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【Ⅶ】#19-Fin 虚妄に逃げず、己の手で真実を

 

 人間という生物は、無知であればある程幸せである。

 結代虚華という存在は、短い人生の中でそう考えるようになった。

 ディストピアで追手から逃げている時も、仲間を殺され、無様に逃げた自分に嫌悪していた時も。

 今、こうして諸悪の根源とも呼べる「背反」を捕縛し、尋問に掛けようとしている今この時も。


 (きっと、彼から得られる情報は、私の中の何かを変える)


 虚華は頭の中でずっとそんな事を考えていた。何故だか分からないが、そんな気がしてならない。

 虚華は人間は無知な程、幸せと考えているが、それとは別に、人が生きていく上で幸福を得るためには情報強者──情強である必要があるとも思っている。

 矛盾とも取れるこの二つは、いつしか相反する事がなくなる。そうなれば良いなと虚華は考える。


 (今は答えに辿り着かなくていい。いつか、辿り着けばいい)


 盤面は整った。後は彼から情報を引き出すだけだ。聞きたいことは山程ある。

 最初は怒りや正義感からこの屋敷まで来ていた。けれど今はもう違う。

 目の前にジアを焼き討ちにした主犯が居るのに、怒りは湧き上がらない。ジアの人々の為に、友人の為に、と綺麗事を吐くつもりも無い。


 (私が知りたいから、罪を知り、罪を重ねる為に)


 「……クシュン!あー……寒い。少し冷え過ぎたかな」

 

 あまりに屋敷の内部に不快感を抱いていた虚華は一度、来賓室のベランダへ出て、空を眺めていたが、気づかない間に思った以上に長居してしまったようだ。

 すっかり身体は冷え切ってしまい、あんなに居たくなかった来賓室へと身体が勝手に戻ろうとしている。

 中には、両腕両足を再生され、そのまま拘束している「背反」とそれを監視している雪奈と臨が、言葉も発さずにただ、同じ空間を共有している。

 今でこそ、大人しくしているが、彼とまともに戦えば勝てる可能性は限りなく低いとまで言われた手練だ。

 そんな彼が()()()()()()()()()()()()()、いとも簡単に対象の細胞を自壊させる闇属性魔術を使用することが出来た。

 

 (一体誰が、彼を此処まで弱らせたんだろう。話が良すぎるんだよね)


 虚華はこの状況そのものが、誰かに仕組まれているのでは?と考えたが、この状況下で一番得をするのは「喪失」である現状、犯人である可能性が高いのは雪奈、もしくは臨だ。

 じゃあ、彼らがこの状況を作り出したのか?何故?解らないことが多すぎる。

 今までフィーアの中で、ホロウ・ブランシュというパズルのピースをコツコツ埋めてきた筈なのに、最後の1ピースが、致命的なそれが足りてないのだ。


 (二人を疑ってもしょうがない、だって怪しむには証拠が足りなさ過ぎる)

 

 「もうこんなに日が落ちてる。戻って「背反」に話を聞かなきゃ……ん?」

 

 中で虚華の帰りを待っている二人の元へと、そろそろ戻ろうとしていた時に、虚華はふと気づく。

 

 「……何やってんですか。そんな所で」

 「ケヒ、バレた?流石はホロウちゃんだね、ケヒヒヒヒ……」

 

 特徴的な笑い声が、何もなかった場所から聞こえてきたと思えば、いつの間にかそこには七つの罪源の一柱──「虚飾」のアラディアが虚華の目の前に立っていた。

 虚華はアラディアの引き笑いを聞きながら、左手で顔を覆う。


 「所々(なずな)さん混じってますし、お世辞は良いですから……。大方、私が戻ろうとしたから見つけて貰おうとしたんでしょう?いくら鈍感な私でも、目の前に立たれちゃ気づきますよ」

 「ケヒ……、そかそか。……というか、様子見に来たけど、これどういう状況……?」


 アラディアは臨達に姿が見られないように中をそっと覗くと、うわぁと若干引き気味になりながら虚華に尋ねる。

 虚華は虚華で、アラディアの姿を隠す為に、外の方角を見る。どうせ中の光景は目に毒だ。

 

