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【Ⅶ】#13 疑い無き信仰は、時として狂信と呼ばれる


 白と黒が奇妙かつ不可解に混ざり合うお屋敷、歪曲の館で虚華は、「七つの罪源」のメンバーである「虚飾」のアラディア、「禁忌」の禍津の二人とジアの様子を、遠隔操作可能の遠視魔導具を用いて見ていた。

 虚華達が見た物は、虚華が実際にジアの大地に足を運んだ時よりも酷い物になっていた。

 燃えていなかった筈の一般人の家屋や、潰す理由もない八百屋や、パン工房、他にも美味しい屋台が並んでいたはずの大通りは、見る影も無くなってしまっていた。

 虚華にとってジアは、短い時間とは言え、この世界に来て初めてお世話になった都市だ。

 初めて見た時は倒れている雪奈が心配で気が気ではなかった。でも今は雪奈を助け、「エラー」の正気を取り戻した。今、改めてジアの状況を遠くから見てみると何だこの状況は。

 

 「……私が見た時よりも随分燃えてる部分が多いんですけど、どうなってるんですかこれ」

 「ケヒヒヒヒ……、あーあ。燃やしちゃヤバい物まで燃やしちゃってるね……キヒ」


 アラディアが引き笑いをしながら、いつも通りの不敵な笑みを浮かべながら禍津お手製の洋菓子を頬張る。

 禍津も遠視魔導具を見てはいるが、心を痛めている様子はない。言葉にするのが難しいが、それでも無理やり表現するのであれば、“今見ているものが創作物でフィクション”だと思っている。そんな感じがした。

 何処までも彼らは他人事なのだ。これは人間でも非人でも変わらないものだ。


 「あん……?コイツらまさか月魄(げっぱく)教会まで焼いたのか?そりゃあ不味いな」

 「月魄教会……?」


 若干関心気味にそういった禍津の言葉を虚華は繰り返す。禍津は知らないのか?と言わんばかりに虚華の顔を見るが、知らないものは知らない。虚華は首を横に振ると、禍津は露骨に呆れたような反応を見せる。


 「月魄教ってのはな、主に……いや白の区域だけで信仰されている宗教だ。と言っても昔からあるだけの宗派だがな。今は信仰対象が無い上に、あくまで白の区域長の言うとおりにしていれば幸せになれるっていう随分とお優しい物だ」

 「……何のためにあるんですか?」


 虚華がそう聞くと、アラディアと禍津は顔を見合わせる。そして、二人でふふふと笑いだす。

 何故笑われるのか理解出来ない虚華が不機嫌そうな顔を見せると、アラディアがごめんごめんと半笑いで謝罪する。


 「ま、要はね。月魄教はただの区域長を信じれば救われる。白の区域は安泰ですよ〜っていう権力の隠れ蓑みたいなもんだよ……キヒ。他の所はもっと厳しいからね、そういう意味では一番住みやすい区域かもね」

 「その分、教会の権力が弱いから、修道士とか神父も少ないがな。……ほら見ろヴァール、外で跪きながら動かない人間が数体居るだろ?あれが月魄教の神父共だ」


 虚華は禍津が指差した場所に目線を向ける。その先には確かに白い修道服のような物を着ている人が3.4人程、地面に頭を付けながらピタリとも動かない。


 「あれは……何をしているんですか?」

 「さてな。教会を燃やされたにしては随分生半可な態度だとは思うが……」

 「ま、黑なら区域長以外全員皆殺しにしてても可笑しくはなさそうだもんね、ケヒヒ」


 二人は相変わらず楽しそうに話しているが、虚華は目の前の光景を目を凝らして見つめる。

 

 (もしかして……既に……)


 「禍津さん、アラディアさん。この距離からあそこにいる人達の生死を確認する(すべ)はありますか!?」


 虚華の言葉に、禍津は不思議そうな顔をする。一方のアラディアは面白いことを言うなぁと適温の紅茶をぐいっと飲む。

 満足気に紅茶を飲み干したアラディアは魔術を詠唱し始める。聞き覚えのない詠唱に、虚華は固唾を呑んで見守っていると、アラディアは手を差し出してきた。


 「私の視界、分けてあげるから、自分で見てみなよ……キヒ」


 詠唱を終えたアラディアの瞳の色が変わる。虚華がアラディアの手を握ると、急に視界に違和感を覚えた。自分の目で物事を見ているはずなのに、自分が視界に写っているのだ。


 (他人に自分の視界を共有させる魔術なんてあるんだ)


 雪奈が使わない魔術に対する知識は全く無いと言っても過言ではない虚華にとって、この魔術は新鮮だなぁと、ニコニコしながらアラディアの手を握っていると、禍津が急に咳き込みだす。


 「見えたか?彼奴等の生死が」

 「あ……、えと……、これは……空洞……?」


 どう見れば良いのか分からなかった虚華は、目の前の親父達を見た時の率直な感想が、空洞、何も入っていない。そういう風に見えたとアラディア達に言うと、二人は少し目を見開いて驚く。


 「なるほどな。お前はそういう風に受け取るのか。確かにコイツらは既に死んでいる。だからヴァールの言うように中身が何もないというのも正しいと言う訳だ」

 「ケヒヒ、大罪人の私達でも、こんな惨い事滅多にしないから、驚いちゃったけどね」


 目の下の隈が相変わらず目立つアラディアは楽しそうにそう話しているが、どう惨いのだろうか?

