試験を突破して
待つこと10分弱。
「準備が出来た。訓練所まで行くからついて来てくれ。」
「あっはい。」
呼びに来たおっさんに続いて訓練所へ向かうご主人様。その腕の中に居る僕。そして何故かついてくる門番。……さては帰るタイミングを逃したな?
「試験の内容は、お前の出来る限りの全力であの的を攻撃する事だ。始め!」
訓練所に置いてあるのは一見なんの変哲も無い木の的に見えるけど、何か特殊な物なのかな?
ともかく、ご主人様はしっかりと的を見据えて詠唱を始める。
「"第二の法則─|ゴニョゴニョゴニョ…《要求詠唱量100%減少》"」
詠唱は、スキルを秘匿でもしようとしてるのか小声で行われている。そして…
ヒュン!
僕を抱えたご主人様の周囲には瞬く間に10発の炎の槍が形成され、そのまま的に着弾し大爆発を引き起こす。
その威力は試験監督のおっさんと門番のお兄さんには十分驚くに値する物だったようで、二人とも完全に動作を停止している。
「あのー?」
「……はっ!?……すまない、少々取り乱していた。今から結果の審議を行う為少々その場で待機していてくれ。」
「はーい。」
試験監督のおっさんは門番のお兄さんを連れて何処かへ移動した為、この場にはご主人様と僕しか居なくなる。今のうちに気になったことを聞いておこう。一応小声で。
「ねえ、今のって何が起きてたの?」
「第二の法則の効果で詠唱時間がゼロなので、つまりは一瞬の間で魔力が許す限り無限に魔法を放てるんですよ。私の思考速度の関係上、実際に撃てるのは1秒に60発程度ですが。」
と言っているご主人様の手のひらの上には2mmほどの紫色の結晶が浮かんでいる。これが魔の掌握というスキルの効果なのだろう。
「じゃあ今の魔法はあんまり魔力消費しないの?」
「はい、一発一発が最大値の5%程なので…消耗していなければ10連続で撃てる程度の物ですね。」
手のひらの上の結晶はゆっくりと成長していき、最終的にはビー玉サイズとなった。
「じゃああれは?羽生やしたやつ。」
「あれは防御性能もあるので25%位持っていかれますね。安全の対価といった所でしょうか。」
遂に成長を止めた結晶からは、紫の煙が湧き出ている。紫の煙はご主人様の手のひらに吸い込まれて行き、それに反比例するように結晶本体からは色が抜けて行く。
「ふむ、1分間チャージしてチャージの限界、5%程の回復量で使用に3秒……」
「戦闘中に使うにはショボくない?」
完全に色の抜けた結晶は、ご主人様がポーチに放り込んでしまった。そして、またしても結晶の生成を開始する。
「まあ、自然回復は1時間で10%ですから、平常時に使うには便利なんじゃないですかね?それに、これから効率も上がるでしょうし……固定値回復っぽいですが。」
「MPポーションとか有ると良いね。」
「ええ、そうですね……」
それからご主人様は再びビー玉の生成と魔力の回復を始め、空の水晶が追加で4個出来上がった辺りで呼び出しの声が掛かる。
「おーい、審査の結果が出たぞー!最初のカウンターで話すからついてこい。」
「はーい。」
地味に居なくなっている門番のお兄さん。酒場に行ったか?
さて、初期ランクはいくつになるかな?
「早速だが、本題から言わせて貰う。審議の結果お前の初期ランクはEに決定した。」
「ふむ。高い……んですか?」
あんまり僕には関係無さそうだし退屈だなーって表情をしていると、ご主人様がポーチから空の水晶を取り出して渡してくれた。暫くは遊んでようかな。
「お前の出自は知らないが、ある程度は戦闘をする職業から何らかの理由で冒険者に転職した人間が大体このランクだ。もし全くの素人がここまで上げたなら、少なくともひよっことは呼ばれない程度だな。まあ、おら、これがギルドカードだ、失くすなよ。」
それならご主人様の経歴を考えると妥当なんだろうか?家でもある程度はドタバタしていたし。
「成る程。大体は理解しました。」
「で、これからどうするんだ?宿を探してるなら紹介するし、その魔石を売るなら買い取りもここで済ませるが……」
ん?これを買い取るの?
「そこの猫が見るからに疑問そうな表情をしているから説明するが、君が遊んでいるそれは十中八九空の魔石だろう。魔力が固まった物が魔石で、それから魔力を抜いた結果残る物質が空の魔石だ。これだけ質が良いと魔道具の素材として優秀だから…大方その猫が草むらから拾ってきたって所か?んならお手柄だな。鑑定はしていないが恐らく1000ニークにはなるだろう。」
なんか僕の手柄になってる。わあい
「それなら5つ位有るんですが、全部買い取ってくれますか?」
「ああ良いぞ、にしてもそんな拾ってくるなんて、もしかしてその猫は採取スキル持ちの希少種か?まあ、深く詮索する気は無いがな。」
なんか僕の手柄が増えてるし知らない種族になろうとしている。
「で、全部で幾らになるんです?」
「これからよろしくってのも込めて6000ニークで買い取ってやる。ちょうど品薄だったしな。」
「では、それで。宿も紹介して貰えます?」
「おう、分かった。」
と言うと、受付のおっさんはカウンターから大きな銀色のコインと小さな銀色のコイン、それに地図を取り出し説明をする。
そうして、時間が過ぎて行き──異世界初めての夜が来る。
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