翼と入場
タイマー「僕の視点だとご主人様の素性だとかはあんまり語られないね。あ、門番の説明は読み飛ばしていいよ。大体知ってるだろうし。」
あれから30分程が経過した。しかしここで問題が発生。
「疲れました……」
「えっ」
そう、ご主人のスタミナが尽きたのである。
元から身体能力が低い気はしてた。でも今までは乗った電車が奇跡的に空いてたり、目的地も偶然空いてたりしたので長時間立っていることが無かったからここまで酷いとは気が付かなかった。たまに忘れそうになるけど、ご主人様は未来を見ることが出来るので奇跡も偶然も幾らでも引き当てられるからね。
でもこの草原に来たのは別にタイミングを選んでのことじゃないから、奇跡も偶然も発生しない。
「乗り込む手段が貴重だったせいで、この世界に来るタイミングを選べなかったのが仇となりましたね……」
「大丈夫なの?速度落としたら向こうの門とか閉まりそうだけど。」
「大丈夫じゃないので魔法を使います……“白き翼よ、我が身を守り千里を行け”」
ご主人様が呪文を唱えると、ご主人様の背中から翼が生えてそのまま宙に運ばれていく。
「貴方はどうしますか?私の肩に乗ります?」
「いや、僕は走れるからいいかな。墜落しそうだし。」
それから飛ぶこと30分。無事に人里に到着したみたい。
……空を飛んできた事にちょっと回りがざわついてるけど。
ご主人様は街に入る検問待ちの人の列の最後尾に並んで、そっと翼を解除する。
「この世界の金銭の単位はニークって言うみたいなんですが、私達がこの街に入る時は手続き費用として2500ニークがかかるらしいですね。ただし、冒険者ギルドに登録している場合と、冒険者ギルドに街に入ってから登録するって場合は免除されるそうです。」
なるほど、その制度を利用する気なのか。……詳細に付いては多分未来を視て知ったんだろう。チュートリアルをスキップ出来て便利だね。
「でもご主人様が登録出来るのかな…?」
「16歳から登録出来るそうなので、大丈夫ですよ。」
「でも、ご主人様って15歳位に見えるし……」
「……」
「あっやめてほっぺた引っ張らないで……」
……と騒いでいると、列が捌け僕達の番が来る。
「あ、私の番ですね。」
「よう、使い魔を連れたお嬢ちゃん!この街は初めてかい?なら2500ニークの支払いが必要だぜ!」
門番が陽気に話し掛けて来た。随分と元気なおっさんだなあ。
「こんにちは、冒険者ギルドに登録したいのですが……」
「冒険者には16歳からでないと成れないぜ?嬢ちゃんにはちっと早いなぁ……」
ご主人様から殺意を感じる。まあ、そうなるとは思ってた……
「私、17歳なんですが?」
「はっはっは!冗談はよして……おう、分かった。すぐに手続きを終わらせてやるからちょっと待ってろ。」
どうやら門番はご主人様の殺意を感知し、とても賢明な判断を下したようだ。
「で、使い魔が暴れた時の賠償契約についてだが……まあ、大人しくしてるしわざわざ契約とかしなくても大丈夫だろ。どうせ出来て布を駄目にするくらいだろうし、魔術的な書類が勿体ねえわ。ガッハッハ!ほら、この用紙を持ってあそこにある冒険者ギルドに行ってくれ。俺が案内する。」
「はーい。」
真の強者を見抜けなかった門番さん、周りの警備兵に交代を要請すると冒険者ギルドに向かって歩き出した。無事(?)、街の中に入ることが出来たみたい。まずはギルド登録だね。僕は見てるだけだけど。
「ちっと先に冒険者ギルドのシステムについて説明しとくな。」
あ、その辺はご主人様が知ってるだろうからスキップで……無理?
