちょっと間違っていたかもしれないと反省した…
(リアルで間接キスなんて漫画の何倍も恥ずかしいよ…)
彼の表情はわかりにくいが耳が少し赤くなっていた
「そろそろ戻りますか?」
飲み終わったパックをゴミ箱に捨て、彼は言った
『高梨君』
「はい」
『大切なお話があります』
先程までとは違って真剣な顔で彼を見る
それを見た彼もこちらを真っ直ぐ見てくれる
『金曜日の事があってから、私怖いの』
「そう…ですよね」
『だからお願い!暫く私と一緒に帰って欲しい』
少しの間沈黙していた彼が口を開く
「いいですけど、俺なんかでいいのですか?」
『高梨君がいいの!』
「わかりました、では今日からお送りしますね」
『はい…お願いします』
(やったぁ!やったよぉ…)
高梨さんからもらったアドバイスの本命はこれだった
『私のアドバンテージですか?』
「そう、誰にも真似できないものが、柊さんにはある」
『でも、彼の善意につけ込むようで…』
「大丈夫よ、この前見てわかったと思うけど、うちの弟は紳士に育てたから」
利用出来るものは利用する、普通だったら一緒に帰ろうというイベントは、ある程度仲良くなってからのものだと高梨さんは力説していた
「学校の部活動で放課後デート、帰り道も放課後デート!」




