迷子の子猫
となれば。まずは、荷物の中身を改めてみる……というか、改めて見る。
僕らの食料である鹿肉とそれを包む紙、竜の食料だったらしい魔石の他にもメモ用紙が入っていた。
メモ用紙に"右、左、前、ジャンプ、左、前、前、下"とだけ記されているが、これには覚えがある。
何か困った時、メモ用紙にある通りに従えば上手く行く。そうなる様にご主人様が予め記してくれているから。
『さて。』
取り敢えず、部屋の中を漁り直そう。今の僕は案外荷物を持てることが判明したから、人間用の道具でも多少役に立てられるはずだが……役に立ちそうな物はあまり見つからない。
『そりゃまあ、竜の生まれる部屋に武器なんか置いてけねえよな。』
危険物を置く様な部屋じゃないもんね。
『うーん、強行突破するしかないのかな?』
『まあ、やるしかないだろ。』
『とつげきするのー?』
「すまない。我のせいで、面倒を掛けるな……」
『助けない方が面倒な事になりそうだし。』
『んなこと気にすんな。妹の子なんだから面倒を見て当然よ。』
『おかーさんにまかせて!』
『あ、でも鳴き声までしっかり竜のフラフさんは外では静かにしてた方が良いかもね……』
目立つし。
「gg……」
ちょっと悲しそう。あんな口調で意外と話好きなのかも。まあ、こればっかりはね。
『じゃ、行くよ。付いてきて。』
『おうよ。』
『ごー!』
『起きるしか、ないか……』
眠そうなアイシャは、軽く息を吸って吐き出すと目に見えてシャキッとする。
全員の準備が整った所で、見切り発車で行動開始。
ドアを出た瞬間、建物内に警報が響く。しかし慌てず、目の前の通路を……右に走る。
やはりここは随分広い。向こうの世界の病院だとか研究所だとかを思いだす空間を駆け、曲がり角を……左に曲がる。
「な、なんだ!?」
「そこ、止まれ!」
二人の武装した人間が行く手を阻む。ここは……前、押し通るしかない。
「"壊速烈車"!」
二人の間へ、片方が構えた槍を巻き込む様に突進する。
「痛っ!腕が……」
「大丈夫か!?クソッ、お前……!」
無理矢理通り抜けた僕に注意を逸らしてしまった彼らは、続く三匹の猫と一匹の竜の体当たりを無防備に受け倒れ伏してしまう。
『まずは……』
『第一関門突破って所だな。』
ここから外まではどれくらいの距離があるのだろうか?とにかく、今は走り続けるしかないか。
『正面に両開きの扉、左右に通路……』
次の指示はジャンプ。ドアに突っ込めば良いかな。
『せいっ!』
覚悟を決めてドアに向けてジャンプ。した瞬間、ドアが開き中から出てきた白衣の人間が僕と衝突する。
「何の音……痛゛!?」
『中に入るよ!』
五匹で部屋の中に雪崩込む。白衣の人間は完全に伸びている。
どこのドアも体長が2メートル程の竜でも通れるサイズな辺り、最初から建物全体が竜に配慮された設計なのだろうか。
『何の部屋だ、ここ。』
『検査室?』
様々な計器や医療機器が部屋に並べられており、いよいよもって病院に来た気分になる。さて、この中に役に立ちそうな物は……
『これ魔力が籠もってる。多分きっと役立つ。』
辺りを見て回っていると、全く眠そうじゃないアイシャが何かを見つけて呼んでくれた。
『水晶……?』
『あったぜ、それの取扱資料。』
ふむふむ。開花の水晶……使用した相手に、スキルを与える魔法の力を持つ……
『今使った方が良さそう?』
『誰に使うんだ?』
この水晶は……そもそもどんなスキルが籠もっているんだろう?
資料の2枚目を読む。どうやら、身体のサイズを自在に変えるスキルらしい。
『これは……』
『都合が良い。フラフに与えるしかねえな。』
都合が良いと言うよりは、元々フラフに使う為に用意されてたのかもしれない。でっかい竜を連れ歩くのは使い方が分からないんだけど。
『フラフ、取り敢えずこれに触ってスキルよこせーって念じてみて。』
「分かった。」
フラフが鼻先で机の上にある球体に触れると、光と共に何かがフラフへ吸い込まれる。成功した……のかな?
『こいつは……』
『フラフちゃんすごーい!』
『光ってる。』
「これは……」
フラフの身体が光り、その直後に猫のように小さくなる。
『小さくなったな。』
『おんなじ大きさだ!』
『これなら、逃げ出しやすい……』
『それじゃ……』
そういえば、そもそもなんで逃げようとしてるんだっけ。彼奴等が猫を攫おうとした奴らと同じ所属だからだっけ?
ご主人様が手助けしてくれるって事はこの選択で合ってるんだろうけど……立ち止まって考えると、疑問点が山程有る気がしてくる。
『うーん、小さくなれるなら入ってきたダクトから逃げよう。』
とりあえず、逃げ延びてから考えるとして。全員で部屋の外へ……出た所に、来た道から10を超える数の人間が駆けて来る。
「居たぞ!捕まえろ!」
『駄目そうだぜ。』
『……全員、左へ!』
奴らは団体で、軽装備とはいえ部分鎧を着ている。となると全速力では走れないはず、十分逃げ切れる。
やがて前方にも二人の警備兵が見えてくるが、先程と同じ方法で強行突破。追ってくる連中が倒れた警備兵に躓き更に時間が稼げる。
「痛たたた……」
「クソッ!」
「邪魔だぞ!」
『まだ出口にゃ着かねえか……』
『このおうち、ひろすぎるよ!』
『正しい道順が分からない、仕方が無い。』
しかし……後ろの連中が焦っている事からも、もうすぐ外に出られるはず。
既にラストスパートだ、最後まで走り抜けよう。




