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【Ⅲ】#1 寡黙系碧眼眼鏡には気をつけて

再度、フィーアに侵入した三人は、一先ずは「探索者」になるために「探索者」の集まる場所、「探索者」ギルドがあるジアの北部に向かうことにした。

 ジアには大きく分けて三つの顔がある。ジアは“白の区域”と呼ばれる五色領の内の白を冠している大きな都市である。そんな区域の長である区域長が腰を据え拠点としている「白の居城」が中央部に存在する。他には、魔術などを扱っている学園や、蒸気機関による建造物、市場や食事が出来る場所などの繁華街という顔を持つ。

 中央部から北へ上がると、北部。北部は主に「探索者」達の為の場所として、武具から、傷の回復をすることが出来る薬物、探索に使うであろう普通の人間たちが使わないであろうものまで取り揃えている店が多数並ぶ。北部の一番大きな建造物は「探索者」ギルド“薄氷”北部で一際目立つ白を基調とした要塞のような建物は見るものを圧倒すると言っても過言ではない。他にも、「探索者」が滞在できる宿屋などもあるため、北部は「探索者」のための区域といってもいいだろう。

 中央部から南へ下ると、南部。こちらは基本的に住宅街が広がっている。そのため、店などは特に無く、あまり人の出入りなどは多くはないが、閑静な住宅街といった雰囲気を漂わせている。


 そんな北部に存在する探索者ギルド“薄氷”の前に虚華達は立つ。聳え立つ白い巨塔は見上げなければ全貌を見ることは叶わない。

 此処に来るまでの道のりでの聞き込みと、一度ログハウスに撤退する前に聴き込んだ結果を纏めたが、どうやら自分達の年齢(十歳)ではお金を稼げる手段はそう多くない。虚華たちの選択肢は、探索者になるか盗賊、盗人になるかの二択だった。

 その選択肢を臨から提示された時、虚華は悩むこと無く探索者になることを選択した。


 (真っ当に生きる手段があるのに盗人になるのは論外なんだよね。楽に生きたい訳じゃないし)


 虚華達はディストピアで生きる為、陳列されていた物を店から盗んだり、様々な非合法的な手段を取っていた。言うなれば半分盗人のような生き方をしてきた。罪悪感はあれど、生きる為と割り切っていた。

 普通に店で物を買おうにも、お金も殆ど持たず、「中央管理局」へと通報さるのが日常茶飯事だった。

 他に生きていく手段があるとすれば、それは降参(Resign)することだけ。それは実質的な死だと悟っていた虚華には選ぶことが出来なかった。

 そんな虚華達であれば、フィーアでも鼻つまみ者になるデメリットこそあれど、店のものを盗み、探索者などをせずとも、仲間を探し出すこと自体は出来るだろう。でもそんな事をするつもりは微塵もない。

 様々なことを知り、習得し、勉学にも励めるのなら励んでみたい。知識も経験も欲しい。

 こんな何も持っていない自分達でも稼ぎを得られる探索者にならない理由はなかった。


 (まぁ……無一文だから、お金がないとログハウス暮らしになっちゃうし)

 「虚、中に入らないの?」

 「むぅ、虚じゃなくて、“ホロウ”でしょ?」


 中々“薄氷”の扉を開けようとしない虚華に、雪奈がねぇねぇと服の袖を引っ張る。

 この世界に同姓同名、限りなく本人に近い別人。“斧や槍を優雅に振り回す事が出来るらしい”虚華が存在しているらしいことはフィーアにいた透が言っていた。ならば、ディストピアにいるはずの虚華()が虚華を名乗るわけにはいかない。

 仮の名前をホロウと名乗り、自分達の素性を隠す。あくまで自分は虚華のそっくりさんとして生きる。顔が似ているだけの他人。臨と雪奈も偽名を使って探索者になることに賛成してくれている。

 自分が“ホロウ”、臨は“ブルーム”、雪奈が“クリム”と呼ぶことにし、今は目の前にギルドが聳えている。


 「じゃあホロウ。ボクは早く入るべきだと思うんだけど、中に入らないのか?」

 「な、なんか、緊張するじゃん……?しないの?ブルームは」

 「して無くはないけど、ホロウのビビってる顔見たら飛んでっちゃったね」


 悪戯っぽく笑い、こちらを小馬鹿にするように虚華の顔を覗く臨の姿に、虚華は新鮮味を感じながら、苦笑いをする。


 (入りたいけど、緊張して入れないんだよぉ……中騒がしいし……)

 「おい、そこのお前!ギルドの前に突っ立ってて邪魔だぞ!」

 「まぁまぁ、楓。そんなカッカしないの」


 後ろから少年の怒声とそれを宥める少女の声が聞こえてきて、虚華は振り向く。

 亜麻色の髪に亜麻色の瞳を持つ垂れ目気味の少年と、紫色のくせっ毛気味のセミロングに、きりっとした蒼い吊り目の少女が自分達の後ろに立っていた。


 「君達は、「探索者」じゃない……よね?このギルドで見たことないし」

 「まぁ俺らより年下の奴なんて見たことないしな〜」


 宥められた亜麻色の髪の少年は、紫のくせっ毛セミロングの少女に嗜められ、少し眉を顰めるも機嫌を多少直す。腕を組み、虚華を品定めするような視線を向ける少年に臨が不快感を顕にしている。


