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【Ex】#2 書き遺された矛盾が、首を絞める


 臨は、臨達は虚華の使っていた一室に遺されていた手紙を読んだ。

 各々が含みのある感情を浮かべていたが、臨一人だけは複雑な表情で読み耽っていた。


 (……どういう事だ?僕の知らない所で何が起きた?そもそも……)

 

 そもそも自分の知っている虚華は仲間を置いて、一人で何処かにフラッと行ってしまうような人間ではなかった筈だ。

 虚華という人間は弱くて、情けなくて、それでも自分に出来ることを精一杯頑張ることで、どうにかやってこれた。そんな人間だと思っていた。

 けれど、ディストピア以前に抱いていた印象は、先程の「背反」とのやり取りですっと消え去っていた。久方振りに会った彼女は、表情の見せ方から何まで全部が変わっていた。


 (虚が、躊躇いもなく人を殺していた。……ボクらも同じか。この歳で人を殺し過ぎた)


 生きる為に臨や雪奈は自分達に立ちはだかる敵を何人も殺してきた。それもそうだ、あちら側も虚華を我が物にするべく、近くに居た臨達を殺そうとしてきたのだから。

 狂気に塗れたあの世界(ディストピア)で、虚華は銃一つまともに扱えず、いつも琴理や依音の後ろに隠れながら逃げ回っていた。

 いつも逃げ回っていた筈の少女が、一連の事件の犯人が弱っていたとは言え、当たり前のように尋問をした上に、雪奈が言い淀むような魔術を発動させ、挙げ句には何の躊躇いもなく殺した。

 そんな虚華の急変とも言える変貌に、臨は心の何処かで疑惑を抱いていた。

 

 (一体、ボクが居なかった時に虚に何があった?今回、虚は銃すら使ってなかった)


 虚華と言えば、トレードマークとして琴理から貰った三丁の銃があった。その銃を今回の騒動で臨は一度も見ていなかった。状況が状況だった為に、臨は意識していなかったが、今考えると違和感の塊だ。

 ディストピアの頃も、フィーアに来てからも、虚華が何かしらの魔術の練習をしていたのを、臨は陰ながら見守っていた。

 だが、才能がないのか、虚華のやる気が無いのか、中々習得出来ずに居た虚華は歯痒い思いをしていた筈だ。現に、ディストピアに居た頃は途中で投げ出してしまったのだから。

 「男子三日会わざれば刮目して見よ」という言葉もあるように、暫くの間顔を見ていなかったのは、事実だが、一体どういう風に過ごせば、あそこまでの変化が起きるのだろう?

 臨は雪奈達を一瞥する。このトライブの主が失踪したというのに、「エラー」は仕方ないといった反応を、雪奈はいつも通りの無表情さで、手紙をただただじっと眺めていた。

 

 (まるで、ボクの知っている虚達はとっくに死んでしまっているみたいな気分だ)

 

 今すぐにでも虚華を探し出したい所だが、雪奈が何も言わずに此処に居るということは、探知魔術で居場所を探ることが出来なかったのだろう。


 (でも知っておかないと。この手紙の意味を。例え隠そうともボクが暴く)


 決意を固めた臨は、主不在の「喪失」会議を開始すると、二人に伝えた。




 _____________________


 臨がいざ、会議を始めようと思うと、なんだかんだムードメーカーだった虚華の存在が如何に大切だったか、切実に分からされた。 

 このメンツだと饒舌に話す人も、司会進行が得意な人も居ないのだ。普段ならよく話す「エラー」もこの場だけは何故か寡黙を貫いてしまっている。

 堰を切ったのは臨だ。だから自分から話さねばならないと、思い臨は口を開く。


 「今回は虚不在だが、この手紙の事を知りたいと思って「会議」という形を取らせて貰った。普段からこの会議は虚に任せきりだったが、参謀役のボクが今回は取り仕切りたいと思うが、構わないだろうか?」

 「ご自由に。あたしは、口出すつもりない」

 「私も構いませんよ。情報共有を怠るトライブはすぐに崩壊してしまうでしょうし」


 慣れない硬めの言葉を使った臨だったが、思った以上に反対されずに済んだことにほっと胸を撫で下ろす。

 ここからが本題だ。どうやって彼女らから知りたい情報を引き出すのか。

 臨の嘘偽りを言葉で判断することの出来る能力を知られている相手から、情報を引き出すのは苦手な分野だ。虚華はそれを踏まえた上で情報を垂れ流してくれていたが、彼女らはそうも行かないだろう。


 (やれるだけやってやろう。ボクも足踏みしている場合じゃない)

 

 臨はテーブルの上に、虚華からの手紙を音を立てて置き、もはや定位置になった椅子に座る。

 二人は何だ何だと視線を手紙へと移すが、どちらもバツの悪そうな顔をしている様に見える。


 「ボクの出す議題は一つ。何故ホロウがこんな手紙を置いて何処かに行ったのか、だ」

 「それが分かれば、苦労しない」


 雪奈がため息まじりにそう言うと、それに合わせて「エラー」も頷く。

 どうやら二人共、虚華が何処に行ったのか見当もついていないようだ。

 ふむ、と臨は少し考える素振りを見せると、すぐに次の言葉を用意する。もじもじと指をこねながら、普段より口数の少ない「エラー」の方が情報を得やすい、などと脳内で会議の進め方の考えながら。

 

