森を二人で【臆病少女は世界を暗躍す。】
学園入学前
「リアちゃん!! デートだね、デート!」
「違う。ソラトが勝手についてきた」
「それでも二人っきりならデートでいいでしょ?」
「違う」
リア・アルナスは幼馴染であるソラト・マネリと共に森の中に居る。
――リア・アルナスは、来年学園への入学を控えている。すでに《超越者》に至り、その成長は止まったままだ。
リアは依頼をこなすために危険度の高い森の中に居る。それについてきているのが、幼馴染であるソラトである。
基本的に人前に姿を現さないリアは、ソラトの前にも姿を現さないことも多い。だからこそソラトはリアが姿を現した時にはいつも嬉しそうな顔をしてリアに近づく。
今回はリアの気まぐれで、ソラトが森に同伴することを許された。
なんだかんだリアもソラトが幼馴染だからと心を許している面があるのだろう。
ソラトが嬉しそうな顔をしているのに対し、リアの表情はいつも通りの無表情で、ほとんど変わらない。
(依頼をこなしに来ただけだけど、ソラトが煩い……)
リアはそんなことを考えながらソラトをチラっと見る。
ソラトはリアから視線を向けられたことが嬉しいのか、嬉しそうに笑っている。
無表情なリアと対称的にソラトは笑顔である。そしてそんな中で魔物の鳴き声が聞こえてくる。黄色い毛皮の四つ足の魔物。その魔物を見てリアは、すぐに突撃した。
剣を振り、その命を散らす。
淡々と、ただ邪魔だったからとでもいう風にリアは魔物を討伐する。
「何度見ても、リアちゃんの戦い方は本当に鮮やかだよね。俺、リアちゃんの戦う姿見れるの好きなんだよなぁ」
「そう」
「うん」
リアの圧倒的な力を見ても、ソラトはにこにこしている。
ソラトにとってリアは特別な存在で、リアはいつもユニークスキルで隠れていることが多いからこそ、こうして戦う姿をすぐ近くで見られるだけで嬉しくてたまらない様子である。リアにはもちろん、その思考は理解できない。
リアは大体、討伐依頼ばかりをこなしている。
採取なども行うが、リアは強くなるためにも戦う依頼ばかり受けている。
淡々と、ただ強くなるためだけにリアは戦い続けている。
リアはソラトが勝手についてきているだけという認識なので、ソラトに配慮などせずにどんどん進んでいく。そのスピードは速い。
ソラトはその年ごろにしてはレベルも高く強いとはいえ、リアはけた違いである。リアについていくのはソラトも一苦労だ。そもそも二人がいるこの森は、それなりに脅威な魔物で溢れている場所である。普通なら、学園に入学するよりも前の子供が来るべき場所ではない。
そんな場所でずかずかと歩くリアと、それに必死についていくソラトがいる。
(リアちゃんはやっぱり凄いなぁ。それでいて本当に俺のことを全然気にしない。リアちゃんは本当に冷たくて、周りに関心がなくて……。うん、でもそういうリアちゃんだからこそ好きなんだろうけれど)
ソラトはリアに必死についていく。
その目の前でリアは現れた魔物を見て邪魔だなとでも思っているのか、簡単に殺していく。
鮮やかな戦い方に、ソラトはほれぼれした気持ちになる。
ソラトは途中でついていけなくなる。リアの姿は見えなくなっていく。
(おいていかれたくないな。今の図って、俺とリアちゃん、そのまんまなんだよな。リアちゃんはどんどん先に進んでいく。どんどんレベルをあげていく。……《超越者》に至って、もう既に高みにいて。俺はまだまだそれについていけない。このままずるずるついていけないって思っていたら、一生リアちゃんに追いつけなんてしない)
ソラトはリアが自分よりもずっと強いことを知っている。常にスキルを使い続け、常に強くあり続けようとする、その姿勢を知っている。
――追いつけない、とはソラトは思っていない。
あきらめてしまったらどうしようもないから。そうすれば一生、リアにおいつくことなんて出来ないから。
だからなんとかリアについていく。
リアは、ぎりぎりついてくるソラトを気にもしない。ただ自分が立ち止まりたいからというタイミングで立ち止まり、ちらりとソラトを見る。
「リアちゃん、待ってよ」
「待たない」
「リアちゃん、冷たい! でもそんなところも好き!」
ソラトにそんなことを言われてもリア一切顔色一つ変えなかった。
そしてそのままソラトから視線を外すと、またどんどん進んでいくのであった。
結果的にソラトはリアについていけなくて、最後の方にはリアのことはすっかり見失っていた。
しかし本人はこんな様でもデートだと言い張り、「楽しかった!」などと言っているのであった。
もちろん、リアはデートだとは全く思っていない。