 「さぁ……私が知りたい位ですよ。まぁ、クリムが知らないような魔術らしいですし?恐らくは強力過ぎる禁術や準禁術が発動した結果がこの惨状だと思いますけど」

 「……ケヒ?クリムって、確か「全魔」のクリムだっけ?あの子が?この魔術を知らない?……ふーむ」


 アラディアはうーむ?と首を傾げながらふわふわと宙を浮き上がり、虚華の視界に重なるように、位置を調整している。

 現在のアラディアは「虚飾」の効果で自己の視界を犠牲にする代わりに、この場に居る人間に存在を感知されなくなっている状態だ。

 だから時折(無理矢理)虚華の視界を勝手に借りて、中の状況を確認しているが、アラディアは到底虚華が聴き逃がす事が出来ないことをボソリと言った。

 虚華は若干食い気味に、それでいて中から聞こえないぐらいの声量で、アラディアに問う。

 

 「この魔術がなんなのか、アラディアさんは知っているのですか?」

 「キヒヒ、別段稀有な魔術でも何でも無いし。多分、此処に人間沢山居たでしょ?これね、白の区域の反非人勢力アンチ・ネガ・ヒューマン……まぁ主に人間至上主義者って呼ばれている奴らがよく非人達の住処ごと消し去る時に使う魔術の一つだね。精々()()レベルだから、ある程度の奴なら使えると思うけど」

 「人間……至上主義者ですか……?そんな人達が白の区域に……?」


 虚華が少なからず動揺している中、アラディアは「背反」の館の方角を向き、言葉を続ける。


 「ケヒ……ま、何処の区域にも一定数は居るから。……にしても、随分派手にやったなぁ。この魔術、()属性にカテゴリされている割に、良いイメージ無いんだよね。勝手に他人を悪と決めつけて惨殺する魔術だから」

 「え……この魔術って聖属性なんですか?てっきり闇属性だと」


 虚華が驚いた顔でそう言うと、アラディアの口が若干への字に曲がる。

 目を隠している聖骸布の様な物のせいで、表情が見えにくいが、口だけでもアラディアが不機嫌になっているだろうことは容易に想像がついた。

 

 「もう、ホロウ。前に教えたはずだよ。聖は他者だけを傷付ける魔術。呪は自他に特殊な状態を付与する魔術。闇は己を代償に他者を傷付ける物。でも確かに初見は闇属性、もしくは呪属性だと思うよね。知識がなかったら分からないと思う」

 「……アラディアさんはこの魔術を誰が使ったか、分かりませんか?」


 虚華の握り締めた拳は震えている。アラディアの聖骸布で覆われた瞳に、虚華がどう写ったのかは分からないが、アラディアはいつもの引き笑いをしつつも、額に手を当て、キョロキョロと辺りを探す仕草をしている。

 見えていない筈なのに、何してるんだろうと虚華が思っていると、アラディアは口を開く。


 「キヒヒ、流石に術者特定は無理かな。時間が経ってるし。少なくとも一日は経ってる」

 「え……、一日?……なるほど。そうですか」

 「ケヒ、おっと。話し込み過ぎたか、じゃあまた後でね……キヒヒ」


 アラディアがすっと姿を突如現れた花弁と共に消し去ると、部屋の中から雪奈が声を掛けてきた。

 どうやら、アラディアの言葉通り、話し込み過ぎたようだった。

 

 「……?ホロウ?誰と、話してたの?」

 「んーん。ちょっと憂鬱なだけ。気にしないで」

 「ん。ホロウ、後で聞きたいことがある」

 「なに?今じゃ、駄目なの?」


 虚華は雪奈の顔を見て、そう聞くと雪奈は「駄目」とだけ言い残し、先に屋敷の中へと戻る。

 

 「……今じゃ駄目なんだ、()()()()

 

 虚華は両頬をペチン!と叩くと気合を入れ直す。「背反」から得られる情報は大切な物だ。

 絞れるだけ絞る以外に択はない。絞った経験なんて一切無いけれど。

 すっかり冷えた身体は、雪奈の密着ですぐに温まってしまう事を今の虚華はまだ知らない。

 


 

 _________________


 「じゃあ、今から質問するから正直に答えてね?嘘ついちゃ駄目だよ」

 「あ、あぁ。だが、全部話したらこの魔術を解除して、本当に解放してくれるんだね?」


 虚華は「背反」の言葉に首を縦に振る。すっかり怯えきった「背反」は牙を抜かれた獣だ。

 虚華が何をしてでもなく、「背反」は常に何かに対して怯えている。

 仲間を全て気色の悪い調度品へと変えられた事には同情するが、自分がやっていないと言っているのに、理解してくれないことには困ったものだ。

 

