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096.事後処理

 ──レッドキャップ襲撃事件明けの朝を迎えた──


 前日の戦闘でバカな事をした面々は、若さの証である筋肉痛に見舞われていた。


「お、おにいちゃん、まともに動けないのです……」


「だろうな。と言う訳で、昨晩に伝えておいたように、今日は休息日にする」


「サンちゃんとダーハちゃんは、ちゃんと寝ててね」


「なんであなた達三人は平気なのよ……」


「いや、オレ達もしっかりと筋肉痛になっている。ただ、その程度が軽いだけだ」


「筋肉痛は魔法で完全回復させると、ついた筋肉が元に戻ってしまうにゃ」


「そうなると鍛え直しになるらしいから、また痛い思いをする事になるよぉ」


「せっかくついた筋力なんだ。ちゃんと休んでろ」


「くっ、冒険者ランクが上がったその日のうちに、フルボッコってあんまりよ」


 実際の所、マサト達三人の転移者に筋肉痛は無かった。

 それはマサト達の場合、宝玉の成長が自身の強化に繋がっているからだ。

 レッドキャップ戦を経てマサト達の宝玉は、その内在する輝きを大きく強めた。

 それに伴って各自の身体能力も大きく強化されていたのだ。

 それは、宝玉の力と身体のバランスを取る為に起きている現象。

 それで間違いが無いだろうと言うのが、マサト達の結論であった。


 そうこうして、うるさいサンディを大人しくさせていると部屋の扉が叩かれた。

 それは冒険者ギルドからサントスへの呼び出しを伝えるものであった。

 さすがにこれは無視出来ないと、サンディは身支度を整えだす。

 こうして、ベスは金物屋へ向かい、マサト達三人は冒険者ギルドへと向かった。


 ──仮設冒険者ギルド──


 前日のレッドキャップ襲来事件明けの冒険者ギルド。

 そうなると、また赤髪の剣士のコスプレイヤーが大勢いる状況を予想していた。

 しかし今回は、ギルドに近づいてもそれらしい人物達を見かけなかった。

 不思議に思いながらギルド内に足を踏み入れると、そこでその意味が分かった。


「ち、違う。俺はオマエ達が言う『赤迅の剣士(ヴィシニ・サイフォス)』じゃ無い。許してくれぇ!」


「ええい、黙れ。それはこちらで調べさせてもらう。連れて行け!」


「はっ!」


 目の前で赤髪の剣士改め、赤迅の剣士とやらがゴツイ戦士に連行されて行った。

 その様子を見ていたギルド内の冒険者達が、またバカが来たと呆れていた。


「おい、なんか今回は、前回とかなり対応が違わないか?」


 マサトは思いもしなかった光景に、心底焦りを覚えていた。

 そのマサトの疑念にサントスが答える。


「今回は、『塩害の女王(ハルス・バシリッサ)』が目撃されていますからね。

それと共闘していた者と言う事で、国が出張って調査を開始したようですね。

赤髪の剣士と赤迅の剣士が区別されたのは、隠れ蓑にされた可能性からでしょう。

両者が本当に別人で、濡れ衣を着せたとあっては一大事です。

多くの優秀な人材が他国に流出して行く切っ掛けになりかねませんからね」


「なんだか、スゴイ事になってたんだねぇ」


「ああ、英雄と言うよりも、害種の塩狐を連れていた危険人物視の方が大きいな」


「だから、そんな者を(かた)ったバカな者も含めて厳しい対応を取っているようです」


「そうなると、これから会うギルド長との顔合わせにも注意が要りそうだな」


「まぁ、その時はボクが怪我をしているサンちゃんを支えて守ってあげるよぉ」


「ええ、お願いします」


 マサト達は受付嬢に招集に応じて来た事を伝える。

 そしてしばらく待たされた後、ギルド長の下へと案内された。


 ◇◇◇◇◇


「良く来てくれた。私がここの冒険者ギルドを預かっているディルムだ。

まずは、この場に同席してもらっている二人を紹介しておこう。

私の片腕でもあるリーデルと、衛兵団から出向いてもらったトーラスだ」


「リーデルと申します。

あちらにおられるトーラスさんについて説明させていただきます。

彼はレッドキャップが討伐された際に、衛兵団の指揮を執っていた方になります」


「おう。よろしく頼む。それと固っ苦しい挨拶は苦手だ。

ケガをしているってのは聞いてる。無理せずにさっさと座って話そうや」


