幼い頃に出会った社長令嬢は大きくなって男の人になっていました~いいえ、元々男の人だったんです~
彼女は綺麗な可愛い真っ白のワンピースを着て、私は首元が伸びたヨレヨレの淡い黄色のワンピースを着ている。
誰がどう見ても二人の共通点は幼い子供と女の子ってだけ。
そんな幼い私は彼女がお金持ちなのも知っていたけど気にはしていなかった。
彼女が気にはしていなかったからかもしれない。
彼女は私と毎日、遊んでくれた。
私達はいつも手を繋いで遊んでいた。
みんなに仲良しねって言われていた。
ずっと一緒にいられると思っていたのに彼女とは通う小学校が違うことを彼女から聞いた。
彼女と離れるのは嫌だった。
私は泣いて彼女に嫌って言った。
すると彼女は私の頭を撫でて言ったの。
必ず迎えに来るから待っててって。
私はうんと答えて彼女には、笑った顔を見せたくて笑顔を見せた。
彼女は嬉しそうに笑って私に彼女の大事な物をくれた。
それが彼女の髪ゴムだった。
可愛いネコのチャームがついており、そのネコはキラキラ光る石でできていた。
彼女は私の髪につけてくれて、これが君だって証拠になるからずっとつけててって言った。
私はうん、必ず迎えに来てねって言った。
それから彼女とは一度も会わずに私は高校生になった。
今は彼女の顔もあまり覚えていない。
覚えているのは長い髪は少し茶色く、可愛いと言う言葉が似合う顔だってこと。
それともう一つが手の甲にある二つのホクロ。
ホクロの間の皮膚をつまみ、ぞうさんなんて言って遊んでいた記憶は忘れていない。
彼女と別れてから何年も経ったが私は彼女に会いたいと思っている。
その証拠に私はあの日から毎日、彼女がくれた髪ゴムをつけている。
だから私はずっと髪型はポニーテールでショートカットなんてしたことがない。
昔の話はこれくらいにしよう。
今の私はヨレヨレの洋服はもう着ていない。
流行りの洋服を着て友達と恋愛の話をしながら毎日を楽しんでいる。
「ねえ、聞いた? 先輩、彼女と別れたらしいよ」
友達が休み時間に私に話してきた。
「そうなの? 綺麗な彼女だったのに」
「何、言ってんのよ。チャンスじゃない」
「チャンスって私みたいな凡人には先輩は不釣り合いだよ」
「そんなことないわよ。好きなら告白しなさい。昔みたいに後悔はしたくないでしょう?」
友達は私の昔の彼女の話を知っている。
「昔って彼女は女の子なんだから」
「男も女も関係ないでしょう? 好きって言えなかった後悔は一緒よ」
「まあ、後悔はあるけど」
「じゃあ先輩の所へ行きなさい」
「えっ今から?」
「そうよ。先輩は屋上で一人で考えたいって言ってたみたいよ」
「それなら一人にしておこうよ」
「ダメ。今がチャンスなんだから」
「チャンスって落ち込んでいる時がチャンスって言えるの?」
「もう、うるさいわよ。早く行きなさい」
友達の迫力に負け、私は屋上へ向かう。
先輩は私の憧れの人。
部活の先輩で優しくて、すっごくイケメンなの。
そんな先輩が私なんて相手にする訳がないのに。
告白なんてしない。
ただ大丈夫ですか?
って言えばいいよね?
