てめぇに食わせるモンはなんもねぇ!!
「親父ぃ!
スタミナ豚骨バリカタねぎニンニク多め頼む!
あ、麺はいつもの細麺だぜ!?」
このラーメン屋は俺の行きつけだ。
腹を空かすと、ここに来ることにしている。
ここの店主の作るラーメンは
俺にとっちゃ格別なんだ!
、、、味はともかくとして。
店主は俺の方を一瞥すると、
「てめぇに食わせるモンなんざねェよ!
俺の店から出ていけ!」
いつになく険しい表情で怒鳴った。
店主は確かに短気な男ではあるが、
いきなり怒鳴りつけてくるなんて。
どうやら今日はちとご機嫌斜めらしい。
これはまずいかも、、、
「なんでだよ親父!
今時客差別なんて世間様が許さねぇぜ?」
俺の言葉に店主の髪が逆立つのを感じた。
、、まあ逆立つ髪なんてないからイメージだけど
「俺を親父と呼ぶんじゃあねえよ!
それになあ、無一文で来店する奴を
客とは呼ばねーんだよ!世間ではなぁ!」
痛い所を突きやがる、、、、
確かに俺は無一文!!!
客を名乗るはおこがましいのかもしれねぇな。
だが、俺には裏技がある!
使うのはこれで2回目になるが。
「ふ...親父よ..俺の空腹を満たすことが
出来たのならば、この俺が親父の皿洗いを
手伝ってやるぜ!
どうせバイトの1人もいないだろ?」
店主はもう我慢の限界だと言わんばかりに、
カバのような口をいっぱいに開いて叫んだ。
「てめぇが割った皿の枚数を
教えてやろうか!???
今まで来店した客の人数よりも
多く割りやがって!
お陰で使うかも分からん皿を
無駄に買い足す羽目になったんだぞ!」
店主は一呼吸ついた後、
まだ言い足りないとばかりに続けようとする。
しかし今度は何故か自慢げである。
「それにな、もうバイトは雇ってあるのさ。
とびっきりのをなあ。
おい!バイト!こっちに来い!」
ここの店主にバイトなんて雇えたのかと
半ば感心していたが、
姿を現したバイトを見て
俺は絶句してしまった。
[手入れの行き届いた美しい黒髪ロングヘアー]
[ボンキュッボン信者の俺好みの悩殺スタイル]
[そして何より際立つのは整った美しい顔立ち]
こちらを見つめるその瞳は儚げで、
どこか懐かしさを感じ......ッ.........て、、、
え?
おい、、?嘘だろ、、?
『俺の元カノじゃねええええかあああああ!!!』
「おい!何で元カノがこんな店で
バイトなんてしてんだよ!
突然俺を振って消えたと思ったら
こんなとこにいたのか!?」
元カノは恥ずかしさと、
申し訳なさを含んだ顔で俯いていたままだ。
「おい!何とか言ったらどうなんだよ...
俺を裏切ったのか!??」
俺は元カノに詰め寄ろうとしたが、
店主に遮られてしまう。
「まぁ、落ち着け。
お前が知りたがってる事は
俺が教えてやるよ。」
店主はもう喋りたくて
仕方がないという様子で、
その臭そうな口を開いた。
「なぁ?お前がここでただ食いしてるのを、
何で今まで見逃していたと思う?
まさか俺が善良な人間だとでも
信じていたか?」
店主は続ける。
ただでさえ醜い顔を
さらに意地悪そうに歪めて。
「お前がこの子と仲良くなった時から、
俺はずっと狙ってたんだせ?
俺の店で飯を食って金を払わなきゃ
無銭飲食、つまり犯罪だ、、」
あぁ、どうしたんだろうか、、
体の内側がゾワゾワする、、、
この気持ちはなんだ?
目の前のクソブタに対する怒り?、、、
それとも、続きを聴くことへの恐怖?、、、、
「健気だよなぁ...お前を守る為だと話すと、
大人しく俺に従う様になったぜ。
こんなに可愛い上に性格まで良いなんてな。
やっぱりお前にゃ勿体ない女だぜ!
ガハハハハ!」
俺は我慢の限界だった、、、
いや、我慢なんて
できるわけが無かった!!
