授業、つまりは惰眠を貪る時間
「さて……強いというか、場合に依ってはとんでもない事を起こせますよね、これ。」
「うーん、全部この子1人でいいんじゃないかな。勇者だろうと魔王だろうと焼き払えるよ、これ。」
「えっそんなに?」
「これを見て分からないんですか……」
「前から思ってたけど、やっぱりこの子アホの子だよね……」
「そんな……そんな言われるくらいなの?」
「分からないのなら一通り教えましょう、スキルは理解していなくても感覚で扱えるとはいえ、キチンとした理解の元扱った方が効率は上がりますからね。」
なんて、説明を始めてから五分後。
「Zzz……」
「寝やがりましたねこのタヌキ。」
「寝ちゃったね。」
「本当に知性が120あるんですか?」
「そもそもレベル120で知性120なんて平均値の1/10だし……」
「知性や知能なんて数値で定量化出来る物では無いと言えばそうなのですが。」
そう、この化け狸、勉強が苦手なのである。
「真っ当に扱えば。基本リソースを消耗しないアクティブスキルである"禍焔"、妖力を消費してCTを短縮できる"妖術の極致"、妖力を回復できる"焔の申し子"……この辺りを適当に放っているだけで立ち塞がる相手全員を無限の炎で焼き払えて、炎への耐性を持つ相手へも呪術や適当な妖術で戦える最強のアタッカーなんですが……」
「そういえば、授業中にもあの子は定期的に寝てたってこの前ご主人様言ってたよね。」
「ですが向こうでは勢力争いに明け暮れていましたから、元々十分戦えはするとは思いますし……」
「大丈夫なのかなあ」
とは言っても、現代の日本で何かと戦った経験が有るだけ良い方なんだろうけど。
「むにゃむにゃ……燃やせ、燃やせ……むにゃ……」
「……本当に大丈夫?炎以外も扱えそう?」
「大丈夫でしょう。本人もしばらく前に"この世には沢山の種類の妖術がある〜"とか語ってましたし。覚醒妖術ってくらいですから使える筈です。多分。」
「なんかすっごいダメそう。」
「ダメですかね。」
更に十分後。
「……起きないね。」
「起きませんね。」
更に更に十分後。
「むにゃ……山火事になっちゃった……とめないと……」
「ダメだよこれ。」
「こう、どうにか……火耐性貫通とかそんな感じのを修得してもらう方向性で……」
「もえろー、迎え火じゃー……」
「これもう本当は起きててわざとやってるでしょ」
「ふっ、ふふふ……っ……」
「ご主人様笑っちゃってるし。」
とまあ、るみちゃんは寝ちゃったけど。教える為に時間を割いたから暇になったと言う事で、その頃は色々忙しかった僕へるみちゃんとの出会いの前……るみちゃんを見つけた経緯について説明してくれる事に。
「最初に……これは、暇をつぶす為の場当たり的なトークですので、あまり内容への期待はしないでくださいね。」
「入念に練られたエピソードトークでもなんでもないですから。」
「それでは。あれは、高校……2年目の春でしたかね。あの頃から、微妙に予測が合わない事が増えていまして。」
「最近身の回りで変わったことと言えば、新年度の教師の異動、何人かの転校生が来た事と、私がとある妖怪と戦った事だったんですが。」
「仕留めた妖怪の呪いが残っているような感覚もありませんし。」
「となるとやっぱり、異動してきた教師か転校生の誰かが原因だと思ったんです。」
「そこで予測が合わなかった時の予測で見た光景を思い返してみると、どうにも怪しい人が居ないな、と。」
なるほどなるほど……うん?
「え、居なかったの?」
「今まで何の問題もなく予測出来ていた相手への予測が外れたり、逆にさっき外した相手への予測は成功したり……」
そう言ったご主人様は、何処か懐かしむように目を細める。
「それで、特定方法を変えてみることにしました。」
「未来を見てから現実の確認をするのではなく、現実で見た光景の僅か先の未来を細かく確認する、といった風に。」
「まあ、結局なんでこんなに面倒な事をしてたのか分からないくらいには一瞬で解決したんですが。」
「あの子、未来を見てる私の視界には映らないんですよね。」
「まるで、本来あの子は未来の世界には存在しないかのように。」
「……少々話が逸れましたね。どうにも懐かしい事でして。」
そう言ったご主人様の口調は、過去を懐かしむと言うより……何かを隠している様だった。
まあ、隠し事なんて誰もが持ってる物だし、僕に言えた事でも無いんだろうけど。
「という流れで、私の未来視は常にあの子が存在しない未来を予測するのです。」
「実は、これでも対抗策は無いことも無いのですが。」
「そもそも相性が悪いだけで能力としての格は私の方が上ですし。」
「ただ、どうにも疲れてしまうのと。あの子が関わった以上、大抵はあの子が解決すべき事柄なので。」
「結局、私はるみちゃんの未来を……るみちゃんの行く先を、今日この瞬間まで知らないままで居るのです。」
「以上、私音衣子がるみちゃんを見つけるまでのお話でした!」
パチリと手を合わせ、僕に目線を合わせるように。或いは僕の目線を遮るように、ご主人様は顔を近付けてくる。
その黒い虹彩がこっちを見ている。その輝きを眺めていると。
「Zzz……」
と、間の抜けた寝息が響く。結局、話が終わって一段落してもるみちゃんは起きなかった。
あの子がまだ起きないなら、次は二人の邂逅についての話も聞いてみようかな。
「あかくて……きれい……」
寝言が静かな部屋に響く。
「その赤は不完全燃焼の色だと思うよ……」
「あの子、炎の色を好きに変えられるらしいですよ。特技だそうです。」
「なにそれ。身体から金属でも発生させてるのかな?」
「ふふ、それだけは絶対に無いと思います。」
そこまで断固として否定しなくても良いんじゃない?