 ただ()()()()()()()()()ではないか。何処が惨たらしいのか虚華には理解出来なかった。

 だから、虚華は二人に重ねて質問をした。

 

 「どう惨いんですか?」

 

 虚華のその言葉に、禍津は笑い出した。そんなに可笑しい事を聞いてしまったのか?

 アラディアはいつも通りの引き笑いをしながら、再度詠唱を開始し、自身に魔術を付与する。

 アラディアと虚華の瞳の色が変わったことで、見えてくるものがまた違ってきた。これは……。


 「ヴァールちゃん。あの神父達がどうやって死んだように見える?」

 「ん……えーっと……。胸の方から心臓を一突きにされて即死……ですか?」


 先程までは神父達の体温を可視化しているような感じだったが、今度は違った。血液の流れや魔力の流れなどと言った体内の流れを可視化している見せ方をしてくれたお陰で、そういった解答が出来た。


 「もしそうだったら、ヴァールの反応は間違ってないがな。ヴァール。神父達をこの姿勢のまま、心臓を胸の方から一突きにするにはどうする?」

 「え……、あ……」


 虚華は禍津の質問で、彼らの言いたいことを理解した。虚華はてっきり殺してから見せしめのためにこの姿勢を取らせたものだと思っていたが、違った。神父達の周囲には抵抗の跡があった。

 命乞いをさせた後に、助けてやると希望を持たせ、その希望を抱かせたまま、地面から魔術で心臓を一突きにしたのだ。

 そうすることで地面に額を擦り付けたまま絶命する神父達の死体群が完成する。

 その根拠として、神父達の周囲に血痕はないが、神父達の下にだけは血溜まりがあった。


 「分かったか?ヴァール。この神父達の末路が如何に残酷だったか」

 「……えぇ。酷いですね。一体誰がこんな事を……まさかまた【蝗害(アバドン)】が……?」 

 「それはこっちを見れば分かるよ、見たくないかもだけど、赦してね……キヒ……」


 アラディアは虚華の視界を操作し、近くに貼られていた一枚の張り紙に注視させた。

 虚華は中身を確認すると絶句した。目を見開き、普段から怒ることが殆ど無かった虚華が怒りを顕にした。

 書いていた内容はこうだ。


 

 _________

 

 辛級トライブ「喪失」の主ホロウ・ブランシュに次ぐ。

 汝が我が手中に収まることを拒んだ為、汝が住まいを含めたこの街を焼き払うことにした。

 何か反論異論があるのならば、「背反」の館にて待つ我の元に来るが良い。

 そして、我に永遠の隷従を誓え。そうすれば、これ以上の殺戮は止めると誓おう。

 しかし、もし割れを待たせるというのならば、街を焼き払うだけではなく、無辜の民の命も無事では済まない。

 一日に一人の命を奪い、一人の正気を奪おう。無辜の民が全滅する迄、この宴が終わることはない。

 

 「魔弾」のホロウ、「全魔」のクリム、「絶糸」のブルームを我が物とするまで、我らは止まらない。


 盗賊職大連合レギオン「終わらない英雄譚」首領「背反(オートリバース)

 


 ______________


 中身を見終えた虚華は、アラディアの手を放す。少し残念そうな顔をしているアラディアを余所に、虚華の顔は最早修羅と言っても可笑しくはなかった。

 禍津は相変わらず愉快そうに、こちらを見ている。虚華が反射的に空いたティーカップを差し出すと禍津は無言で新しい紅茶を淹れ、口を開いた。

 

 「残虐な殺し方とあの口ぶり、彼奴等を殺したのも「終わらない英雄譚」とやらだろうな」

 「………れ………か」

 「ん?何か言ったか?」


 怒りで震えながらも何かを呟いている虚華の言葉を、聞き漏らした禍津は聞き返す。

 

 「「背反」って誰ですか……。「終わらない英雄譚」ってなんですか……」

 「……………………」

 「……………………」


 暫しの無言の間、怒りと涙で感情がぐちゃぐちゃになっている虚華を見守った後、禍津がご丁寧に「背反」と「終わらない英雄譚」について簡単且つ事細かに解説をしていた。




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