【Ⅰ】#2 突然の来訪者に、眉を顰める
時は数時間前に遡る。
虚華はふと窓から遠くの景色を眺める。今日は生憎の雨。
それもこんなにも寒い冬に降る豪雨は、梅雨にも負けない程の湿気を呼び寄せて虚華の身体に纏わり付かせる。
くるんと毛先がうねっているのを見て、虚華は言葉にし難い鬱陶しさを感じる。
普段からこの街はよく雨が降るが、今日の雨量はどうにも異常だった。この雨量の中、飛び出してしまえば、自分を何処かへ押し流してくれるんじゃないかって、錯覚してしまう程だ。
今降り注ぐ雨も、遣らずの雨だと思えば、少しはこの憂鬱で湿っぽい気分もマシにはなるかなと思えてくる。
普段ならば静寂に包まれている街なのだが、外からは、とてもそうは思えないような怒声が鳴り響く。
こんな雨の中でも、虚華を探す追手の手は止まらない。レインコートのような制服を来た人間が、あちこちで自分の名前を叫びながら、走り回っている。
そんな馬鹿みたいに叫んでいれば、自分達だって声のしない方向へと逃げるだろうにと、虚華は哀れみの目を向ける。
「そんな大声あげたら、逃げちゃうでしょ。普通」
「全くだ、狙った獲物はそっと追い詰めて、最後に喰らいつかなきゃ、ね?」
虚華の背後には、よく見知った顔の男が立っていた。
虚華はまたか、と鬱陶しそうな表情で振り向くと、男は少しだけ眉を下げる。
「どうしてそんな顔をするの?悲しいじゃないか」
「もうこのやり取りも飽きちゃったよ。また来たの?君も暇なんだね。透」
「君に会うためなら、何度でも探し出してみせるよ。あの無能達とは違ってね」
虚華は露骨に嫌そうな顔をした筈なのに、目の前の男は、ふふんと自慢気に胸を張っている。
彼は、夜桜透。虚華達と同じ十歳の少年だ。鈍色のマッシュヘアーに、ギラついた鼠色のを持つ彼は、臨と比べると一回りほど体躯が大きい。
透は、アジトを転々としている虚華達とはこうして時々、会っては話をしているが、どうやら追手達には虚華の居場所を教えていない。
透は小さい頃からの友人ではあるが、決して虚華は彼のことが好きではなかった。昔から、意味の分かり難い言葉をつらつらと並べては、それを大人びていると勘違いしている勘違い野郎だと虚華は思っている。
透の顔を見る度に正直、ため息が耐えない。今日も透の顔を見てため息をつくと、透が不機嫌そうに目を細める。
「人の顔を見てため息をつくなんて、酷いじゃないか。折角会いに来たのに」
「そりゃため息も出るよ。何回場所を変えても湧いて来るんだもの。もはや半分ゴキブリだよ」
この街では、ゴキブリは害虫扱いだ。知らない間に近くに潜伏し、不快な見た目で自身の周囲をうろちょろと這い回る。
そんな害虫と半分位は同じ存在だと言われた透は、左眉をピクピクと動かし、顔を引き攣らせる。
「ゴ、ゴキ扱いするのかい……君は僕を……」
「実際同じだよ。なんでアジトを変えても見つけてくるのさ。私のストーカーとしか思えないもん」
虚華の正直な気持ちを吐露すると、透はまるで自身の心臓に杭を打たれたかのような反応をしている。
「す、すとーかー、僕が……?」と譫言の様に呟いている透を見ても、虚華は一切可哀想には見えなかった。
露骨に肩を落として、地面に手を付けて悔しがっている透を背に、虚華は、再度窓から遠くの景色を眺める。
(相変わらずの凄い雨だ。雲も分厚い。あれが布団だったらさぞ眠り心地が良いんだろうなぁ)
ちらりと透の方を見ると、透は未だに地面に五体投地のような姿勢で倒れている。今日はやけにずっと凹みっぱなしだ。
普段の透ならば、これだけ酷いことを言って引き離そうとしても、透は虚華に対して、僕は君を守るよ。なんて甘い言葉を何度も浴びせてくる。
だけど、透を連れて行くことは出来ない。彼には戦闘能力がない。昔は片手剣を握って剣術を学んでいたが、利き手は潰されている。魔術は一切使えない。極めつけには人を殺すことも出来ない上に、虚華達が逃げ回っている存在を敵に回す覚悟もない。
