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【Ex】#3 耳を覆い隠した裁定者は、真実を見失う


 「中央管理局:七罪源捜索課」に所属しているピンク髪をツインテールにしている少女、スメラ・L・イジェルクトは不満げな表情で、指定されたポイントへと足を運ぶ。

 普段なら準禁術として使用者を制限している転移魔術も、使用を許可されている。

 移動が楽な分、こちらとしても助かるが、急に自分に使用許可が下りたことにスメラは嫌な予感を隠せずにいた。

 念の為、戦闘になっても良いように制服の下に防刃ベストを着込み、魔術耐性のあるローブに身を包む。


 「全く……呼び出し相手があいつじゃなきゃなぁ……なんで私があいつに呼ばれなきゃならないのよ……」


 そう、今回スメラを呼び付けたのは同じ課に所属している問題児イドル・B・フィルレイスなのだ。

 毎年数十人は同期として組織入りする中央管理局において、彼女の同期は現状、自分一人だけになってしまっている。

 その事実だけでも十分彼女が怪しい者だと物語っているのに、彼女には他にも色々怪しい噂が渦巻いている。

 やれ、一緒に食事を摂ると食中毒を起こすだとか、やれ、イドルは無制限で転移魔術を使用できるだとか、本人が何も否定しないせいで、割と何でもかんでも言われている。

 スメラは準備が整うと、転移魔術を使用する際に必要不可欠な指輪を中指に嵌める。


 「目標座標、えーとP15.42.93.35.04……か。これどこら辺になるのかな。アイツの行動的に白だとは思うけど、心配だなぁ」


 イドルから送られてきた手紙には何処へ、とは書かれておらずただ座標と、ここに来てとだけ書かれていた簡素なものだった。

 スメラは生身で転移魔術を扱える程、魔術が得意ではないので、転移魔術の使用を補助する指輪型の魔導具を用いて指定された座標へとワープする必要があるのだが、心配性なスメラは転移するのを渋っていた。

 しかし、呼び出し相手はあのイドルなのだ。応じなかったらより酷い目に合わされるのは目に見えている。

 嫌だなぁ、行きたくないなぁ、と小さい声でぼやいていると、後ろから肩を叩かれる。


 「なんですか、課長。私の代わりに行ってくれるんですか?」

 「嫌だね。だってヘルメットじゃ防げないだろうし」


 頬を膨らませ、後ろを振り向くと「中央管理局:七罪源捜索課」の課長であるオルテア・ランディルがメガネを拭きながら、クツクツと笑っている。

 その反応が妙に気味悪かったので、スメラは両肩を両手で擦りながら、嫌そうな表情を見せる。

 

 「どういう意味ですか?」

 「そのまんまの意味だ、アイツの面倒事はヘルメットじゃ守れない」


 時々発作のように起こる課長の妄信的とも言えるヘルメット至上主義は一体何なんだろうか。

 入職して今年で五年目になるが、未だに彼の発言の三割は理解不能だ。

 普段がいい人なだけに非常に残念だなぁとスメラは彼の発言は大抵聞き流していた。

 スメラは肩をがくんと落とし、改めて座標を指定し、転移魔術を詠唱する。


 「気をつけろよ。死ぬんじゃねぇぞ」

 「?死ぬつもりなんて有りませんけど……、そんなに危ないところなんですか?」

 

 オルテアは何も言わずに敬礼をし、転移魔術が発動するまでの間スメラをじっと見つめていた。

 いざ、魔術が発動し、転移が終了すると地面に足が着いていない感覚に襲われる。

 嫌な予感がしたスメラが目を開けると、そこは上空100メートル程の高さから急降下している。

 なるほど。だからヘルメットじゃ防げないと課長は言っていたのだ。

 つまり、彼は座標を聞いただけで何処に飛ばされるのか知っていたのだろう。

 風に声が掻き消されるのも承知で、スメラは全力で叫んだ。

 

 「ふざけんなぁああ!!くそぉぉ!!フィルレイスの馬鹿ーっ!!」




 ____________________


 

 「で、何か弁明はある?私、紐無しバンジーさせられたんだけど」

 「ぷくく……ごめんってば。でも怪我もしてないし良かったじゃん」


 上空100メートルに放り出されたスメラが必死に風魔術と重力制御魔術を併用しながら、大地へと不時着すると、近くで焚き火をして待っていたのであろうイドルが満面の笑みでスメラを出迎えた。

 あまりに楽観的な態度を取ってきたイドルを前にスメラの堪忍袋の緒が切れたのか、こめかみに青筋を浮かべたスメラは、イドルにその場で正座させている。

 彼女は事の重大さを分かっていないのだろうか?

 たまたまスメラ自身が風魔術を得意としていたから良かったものの、ヘルメットおじさんこと、オルテアが向かっていれば、そのまま身体が砕け散っていただろう。

 暫くの間、スメラは罵詈雑言をイドルにぶつけていたのだが、あまりにもイドルがニコニコしながらこちらの話を聞いていたせいで、怒る気も失せてしまった。

 大きなため息をスメラがつくと、イドルが大きな欠伸をした後に口を開く。


 「それにしてもよくこんな所まで来てくれたね。僕絶対来てくれないと思ってたよ」

 「……本当、何でこんな場所にまで来ちゃったんだろ。どうせ帰れないんでしょ?」


 イドルはヘラヘラしながら、スメラの言葉に相槌を打つ。それもそうだ。

 彼女が共に入職してからの五年間、一度たりとも彼女は呼び出し──救援信号を送っていない。

 ましてや送り先は、犬猿の仲とまで呼ばれたスメラなのだ。


 (さっさと顔だけ出して、嘲笑って帰ってやろうと思ったけど)