 「なら、手紙の内容に覚えはある?ボクが居ない間のことがずらっと書き記されてるんだけど、簡単に説明してくれない?」

 「説明したいのは山々なんですが……、私が居ない部分もあるので……、居た部分の所なら」

 「あたしも、同じ。全部は居ない」 


 どちらも嘘はついていないけれど、雪奈の言葉の濁し方が妙に上手いと臨は感じた。

 この手紙は「喪失」の自分達に、「喪失」の主が渡した物だ。だから、「喪失」に関係のない物が混ざっている筈がない。

 この手紙の中に臨自身が知らない物で、この二人も知らないものが混ざっている事はおかしい。


 (一先ず話を聞こう。この短い間でどうやら相当濃い生活を送ってきたようだ)


 臨は自分主体になって、雪奈と「エラー」の二人に大まかな事情を話して貰った。

 彼女らの話に嘘偽りはなかったが、どうにも「エラー」の挙動が怪しい。濁した部分に何か疚しい部分でもあるのだろうか、と臨は考えるが、そんな物はおくびにも出さない。

 一頻り話し終えると、「エラー」は珈琲を淹れてきますね、と言って一時退席した。

 この場には雪奈と臨だけ。二人で居る時に会話が生まれることはない。そう思っていた。


 「ねぇ」

 「ん?珍しいな、お前から声を掛けてくるなんて」

 「あたしだって、話したいって、思うとき位ある」


 若干ムスッとしているような雰囲気を醸し出している雪奈はこちらから目線を逸らす。

 臨は小さく息を吐いて、雪奈の横顔を横目で見るが、朧気に彼女の顔に感情が宿っている気がした。けれど、瞳の色は濁った雪のままで変化はない。気のせいだろう。

 昔何処かで読んだようなヒロインのような事を言った雪奈に、若干面白みを感じた臨は、薄い笑顔を雪奈に向ける。

 

 「そっか、それで?」

 「ん。実は……」


 雪奈はこの手紙に書かれていなかった事を臨に話した。その内容は驚くべき物だった。

 この手紙を読んだ時以上の衝撃を受けた臨は、一旦彼女の話を遮った。


 「ま、待ってくれ。じゃああれもこれも、全部真実だったのか!?」

 「ん。自分の目を疑うの?」


 臨は、なんてことだ……と言わんばかりにこめかみ辺りを手で抑える。今、雪奈から受けた報告は確かに相当なものだ。知る人が知れば、危険な情報になることが間違いない。

 だけど、その情報と、虚華が此処から居なくなった理由が結びつかない。

 いや、もしかして彼女なら、あんな鈍感そうな虚華が、その事実を知っていたのなら。

 臨は、雪奈に意を決して尋ねる。

 

 「その事を……、虚には……」

 「(無言で首を振る)けど、多分知られてると思う。致命的なミスを犯したから」

 

 臨も居たけど、分からない?と言葉を付け足されたが、あの異常な空間で人の一挙手一投足を把握することなんて出来なかった。出来ても「背反」と虚華のやり取りぐらいで、雪奈にまで目を向けている暇なんてなかったのだ。


 「「背反」の館を襲った魔術、あたしはあの時「闇属性の超級以上のもの」って言ったはず」

 「……あぁ、言ってたな。違うのか?素人目に見て、そうにしか見えなかったんだが」


 雪奈は首を横に振る。もうこの時点で大体の事の顛末は分かったが、話しだした手前、最期まで聞こうと、臨は雪奈に話の続きを言うように促す。


 「あれは、聖職者が悪しき者……此処で言う非人といった存在を、広範囲で抹消する為に用いられる聖属性上級魔術「罪よ、罰し給へウィッシュ・フォー・シン」決してもって闇属性でも、ましてや呪属性のものでもないの」

 「……そうか、「全魔」のクリムが間違える筈がない。だからボクが嘘をついた可能性もあるって事か……。とんだ巻き込み事故じゃないか……」


 次々襲いかかる情報に、臨の頭は頭痛という手段で考えを放棄しろと訴えかける。

 虚華が失踪した理由は大体把握した。しかし、居場所が完全に発見不可能(ロスト)となっている上に、探さないでくれとまで言われてしまっている。


 (リーダーが死んでしまえば、ボクらの存在価値など無いと思っていたが)


 どうしたものかと、臨は窓の外をぼんやりと眺める。

 青い空にはうっすらと雲が浮かんでおり、そろそろ日没の時間が迫っているようだった。


 「戻りました〜。あれ?会議は?」


 宿のキッチンを借りて珈琲を淹れてきた「エラー」は各自の元に珈琲のカップを並べ、臨にそう尋ねた。

 臨は雪奈と顔を見合わせると、雪奈はコクンと頷く。そして臨は口を開いた。


 「もう終わったよ。「エラー」が居た部分の話は大まかに聞けたし、クリムからの情報も含めて知りたかっただけだから。それともナニか?ボクの監禁されていた時の話、もしかして「エラー」は聞きたいのか?」


 少しだけ意地悪な言い方をする臨の顔を見た「エラー」は心底嫌そうな顔を見せる。


 「いいえ、結構です。それで?結局これからどうするんです?リーダーは「私を探すな、喪失を継続しろ」なんて事言ってますけど」

 「あんなお転婆お嬢様を一人にして、大丈夫な訳無いだろ?言うことなんて聞いてやらないさ」




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