(だから、彼は嘘つきなんだ。私を守れないのに、守るだなんて大嘘をつくんだから)
でもこうして、時々ふらっと虚華の前に現れては、こうして何の薬にもならない話をした挙げ句、こっぴどく虚華に罵られて帰っていく。
《虚華は透にアジトの情報を一切教えていないにも関わらず、透はこうして目の前に現れる》
自分で言っていても変な話だと、虚華は自分を嘲笑う。
数日単位、早ければ数時間で滞在場所を変えている虚華達は、次回以降、どのアジトに滞在するかなどを他人に教えることなんて絶対にしない。
でもこうして、目の前の透は、いつも虚華の背後に立っては笑顔でやぁ、と声を掛けてくる。こんな場所に隠れていたんだと、気持ちの悪い笑みを浮かべながら、自身らの隠れ家に足を踏み入れる。
(そんな透が、私は怖いの。人間は理解出来ない物に恐怖を覚える生き物だから)
虚華は五体投地の姿勢で目の前に倒れている透を、申し訳無さそうな表情で見ていると何処からか、透の頭目掛けてナイフが飛んでくる。
飛んできたナイフは、透の頭頂部に刺さる。血がどくどくと流れて、周囲に血の匂いが充満していく。
目の前の光景が信じられなかった虚華は、目を見開いて透の亡骸に近寄る。
血はナイフの周辺から今も流れており、体温はどんどん下がっている。このままだと透は死んでしまうだろう。いや、もしかしたら即死だったかも知れない。
虚華は、気が動転したのか、右手の人差し指を自身の口に添えて、言葉に魔力を込めようとする。
「嫌……透、“死なない……”」
「虚、それは駄目だ」
虚華の背後、それも虚華に触れる程の至近距離に居た臨によって口を塞がれ、虚華はその後の言葉を発することも、魔力を込めることも防がれた。
目の前の事柄に気が動転していた虚華は、臨に口を塞がれ、正気を失いつつあった。
虚華は無理矢理臨の拘束を引き剥がして、背後に居る臨の方を向いて声を荒げた。涙目になりながら、虚華は臨の肩をぐわんぐわんと揺さぶっている。
「臨!透が!透にナイフが刺さって、血が凄いことになってるの!“死なないで”って言わなきゃ、透死んじゃうよ!?ねぇ、臨ぃ!!」
「虚、落ち着け。お前が“嘘”を付く必要はない。嘘をついているのは、この変態の方だ」
「え……?」
臨はすっかり涙目になっている虚華の肩を抱きながら、血が流れている透の亡骸から虚華を引き剥がす。
そして、臨は自身の持っていたナイフを数本、透の亡骸へと投げつける。臨の放ったナイフはどれも、人体の急所と呼ばれる場所へと突き刺さっている。
虚華は臨が、透にとどめを刺したものだと思い、臨の肩を再度ぐわんぐわんと揺らした。
「臨!何してるの!?透が!なんでそんな酷いことするの!」
「虚、よく見てみろ。頭以外に刺さった短刀を」
「え……?あ……」
臨を揺らしていた虚華は、臨に亡骸をよく見てみろと言われ、涙を拭いて透の亡骸をまじまじと見つめる。
よくよく観察してみると確かにおかしい。頭に刺さったナイフからは血がどくどくと流れた跡があるのに、臨が刺した短刀の刺し傷からは一切血が出ていない。
虚華が、どういう事?と涙を拭いた目で臨に目線で訴えかけると、臨は誰も居ない方向に睨む。
「悪趣味な真似をするな、夜桜。とっとと姿を現せ、虚を泣かせた事、忘れないからな」
「おぉ、怖い怖い。流石虚華ちゃんのナイト様だ。まるで王子様気取りだね」
臨の睨んでいた方向から、じわりじわりと人の姿が現れる。いつしかそこには先程までそこで死んでいたはずの透が、怪我一つなくそこに佇んでいた。
気づいた頃には、透の死体は何処にも無くなっていた。
透はパチパチと両手を叩いて、臨と虚華の方へ近づきながら臨を讃えつつ睨む。
「人が死んでいるというのに、そこに追い打ちでナイフを投げるとは、虚華ちゃんのナイト様は人の心がないようだ。虚華ちゃんも気をつけなよ?感情を失った人間は、機械以下の存在なんだから」