「ご丁寧にありがとうございます。サントスと申します。

ゆえあって、このような姿で申し訳ありません。どうかご容赦下さい。

連れの二人は、パーティを組んでいる仲間のマサトとハルナです」


 サントスは、定型文の挨拶を交わして、フードを取る事を拒否する。

 そして続いた言葉を受けて、マサト達は頭を下げて挨拶を交わした。

 その後サントスは、お言葉に甘えてソファーに座らせてもらう。

 そしてサントスに肩を貸していたマサト達は、その後ろに控えて立っていた。


「それではさっそくだが、サントスには、いろいろと聞きたい事がある」


 そう切り出したギルド長の話は、要約すると以下だった。


 レッドキャップとの遭遇時の事。

 その情報を残す為に衛兵に託した文章の内容についての話。

 最後に、討伐がされた際に居た『灰鉱石の匠(オア・スィデラス)』がサントスでは、と言う嫌疑。


「ちょ、ちょっと待って下さい。

聞いた事のない名前がいくつか出て来たのですが、それは何ですか?」


 サントスは、前の二つの質問に関しては、スムーズに答えていた。

 しかしながら、最後の質問には、かなり困惑と動揺の色を見せる。


「『塩害の女王(ハルス・バシリッサ)』は、有名な名称ですから分かります。

それに『赤迅の剣士(ヴィシニ・サイフォス)』の名前も、先ほどギルド内で聞きました。

しかし他の三つは、何ですか?」


「ああ、それはレッドキャップと戦っていた他の三名を指す識別名だ。

水流の魔女(ハイドロ・マンサー)』が、赤迅の剣士(ヴィシニ・サイフォス)のパートナーと見られる水使い。

槍の戦乙女(ロンヒ・デスピニス)』が、霊体馬(スピリットホース)を召還したエルフの槍使い。

灰鉱石の匠(オア・スィデラス)』が、グレイライズ製の武具を魔石加工出来る弓使いの事だ」


 トーラスから聞かされたその大層な名称に、三人の顔が引きつる。


「その弓使いって言うのが、うちのサントスではないか、と言う事ですか?」


 マサトは、こいつらは正気か? と言う思いで訊ねる。

 すると対面しているディルムとリーデルが真面目に(うなず)いた。


「当時自分は負傷して逃げていました。

なので、意味も無くあんな化け物の相手をしに戻ったりしません。

どこをどうしたら自分とその者とを、同一視する考えが出てくるのですか?」


 サントスは、どうして自分とベスを同一視出来るのかが気になって質問する。

 するとリーデルが、その問いに答えた。


「まず第一に、身に着けている装備の類似性が上げられます」


「はぁ、そうですか……」


 サントスは、それを聞いて生返事を返すしかなかった。

 すると、トーラスが横槍を入れて来た。


「おいおい、それはちょっと違うぞ。

コイツのフードには大きなバツ印のような縫い跡がある。

アイツの物には、そんな物は無かったし、微妙にコートの色も違っていたぞ」


「そんな事は些細な事です。問題は両者が持つ技能です。

ゴールドランクに昇格した者の中で、サントスのみが弓に関する適正があります。

しかもかなり高い習熟度で、です」


「トーラス、そう言う事だ。

外見を変える事は出来ても、身に付けた技能は誤魔化せない」


「だが、アイツは……」


 トーラスが何かを言おうとした所を、ディルムが制す。

 そして本題を切り出した。


「そこでなんだが、そのフードを取って素顔を見せて欲しい」


「私には『鑑定』の能力があります。

それは対象が人ならば顔を認識する事で、あらゆる偽装を打ち消して視れます」


 そう言ってリーゼルは、掛けていたメガネを外してサントスと向き合った。


「なんだか犯罪者を見るような目で見られている気がします。

気分の良いものではありませんね。

それに自分が顔を隠しているのは、以前に負ったケガが原因です。

見せるのも見られるのも好きではないからなのですが……」


 これも一応、定型文で答える。サントスは、鑑定をされる事には問題なかった。

 なぜなら鑑定勝負なら、自分の方が上位の能力を持っているからだ。

 だから隠し通したい情報は、全て偽装して相手に与える事が出来る。

 しかし、素顔を晒すのは、よろしくない。

 トーラスに、『槍の戦乙女(ロンヒ・デスピニス)』だとバレてしまうからだ。

 そんな事をサントスが考えていると……

 