 (命乞いか……、思えば、こっちに来てからはしてもないし、見てもなかったや)

 

 虚華は来賓室にあった椅子に腰掛け、テーブルの上で両手を組み、顎を乗せる。

 部屋の主である「背反」はすっかり反抗の意思すら失われており、両腕両足を拘束されたまま、椅子に座らせている。口には自決防止用の魔導具を放り込んでいる。


 (舌を噛まれて死なれても困る。それにその魔導具は魔力を封じる効果もある)


 拷問用に使うつもりはなかったが、自分の道具袋に入れていた拘束具セットに初めて感謝した虚華は、「背反」を一瞥し、尋問を開始する。

 

 「じゃあ、早速だけど一つ目。「この屋敷の惨状は何?誰が引き起こしたのか検討は付いているの?こんな凄惨な事が可能に出来る魔術なんて存在するの?」」

 「……一つと言いながら同時に三つも質問するなんて、もしかして尋問に慣れてない?」


 「背反」が戸惑いの表情を見せ、虚華に対して、そう言うがそれもそうだ。あくまで虚華は尋問、拷問をされていた側の人間だ。尋問官側の立場に立ったのは産まれて初めてだった。

 自分の匙加減で行うと攻撃を行うと恐らく彼は忽ち死に至ってしまい、話が出来ない。

 自分に過去にされたことをそのまま彼に行っても話になる前に死んでしまう可能性が高い。


 (どうしよう。もう止めたい。センス無い……でもなんとかやるしかない!)


 虚華は自分の中で精一杯の冷たい表情を見せ、指をパチンと鳴らす。

 その音を合図に、「背反」の左足が再度消滅する。それと同時に「背反」の悲鳴が部屋中を木霊する。

痛みを感じている可能性もあるが、何度でも再生できる物を奪うのはとても効率が良い気がしたのだ。

 虚華は席を立ち「背反」を見下したまま、笑顔を浮かべる。

凍りついた「背反」の表情とは対称的で、この場が如何に混沌とかしているのかがよく分かる。

 

 「じゃあ一個ずつ聞くね?この屋敷の惨状は何?何が起きたのか把握してる?」

 「い、いや……。分からない……。何者かがこの屋敷に魔術を発動させた結果が、この惨状だと思ってるが……逆に聞きたいが、「全魔」はこの魔術が何か分かっていないのかい?」


 「背反」の言葉に、虚華は笑顔を貼り付けたまま雪奈の方を向く。

 雪奈の濁り切った雪のような灰色の瞳には、悲壮感が滲んでいる。先程は言葉を濁したが、今回はどう来るか……。虚華は雪奈を注視していると、雪奈はそっぽを向いた。


 「あたしも、この世界全ての魔術を、知ってる訳じゃない。多分、超級以上の魔術」


 雪奈の言葉を聞いた虚華は、ちらりと臨の方を見る。

 四人の位置関係は、ベランダ側に虚華、その対象側に「背反」、虚華から見て左手に雪奈、右手に臨。全員をテーブルを介してその位置に居たが、現在は虚華が臨側を通り「背反」の元へと居る状況だ。

 だから、「背反」を通し正面に雪奈、後ろには臨が居る形になっている。

 虚華が臨を視界に入れると、臨はこちらの視線に気づき首を縦に振る。


 (やっぱりそうなんだ。そっか……)


 臨が首を縦に振る。それ即ち、その言葉は真なりと言うことだ。

 だから、今の雪奈の言葉には嘘が含まれていないことになる。

 虚華は小さく息を吐き、再び所定の席に戻り質問を再開する。


 「クリムはあぁ言ってるけど、超級の魔術を発動される相手に心当たりはある?」

 「強いて言うならキミ達だけど、キミらじゃないんだろう?ならないよ。そもそも超級の魔術を扱える人間なんて最低でも戊種(五級)丁種(四級)探索者だ。そんな手練に恨まれる覚えはないよ」

 「でもジア一帯を焼き討ちにしたでしょ?それで恨み買った可能性はないの?」

 

