馬と鹿が2、狸と猫は1
「複数人で依頼を受けるなら、こちらでパーティ結成処理を済ませておきますね。」
受付のお姉さんは手際良く処理を進めている。どうやら、パーティで依頼を受けるならランクは一番高い物が参照されるらしい。結局ご主人様が選んだのはEランクの依頼だからあんまり関係ないけど。
さて、肝心の依頼内容は……
[Eランク依頼|内容:黒曜蜥蜴の尻尾の納品|対象生息地:陰りの大森林(第8区画6層近辺)|数量:12個|報酬:20000ニーク|期日:4の月、1の節、10の日|備考:自切された尻尾も可とする]
ちょっと文量が長いけど、蜥蜴かあ。
「討伐対象の詳細資料は……まああれはただ硬質なだけで攻撃能力の低い蜥蜴ですので、その依頼書に書かれた姿だけ覚えておけば必要ないでしょう。黒い体の蜥蜴です、間違えない様にお願いします。」
「はーい。」
「その代わり、こちら、陰りの大森林とその8区6層に関する資料を確認しておく事をお勧めします。これも大した事は書いてなくて申し訳無いのですが……」
「ふむ、ふむ……」
資料を読む……フリをして僕に見せてくれるご主人様と、それを後ろから覗き込むるみちゃん。
陰りの大森林は広大な範囲を誇る円形の森林で、最中心部の"奈落"を除いて時計回りに、第1区画から第12区画に別れていて、内側から外側に行くにつれ1層から6層まで分類されている。第8区画6層……森の中心から見れば西南に位置する第8区画、その最も外部に近い6層が今回の目的地らしい。
第8区画には固有の危険生物は少なく、6層にまで出てくる存在は皆無と言って良いらしい。
その代わり、毒性を持つ植物が確認されている為森に自生している物の摂食には注意が必要、と書いてあった。
「みゃっ。」
「概ね分かりました。ありがとうございます。」
読み終わった事を伝える為にご主人様の方を向いて軽く鳴くと、ご主人様は資料を返却する。
つまりは道端に生えてる植物を口に入れなければ良いんだね。
「で、今から出るのかい?」
「はい。もたもたしていたら門が閉まってしまいます。」
「門は夜八時の鐘と共に閉じられ、朝六時の鐘まで開きませんのでお気を付けてくださいね。」
「はーい。」
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一行は夕暮れに染まる平原へ。
「おーい。音衣子ー?」
「どうかしましたー?」
「なんで君らだけ空飛んでも良いと思ったー?」
「……許してくださーい!」
「大声じゃないと会話が成立しないんだよー、降りてこいお馬鹿ー!」
まあ、正直こうなるとは思ってたけどさ。なんで友人を地上に置いて空飛んでるの?
「仕方が無いですねー……」
と、急降下するご主人様。しかし白い翼は展開したまま、地面すれすれを飛行している。
勿論、その鳥のような翼でそんな事をすれば……
「ちょっ、土埃を浴びる所だったじゃん……」
「あ、ごめんなさい。」
「わざとやってるよね君。ねえ。」
翼が土埃をたてた結果、るみちゃんは避ける為に宙返りを披露する事になる。なんでそんなアクロバティックな動きを。
「どうせなら、ボクも抱えて連れて行ってくれよ……」
「人なんて抱えたら私の腕が折れてしまいますから。」
「それは流石に嘘じゃない?」
人一人抱えて折れる腕なんて聞いたことが無い。
「君がいつも猫抱えてるせいで意外と筋力あるの知ってるからね?」
「流石に人間は無理ですって。」
「ならこれでどうだい……よっと!」
るみちゃんは、問答の末に再びの宙返り……を披露した直後、ぽふっと音を立ててるみちゃんの姿が小さな狸へと変貌する。
「狸に戻れるんですよね……2年程の付き合いですが、初めて見ました。」
そういえば人間の姿は変化で化けている姿だっけか。
「くぅ。」
「あら?」
「あれっ?」
「わふ、みゅーっ!」
成程、今まで元の姿を披露していなかった理由がよく分かった。喋れないんだねそれ……
「ふぅ!」
ご主人様の腕に飛び付き僕の隣へ潜り込み、いざ出発!と言わんばかりの威勢の良い鳴き声を上げる。
「ちょっ、重……引っ掻こうとしないでください……この世界だと致命傷になりかねないんですから。」
「ぷー!」
るみちゃんはご主人様へ責めるような目線を向ける。でも君も君で無理矢理乗り込んだよね……
「ぐぅ……」
ご主人様の不服そうな目で見つめ返されたるみちゃんは、ご主人様の鞄の中へ潜り込む。
どうにも、先が思いやられるね……
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完全に日が落ち、見覚えのある森へ入った僕達が地面へ降り立ってから10分程経った。情報では、この辺りに蜥蜴が居るらしいけど……
「居ませんね。」
「居ないね。」
不思議な事に。蜥蜴どころか、夜目が利く僕の目で見ても動く物の姿を一向に見かけない。不審に思ってご主人様の方を向くが……
「……なんででしょうかね?」
この感じは本当に分かってなさそう。それならと思いるみちゃんの入っていた鞄を覗くと……
「くー……くー……」
また寝てやがるこの狸。ご主人様が鞄を揺すって起こす。
「起きてください、到着してますよ。」
「くー……?」
寝ぼけた目をしている仔狸はここが何処かを理解していないご様子。軽く額に猫パンチをお見舞い。
「わうっ!?」
お、起きた。涙目で鞄から這い出る様子を見ていると。
「ぶー……ふっ!」
るみちゃんは宙返りと共に、ぽふりと音を立てて人間の姿へ化けた。
「叩かないでおくれ……」
人間に戻ったるみちゃんへ現状を説明すると。
「森に生物の気配がしない、ねえ……何かに滅ぼされたとかじゃなく?」
「真面目に考えてください。森の生き物をまるごと滅ぼせる程強い生物がこんな所に出る訳が無いでしょう。第一余程の戦闘能力が無ければ痕跡を残さずに殲滅なんて不可能です。」
「じゃあ全員逃げたとか?」
「何から逃げたって言うんですか。その場合、結局この近辺に森の命が逃げ出す程の強者が居ることに……」
ご主人様はるみちゃんを見つめている。
「なんだい?ボクの可愛さに惚れたのかい?」
猫パンチ。
「分かった、もうふざけないから許しておくれ……」
「ここに居るじゃないですか、レベル120のお馬鹿が。」
「あー……」
「どこにそんな化け物が……ボク?ボクは気配を変化の術で隠してるから、気取られない筈なんだけど……」
「あれ、違いましたか……ってさっきまでその変化の術解いてましたよね?」
「あっ、確かに。」
どうしようかこの大馬鹿狸。




