隠れ里に不時着
帰り道、空の上。
「ふーむ……」
「どうしたの?」
「これ、もしかして飛びながら魔の掌握を使用できるのでは、って思って試してます。」
そういうご主人様の周囲には10を越える紫色の水晶が浮かんでいる。
「で、どう?作れてる?」
「はい。作れるは作れるんですが、なんか遅いですね。効率は半分くらいなんじゃないですか?」
「でも移動中に作れるなら結構便利なスキルだよね。」
「便利ですね。」
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そのまま飛ぶこと一時間。現在、ご主人様は森の上を飛んでいる。
「ご主人、ここの辺りの地形についてどう思う?」
「北欧の辺りに有りそうな森ですね。実際にこんな森を見るのは初めてです。」
「僕も初めてなんだよね。今帰り道なのに。」
そう、行きに通った覚えの無い道を通っているのである。
「新鮮な空気ですね。二重の意味で。」
「……つまり迷子だよね?」
「まあまあ、地形は把握しているので帰ろうと思えば帰れますよ。最悪魔法でなんとかすればいいですし。」
「そうなのかな?」
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さらに飛ぶこと30分。
「あ、そろそろ魔法が切れますね。」
「えっ大丈夫なの?」
「一旦降りましょうか。」
ご主人様が地面に降りると、降りる前には見えなかった複数の人間の生活する村のような物が目に入る。
「誰だ貴様!」
「ネイコです。見ての通りの魔法使いです。」
こちらに剣を向けてくるフードを被った男性は、ご主人様の事を警戒しているようだ。ご主人様はあんまり魔法使いには見えないけどね。
「……魔法使いが何故ここに?」
「魔法で空を飛んでたら、飛ぶための魔法が切れそうだったので一旦着地したらここにたどり着きました。」
「下らん嘘を言うようなら此方にも考えが有るが?」
ご主人様とフードの男性が問答をしていると、同じフードを被った人達が沢山集まってくる。
「貴方も着地する所は見たでしょう?何故嘘などと言うのですか?」
「ふん。この村の結界を素通りしておいてしらを切るなど、よほど我々の事を舐めているようだな。」
「結界なんて見えませんでしたが……」
「この村に近づく者を遠ざける森の結界が目に見える訳が無いだろう!」
「……その結界の効果ってもしかして、精神に影響を与える状態異常だったりはしませんか……?」
「その通りだが、それがどうした?」
話している最中に、男に後ろから声が掛かる。話す音量は小声だが、猫の聴覚を持つ僕には聞き取ることが出来る。こっそりご主人様に伝えとこう。
(副団長、どうしました?)
(鑑定で見てみたが、その少女のスキルに精神系状態異常を無効化する能力があった。)
(つまり、そのせいで結界に気が付かず素通りした、と?)
(そうだろう。この件は外の人間から身を隠しておきながら、耐性を上回る術式を組めなかった我々の不手際ではないか?)
(しかし、村の掟ではこの村に無断で立ち入った者は死罪と、500年前から定められています。こやつをただで帰す訳には…)
(火魔法Lv.30の彼女にそんな事を言ってみろ。この森が灰に帰るぞ。)
(ですが副団長!)
「おい、お前ら。」
「ど、どうしました団長!?」
「あいつ帰ったぞ?」
「え?」
そう、彼らが話している内に面倒な気配を察知したご主人様は既に飛び上がっており、間もなく僕の聴覚でも声が拾えない程の距離が空く。
「おいこら、戻っ……」
彼にとっては残念なことに、ご主人様にその叫び声は届かなかった。
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現在12時くらい。あの後、絡まれることもなく無事にギルドに帰還した。いつものおっさん、アルゴさんの居るカウンターでハネヘビの尾を納品する。
「討伐完了しましたよー。」
「うおっ……なあ嬢ちゃん?こんな短時間でハネヘビをソロ狩りするたぁどんな手品を使ったんだ?」
「私、空を飛べるので。」
「いや、本来は5匹倒すのにもっと時間が掛かるはずなんだが……」
「運良く5匹の群れでしたから。」
「普通ハネヘビ5匹の群れを“運良く”なんて言わねーんだが……とにかく、ハネヘビの尾を出せ。」
「はい、これで良いんですよね?」
「ふむ、OKだ。これで、依頼達成……っと。」
ご主人様が尻尾を提出すると、アルゴさんは手元の台帳のような冊子に謎の判子を押す。
「で、これが報酬の15000ニークだ、失くすなよ。」
「はーい。」
「で、ご主人これからどうするの?まだ12時だけど。」
「えーっと……街の反対側に港が有るらしいのでそちらに向かいませんか?」
「港かあ……鮪とかあるかな?」
「さあ、どうでしょうか。」