「え……なんで透が怪我一つもなく動いているの……?さっきまで串刺しだったのに」
虚華が、状況を飲み込めていないと分かると、透は邪悪そうに微笑む。先程までの優しそうだった透と同じ人間とは思えない程に、邪悪な顔つきに虚華は息を呑む。
臨は、再度透の事を見えないように、自身の身体で虚華を隠す。
そんな臨を見た透は舌打ちをする。
「お宅のお姫様は教育がなってないんじゃないの?良ければ僕が教育代わりになってあげても良いんだけどなぁ?」
「断る。今日はお帰り願おう。ボクが送って差し上げよう。今日は特別だ」
臨は無表情ながらも、怒りを感じていることは虚華には分かっていた。それだけ長い付き合いだ。
《感情を失っていても、臨がどう思っているかくらいは虚華には分かっている》。
臨の事を見ていると、臨が一枚の紙を寄越してきた。虚華がおずおずとそれを開くと、それはどうやら地図の情報紙のようだった。
地図の位置は、ここから少し離れた一軒家を指している。これを渡してきたということは、それがどういう意味かは、虚華達は言わずとも理解している。
色々思うところはあるが、諸々の感情を押し殺して虚華は、臨に疑問をぶつける。
「これ、私一人で?」
「いや、下に雪を待たせている。先に二人で行け」
「臨は?」
「この雨の中だ、夜桜を送っていく」
そんな短い問答で、臨と虚華は、大まかなお互いの意思を確認し終える。
虚華は、臨の少し奥に居る透の方を見る。少しだけ怯えた目で、それでも確かな意思を持って。
「あんまり人を誑かしちゃ駄目だよ?次は怒るからね!」
「ふふふ、それはごめんよ?次からはちゃんとタネ明かしもするからさ」
ぷんすかと怒っている虚華の言葉に、透はのらりくらりとした答えを返した。
その後、虚華は二人に「じゃあまたね」とだけ言葉を残して、荷物を持ってアジトを出ていった。
虚華は一歩一歩を踏みしめながら階段を降りる。外に出ると入口付近で待っていた雪奈に向けて、手を振りながら小さな声で呼び掛ける。
大きな声で名前を呼べば、怖い大人が自分達の所在を嗅ぎつけるかも知れないからだ。
雪奈は随分長い時間を此処で待っていたのか、前回読んでいたページから随分読み進めた本を閉じる。
冷たい地面から立ち上がり、尻に付いた土などを軽く払うと、虚華の方へと近づく。
とてとてと歩いて近づいてきた、微妙な表情のん虚華の頬を雪奈は無表情で、それでいて少しだけ不機嫌そうにむにぃっと抓る。
雪奈は顔では感情を表現しない分、手や仕草などで表現するタイプの人間なのだ。
それなりに痛い抓り方をされている虚華は、引っ込んだはずの涙が、また涙腺から溢れそうになる。
「いふぁい、いふぁいかは、やへて……。もぅ……痛いよぉ雪ぃ……なにするのさぁ……」
「遅い、待たせ過ぎ。……臨は?」
雪奈は虚華が涙目になっている事に気づき、抓っていた手をぱっと離して、虚だけ?と首を傾げる。
無表情で首を傾げている雪奈に、抓られていた部分を擦りながら虚華は答える。
「透……、私の友達を送るから、先にここに行ってろって。まだ上に居るけど、後から追いつくみたい」
「ん、そ。あたし達は、先に行けと?」
虚華は何故だか、泣きそうになりながら無言で頷いた。
雪奈は何も言わずに虚華の右腕を掴んで、くっつく。片腕を取られているから、動きにくい筈だし、湿気のせいで暑苦しい筈なのに、虚華は何も反抗をしてこない。
雪奈はちらりと虚華の方を見ると、なんだかそれどころじゃないって顔をしている。
大体状況を察した雪奈は、何も言わずに虚華と繋いでる手を恋人繋ぎにして、雨の中、二人で歩いていった。
周囲を警戒し、自身の欲望を満たしながら歩いている雪奈は、少し離れた場所で銃声が鳴り響いたことに気づく。
(この感じ、サイレンサー?銃声からして、臨だけど。まさか、彼奴を撃った?)
