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【Ⅸ】#16 Hope for the best, but prepare for the worst


 虚華はこの状況を打破すべく、脳をフル回転させる。

 はっきり言ってしまえば、この盤面は非常に不味い状況であると言わざるを得ない。

 そもそも現状六対一なのだ、数的不利が凄まじい。ましてや味方は最近蘇生されたばかりのイズ一人だ。

 他の味方が来ることは期待出来ない。ただ防衛するにも相手の火力を防ぎ切れる時間もそう長くはない。

 このまま持久戦に持ち込まれたら、確実に此方が負けるのだ。相手には補助役(バッファー)回復役(ヒーラー)攻撃役(アタッカー)弱体役(デバッファー)遊撃枠(サポーター)、その全てが兼ね備えられている。パーティとして完結しているのだ。

 先程までずっとイズが結界魔術を解除すると、攻撃を仕掛けていた側に見慣れた顔が立ち並ぶ。

 息を切らしたイズが口元の血を拭い、歪な笑顔を浮かべ、虚華に問う。

 

 「ねぇ、ヴァール。この状況、貴方ならどう打破する?」

 「流石の私のブレイン様も厳しいって思う?」

 

 虚華が冗談めかしてそう言うと、イズはふっと笑って呼吸を再度整える。

 かなりの魔力を消費させてしまったのだろう、イズの顔が青くなっているのを虚華は見逃さない。


 「そうね、貴方はあのパーティの誰を最初に潰せば崩れると思う?」

 「……彼らが攻撃一辺倒ならば、前衛を削るのがベターだと思うけど……」


 虚華は自分が言っていることが間違いなことを自覚している。

 相手方は前衛三、中衛一、後衛二という非常にバランスの良いパーティ構成だ。

 前衛の楓は遠距離攻撃が可能な遠投武器も扱うことが出来、雪奈は虚華の知らない間に対象に肉薄したインファイトを何度も仕掛けている。「エラー」は相変わらず殺傷力の凄まじい槍斧を振り回しているが、残りの二人の邪魔をしない形で結界に攻撃を仕掛けている。

 中衛の臨は攻撃こそしていないが、前衛と後衛に指示を出しながら、なにやら“糸”を操って何かをしている。

 後衛は弱体役の依央が、此方へ体力や魔力を消耗させる矢を射出し、回復役兼補助役の琴理はパーティメンバーに攻撃力上昇の魔術や、移動力上昇の魔術を継続させるように詠唱し続けている。

 肝心の此方は中衛一と後衛一だ。攻撃役が居ない上に、イズの補助もかなりの魔力を消費させてしまったせいで、見込めない。

 結果的に前衛を一人無力化した所で、相手方には何の影響もない。それどころか、手持ち無沙汰になっていた琴理がさっさと回復することで再度戦闘を出来る状態にまで回復することで、此方がさらに不利になるだけだ。

 しかし、虚華がそれを理解しても尚、「エラー」を処理したい程には彼女の攻撃は一発一発が重いのだ。

 苦悶の表情を浮かべるイズは、虚華の言葉に首を横に振る。

 

 「「貴方の紛い物」の一撃の殺傷力が凄まじいのは分かるわ。けれど、先程よりかは随分マシなのよ。さっきまでは結界の一番脆い所を的確に攻撃していたのだけど、今は的外れな場所ばかり攻撃しているの。それよりも今はあの足技系魔術師と、ひゅんひゅん飛んでいる双剣使いの攻撃が痛いわ」

 「「エラー」の攻撃が的確に急所を……?」

 

 虚華はイズの言葉を聞き、首を傾げる。

 彼女の以前からの問題点として、攻撃の命中率が低いことと、我を忘れた際にはその特性が顕著に現れることにあった。

 今もイズが苦悶の表情を浮かべているが、それらは大抵が楓の追尾型短剣と雪奈の足技によるものが多い。

 「エラー」の攻撃は結界に掠りはするが、大きなダメージを与えている様子はない。


 (もしかして、ここになにかヒントが……?)