『 黙れぇ!!!』
俺の拳はクソブタの頬を直撃した
鈍い音をたて、クソブタの醜い顔から
血が吹き出した。
だが、華奢な俺のパンチなど、
このデカブツには見た目ほど
効いてはいない様だ、、、、
クソブタはすぐさま手元に置いてあった
フライパンを握り、
俺の頭めがけて思いっきり振りかぶった。
「俺の話は最後まで聴けやぁ!!!!!」
頭にぶつかる寸前に
腕で庇うことには成功したが、
クソブタの力は凄まじく、
そのまま後ろに吹き飛ばされた。
調理器具の収納された棚にぶつかり、
耳障りな金属音をたてながら
俺の体と一緒に崩れ落ちる。
だがそれで終わりではなかった。
クソブタは横たわった俺を、
容赦なく蹴りあげてくる。
避けることの出来ない俺は、
タコ殴り状態になった。
まるでサンドバッグを
蹴るかの様に楽しそうに笑いながら、
クソブタは話の続きを始めた。
「なんで今頃になって、こんな話をしたと思う?
タダ飯ぐらいにもう付き合いきれないから?...
違う
この女に飽きたから?、、、
いいや違う
まだまだ遊び足りないねぇ!!
それはなぁ、、」
もういい。もうたくさんだ。
もう何も聴きたくない。
俺は散らばった調理器具から
包丁を手に取り、
執拗に俺の体を蹴り上げ続ける
クソブタの脚にぶっ刺した。
脂肪で膨らんだ脚から
おびただしい量の血が吹き出す
「ガァアアアアアアアアアアア!!!!!
痛ってぇええええええええええ!!!」
野太い声で鳴くブタだなと思った。
そのままブタは脚を押さえながらうずくまり、
唸り声をあげだした。
俺はもうこの声を聴きたくなかった。
包丁を肩の高さまで持ち上げ、
ブタの首めがけて勢いよく
振り下ろした。
その時、想像だにしてなかったことが起きた。
元カノが俺に向かって飛びかかってきたのだ!
突然のことで避けることの
出来なかった俺は、元カノに押し倒された。
「何すんだ!なんでこのブタを庇うんだ!?
俺とお前を弄んだ男だぞ!」
「違うの!!!!」
元カノが顔をクシャクシャにしながら叫ぶ。
「違うって...何がだよ...何が違うんだ.....」
「私は彼に無理やり従ってたんじゃないの!....
確かに最初は怖かった、、、
すぐに怒鳴るし、
気に入らない事があると暴力に頼る、、、
だけど私が落ち込んでると
黙ってラーメンを作ってくれたりして。
本当は優しい人なんだって気づいた......
でも.......でも......
分かってあげられるのは私だけ!!」
『本気で好きになっちゃったの......』
、、、、、、、、、、、、は?、、、、、、
、、、、こいつはなにをいってんだ?、、、
、
、、、、、、、すきに、、、、なった?、、
、、、え?、、、、、、、、だれを?、、、
俺はもう何も考えられなかった。
いや、考えたくなかった。
だけどあの男は苦しそうな声で
しかし勝ち誇った声で言った。
「そういう事だよ!てめえはもう用済みだ!
てめぇに食わせるモンは
何もねえ!!」
どうしてこうなったんだ?
俺はただラーメンが食べたかっただけなのに
親父の
手料理を食べたかっただけなのに
ただ一緒に居たかっただけなのに
何もかもに耐えられなくなった俺は、
痛む体を引きずりながら店を出た。
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外はすでに真っ暗だった
静寂に包まれた世界は
知らない場所に
放り出された様に錯覚させる
一寸先も見えない深い闇は
この街には俺しか
存在していないのではと錯覚させる
いつもはなんて事ないのに、寂しくて
俺は温もりを求めてネオン街に向かった
そこでは
ネオン街のカラフルな電灯と
酔っ払いの喧騒が
俺の存在を証明してくれている
あれはなんだ?
ネオンの影から何かが手をこまねいて誘っている
俺は逃げる
逃げる
俺を受け入れてくれる存在に
温もりを与えてくれる存在を求めて
でも
そんな人、俺にはあと1人しか残されてはいない
「こんばんは〜、、
あら?あなたがうちに来るなんて
珍しいわねぇ〜。
何か用かしら?」
「俺が用もなく来たら行けねぇのかよ」
「そりゃ困るわよ。
私はフリーな女として売り出してるんだからね。
第一あなたお金はあるの?」
「、、、あるよ、じゃなきゃ赤の他人と」
女の唇が重なって俺は何も喋れなくなる
女が笑う
「分かってるじゃない。じゃあ大事なお客様ね。」
俺も笑う
こんなに煌びやかな場所なのに
影は既にそこにいて
俺を見つめて笑っていたから
レビュー宜しくお願いします!