今日も森の中での日々は穏やかに流れている。【森の賢者様シリーズ】
転移先は~の後の、セイナとフランツ
「セイナさん」
フランツが私、セイナの名を呼ぶ。
今、この家で暮らしているのは私とフランツだけだ。第二子であるセレビスも外の世界へのあこがれからか飛び出してしまったから。アレイシアのもとで人間というものを学んでから、その後、人と関わっていきたいなどといって人の世に関わりながら暮らしているのだ。
私の子供たちは私違って、人と関わる道を選んでいる。私が面倒だと思うことを子供たちはそうは思っていないみたいで、不思議な気持ちにはなる。
そもそも他人をどうでもいいと思っていた私が、夫を作り、子供まで作ったという事実が今でも変な気分だけど。そんなことを考えながらじっとフランツを見る。
「セイナさん、どうしたの?」
「あんたはよく、私に付き合って森での引きこもり生活に満足しているわね」
「突然だね」
「ふと思っただけよ。アキヒサも、アレイシアも、セレビスも……元々此処にいたハイエルフたちは全員飛び出したけど、フランツは私がこの森でだらだら過ごしているのによく付き合っているなって」
フランツは別に、私のように人づきあいが苦手というわけでもない。もちろん、過去に服従の魔術具を付けられ、強制的に戦わされた過去はあるから人に対してのトラウマはあるだろう。でも長い月日の中で、フランツはそういう過去は振り切れているように見える。
私の事を好きだと言って、私はほだされて、だらだらと一緒に森の中で過ごしている。
周りから見れば、本当にただ引きこもって過ごしているだけなので無駄だともいえるような日々。私はこの怠惰でのんびりと過ごせる日々を気に入っている。
「……セイナさんは、俺がいるの嫌になった?」
ふと、気になったことを聞いたらフランツが急に不安そうな顔をする。
大きくなっても、幾ら月日を一緒に過ごしても――ちょっと子供っぽいところがあるというか、こういうところがあるなと思った。
「嫌いになったわけではないわよ。ただ飽きないのかなとそれだけを思っていただけよ」
「本当? なら、良かった」
フランツはほっとした様子を見せる。
「全然飽きるわけがないよ。セイナさんがいるんだから。セイナさんと一緒に居られたら楽しいから。だからセイナさんが俺のことを捨てない限りは、ずっとここにいるよ」
私といるから問題がないと言ってフランツが笑った。
フランツはなんというか、結構素直にそういう言葉を口にする。
「……フランツのことを捨てる気はないわよ。フランツがここでの暮らしが嫌になって、出ていかない限り多分ずっと一緒ね」
照れくさいけれど、それだけを口にする。それは私にとっての本心だから。
私はずっとこの森でのんびりと暮らしていくだろうし、フランツもずっと私の傍に居るだろう。
なんだかんだ、私はそれを居心地が良い暮らしをずっと続けていくことだろう。
フランツは私の言葉に満面の笑みを浮かべる。嬉しそうな顔をして、私のことを見ている。本当にどうしてこんなに一緒にいても、全然飽きもしないで私を好きだなんていってくるのだろうか。なんて思ってしまう。
いや、私も恋人いない歴が生きた年数だったのにフランツと恋人になってからは本当にずっと一緒にいるわけだけど。
「だったら大丈夫。俺はセイナさんには飽きないから、ずっと一緒」
「……そうね。でもここに飽きたらどうするの?」
「その時はその時で、一緒に外に行こうよ。セイナさんが人と関わるのは嫌いなのは知っているけど、時々遊びに出かけるぐらいはしようよ」
「そうね」
人と関わるのは面倒だけど、まぁ、ちょっと出かけたいっていうのならば少しぐらいならばいいわ。
アレイシアやセレビスにも時々は会いに行こう。
ただ面倒なことを言ってくる人がいるならば、迷わず排除するけれども。
私の過ごしている日々は、変わっていないように見えて少しずつ変わっている。
家族が出来て孫が出来て、うん、この世界に落ちてきたばかりのことは想像が出来なかった日々だ。
それでもまぁ、なんだかんだ問題のない日々を過ごせているので問題はないだろう。
フランツはいつも私の隣で嬉しそうににこにこ笑っている。
この先もずっと、私のこの長い命が尽きるその時までフランツは私の隣で笑っているのだろう。
これから先、どんな未来が待っているかは分からないけれど、それでもきっとそれは変わらないことだろう。
私はそんなことを考えて、小さく笑ってしまうのだった。