「サンちゃんって、その職人さんみたいな魔石加工って出来ないよね?」


「ああ、そう言えば魔石加工をやってる所を見た事が無いな」


「「えっ?」」


 マサト達の話を聞いたディルムとリーゼルは、大前提を崩された。


「ああ、そう言えば、いつも人が作っている所を見ていました」


 そして、その事実に今更ながらサントスも気づく。


「それは、出来ない振りをしていたのではないですか?」


 リーデルは、マサト達が偽証をしているのではないかと疑う。


「でもサンちゃんと一月くらいパーティを組んでたけど、全然見た事がないよぉ」


「何かを作る時は興味を示しても、いつも隣で見ているだけだったよな」


「じゃあ、サンちゃん、ちょっと何かを作って見せてあげなよ。

それを鑑定してもらえれば、サンちゃんの名前が出るんでしょ?

それならどっちの条件もクリア出来るよね?」


「おお、そいつは良いな。

目の前で作ってもらった物なら小細工も出来ないだろう。

オマエ達も、それで良いんじゃないか?」


「そ、そうですね」


 リーデルは、目の前の人物が噂の名工であるならば不評を買いたくは無い。

 その者が塩害の女王に通じる者であったとしても、彼が作り出す武具は優秀だ。

 無理やり顔を覗いて、名前を確認する事が出来たとしても、後の対応に困る。

 だから彼が作り出す物の銘を確認する事が出来るのであれば、十分だと考えた。


「でも自分は、難しい物は作れないですよ」


「じゃあ、サンちゃんには、ボク達が最初に作った時と同じ笛を作ってもらおう」


 そう言ってハルナは、サントスに見本の笛と材料を手渡す。

 そしてサントスは、言われるがままに魔石加工に挑戦した。


【パリィィィーーーンッ!】


 それは六度目の失敗。今回も使用した魔石が途中で砕けて四散した。

 それはズブの素人が見せる現象。いや、それ以上にヒドイ。

 一度乗れるようになった自転車を、乗れないように見せるのは意外と難しい。

 それは、一度覚えたバランス感覚が、身を守る為に無意識に調整するからだ。

 そしてそれは、この魔石加工に対しても同様の事が言えた。

 その為、ここまで分かりやすい明暗の差が出たのなら、もう確定と言って良い。

 ド素人だと……


「サンちゃん……」


「ずいぶんと高級な笛を作ってるんだなぁ」


「ごめんなさい、ごめんなさい。これでも真面目にやっているんです」


 その後もサントスは失敗を繰り返し、やっとの事で一つの笛を完成させる。

 その頃にはもう、ディルムとリーデルは何も言わなくなっていた。

 そしてリーゼルは、笛にロッシュの銘が無い事だけを確認して静かに返却した。


「確かにディルムの言う通り、身に付けた技能は誤魔化せないな」


 その様子をトーラスだけが、面白がって笑っていた。


「すまなかった。

商業ギルドにも所属していると言う事と運搬系の依頼の達成が優秀だったから、

物を作る技能にも精通しているものだと思っていた」


 ギルド長が、謝罪の言葉を()べた。


「ああ、なるほど。それが三つ目の理由だったのか」


「サンちゃんは、どっちかって言うと転売屋さんだものねぇ」


「はぁ、とんだ大赤字です。もう魔石加工には絶対に手を出しません」


「それに関しては、こちらにも非があります。

さすがに全てとは言えませんが、使用した魔石の半分は、こちらが持ちましょう。

それとレッドキャップに対しての初動での情報提供に報奨金を出します。

後ほど受け取って下さい」


「それは助かります。治療費の足しにします。それでは失礼します」


「お待ち下さい。話はまだあります」


 サントスは、これで話は終っただろうと思って立ち上がたが、制止される。

 レッドキャップ関連で他に何か話す事があっただろうかと思案する。

 しかし、一向に何も思いつかないので、引き止めたリーデルの言葉を待った。

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