【Ex】#1 虚華が遺した手紙
拝啓 ブルーム、クリム、「エラー」へ
この手紙をキミ達が読んでいるということは、恐らくだけど私の予想が的中したからだと思う。
でも絶対じゃないよ?もしかしたら、これを隠してた私の部屋の引き出しをクリムが探し出した可能性もあるし、「エラー」が見つけた可能性だってあるかもしれないしね。
でも、今回は見つからずに、この手紙を遺して私が居なくなった仮定で話を進めるね。
私は、私達はもう少しでここに来て一年が経つよね。初めてこっちに来た時は半信半疑であちこちを探し回ったのを今でもよく覚えてる。よく分からないログハウスから出た時に薫った林檎や金木犀の香りが今でも鮮明に思い出せるの凄くない?凄くないか。そっか……。
此処が私達の知る場所じゃないって分かった時、不安だったけど、それ以上に嬉しかったんだ。
だって、これ以上、私みたいなお荷物を守りながら精神をすり減らしていくような生活をもうこれ以上二人にさせずに済むんだって思ったんだもん。
銃なんて物を持っていたのに、人っ子一人殺せなかった私はあの世界で死んでおくべきだった。
そう思ってるなんて、口を滑らせたら、きっとクリムにずっと抱き着かれるんじゃないかな?
白雪の森を一人で散策してた時に、透に出会った時は本当に驚いたんだよね。
だって、少し前に死んじゃってたんだよ?そんな彼が笑顔でこっちに向かって手を振ってきた時は、私、もしかして死んだんじゃない?って思っちゃった。なんとか“嘘”で撃退できたけど、今思えば、あの時の透はまだ可愛い方だったんだよね。失敗しちゃったなぁ。反省しなきゃ。
ジアを初めて見た時、ブルームが凄い饒舌になった時は笑ったなぁ。クリムが真顔だったのに嫌悪感丸出しだったのをガン無視で私に語るんだもん。私は面白いなぁって思ったよ?好きなものなんて殆ど知らなかったのに、一つずつ知ることが出来たんだから、嬉しいに決まってるじゃん。
それから私達は生きるために、探索者という存在を知った。名前を偽っても、存在を偽装しても、傭兵のような彼らは人の役に立ち、お金を得て、生計を立てていた。はっきり言って憧れたんだ、探索者という存在に。だから、提案したんだけど、二人共付いて来てくれた。此処までずっと我儘ばかりだったのに、危険な仕事を続けさせるのは申し訳ないって、今もずっと思ってたんだ。
それからは色んな人と出会ったよね。今までは敵か味方か、しか考えてこれなかったけど、ジアでは本当に色んな意味で様々な人が居た。頭のおかしい人も沢山居たし、お酒大好きなおじさん達も沢山居た。
楓やしのは元気してるのかなぁ。大怪我してたしのを楓が精一杯看病してるらしいんだけど、挨拶ぐらいはしたかったなぁ。
ディルクさんは此処最近見掛けないけど、別の区域で大仕事してるらしいじゃない?もしかしたら私が旅立った先に居たりするのかな?もしそうだったら一緒に行動してみたいな。
セエレさんやリオンさんは癖が凄かったけど、あれでもしっかり探索者である私達のことをしっかり考えてる結果、あぁなったらしいんだけど、本当なのかなぁ?どう見ても素だよね?違ったら私が悪いということで、赦して貰おう……。
他にも色んな人と出会って、色んな話をした。運び屋のイドルさんも知らない話をたくさん聞かせてくれて、その全てが私の中の何かを変えてような気がしてるんだ。その全部がどれも良い思い出だなぁ。
そんなこんなで探索者を続けて、ジアで生活できるようになってきた頃だったよね、「エラー」と出会ったのは。魔術刻印というものを身体に刻もうとして刻みに行ったお店でばったり会うとは思わなかった。雪奈や臨が存在したんだから、そりゃあ私だって居る。そんな事は分かってたんだけど、それでもいざ遭遇した時は、本当に驚いたんだから。
殺意剥き出して、牙を剥いている「エラー」が今でも記憶から呼び起こせるよ。多分、絵かきの才能があったら肖像画にできるかも知んない。ごめんやっぱ嘘。無理だよね、展開式槍斧で真っ二つにされそうだもん。
それから「喪失」に「エラー」が参加して、四人で着々と成果を上げていった。
勿論学園での生活がある「エラー」とあまり差が開かないように「エラー」には相当無理な生活をさせてしまっていたことは申し訳なく思ってるけど、今思えば、どうしてそこまで頑張ってくれたんだろう?