その後も、数発サイレンサーでの狙撃音が聞こえた後、虚華でも聞き取れる程の銃声が聞こえてくる。
銃声の方角は、先程まで虚華達が居た味との方面。何か嫌な予感がすると、虚華はくっついている雪奈に一言だけ言って、二人で旧アジトの方へと走り出していった。
__________
先程まで自分達が滞在していたアジトに登るための階段を駆け上る。何者かが武装している可能性もあることから、今度は雪奈も連れてアジトへと侵入を試みる。
アジトへと入る扉の直前で、虚華達は、戦闘の準備を整える。
人の気配と硝煙の匂いが立ち込めるアジト中に入るとそこには、首のない死体と、銃を持ちながら探知魔術を発動している臨の姿があった。
「戻ったか虚、それに雪もか。狙撃音で戻ってきたのか?なら早く移動しなきゃならないな」
「これ、一体何があったの?これ、透だよね?」
「あぁ、どうやらこの場所がバレていたらしい。密告もされていたようで、外から狙撃されて彼が死んだ」
「……そう」
臨の淡々とした報告を虚華は聞き流す。
虚華は片膝を付いて、壁にもたれかかって斃れている首のない死体にそっと触れる。
首から上は綺麗に消し飛んでいるが、体型や服装、遺品等から、この死体が透本人なのは間違いないと判断する。
虚華が透の死体に触れてみるとまだ少しだけ温かい、つまりは死んだばかりだ。さっきの銃声で死んだのだろう。
虚華は両手を合わせ、透の冥福を祈る仕草を取る。
(また知り合いが一人、死んでしまった。けど今回は違う。臨が透を殺すと分かって見逃した……。私は透を見殺しにしたんだ……)
友人、知人、顔見知りが死んでいくのは、最早日常茶飯事だ。
悲しさこそあれど、自分と関わった以上はこうなる可能性があることは、全員に事前説明をしている。
それを聞いた上で透は、虚華に干渉してくる愚か者だったけど、こんな殺され方をしなくたって良いじゃないかと、心の中で涙を流す。
実際の虚華は泣く理由には行くまいと、必死に唇を噛んで涙を堪えた。
恐らくだけど、臨は虚華をこの場に長居させたくはないだろう。誰が言うまでもなく、この死体が言葉なくして語っている。
だから虚華はせめてもと、透の持ち物を一つだけ遺品として持ち帰ろうと衣服を弄ると、服の中にあった透が生前大切にしていた懐中時計を持ち出す。
銀色に光る懐中時計は、主人を失った今も尚、秒針を動かし、時を刻んでいる。
虚華は懐中時計を握り締め、首のない死体を眺めていると、雪奈が後ろの方で臨と話しているのが聞こえてくる。
「この死体はどうする?」
「あたしが、燃やすから。虚、臨と先に降りてて」
透が感情を失った機械以下の存在と罵った二人には、確かに血も涙も無い。
虚華の友人をいとも容易く燃やす相談をし、その結果、自分に何も言わずに雪奈が燃やすことを決定している。
虚華は呆然と透を眺めているが、その虚華を抱きかかえて臨はアジトを後にする。
「友人が燃える様を見たって何にもならない。それならば、彼の屍を踏み越えてやれ」
そういった臨の顔はなんだか、複雑そうな物を抱えている気がした。
(臨が殺したのに、それを分かっている自分は何も言わない、ううん、言えないんだ)
外に運び出されるまでの短い時間も、虚華は透の死体を虚ろな目でぼんやりと眺めている。
心臓は弾丸で撃ち抜かれており、頭部は何かしらの高い威力の銃火器で消し飛ばされている。
命の灯なんて、そこに元々無かったかのようだった。ただそこに鎮座させられている透の亡骸は、悪趣味なオブジェのように見えた。
そんな透を見ていると、どうしても言葉にできない奇妙な違和感が虚華の心を蝕んでいく気がする。
(何なんだろう。この言葉に出来ない気持ちは)
臨によって、無理矢理外に運び出された後も、未だに降っている雨をぼんやりと眺めていた。
透を燃やし終えたのか、雪奈が急いで階段を駆け下りてくる。どうしたの?と聞いても、虚を待たせたくなかったからと、答えられる。
(そんな事を言われたら、私もう何も言えないよ……)
「お待たせ、ちゃんと弔った。虚、行こ?」