 

 イズの言葉を聞いた虚華が「喪失」の面々を観察している間も、「喪失」の面々は攻撃を緩めることはなく、波状攻撃を仕掛ける。

 “雪奈”が足技を数発虚華に打ち込み、楓は見慣れない双剣でイズの結界魔術を攻撃する。何より重いのは「エラー」の展開式槍斧の火力だ。彼女の攻撃を受けた時が一番イズの顔をが歪むのだ。

 彼らが攻撃を仕掛けた後は、一度後方に下がり、最後列からは琴理と依音が魔術や遠距離攻撃で結界の耐久値を削り取る。

 お陰でイズは休む暇も無く、じりじりと結界の維持のために魔力を消費している。

 ふと疑問をいだいた虚華は、イズに魔力を分け与える為に唇に指を添える。勿論、彼らには見えないように結界の色を変更して、カモフラージュは欠かさずに。

 

 「“|我血肉は汝が力へと替わらん《私の身体を貴方の魔力に変換して》”」

 

 虚華は一気に血が失われた影響で少しふらっとするが、なんとか踏ん張り、イズの顔を見る。

 怒りに、驚き、安らぎを感じている彼女の表情は何とも言えない顔でこちらを見ている。

 ──この戦いが終わったらお説教は免れそうにない。

 そんな事を考えながら、虚華はイズの言葉を待つ。


 「私に魔力を捧げていいの?大して戦力になれないわよ、今の私じゃ」

 「その代わり教えて。今と少し前で何か、彼らの攻撃に変化があったと思うけど、どう?」


 イズはえ、とだけ小さく声を漏らすと、「喪失」の面々の攻撃を一身に受けながら、彼らのことをじぃっと観察する。

 未だに波状攻撃が収まる所を知らないが、イズは「あっ」と小さい声を漏らした。

 聞き漏らさなかった虚華は、ずいっとイズに詰め寄る。近い近いと顔を赤らめるイズなどお構いなしに、虚華はイズの顔を覗き込む。


 「なに!?何か分かった?」

 「分かった、分かったからぁ……」


 ちょっと離れてと、イズに言われた虚華はコホンと小さく咳をすると、再度訊ねる。


 「それで?何か分かった?」

 「え、えぇ、ヴァールが起きるまでは紛い物(虚華)ちゃんが凄い主力だったんだけれど、今はあの亜麻色の男の子(白月楓)と、魔術師の筈なのに足技が凄いあの子(雪奈)の攻撃が痛いのよ。的確に核を付いてくる辺りがどうもね……それに黒咲くんが攻撃をしていないのも気になるのよね」


 確かにそうだ。臨は他五人に指示出しのような事をしながら、自分は一切攻撃をしていない。

 恐らく虚華を悪夢へと誘ったのも彼の糸の攻撃だ。

 他のメンバーがそういった攻撃が出来るという情報を持っていないからという消去法だが、彼の糸はどんな攻撃ができるのか正直全く知らないからなのもある。

 だからこそ、虚華は一つの仮説を立てた。


 (私が寝ている間、私への悪夢堕とし(仮)と誰か一人の攻撃補助をしていたとしたら?)

 

 ならば、臨が糸で操作出来るのは二人という仮説が立てられる。

 この仮説が正しいとしたら、現在臨が糸で補助しているのは、楓と雪奈の二人ということになる。

 

 (だから今の「エラー」の攻撃は命中率が著しく下がっているという事も辻褄があう)


 再度虚華は思考の海に身を投げる。

 この状況を打破する為に、最も脅威な存在は誰か?答えは黒咲臨だ。

 しかし、真っ先に彼を標的にしてもこのパーティを崩すことは難しいだろう。三人の前衛という壁を突破し、もし仮に黒咲臨を無力化することが出来たとしても、直ぐ様、手持ち無沙汰になっていた琴理が治療魔術を行使することで、再度起き上がらせることが出来るからだ。