もしかして、ブルーム狙い?ブルームと、「エラー」が結ばれる未来かぁ。
あんまり想像できないや。私もいつか結婚できたりするのかなぁ?分からないよね、未来のことなんて。
そうやって楽しい生活を送ってた頃だっけ、透がしののヰデルヴァイスを奪ったのは。ブルームがニュービーと仕事をしてたはずだったのに、急に失踪して心配したんだよ?結局今の今まで何処で何してたのか、会ったらお説教しなきゃ。死んでたら許さないからね?
心配して探し回ったのに、今現在も消息は不明。出会った時もあったけど、随分と忙しそうで、精力的だった。私と一緒に居た時よりも、ずっと元気そうだった。ちょっと悲しいな。
っと、本題は透だよね。まさか人間の体にヰデルヴァイスを突き刺すことで非人という存在になって、あんな異形の力を手に入れることが出来るなんて、知らなかった。腐敗の力は想像以上だったよね。皆で力を合わせなきゃきっと撃退すら出来ずに、全滅してたかも知れない。
愛しい人って言うなら、愛しい人の親しい人を傷つけたら怒るって分からないのかな?
思い出しながらこの手紙を書いてるだけでも、少しだけ怒りがこみ上げてきちゃった。
そんな透を撃退したら、玄緋一族?の疚罪と綿罪とかいう訛りの強い喋りをかましてくる二人が、忠告してきたんだっけ。ジアが危ないぞー、戻らなくて良いのかー?って。
今思えば自作自演もいいトコだよね?犯人は【蝗害】だってのに、白々しすぎ。絶対友達になれない自信があるもん。
戻ってみたら大変だった。クリムは死にかけで、街は焼き尽くされてた。んにゃ、厳密には特定の建築物だけだったんだっけ。どちらにせよ、そんな状況で私はクリムを失いそうだって実感に襲われた。
意味の分からない集団──【蝗害】には不死性って言うチートがあった。何なんだろうねあれ。なんとか消すことが出来たら倒せたけど、確かに彼らならジアを滅ぼそうと思えば、滅ぼせたんじゃないかなって思うよ。
クリムの怪我が思ったよりも深刻だったから、一次避難する場所を探していた所、知り合いが簡易転移装置を貸してくれたから通ってみたら其処は、見知らぬ大地だった。何処だろう?って歩こうとした時だった、目の前にはかつての旧友がこっちを睨みつけてたんだよね。びっくりしたよ。
後から話を聞いたら、そこは蒼の区域のブラゥ?って所らしいんだけど、白以外を知らない私にとっては新鮮だったなぁ。
それからはこちらの命を狙うべく、2on2を挑まれたり、色んな仕掛けを浴びせられたけど、どうやら彼女らはこの世界に生きていた雪奈を蘇らせたかったらしい。
「この世界に住まわない並行世界の同一存在を殺し、自史世界で蘇生することで、自史世界での人格が肉体に宿る」だっけ?今考えても正気の沙汰じゃないよね。そんな情報を垂れ流した「背反」という男から話を聞くべく、私達は今行動してる。そういうことで間違いないよね?
前置きはこれぐらいにしないと、いい加減なんでこんな手紙書いて行方眩ませた?ってなっちゃうか。私ならなってるから、きっと皆もなってる気がする。
本来ならこの手紙は燃やす気だったんだ。どうせ杞憂だったんだって、自分の勘違いだったんだって。
でもこの手紙は現にキミ達が見てしまっている。これはどういうことだろう?
随分と長々と思い出話をしたんだけど、何か引っ掛かる所があるんじゃないかな。あると思うんだ。この一年で私が体験したことのおおよそを書いたんだけど、きっと皆、あれ?ってなってないかな?
私はきっと「背反」とのやり取りで死ななかった限りは、最期の1ピースが埋まったんだと思う。知りたくなった現実の、目を背けたかった仮説が現実になりそうだったんだ。
最初は、んー?程度の物だった。けれど時が経つに連れて違和感も増していったの。
だから私は確認するために、確かめるために、キミ達を信じるために。
暫くの間、一人で行動することにした。これだけは信じて。
私はキミ達がとっても大切なの。失いたくないの。
だからこそ、そんな事をしたキミが許せないの。
探知魔術なんて物じゃ、きっと私を見つけることは出来ないとは思うけれど
出来れば、探さないで欲しいな。全てが終われば、私は帰ってくるから。
私が作った居場所が、いつまでも残っていればいいな。
貴方達のこれからに幸があらんことを。
ホロウ・ブランシュ
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