 自信満々な表情でそう言った「背反」に、素の表情で虚華がしれっと反論すると、「背反」は言葉も発さずに再び枯れた朝顔のように萎んでしまった。


 (まぁ、つまりは誰がやったか分からないって事ね。じゃあ次の質問に)


 虚華は顔を上に上げ「背反」を見ると、首を縦に振り、自分の中で考えを纏め上げる。


 「じゃあさっきの質問に繋げる形で進めるけど、ジアを焼いたのはどうして?既に【蝗害(アバドン)】によって半壊だったのに、追い打ちをかけるような形を取ったわけだけど」

 

 虚華の言葉に、再度「背反」は顔を下げて沈黙する。一瞬だけ見えた顔には悲痛そうな表情がチラついていた。

 反省しているかなど、虚華にとってはどうでも良い。ジアを燃やした理由などどうでも良い。

 怒りを抱くには理由が必要なのだ。その理由を知ることで赦す赦さないの判断を取る。

 この世界に人間に非ずという判定を受けた虚華も、妙な部分で人間臭さを取り除けずに居た。

 少しの間の沈黙を経た後、虚華が指を鳴らすべく、右手を上げると「背反」が声を荒げる。


 「ま、待ってくれ!話すから!実は僕の派閥の中に、ブルームちゃん達がレギオンに参加しないことを不服に思う派閥があったらしいんだ。その派閥がどうやら勝手に暴れた挙げ句に僕の名前を使って、張り紙を各地に貼ったらしいね。その説は申し訳ないと思っている……」

 「ブルームがしつこく「終わらない英雄譚」に勧誘されていたのは最近知った。その勧誘を断り続けていた事もね。ブルーム、どうなの?」


 虚華は右を向く。臨の居る方角だ。それなりに鋭い視線を保ったまま、臨の方を見ると臨は腕を組んだまま、開口する。


 「確かにボクを勧誘していた輩は大体同じ顔ぶれだった。その連中が躍起になってジアを燃やした可能性はあるだろうけど、どうしてそれを首領であるお前が止められない」

 「……「終わらない英雄譚」も勿論一枚岩ではないと言う訳だ。お恥ずかしいことにね」


 「背反」は困り顔で自身の内部事情を話しているが、臨曰く嘘はないようだ。

 別にこの質問に意味はない。いや、無くなった。本来はこの質問が一番大事だったのに。

 流れ作業のように虚華は、決められた言葉を羅列する。表情も本物そのものなのに、実際の感情とは既に大きく乖離してしまっている。


 「そう……。その実行犯と思われる派閥は?」

 「恐らくこの館の何処かで他の人達と同じ最期を迎えたんじゃないかな……。……僕に探させないでくれよ?これでも相当ショックを受けているんだ。誰がこんな事をしたんだろうね」


 「背反」は悲痛そうな表情で髪をグシャリと握り締めている。虚華にも仲間を失う気持ちは分かる。

 だから、犯人が誰であるかぐらいは突き止めたいとは虚華も思うが、心を殺して、虚華は話を進める。


 「じゃあ最後に……」


 虚華は静かに「背反」を見据える。彼は既に疲労しきっているようだ。

 それもその筈、此処に来るまでの間、彼は仲間の大半を失い、生殺与奪の権をこんな年端も行かないガキに握られている上に、何度も何度も四肢を消滅させられている。

 痛みも相当なものなのに、見た目以上にタフな男らしい。軽薄そうな顔つきとは似合わない。

 

 「並行世界の人間を拉致し、殺害する。そして本史世界……つまりこの世界で蘇生すると、その対象が既に本史世界にて生存していない場合、記憶や人格、肉体までもが本史世界の物として蘇生されるという噂を流布していたのは本当?」

 「……キミの耳にまで入っていたのか。流布こそしていないが、僕のレギオンが噂の発生源だ。それがどうかしたのか?」


 弱々しい声ながらも、「背反」は四肢を奪われる恐怖には抗えないようで、キチンと答える。

 彼は知らないだろうが、彼の噂のせいで、虚華は危うく雪奈を失う所だった。もう失う訳には行かない。

 それも雪奈を殺そうとしたのはフィーアでの依音と琴理だ。

 かつての仲間に生き残った殺されそうになった悪夢が、彼に分かるだろうか?