だって先輩のことは本当に心配しているから。
「先輩」
屋上について先輩がフェンスに背中を預けて立ったままうつむいていた。
私が先輩を呼ぶと先輩は顔を上げた。
「何だ。君か。どうした?」
「先輩が気になって来ました」
「それじゃあ聞いたんだな?」
「はい。大丈夫ですか?」
「大丈夫だと思う?」
「どうでしょう? 私はお付き合いなんてしたことがないので分かりません」
「そうなんだ。ねえ、そのネコの髪ゴムが太陽の光を反射して眩しいんだけど」
「えっ、あっごめんなさい」
私は自分の両手で髪を結んでいる髪ゴムのネコのチャームを包む。
すると先輩は私の両手を片手で包み私に近づいた。
「外せばいいのに。君のその格好は前から何かされても守れないよ?」
「何もされないですから」
先輩は真剣な顔で私を見ている。
先輩の手があるせいで私の手は動かせない。
「俺が君にキスをしても君は文句を言えないよ?」
「文句は言います」
「何それ? 本当、君って面白いよね?」
そう先輩は言って私の両手から手を離した。
私の両手は自由になったけどそのまま。
「腕、疲れない? 髪ゴムをとればいいのに」
「このゴムはとったらダメなんです。ずっとつけるって約束して貰ったんです」
「そんなに大事?」
「大事です」
「その髪ゴムをくれた人に君は恋をしてるんだね」
「えっそれはないです」
「どうして?」
「だってくれたのは女の子なんです」
「じゃあ大切な友達ってとこかな?」
「はい。私をいつか迎えにきてくれるんです」
「そうなんだ。その彼女に嫉妬しそうだよ」
「えっ」
「俺の可愛い後輩の心を鷲掴みにしてるからね」
「何ですかそれ?」
「君は可愛い後輩ってこと」
先輩はそう言って私の頭をヨシヨシと撫でた。
先輩にとって私は可愛い後輩。
恋人にはなれない。
◇
ある日、私は先輩と一緒に電車に乗り学校から帰っていた時。
満員電車で降りる駅まで先輩とほぼくっつく形で乗っていた。
降りる駅が来たから先輩から離れようとした。
「いたっ」
私の髪の毛が先輩の制服のボタンに絡まっていた。
一緒に電車から降りて先輩が一生懸命とろうとしている。
でもとれない。
「俺のボタンの糸を切りたくても君の髪の毛があるから切れないよ」
「私の髪の毛と一緒に切っていいですよ」
「ダメ。髪の毛は女の子の命でしょう?」
「そんなふうには思ってないですよ」
「ダメだって。この髪ゴムを切ったら絡まりがとれるかも」
「ダメです。この髪ゴムは切れないです。私の髪の毛を切ってもいいですよ」
私達は駅のベンチで言い合いをしていた。
「ハサミある?」
いきなり知らない人に声をかけられた。
その人は一言で言うと美しい。
女の私でも負けるくらいの綺麗なお肌に整った顔はお人形みたいに可愛い。
しかしその人は女の子じゃなくて男の子。
高校生かな?
制服だし。
私は彼に言われるがままハサミを彼に渡す。
すると彼は私の髪の毛を持ち、躊躇いもなく切った。
切ってもいいって言ったけどそんないきなりはちょっとショックだよ。
しかし私の髪はバサバサと私の肩に当たり地面へ落ちていかない。
彼は何を切ったの?
私は彼の手に残る髪ゴムを見た。
「えっどうして切ったの? 私だっていう証拠の髪ゴムなのに」
「だって必要ないじゃん」
何、この人。
いくら顔が可愛いからって、私の大事な物を必要ないなんて言われたくない。
「私には必要なの。なんなのよ。私より可愛い顔してるからって何でも許されると思わないでよね。それにあなたに必要ないなんて決められたくないわよ。この髪ゴムも」
私は怒りのあまり、早口で言っていた。
先輩と可愛い彼は目が点になっていた。
二人とも驚いていたのかな?
そういうことにしておこう。
「先輩。帰りましょう」
「あっうん」
私は先輩の手をとって彼に背を向けて歩こうとした。
「待て」
何?
私に命令したの?
待て?
私は犬じゃないわよ。
「私は何も聞こえていません。私に命令する人の声なんか聞こえません」
私は彼に背を向けたまま言う。
「迎えに来たんだよ」
「えっ」
私は可愛い彼の方へ振り向く。
彼は嬉しそうに笑っている。
ネコの髪ゴムを掌に乗せて、私に見せている。
「待ってよ。あなたは男の子よ。私の待ってる相手は女の子よ」
「それはあの時、俺は女の子として生活してたから」
「何で?」
「金持ちだからって言うだけじゃダメかな?」
彼は苦笑いをしている。
何か言えない理由でもあるんだろう。
それ以上は聞けない。
「信じられないよ」
「でも俺はこのネコの髪ゴムの意味を知ってるんだ。君だって証拠の髪ゴムだよね?」
「そうだけど。他に証拠は何かないの?」
「あっそうだ。これはどう?」
可愛い彼はそう言って手の甲にある二つのホクロを見せて真ん中の皮膚をつまんだ。
「ぞうさん」
私はそう言っていた。
「君も覚えてたんだ?」
可愛い彼は嬉しそうにまた笑った。
彼が笑う度に私の心臓はドキドキする。
笑っても可愛いからなのか、それとも……。
その日は彼と連絡先を交換して帰った。
ちょっと頭の中を整理しよう。
私の待っていた女の子は男の子でその男の子が私を迎えに来てくれた。
それで?
私達はどうなるの?
友達?
だよね。
私は友達だって昨日まで思っていたんだから。
彼もそうでしょう?
◇◇
次の日、部活が今日はないから友達と遊びに行くことにした。
靴を履いて校門の方へ行くと何か騒がしい。
「キャー、何? めちゃくちゃイケメンじゃん」
「イケメンじゃなくて可愛い女の子みたい」
ん?