「あー、まずはランク制度からだ。ギルドでどの仕事を受けられるかはランク制度で決定される。ランクは一番低いGからF、E、D、C、B、A、そしてその上のSとSSで構成される。依頼にもランクが設定されていて、受けられるのは自分のランクより一つ上の依頼までだ。ランクDからは魔物の暴走などの際、拒否権のない緊急依頼が入ることがある。正当な理由なくサボるとランク降格などの罰が下るから注意しろ。ランクBからは指名依頼が入ることがあり、こちらは断れるが、ギルドの面子のために出来るだけ受けて欲しいってギルマスのおっさんは言ってた。」
「ふむ。」
「次に依頼についてだ。依頼には常に出ている常時依頼、そこのボードに貼り出される通常依頼、先ほども説明した緊急依頼、貴族などが出す指名依頼の4種類がある。依頼の内容は大きく分けて採集、討伐、護衛、特殊の4種類に分類されるな。採集依頼は、指定された素材…薬草などを取ってくることが主な内容だ。討伐依頼は、指定された魔物を討伐すること、または討伐した魔物の素材を納品することが、依頼達成の条件となる。護衛依頼は依頼内容にもよるが、基本は依頼に書かれている場所まで依頼主を護衛するという内容だ。特殊依頼は…場合によって千差万別だな。これは子供の戦闘訓練から魔物の捕獲まであって、上の三つに分類されないものが入る。通常依頼は期限内に依頼を達成出来ないと罰金などが発生するから気を付けろ。」
「ふむ……」
ご主人様はやはり未来を視て既に知っているのだろう、見るからにもう知ってるわ……という表情をしている。
「最後は職業区分について。職業は攻撃を請け負う“アタッカー”、味方を守る“タンク”、魔法で攻撃する“マジシャン”、周囲警戒や撹乱を担当する“シーカー”、傷を癒す“ヒーラー”、味方を支援する“アシスタント”、従魔を従える“テイマー”の7種類に分かれている。まあ参考までに、だがな。」
「はえー……あ、話終わりました?」
「にゃーん」
なんて話を聞き流してると、いつの間にかギルドに到着したみたい。今現在ギルドは日が落ちる前に依頼を達成出来た人がその報告をしに来ているみたいだ。
ご主人様はカウンターが5つある中で唯一空いている一番右のカウンターへ向かう。ご主人がギルドの中でかなり注目を浴びているのは……
門番同伴だから、と言うことにしておこう。決して見た目の年齢だとか腕に抱えられている僕とかが関係する訳ではない。視線に対してご主人が殺気を出しかけた所でガタイの良いおっさんが担当しているカウンターに到着した。こんなところで殺意を出すわけにもいかないので、1つでも開いているカウンターがあったことに感謝しよう。
「こんにちは。もうこんばんはでしょうか?ここだけやけに空いて居ますね。ここが登録用カウンターだからとかですかね?」
「いや、他のカウンターを見れば分かると思うぜ?」
他のカウンターは皆、美人の受付嬢が担当しているようだ。
「なるほど……」
「なあ、この嬢ちゃんの登録をしたいんだが。」
関係ない話題を咎めるかのように門番が声を掛ける。さっきからギルドに併設されている酒場の方ばかりを見ているので、はやく終わらせようとしていることが良く分かる。
「ん?ギルド登録は16歳から……「失礼な。私は17歳ですよ?」
ご主人様は顔に“失礼な”という表情を浮かべ食い気味に抗議をしている。
「んー…、なら良いんだが。」
ガタイの良いおっさんは門番より早いタイミングで賢明な判断を下したようだ。
「さて。登録には試験がある。この試験の結果で登録出来るか、初期ランクがどうなるかが決まる。まあ、試験で落ちるやつは稀だがな。」
「ふむ。」
「試験、の前にお前はどの職業になるんだ?テイマーか?職業によって試験の内容が変わるが。」
「“マジシャン”でお願いします。」
「分かった。すぐに準備をするから待ってろ。」
「はーい。」
「にゃーん。」