絶対に成功するマジック
さて、街の中から朝六時の鐘が響く頃。
「ねむーい……」
「おーきーてーくーだーさーいー、そろそろ足が痺れてきましたのでー。」
只今、ぐでっとしている狸をご主人様が揺すって起こそうとしている真っ最中。
「やだあ……抱っこしてって……」
幼稚園児と同レベルの駄々を捏ねるるみちゃん。本当に永き時を生きる化け狸の姿がこれなの?
「あー……どうします?これ。」
「そこの荷物みたいに浮かせて運んでけば良いんじゃない?」
「なるほど、それはアリですね。」
「え〜……分かった、歩くよー……で、今日は蜥蜴の尻尾を納品したら宿に戻るのかい?」
るみちゃんは急にシャキッとして今後の予定を尋ねて来たけど、確かにちょっと気になる。
「ついでに素材類や空の魔石を売っ払って回って……」
「ご主人様が向こうで回復に使った分?」
「ええ。40個程溜まったので。」
1個1000ニークで買い取ってもらえるらしいから……あれ?
「もしかして、依頼の報酬より魔石の買値の方が高い?」
「そうですね。」
「それ、依頼受ける意味あるの?」
多分釣りでもしながら空の魔石を量産した方が稼げるよね。
「……まあ、そっちの方が楽しいですし。」
「趣味でやる山狩りにしては盛大だったけどね。」
「地道に依頼を受けていけばランクも上がるでしょうし。Aランクとかにでもなれば流石に割の良い依頼だって山程有るでしょう。」
そういう物なのかな。
「で、その後は……個々で自由行動でもしてみます?」
「ボクは昨日の日中に一人で行動してたのだけれど。」
「ではタイマーちゃんだけソロで行動するという事で。」
るみちゃんはとっくにこの世界で単独行動していたから新鮮味がないだろうし、ご主人様とるみちゃんは一緒に行動するって事か。
「猫一匹で外に放たれても困らないかい?」
「大丈夫。単独行動には慣れてるから。」
「かつてはお互い、ずっと単独行動でしたからね。」
「まあ君喋れるからね。」
「あー、それは……」
実は、僕は初対面の人間との会話はあまり得意ではないし、話題に困るから極力避けようとしている。
「まあ、そういう事で。」
しかしそれを知らないるみちゃんは話を切り上げる。が、ご主人様の今回の会話にはなんか違和感がある。ご主人様の話の持って行き方が気になるというか、体よく追い払われた……或いは、引き離された気がするというか。
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「既に、朝の張り出される場所の前で待っている人が居ますね。」
「まだ30分近く前なのにね。」
しかし、我々の目的は張り出される依頼ではないのでスルーしてカウンターへ。
「お願いしまー……あら?」
ご主人様の挨拶が止まる。本日も出勤しているおっさん……ドラグさんだっけ?の頬が腫れているような。
「よっ。この怪我は気にしないでくれ、久々に手抜いてんのが見つかっちまっただけさ。だが、今度からあのネーチャンには俺の事は話さないで貰えると助かる。怒られるとこえーからな。」
「そこ、私本人に聞こえてますよ。」
隣のカウンターからお姉さんの声が聞こえてくる。どうやらおっさんが手続きにて手を抜いたせいで、隣から監視されているみたいだ……
「お巫山戯と手抜きは程々にしたほうが良いですよ……ではなく、依頼達成の報告に来ました。」
「あいよ。依頼書……と、ギルドカードを見せてくれ。」
お姉さんに睨まれ、今度はしっかりギルドカードの提出を求められている。がご主人様は仕舞ったギルドカードを取り出すのに手間取っている。
「えーっと、これはここで、あれは……」
その後、予め小さめの袋に詰め替えておいた蜥蜴の尻尾を提出し無事に依頼達成と相成った。しかし。
「あー……と、ありがとうございます、タイマーちゃん。」
「にゃっ。」
いつもは器用なご主人様が、珍しく手を滑らせて受け取った硬貨が1枚転がっていく。僕が追いかけて拾ったけど、これ1枚で10000ニークするんだから気を付けて欲しい。多分向こうだと一万円相当だし。
「えーっと……ついでに、買い取りもお願いしたいのですが。多めになるので……」
「あいよ、向こうで受け付ける。」
「はーい。」
ご主人様は、ご主人様がゆっくり運んでいるようで実際は殆ど魔法の力で浮いている袋を伴って、カウンターから少し離れた台車のようなものが置いてあり床板が張られていない区域に案内される。
「腕が疲れてきましたね……」
「ボクが変わろうか?」
「……あ、助かります。」
るみちゃんが代わりに持ったけど、その軽さに腕が疲れたと言うご主人様を見て首を傾げている。
「えーっと……これと、これと、これと……」
ご主人様は満を持して素材を一つづつ取り出し、やがて間違いなく袋の容量を超えている量の素材と空の魔石を袋から台車へ取り出す。
一挙手一投足に微妙に時間を掛けているせいか遂にに後ろでは依頼争奪戦が始まったが、逆にそちらが注意を引いてるせいかこちらの状況の異常さには誰も注目していない。
いくつもの台車が満たされるのを見たおっさん含むギルドの職員は呆然とするが、すぐに複数人が協力して裏に運んで行った。
ちなみに、ここのギルドでおっさんでもお姉さんでもない人が働いてるのは初めて見た。
「あー、ちっと査定の時間を貰って良いか?まあ大したもんがある訳じゃねーからすぐ終わると思うが何分量が量だし状態も入り混じってる。」
「はーい、どれくらい掛かります?」
「そうだな……30分で片を付ける。後ろが落ち着いた頃にまた呼ぶから向こうで飯でも食っててくれ。」
とのことなので。
ご主人様達は、喧騒を脇目にのんびりとスープを飲んでいる。
「買い取りの代金を受け取ったら直ぐに別れる形としましょうか。」
久々の単独行動。この街でも猫は見かけたから、少しは話が出来るといいな。
16話:絶対に成功するマジック
みたいにエピソードタイトルに番号を振るべきなんだろうか?




