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第2話



 優花と龍造寺の逢瀬を目の当たりにした日、優花の事情を聴かずに一方的な別れを告げてしまった後ろめたさから応じた今日の呼び出しだったが、ここに当事者である優花とその浮気相手である龍造寺以外の第三者、この件には無関係であるはずの美月ちゃんがいる理由……それは僕と優花の中を仲裁する為なのだろうか。

 しかし先ほど美月ちゃんは優花の浮気が誤解であると言った。それは彼女が何かしらの事情を知っているという意味であろうか。少なくとも、この場に龍造寺が同席している状況から鑑みて、交わされていた情事が優花の意に沿わないものであったとは考え辛い……。


「あー……圭一くんだっけ? タメだから、敬語はいらねーよな? そんでさ……一応、俺からも言っておくけど、優花と俺は付き合ってる訳じゃねーよ? いや、ある意味では()()()()()はいたが、まぁ、何? ……とにかく優花は浮気してねーって話だよ」


 僕は「馴れ馴れしく下の名前で呼び捨てるな」と怒鳴りたい気持ちを我慢しつつ、相変わらずヘラヘラと笑う龍造寺へと向き直り、話の続きを促した。


「そこで……だ。圭一くんさぁ、美月と一発ヤらね?」



「……は?」


 あまりにも意味不明な発言だった為、僕が間抜けな声を上げると、龍造寺はゲラゲラと笑いながらこちらを指さした。


「ウケるわぁ~。ちなみに俺と美月は愛人……いや、恋人みてーなもんだから、一応、彼氏公認って事になるぜ?」


 予想外の発言に僕が美月ちゃんの方へ勢いよく顔を向けると、そこには苦笑いを浮かべて頬を掻く美月ちゃんがいた。


「雅史ってば……説明、端折り過ぎでしょ。圭一が驚き過ぎて面白い顔になってるよ」


 そう言いながら苦笑いを溢す美月ちゃんと、相変わらず軽薄そうな笑みを浮かべている龍造寺。そして、何事もなかったかのように昔と変わらぬ微笑みを湛えた優花が僕をジッと見つめる。

 かつて大好きだった優花の笑みが、今は得体の知れない違和感となって僕の心をざわつかせた。


「だ…だったら、尚更意味が解からないよ!」


 龍造寺と美月が恋人同士であるという事はつまり、彼が自分の彼女を僕に抱かせようとしているという事だ。そして、その意味不明な発言に疑問を持つことなく平然と受け入れている優花と美月ちゃんの心理も、僕は同様に理解が出来ない。


「はぁ、全く……面倒臭ぇな、DT(どうてい)ってよ」


 小馬鹿にしたように肩を竦めて見せる龍造寺に憎しみが募る。


「ふざけ――「俺はお前にとっては恩人みてーなもんなんだぜ?」」


 遮るように発された龍造寺の言葉に僕は口を噤んだ。

 

(龍造寺が恩人……? 人の彼女と肉体関係を結んでおいて、何を言っているんだコイツは!?)


 憎しみを込めて睨みつける僕を見て「おぉ、怖っ!」とおどけて見せる龍造寺。そんな彼の言動を肯定するように、今度は優花が僕の行動を諫めた。


「圭くん、落ち着いて。雅史くんの言う事は本当なの……」


「……どういう事なんだ?」



   ◇ ◇ ◇



 僕の疑問を受けてゆっくりと頷いた優花が、その形の良い唇を開き、僕が知らない間に優花の周りで起こった出来事について語り始めた。


 優花がテニスサークルに入って暫く経った頃、サークル内で新入生歓迎コンパが開かれたそうだ。

 新入生といえば、その殆どがまだ成人年齢に達してらず、当然歓迎会においてもアルコールが出される事など遭ってはならないはずなのだが、実際には悪い噂通り、新入生に対しても酒が振舞われたらしい。