  

 イドルの格好を見ると、それなりに危険なことをしてきたのだろうと察する。

 あちこちを怪我しており、普段からボロボロだった外套はあちこちが千切れており、中に着込んできた筈の中央管理局の制服もあちこちが血や泥で汚れている。

 流石にこんな状態のイドルを放置して、帰るわけにも行かない。仮にも彼女は同部署の仲間だ。


 (まずは話を聞かなきゃ。此処が何処かも釈然としないし)


 スメラはキョロキョロと辺りを見回して、少し考え込む。

 あちこちから何かが焼け焦げた匂いがし、空は鼠色が支配しており、木々も炭化が進んでいるものが多い。地面は水分を失っても尚、しぶとく生き続ける雑草だけが生い茂っており、不毛な大地へと変貌して行っていることが分かる。

 まるで少し前に起きたジア焼き討ち事件の報告書のような場所だ。

 少なくとも今のジアはこんな状態ではないし、白の区域にここまで荒れ果てた場所は存在していない。

 恐らくは白以外の区域の場所だろう。ずっと白の区域で仕事をしていたせいで、すっかり他区域の知識が欠落しているスメラは、首を傾げたまま、暫くの間考え込む。

 その仕草がおかしかったのか、イドルはふふっと小さく笑う。


 「ここが何処だか、分かってなさそうだね。きっと白から出なかったから他区域の情勢とか把握してなくて、此処まで荒れ果てた場所なんて心当たりがないって顔してる」

 「……別にそんな事言ってないし。今必死に考えてるんだし」


 正直、図星なのも良い所だ。白から出ることもかなり少なかったスメラは情報の食指を伸ばしていなかったことを軽く後悔する。

 考えても何のヒントも得られなかったスメラは、肩を落とす。


 「ま、答えを言っちゃうと此処は赫の区域のレーヴァ付近だよ。……もしかして赫が今どんな状況にあるのかも、簡単に解説した方がいい?」

 「……お願いしてもいい?風のうわさでちらっと聞いたぐらいの情報しか知らないから」


 スメラの知っている赫の区域は、万年暖かい比較的平和な区域で、人間と亜人が平等に扱われている場所だったと把握していた。

 レーヴァはその中でも特に亜人が多い地域で、鍛造に長けている地霊族(ドワーフ)や、獣人族(ビースト)の多くがこの近辺で暮らしていた……程度の知識だった。

 その後、イドルはスメラにも分かるように、赫の区域についての此処数年の史実を焚き火に当たりながら話し始めた。

 日も落ち始め、冷えてきたのか、焚き火に焚べる薪をイドルは魔術で生成させる。

 長々とイドルが史実を話している中で、スメラは眠気に襲われ、首をカクンカクンと赤べこのように振りながら、睡魔と戦っていた。

 スメラがはっと意識を取り戻した時には、イドルの昔話はある程度話し終えてしまっていたようで、再度聞き直すことは厳しい状態になっていた。

 悠々と話すイドルの顔色を窺いながら、スメラは聞いた単語を必死に繋ぎ合わせて、イドルの話を理解しようと神経を全集中させる。

 

 「ま、めちゃめちゃ簡潔に言えば、三年位前に赫に人間は居なくなったんだよね」

 「んえっ、初耳だ。原因は?」


 何とか眠気を誤魔化しながら発した言葉は多分、ちゃんとは話せていなかっただろう。

 イドルは、困った顔をしながらこめかみをポリポリと掻く。


 「白の逆って言えば分かるかな、人間排斥主義みたいなのが急激に促進されてね。当時の赫の区域長が暗殺されたんだよ。って、それで思い出したけど、赫の部署の人大幅に減ったでしょ?あれ、大半は統制しようとしたけど、殺されちゃったからなんだよね。だから今の赫の部署は形骸化してるんだよ」

 「し、知らなかった……。そんなの聞かされてない……」


 スメラがわなわなと震えていると、寒いと勘違いしたイドルが魔術で生成した薪を焚き火に放り投げる。

 轟々と燃え上がる焚き火を見たスメラは、吸い込まれるように焚き火を見つめている。

 その瞳には悲しみと怒りが織り交ぜられ、怒りの矛先が見つからないのか暴走しそうだった。

 虚ろな目をしているスメラは、イドルの肩を掴み、ずいっと顔を近づける。

 

 「赫の部署には仲の良い知り合いも居たのに。その子達も死んだ可能性があるってこと?」

 「ど、どうかな……此処から帰れたら調べてみるよ」 


 「分かった。そうと決まれば早く此処から脱出しよう。その為にも詳しい状況を教えてくれる?」

 「うん、さっき一通り話したんだけどね。覚えてない?」


 虚ろな目をしていたスメラの瞳にハイライトが戻り、頬を赤く染めて、そっぽを向く。


 「ごめん。話長くて寝てたの」

 「知ってたよ。分かったからこっち向いて座って?もう一回話すから」


 その夜、イドルはスメラに状況を説明しようと奮起し、スメラは必死に睡魔と格闘していたが、埒が明かないことを悟った二人は一先ずその場で夜を明かすことにした。

 

2023.11.5に10,000pvに到達することが出来ました!

これからも頑張ってまいりますので、応援の程、宜しくお願い致します!

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