 「貴方達は一体どちら様で?」

 「先に名乗るのはお前らのほうじゃねぇのか?邪魔だったから声かけただけだっての」

 「ん。虚、こいつ、燃やす?」

 「燃やさない燃やさない!!こっちが悪いんだから!!」


 自分達が悪いことは明白なのに、完全にあちら側を糾弾しようと意気込んでいる二人を抑え込んで、虚華は声を掛けてきた二人に頭を下げる。

 虚華の対応に驚いたのか、少年がカカっと賑やかに笑う。ある程度笑った後は虚華と自分勝手に肩を組みだした。怒りを孕んだ目をしている臨を何とか抑え込んでいる状態の虚華は、この状況を脱する方法だけを必死に考えていた。


 (ど、ど、ど、ど、どうしよう……)

 「お前、名前は?他の二人はいけ好かねぇがお前は気に入った」

 「わ、私ですか?ホロウです。ホロウ・ブランシュ。こちらの二人は……」


 虚華は予め自分達で考えておいた偽名を使って目の前の少年に簡単なお辞儀をする。その後二人の名前を言おうとすると、「いや、そいつらは良いから」と一蹴された。


 (本当に興味もないんだろうなぁ……)

 「ホロウか、覚えた。俺は白月楓しらづきかえで、こっちのが紫野裂しの(しのざきしの)だ。俺らは此処のギルドを拠点に「探索者」をやってんだ!お前はこんなとこで何をしていた?見ない顔だけど、観光客か?」


 顔をぼんやりと認識阻害させるヴェールを被っている自分達の顔をよく見えていないのか、楓は遠くを見るような目でこちらを見ている。


 (良かった、この不思議なヴェールのおかげであんまり良く見えてないみたい)

 「いえ、私達は「探索者」になろうと思ってきたんですけど、よく考えたらどうやってなるのか知らなくて」


 たはは……と苦笑を漏らすと、楓が納得したように頷き、虚華の手を引っ張る。あちゃーと、しのが頭に手をおいて呆れたような表情を見せる。


 「俺が案内してやるよ!登録方法も教えてやる!これで俺のトライブメンバーが揃った!!」

 (トライブメンバー……?何だか分からないけど、嫌な予感しかしない……)

 「あ、あの……しのさん。これから私はどうなるんでしょうか?」

 「ん?んー。うちにも分からんねぇ、一先ずはお望み通り「探索者」の登録方法とかを教えてくれると思うけど、その後はちょっと分からないな」


 何も分からずに楓に引きずられるようにギルドの扉を潜る虚華を、しのはやれやれと言わんばかりの表情で見ていた。

 こちらの視線に気づいたしのは、頑張れっとウインクをしながら残された臨と雪奈の方に向かう。恐らくは楓の無茶振りになれているのだろう、少し呆れた顔はしつつもちゃんとした対応は取っている。


 (私のこともフォローして欲しかったなぁ……)


 ずるずると引きずられていく虚華は虚ろな目をしながら、現実逃避していた。



__________


 楓に引きずられながら虚ろな目をしていた虚華は、ギルドの中に入ると目を見開いて辺りを見回す。

 幼い頃から静寂が支配しているような世界で暮らしてきた虚華からしたら、今のギルド内は信じられない光景が広がっている。大の大人達がテーブルを囲んで、何かの飲み物を呑み、見たこともないような食べ物を美味しそうに食べて会話をしている。


 (当たり前だけど、皆感情がある……皆楽しそう……)


 楓に引きずられている自分は別に楽しくはないのだが、周りの空気に当てられて虚華も柔らかい笑みを浮かべる。


 「ったく、まだ未の刻(午後一時頃)だってのに、おっさんたちは酒なんか飲みやがって」

 「お、お酒?」

 「おう、あいつらが飲んでるのは大抵が酒だな。なんでも働いた後の一杯が最高なんだとさ」


 何が良いのかさっぱりだけどな俺には、と楓は少し軽蔑した目を飲兵衛達に向け、ずるずると目当ての場所まで虚華を運ぶ(引きずる)

 ディストピアではこんな喧騒に包まれた空間も、人の活気や温もりも一切感じることが出来なかった。

 だからこそ、改めて、感情を奪う「中央管理局」の所業が悪なのだと。虚華は再認識する。

 虚華がこくこくと首を独りでに縦に振りながら運ばれていくと、楓達の目の前に誰かが立ちはだかったらしく、楓の足が止まる。

 楓が急に止まったせいで、虚華の頭が楓の脚にぶつかって痛みを覚える。何があったのかと、虚華が楓の目の前にいる人物に焦点をあわせると、そこには大きな男の人が立っていた。


 (わぁ、おっきい人だ。自分より大分大きい。楓さんの知り合いなのかな?)