 特に新入生女子は泥酔するほどにアルコールを飲まされ、優花も歓迎会の途中から記憶が曖昧になっているそうだ。



 優花が目を覚ました時、彼女はサークルの先輩達と一緒にベッドに寝ていたと言う。

 泥酔させて、その間に体を弄ぶ――他人の尊厳を踏みにじるような最低の所業に僕が怒りを露にすると、優花は嬉しそうに微笑んでこう言った。


『私の為に怒ってくれて、ありがとう、圭くん。私も最初は絶望して死にたいなんて思ってたけど……そんな時、助けてくれたのが雅史くんだったの』


 龍造寺は優花と同じでテニスサークルの新入生であったが、その顔の広さと政治家の息子という立場から一目置かれる存在であった。

 破瓜によって紅く染まったシーツを見て、泣き出した優花へ龍造寺は手を差し伸べてこう言った。


『お前は汚れてなんていねーよ』



 その後、龍造寺は泣きじゃくる優花を背に庇い、サークルの先輩達に2つの約束をさせた。

 一つは優花が泥酔している間に撮った写真を全て消す事。もう一つは「この女は俺の所有物(もの)だから今後、優花には手を出すな」という旨のものだったらしい。


「雅史くんがいなかったら、私、先輩達のおもちゃになってたと思う……。今となってはそれはそれでちょっと興味あるけど……なんてね、冗談。」


「ハハッ! 優花も言うようになったじゃねーか。圭くんごめんなさい……って泣いてた頃が嘘みてーだぜ」


 目の前で交わされる理解不能な会話に眩暈を覚える。

 今、僕の眼前で楽しそうに己の貞操が奪われた時の話をしている女性は、本当に俺の知っている優花なのか……?



 何を言っていいのか判らず、金魚のように口をパクつかせる僕を尻目に優花は昔を懐かしむように、窓の外を眺めた。


「……でも、やっぱり初めては圭くんが良かったなぁ」


 そんな優花を見て「妬けるねぇ」と野次を飛ばす龍造寺と「やっぱり、二人はラブラブだね」と僕を揶揄う美月ちゃんへ対し、凄まじい嫌悪感を覚える。

 龍造寺は兎も角、僕は今まで美月ちゃんに対して嫌悪感を覚えた事はなかったはずだ。それが今は親愛の情など欠片も感じないばかりか、ひたすらに気味が悪くて仕方がない。



「まぁ、つー訳で、俺と優花は付き合ってる訳じゃねーから、浮気でもねーって話よ。俺らは所謂……セフレってやつだな」


「なっ……?!」


「助けてやったんだ。そのくらいの役得があっても良いだろ?」


 駄目だ……理解が追い付かない。助けたからって、何故、それが肉体関係に結びつくのか……。


 僕の混乱を他所に、話は進んでゆく。


「――で、だ。ここは仲直りの印にいっちょ4人でスワッピングしましょうよ……ってのが、今日来てもらった目的さ」


「スワッピングって……そ…そんな話、受け入れるはずがないだろう!?」


 静かな喫茶店の一角から僕の怒号が響き渡り、場の静寂を破壊した。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  清々しいほどのクズっぷりなクソ餓鬼とスベターズ、ヘイトは高めるだけ高めていただけると落とす爽快感がたいへんに楽しみでございます(^∀^)うふふふふ [気になる点]  何か「お前は汚れてな…
[一言] うわぁ気色わるいなあ 倫理観が根底から違う奴とはどのみちやってけんよ 好きだったら受け入れろってのはお前の価値観を歪めろと一方的に強要してるのと同じことだからな なにごとにも限度ってもんがあ…
[一言] リハビリでこの作品をぶっ込むなんて、さすがとしか。龍造寺に美月が毒されて、その繋がりで優花が堕とされたわけでしょうか。たまたまとは考え難いですね。この三人とは価値観が違いすぎて無理でしょう。…
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