 ──よって、最優先で潰すべきは回復役兼補助役の葵琴理──「アズール」だ。


 虚華はイズを休ませるために、一時結界魔術を解除すると、黒い銃を懐から取り出す。

 すぐに使うつもりはない。少しでも時間を稼ぐために、相手の反応を伺うのだ。

 こちら側が少しでも隙を見せれば、「喪失」の頭脳である臨は何かしらのアクションをこちらに見せてくるだろう。

 それが抹殺のサインであっても、少しでもイズを休ませる事が出来ればそれでいい。


 (もし、私が彼女らを本当に想うなら、こんな事出来ないだろうな)


 虚華が黒い銃を取り出すと、余裕そうな笑みを浮かべ、こちらに投擲した刃を手元に戻した楓は苛立ちを表情に浮かべたまま吠える。


 「おっ、流石にあっちの出灰も魔力切れかァ?降参するなら黒い聖女の命だけで許すぜ?」

 「魔力が切れたかに関しての言及はしないわ。そこの彼に真実は毒だものね?黒咲くん」


 亜麻色の瞳をギラつかせながら、犬歯を見せる楓に、イズはイズで聖骸布越しにも分かるように唇を三日月状に歪ませ、臨をわざと挑発する。


 「警戒を怠るな、白月。彼女は僕の本当の知り合いだ。歳こそ若いが、こちらの出灰より数段キレるぞ」

 「射抜かれたいのかしら?今は魔女狩りに集中してあげるけど、後で覚えておきなさい?」


 臨の言葉に、依音が怒りを声に含ませながら反論する。

 喧嘩するほど仲がいいという言葉がディストピアにはあったが、もしかすれば彼らは相当仲がいいのではないだろうか?

 そんなしょうもないことを虚華が考えることが出来る位の時間は稼ぐことが出来た。

 虚華は、徐ろに取り出した黒い銃を自身のこめかみに突きつける。

 イズを含めたこの場の人間が驚いた表情を見せていたが、臨だけはじぃっとこちらを見ていた。

 

 (流石に警戒はしながらも、表情を変えないか。流石は「喪失」の参謀だ)


 虚華は心の中で臨のことを褒め称えながら、黒い銃に装填していたゴム弾を射出する。

 至近距離から射出されたゴム弾の威力は、改造されている銃ということもあり、相当な威力を叩き出した。

 ボタリボタリと虚華の眉間から血が滴り落ち、その一撃がどれだけの威力があったのかを物語る。

 イズと臨以外が虚華の行動に狼狽えるが、虚華は狼狽える一人の標的を見据え、笑みを浮かべる。


 ──ようやく得意な魔術を披露出来るのだ。こんなに嬉しいことはないだろう。


 仮面の下で邪悪に笑う虚華は、簡潔に魔術を詠唱する。

 不味いと感じた臨は再度、攻撃を再開させるが、時間を稼ぐことが出来たお陰で、イズの魔力は充分とは言えないが、虚華を短時間守ることが出来る程には回復出来ていた。

 詠唱を終えた虚華は、未だにぼとぼとと滴り落ちる血を右手で拭い、左指をパチンと鳴らす。


 「伝播する負傷(シンパシー・ダメージ)


 虚華が魔術名を口にした途端、虚華のこめかみの傷は消えていた。

 皆が皆、目を疑っていたその刹那、後方から叫び声が聞こえてきた。相当の痛みを孕んだ痛々しい悲鳴だ。

 臨達が振り返ると、虚華と同じ場所から血を吹き出していた琴理が叫んでいた。

 



つい筆が乗ってしまって一話書き上げましたが、まだまだしばらくは投稿頻度がゆっくりのままです。

もし近いうちに良い結果が出れば来月辺りは高頻度で投稿できるかもしれません……。一縷の望みも湯葉ほど薄い望み(臨)ですが応援の程、よろしくお願いいたします!

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