雪奈は服の袖をいつものようにくいくいと引っ張って、自身のしたことを報告する。表情からは何も読み取れないけど、きっと褒めてほしいんだろうと思った虚華は、ぽんぽんと雪奈は頭を撫でてやる。
「うん、ありがとう、雪」
「ん。泣かないで。悲しい気持ち、あたしにも分かる」
雪奈の言葉で、虚華は自分が泣いていることに気づく。涙を流す権利なんて自分には無い事は分かっていても、それでも涙を流してしまっていたようだ。
これまでも散々大切な人を失ってきたのに、今回は知人が死んだ程度で、自分の涙腺は大洪水を起こした。
どうにか出来ないかなと思いつつも、こればっかりはどうにもならないと、虚華は諦めたかのように大号泣する。
(安らかに眠ってね、透。もし来世で会えたら、その時は笑って話せたら良いな)
虚華は誰にも言えない思いを胸に閉じ込め、目尻に溜まった涙を、長い時間を掛けてぼろぼろになった服の袖で拭いて、新アジトへと向かった。
その少女の手には、銀色に光る懐中時計が握り締められていた。
__________
虚華は狭くて昏い階段の下にある、人が一人入れる程度のスペースに挟まっていた。
どうやら軽く眠ってしまっていたらしく、数時間前の出来事を夢に見ていたようだ。
軽く睡眠をとったからか、心の整理をつけることは出来た。ただ、その代償に、狭い場所で縮こまっていた身体が悲鳴を上げていたので、廊下に這いずって出る。
身体を伸ばして、深呼吸をすると、埃っぽい空気を吸ってしまったせいか少し咳き込んでしまう。
「けほっけほっ。でも気分は大分マシになった。気にしてもしょうがないもんね。後で雪にお礼言わなきゃな」
いつまでこんな生活しなきゃなんないんだろうなぁ、なんて一生掛けても答えの出ない自問自答をしていると、虚華の視界の先に、何か小さい扉のようなものを見つける。
先程まで虚華が挟まっていた場所に、よく見ると開くことができそうな扉があった。
その扉を見つけた虚華は、頭に叩き込んだはずの地図には、こんな場所に扉なんて無かった事を思い出すと、首を傾げる。
(危険な場所は三人一緒でって言われてるけど、此処なら安全でしょ多分)
地図にない扉を、虚華は好奇心半分恐怖心半分で開けてみる。
長い期間放置されていたせいか、埃が積もっていた家の中とは対象的に、扉の中は真っ白な壁と床、ホコリ等は一切積もっておらず、清潔感を保っていた。
虚華は、興味津々で中に入り、中を見渡していると、部屋の中央には見慣れない機械が鎮座していた。
(何だろこれ。ゲーム機?でもコントローラーもモニターもない……携帯ゲーム機でもないし、うーんなんだろ?)
ゲーム等の娯楽用品は、少し前までは普及されていたが、虚華が物心つく頃には既に殆どが絶版になっていた。
そんな虚華でも知識だけは詰め込んでいたお陰で、この時代にしてはこの機械がどうにもれとろちっく過ぎると、違和感を感じていた。
くるくると機械の周りを周りながら、色々観察してみても、娯楽関係の知識が少ない虚華には、目の前の機械が何なのかは分からなかった。
この白い部屋が清潔だったので、これ幸いと、虚華は床に大の字に寝転がって、わからーん!と独り言を呟いた。
ゴロンと回転してうつ伏せになった虚華は間近で不思議な機械を見つめる。
「見た感じは、ゲーム機だけど、起動するスイッチもないし……この機械だけで遊べるのかな?」
操作するものがないということから、VR機能がついているゲームの可能性も視野に入れるも、現物を見たことのなかった虚華は、ひとまずはモニターのある部屋へと、虚華が機械に触れたその瞬間だった。
「ま、眩しい!?……きゃああ!?」
急に白い部屋全体から、虚華の目が眩むほどの光が放たれ、虚華は目を両手で塞ぐ。その次には奇妙な振動も起きる。
足が竦んで転んでしまった虚華は軽いパニック状態に陥ったが、短時間でどちらも収まったので、直ぐに体制を立て直した。
光が収まり、揺れも無くなったので、虚華は少しずつ目を開くと、そこには目を疑うような光景が広がっていた。
「今の光とか振動は何だったの……え、ここは何処!?」
虚華が目を開けて、瞳が明順応を終えた頃には、先ほどの白い部屋ではなく、木製のログハウスに立っている事に虚華は気づいた。