イケメン?
可愛い?
女の子みたい?
まさか。
私は急いで校門へ行く。
そこには可愛い彼がいた。
「なっ何でいるの?」
「あっやっと来た。君に会いたくて来ちゃった」
来ちゃったって可愛くウインクされても困るよ。
私の心臓はドキドキしてるけど。
女の子の視線が私には突き刺さるのよ。
あなたにはハートだから痛くないのかもしれないけれど私には鋭い刃の矢よ。
「今日は友達と遊ぶからあなたとは無理よ」
私がそう言うと彼は悲しそうな顔をする。
彼に犬の垂れた耳が見える気がするよ。
そんな可愛くても無理よ。
「私はいつでも遊べるんだから今日は彼と遊んだら?」
友達にも彼に犬の垂れた耳が見えるのかも。
友達も彼にメロメロなんだと思う。
私は仕方なく彼と帰ることにした。
彼の横に並んで歩くとすれ違う人がみんな彼を見て私を見てコソコソ話をしている。
どうせ悪口なんでしょう?
ブスが隣に並ぶなとか。
イケメンが可哀想なんて言われてるんだろうなあ。
「俺と離れている間の話を聞かせてよ」
私が下を向きながら歩いていると彼はそう言った。
「何もないよ。友達と毎日、楽しく過ごしていたくらいよ」
「この前の男の人は誰?」
「先輩よ。部活が一緒で憧れの先輩なの」
「それは好きってこと?」
「えっ」
「俺がいなかったから君は他の人を好きになったの?」
彼は悲しそうに私を見てきた。
また犬の垂れた耳が見えるよ。
彼は自分が可愛いって自覚してるよね?
でもどうして悲しそうな顔をするの?
私が先輩を好きで何が悪いの?
私達は友達でしょう?
「先輩は憧れている人で好きか嫌いかで言うと好きよ」
「俺はずっと君が好きだよ。昔も今も」
「私だって好きよ」
「君の好きは俺とは違うでしょう? 俺を女の子だって思っていたじゃん」
「そうよ。だから好きなの」
「俺は君の友達?」
彼がいきなり真剣な顔で私に言った。
可愛いはずの彼の顔が今は男の人の顔で私を見ている。
分かってるの。
彼は私のことが好きなんだって。
でも私にはその気持ちを受け止められないの。
だって彼は今まで私の中では可愛い顔の女の子だったんだよ?
それがいきなり男の子だなんて言われても自分の気持ちが分からないよ。
でも彼のことは好きだからそれだけは伝えたい。
こんな会話をしながら歩いていても彼を見る人の視線と私への痛い視線はなくならない。
ずっとこんな事が続くのなら私は耐えられないよ。
「あなたのことは好きなのは確かなの。でもあなたといると私は耐えられないと思うの」
「耐えられない?」
「あなたも気付いているでしょう? 人の視線に」
「うん」
「私は耐えられないの。人が私に対して痛い視線を向けてくるの。そんなの耐えられないよ」
「君だけじゃないよ。俺にだって視線は向いてるよ」
「でもあなたの視線は痛くないでしょう?」
「俺も君と同じだよ。人の視線は突き刺さるよ」
彼は傷ついた顔で私に言った。
彼の顔で私は気付いたの。
彼は人の視線をずっと浴びて生きてきてるんだと。
私は今日、初めて人の視線が痛いことを知ったけど彼は昔から目立っていた。
誰もが可愛いねって彼を見て言うの。
彼が一番分かっていることなんだ。
それなのに私ったら自分だけだなんて言って彼に謝らなきゃ。
「ごめんね。あなたはあなたで苦しんでいたのに」
「いいよ。俺はもう慣れたから」
彼は慣れたからと言って苦笑いをした。
なんだろう?
彼の笑顔が見たくなった。
「ねえ、近くの公園に行こうよ」
「公園なんて久し振りだよ。行こうか」
彼の苦笑いは消えたけど笑顔はまだ見せない。
「何しようか?」
「君は変わらないね」
「えっ」
「その楽しみにしている顔だよ」
「顔?」
「俺も君のその顔を見ると楽しみで仕方なくなるんだ」
「じゃあ二人で楽しもうよ」
「そうだね」
そして私達は子供のようにはしゃいだ。
誰もいない公園は楽しかった。
私達の貸し切り状態。
遊んだ後、ベンチに二人で座った。
すると彼が私の手を握った。
私は驚いて彼を見た。
彼は笑顔を見せていた。
私の心臓はドキドキしている。
この笑顔が見たかったのよ。
私の心臓はそう言っているように鼓動が早くなった。
「昔と一緒だね」
「昔はあなたは女の子だったけどね」
「昔から俺は男の子だったよ?」
「えっ」
「君のこと大好きで必ずお嫁さんにするって決めてたよ」
彼は昔から私の事が好きだったの?
