おふだの貼られた壺
第4回ラジオ大賞参加作品です。四作目にして、初めてのオリジナルです。
ジャンルが分からないので、その他で投稿します。
その日、大学受験を控えた海翔は、久しぶりに近くの神社に来ていた。何かあるとこの神社に来てお参りするのが、小さい頃からの習慣だった。
手を合わせてから周囲を見回す。
何かがおかしい。何となく空気が淀んでいる気がする。
『こっちへ来い』
「……は?」
唐突に聞こえた声に、思わず聞き返す。
『こっちだ。こっちに来い』
また声が聞こえた。老人のような、しゃがれた声だ。近くに困っているお年寄りでもいるんだろうかと思い、海翔は足を進める。
やがて、海翔の目の前に現れたのは、おふだの貼られた壺だった。
「…………」
『来たな。頼みがある。そのふだを剥がしてくれ』
「…………」
『おい、聞こえてるか? 剥がせと言ってるんだ』
壺を凝視したまま動かない海翔に、必死なその声が語りかける。我に返った海翔は、手をポケットに突っ込んだ。
「ヤだよ」
『……は?』
「ヤだって言ったの。何でこんな見るからに怪しいもの、剥がさなきゃならないんだよ。じゃあな」
『………………はあっ!? お、おい待て、ここで剥がさないと、末代まで祟るぞ!? 人がせっかく下手に出てってオイ聞けよ! 最近の若いモンはこれだから……おいコラっ!』
何やら後方で喚く声がする。だが海翔は振り返ることなく、その場を後にしたのだった。
※ ※ ※
「おや、お参りか?」
帰ろうとした海翔に声を掛けてきたのは、何だか俗っぽい神主だった。前までいた神主と違う。
「以前の神主はどうしたんですか?」
「ん? 体調悪くして引退したぞ。こんな小さな神社、壊してしまえば良いものを、あの爺さんがうるさいから、代わりに来てやっとるんだ」
「……俺は小さい頃から来てるんで、できればあると嬉しいですけど」
言い返しつつ、とある可能性に気付いた。
「あの、この神社のご神体って、何ですか?」
「ん? 若いのにそんなのに興味があるのか? 昔暴れていた妖怪を封じ込めたものらしいぞ。神として奉ることで鎮めることができるとか何とか……。ま、信憑性のないおとぎ話だな」
ガッハッハッと笑う神主に、同意できれば良かったのだが。
「あの、神様へのお祈りみたいなの、してるんですよね?」
「ん? あのジジイはやれやれうるさく言っとったな」
「そうですか。……ちゃんとやった方が良いですよ。では失礼致します」
こうして海翔は神社を後にした。あの神主がいる間は、ここには近づかないようにしよう、と心に決めながら。
最初に書いたときは、1,300文字オーバー。それを何とか縮めました。難しかった……。