そらが光る
警察はしばらくの間、大怪我をして大量の血を吐いて遠くにいけないはずのチーちゃんを探していたけれど、チーちゃんはついに見つからなかった。警察の人たちは私と右沢さんがウソをついているのではないかと疑ったが、血痕とバットに残った指紋は私達のどちらとも合致しなくてチーちゃんの存在を否定することもできなかった。
チーちゃんは消えてしまった。
あれ以来、私の頭の中でチーちゃんの声がすることはなくなった。
代わりに少し喧嘩っぱやくなった私は脇田さんに蹴られた際に脇田さんの顔を引っ掻き返した。つかみ合いの喧嘩になって二人揃って香月先生に怒られる。私が反撃してくることを知った脇田さんは私を蹴ることがなくなる。チーちゃんは正しかった。膝を折って蹲っていてはいけないのだ。「ぶっ殺せ」と私は私を鼓舞する。
多分、あのとき私はチーちゃんを食べたんだと思う。
分解して消化して、チーちゃんは私の細胞と融合した。私はチーちゃんと一つになった。だからもう私はなにも恐くない。自分がいざというときにはバットを握って、“わるいやつ”を粉々にできることを知っているから。
右沢さんは転校していった。
親戚に引き取られることが決まってちゃんとお風呂に入って体をきれいにして服も新しく買ってもらった右沢さんと私は別れた。
のだれけど、ずっと先、大学に入学して右沢さんと私はばったり教室で再会する。右沢さんは臭いどころかシャンプーかなんかのいい匂いがして髪を伸ばしてスカートと薄手のブラウスがよく似合っていてとてもキレイだった。(私は少し嫉妬した)
私と再会できたことを喜んでくれた。
私は右沢さんといろいろと話をしていて、ふと「気に障ったらごめん。名前、変えないの?」と尋ねてみる。
右沢さんは軽く笑って「あんなだったけど親が私にくれた唯一のものだから」って言って絶対に今後もずっとからかいの対象になるであろうピカチュウって名前を抱きしめる。ミミッキュじゃなくて本物の光宙になる。
広い宙で輝く光になる。
チーちゃんは良い子じゃなかった。でも私はチーちゃんのことをずっと覚えている。
暴力的で凶暴で手に負えない、私を庇って戦ったチーちゃんのことをずっと覚えている。