私と彼の同じ所なんて数える程しかなかったのに?
私と彼は不釣り合いだよ?
彼は美しいのに私は凡人で、目立たないよ?
ダメだよ。
私じゃダメだよ。
「私には無理だよ」
「どうしたの?」
私がうつむいたまま言ったから彼は私を覗き込むように見て言った。
「私じゃあなたの隣に並べない」
「そんなことないよ。君は可愛くて俺の大切な人なんだよ」
「可愛くないよ。あなたには勝てないもん」
「ねえ、顔を上げてよ。俺の顔を見てちゃんと言ってよ。俺と一緒にいるのが嫌ならそう言って」
彼はそう言って私の顎を持ち、上を向かせる。
彼には私の今の顔を見られる訳にはいかない。
私は横に顔を向けて彼から視線を逸らす。
「どうして顔を見せてくれないの?」
声で分かる。
彼が悲しそうにしているのは。
それでも私は彼を見ない。
見たらダメだから。
見たら私の気持ちが彼にバレちゃうから。
「ねえ、顔を見せてくれないならキスするよ」
「えっ」
私は驚いて彼を見てしまった。
彼の顔は苦笑い。
まるで私がキスをされたくないから彼を見たふうになったよね?
そんなことはないのよ。
いやっ恥ずかしくてキスなんてできないし、こんな私が彼にキスされるなんてあってはならないことなんだけど。
「そんなに嫌?」
彼が悲しそうに言った。
また犬の垂れた耳が見えるよ。
可愛すぎだよ。
あ~もう。
知らない。
私はそう思った後、彼を抱き締めた。
誰だってこうなっちゃうよ。
だって、可愛いんだもん。
「これって嫌じゃないってこと?」
彼は困ったように言った。
まあ、抱き締められるってよく分からないよね?
私だってちゃんと返事をしてもらわないと分からないと思う。
「嫌じゃないけど今はこれが精一杯なの」
「上出来だよ」
彼はそう言って抱き締めていた私の手を解き私から少し体を離し私を見つめる。
彼は嬉しそうに笑っている。
私の心臓は今までにないほどドキドキしている。
彼の笑顔をいつまでも見ていられない。
私は彼から目を逸らす。
「ダメだよ。ちゃんと俺を見て」
彼はそう言って私の顎を持って私の視線と彼の視線が合わさる。
「無理。そんなに綺麗な顔を私はいつまでも見られない」
「ダメ。だって俺は足りないから。どれだけ君を見たかったか。どれだけ君に会いたかったか。どれだけ君を抱き締めたかったか。どれだけ君に好きって言いたかったか」
「分かったよ。私の事が好きなのは分かったから。私のことはこれから何時でも見られるでしょう?」
「だからそれじゃ足りないんだよ」
彼は少し拗ねたように言った。
彼は絶対に自分が可愛いことを分かって、言ってるよ。
そして私が断れないことも分かってる。
それなら彼に少し、仕返ししてやるんだから。
私だけがこんなにドキドキしておかしくなりそうなのは嫌よ。
彼もそうなってもらわなきゃ。
そして私は彼を見つめた。
彼はそれが嬉しいのか微笑んで私を見つめている。
さあ、仕返しの開始よ。
私は彼の頬っぺにキスをした。
彼は驚いている。
私の勝ちね。
そう私が思っていたら彼は口の端を少し上げた。
何か悪い事をする時の顔。
そう私が思った時には私は彼にキスをされていた。
頬っぺじゃなくて唇に。
私はすぐに彼から離れる。
「顔、真っ赤だよ」
「それはあなたのせいよ」
「俺のせい? 嬉しい」
「変態」
「変態って、キスをしたのは君が先だよ?」
彼はクスクスと笑っている。
もう。
私が勝ったと思ったのに。
「ねえ、もう一回」
彼は私にそう言った。
また犬の垂れた耳が見える。
絶対、分かっていて言ってるよ。
確信犯よ。
分かっているのに私も断れないのは確信犯なのかな?
私はうなずいて目を閉じた。
すぐに彼の優しいキスが私の心を暖かくした。
あ~とても幸せ。
彼の唇が離れて目を開けると彼は嬉しそうに、そして愛おしそうに私を見ていた。
昔の可愛い社長令嬢の面影は何処にもなかった。
彼は私の大好きな男の子になっていた。
読んで頂きありがとうございます。
読んで頂いた方が読んで良かったと思えるような作品だと幸いです。