 楓は目の前の男の人を強い視線で睨むように見ているだけで、何も言わない。虚華の腕を握る手が少しだけ強くなり、震えてるのを見ると、緊張しているのかも知れない。


 「おまーたせ、やっと追いついたわぁ。ホロウちゃんのお仲間も連れてきたけど、なんで楓止まって……あー。ディルクさんか。何か楓が喧嘩でも売ったのかねぇ?」


 後ろの方からよっと虚華の方に手を振っているのは、臨と雪奈を連れながら追いついてきてくれたしのだった。あんまり怒る人じゃないんだけどなぁと頭をぽりぽりと掻いているしのを見るに、楓は目の前の男性ーディルクさんを怒らせたのだろうか?

 目の前の男性ーディルクは筋骨隆々と言う割には細身だが、かなり身体を鍛えているのが分かる細身の筋肉質の青年といった見た目だ。黑がかった藍色の髪色に、同じ色の瞳を持つ彼は洒落た眼鏡も掛けているので虚華の瞳には知的に見えた。背中には細身の両手剣のような自分には到底扱えそうにもない武器を携えている。他にもガタイの良い男性は辺りに沢山居るが、どうにも彼だけは違っている気もしている。


 (なんで、そう思うんだろう……)


 楓とディルクが睨み合いをしている中、虚華は全く関係のないことで考え込んでいた。

 臨達も、ディルクの事が怖いのか、普段なら急いで虚華のもとへ駆けつけるが、今回は静観している。

 そんな五人の間に、沈黙の時間が幾ばくかあったが、ディルクがその堰を切った。


 「楓。その女児はどうした」


 楓の目の前に居るディルクは、ディストピアに沢山居た大人達のように殆ど感情を読み取らせないような顔で、そう端的に質問した。ディルクの視線は楓ではなく、虚華の方をじっと見ていた。


 (女児……幼女……やっぱり幼く見えるのかなぁ私……)

 「「探索者」になりたいってギルドの前に居たから連れてきただけだ。別に悪いことはしてない」


 ずーんと謂れのない事実で沈んでいる虚華なんてお構いなしに、楓はごくりと唾を飲んでから、答える。その顔にはかなりの緊張感が含まれていることから、彼が恐ろしい人物なのだろうと虚華は警戒心を少し引き上げる。


 「そうです。彼は、私に「探索者」の登録方法を教えてくれると親切にしてもらいました」


 虚華は先程までの所業を一先ずは胸の中で収めておいて、一先ずは状況の解決を試みる。虚華は楓をディルクから庇うように、自分が前に立った。


 「お前一人か?」

 「いえ、同じ志のものが二人、あちらに」


 虚華はじぃっとこちらを見つめてくるディルクに怯えながらも、悠然とした態度で二人を紹介する。

 その紹介をされた時に、臨と雪奈も一瞥はしたが、虚華の時のようにじぃっとは見られなかった事に虚華は少しだけ違和感を感じた。


 「……お前一人なら兎も角。他の二人は止めておいた方が良いな」

 「どうして、そんな事を言うんですか」


 仲間を貶されたと思い、声を少し荒げる虚華に対し、ふぅっと息を吐きながら、ディルクはじぃっと虚華を見つめる。


 「それに、年齢的には私達は十歳ですから、問題ないはずです」

 「……。そうか。なら奥の受付嬢、あの髪の毛が灰色が強い亜麻色の女だ。アイツに相談しろ」

 

 ディルクの少し間の含んだ言い方に虚華は首を傾げる。ディルクの眼鏡の奥の瞳に何が映っているのか、虚華には見えなかった。それでもきっと、自分のことを見ているわけではないのだろうと感じた。


 (私を見て、誰を考えたんだろう?“私”か、もしくはその知り合い?)


 二人のやり取りを冷や汗をかきながら見守っていた楓に、ディルクは案内してやれ、と首で指示する。指示した後は、懐から本を取り出し、空いている適当な席に座り本を読み出していた。

 ディルクが読書を開始してから、しの達も楓と虚華の元に駆け寄った。恐らくは彼が怖かったのだろう。少しこちらに向かう脚がぎこちない気がする。


 「大丈夫だった?何もされていないかい?ホロウ、凄いね。度胸付いたんじゃない?」

 「……俺は別に怯えてなんてねーし。ディルクさんの指示でセエレのとこに案内してやる」


 臨の心配してくれた声にも返事させること無く、楓は再度虚華の手を引っ張り、受付嬢の居るカウンターへと連れて行った。




ここから、本格的に虚華達が探索者になり活動する、探索編に入ります。

#11の楓、しの、ディルクから連続で新キャラが登場するので、お楽しみに!

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