 あの時の記憶を思い起こすだけでも虚華の全身が怒りに震える。


 「噂の出処、根拠は何?」

 「僕の仲間の一人が、レルラリア近くで現場を目撃したらしくてね。その子がある日を境に急にその話ばかりしだしてね。困っていた所に、連れてきたんだ」

 「連れてきたって、何を?」


 虚華は固唾を呑んで、「背反」の言葉を待つ。虚華の最も聞きたかった部分は此処だ。

 言葉を急かさずとも「最初は僕も信じていなかったんだけどね」と「背反」は言葉を続ける。


 「同じ人間と思われる死体が二つだ。片方は自分のレギオンに所属していた構成員、もう一人は見覚えのない格好をした構成員に酷似した人間だった。顔つきからしてもほぼ同じだったが、微妙な違いがあったから別人だと思っていたんだ」

 「……続けて」


 虚華が「背反」に続きを促すと、「背反」は黙々と話を続ける。


 「構成員はどうやら、その酷似した奴に殺されたらしくてね。その酷似した奴が何処かに構成員を連れて行こうとしているのを目撃した他の仲間が敵討ちをしたらしいんだ。そして僕が話を聞くべく、一時的な蘇生魔術を発動すると、構成員は失敗に終わったんだけど、酷似した奴は成功したんだ」

 「……その酷似していた方が、構成員の記憶を引き継いでいたって訳?」


 虚華の割り込みに、「背反」は無言で首を縦に振る。

 

 「そういう事だよ。もしこれがこの世界に広まり、並行世界へと移動することが可能になったら、死んだ知人を蘇生することが可能になる。なんなら、並行世界の同一存在を、自分達が死ぬ前から殺しておいて肉体を保存しておけば、人生を何回も謳歌することが出来るだろう?だから噂を流布させた。一人並行世界から来た存在が居るのなら、何処かに入口がある可能性があるからね。僕はそれを知りたかったんだ」

 「そう……よく分かった。ありがとう、聞きたいことはこれで以上よ」


 (レルラリアか……行ってみよう。恐らくあそこだろうけど)

 

 虚華が「背反」を放置したまま、部屋を出ようとすると「背反」はぎょっとした顔をした上で、すぐに虚華に対して怒声を浴びせる。


 「おい!僕を解放してくれるんだろう!?早く自由にしてくれないか?」

 「そうだったね。ありがとう、ゆっくり休んでね」


 虚華が指をパチンと鳴らすと、四肢に加え、全身まで崩壊していく。

 尻の部分まで崩壊してしまうと、「背反」は椅子に座っていることも出来ずに、床へと身体を叩きつけられる。

 雪奈と臨は、地面を這いつくばってでも虚華の元へと向かおうとする「背反」をただ見ていたが、虚華はゴミを見るような目で「背反」を見下す。


 「どうして!?僕は全部話した!どうして僕の身体が崩壊……ああっ!」

 「人を殺すのは初めてだけど、貴方のような人でも罪悪感を感じてしまうんだ」


 虚華は扉を開くとこちらの方を向き、呪詛を呟き続けてる「背反」を可哀想なものを見るような目で見る。

 その視線に気づいた「背反」は最期の力を振り絞って怒鳴りつけた。


 「お前……覚えてろ……」

 「頑張って並行世界でも探してみてね。愚か者さん」

 

 彼女が「主賓室」の扉に手を掛けていた際の表情は、何かを悟ったような顔だった。

 どうしてそんな顔をしているの?と臨と雪奈は聞けないまま、虚華が「主賓室」から出ていくのをただ見ていることしか出来なかった。

 絶句していた二人は「背反」が消滅したのを確認すると、虚華の後を追うべく「背反」の館を出るも、虚華の姿を見つけることは出来なかった。


 ____________________


 この日を境に、虚華は一通の置き手紙だけを残し、臨と雪奈の前から姿を消した。

 部屋に私物の大半を置いたままの虚華を、臨と雪奈は全力で探したが、見つけられなかった。


 

この後、虚華が失踪した後の喪失周辺を書いたEx章を数話投稿した後に、キャラ紹介を挟んで第八章へと進みます。

今回は久々に文字数が多いですが、その分会話の文章量が多くなってしまっただけなので、楽しんでいただけると幸いです!

更新までまた少し時間が空きますが、気長にお待ち下さい。

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