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095.決着

 ◇◇◇◇◇


 激しい激突音を最後に辺りに沈黙が訪れる。


 サンディは、(まま)ならない身体の代わりに必死で視ていた。

 赤髪の剣士とレッドキャップが交差する直前。

 赤髪の剣士は、目を(つむ)っていた。

 それは背後から視ていたサンディですら分かった。

 なぜなら刀を固定する為であったのであろうが、(こうべ)が垂れていたからだ。

 それを視てサンディは、ゾッとした。正気を疑った。

 今まさに生死を掛けた瞬間に、何をしているのかと。

 もしかして、恐怖から反射的に目を閉じたのかとも思った。


 だから錯覚した。


 赤髪の剣士の姿が、レッドキャップの手甲剣に貫かれたかに見えた。

 

 しかし赤髪の剣士は、その場には居なかった。いや、その先に居た。


 赤髪の剣士は、レッドキャップの手甲剣との交差の刹那、異常な加速を見せた。

 その事がレッドキャップからの致命の刺殺点を赤髪の剣士に越えさせた。


 赤髪の剣士が、手甲剣の懐の内に飛び込む。

 ()しくも互いの最速を超た一撃が、そこに集約された。

 直後に起きたその激突は、カウンターとなる。

 そして、両者が生み出した力が収束した一撃が、レッドキャップを貫いた。


「■■■■■」


 腹部を貫かれたレッドキャップが、耳障りな雄叫びを上げて抵抗する。

 そして、懐に潜り込んで来た赤髪の剣士を引き離すべく手を伸ばした。

 しかしながら、飛び込まれた際に身体を激突されたのが、右肩の付け根だった。

 その為、右腕の動きが極端に制限される。

 あまつさえ右手から伸ばされている手甲剣が、その稼動域を更に阻害していた。

 ならばと左腕を振おうともしているが、そちらはすでにマヒで封じられていた。

 レッドキャップは、()むを得ず手甲剣を格納して、右腕での引き離しを試みる。


 だから赤髪の剣士は、その勢いのままレッドキャップの右肩を更に押し込む。

 そして、レッドキャップを後方に激突させるべく力を込めた。


 しかし、その軌道上には赤髪の魔女の姿があった。

 赤髪の剣士の攻撃は、味方への誤攻撃状態(フレンドリーファイア)となっていた。


 赤髪の魔女は、自身の前方に展開していた四つの水鏡レンズを収束させる。

 そして、一つの水流にまとめる上げると、宝杖を構えて射出体勢を取った。


 対して赤髪の剣士の方も動く。

 レッドキャップを貫いている宝刀の刀身が、わずかに(かす)んだ。

 それは光の屈折からだったのか、その刀身を歪んで見せる


 そして、急接近する両者が、レッドキャップを挟んで、その力を解放した。


流水圧砲(ハイドロプレッシャー)


武零駆(ブレイク)

 

 それは、赤髪の魔女が放った水流と、赤髪の剣士が追撃した剣技による挟撃。


 ここに至ってサンディは察する。

 この一連の流れが、二人によって計画された攻撃だったのだと。


 レッドキャップの突撃刃(アサルトブレード)を前に赤髪に剣士が取った行動。

 敵の攻撃を前に目を瞑ったのは、この連携の合図だったのだと。


 それに気づいた時、サンディは背筋を凍らせた。


 赤髪の剣士が攻撃体勢に入った後ででは、手でサインを送る事は出来ない。

 だから目を瞑る事で、視認させられる合図を送っていたのだ。


 それを赤髪の魔女は、水鏡レンズで観測して魔法を発動させた。

 それは、味方を引き寄せる合流魔法、マージ。

 それが、赤髪の剣士を急加速させた。

 そして、致命的な刺殺点を回避しカウンターを成立させたのだ。


 言葉にすれば単純だが、それは恐ろしくリスキーな行動。


 赤髪の剣士は、パートナーを信頼して、その命を預ける。

 赤髪の魔女は、パートナーの命を背負い、恐怖と戦いながら引き金を引いた。


 どちらも正気とは思えない事を敢行したのだ。


 しかし、それでもレッドキャップは仕留められなかった。

 普通ならそこで手札が尽きただろう。

 だが、あの二人はその先も用意していた。

 おそらくそれは、赤髪の剣士が用心をして用意しておいた策。

 赤髪の魔女では、こんな危険な方法を思い付かない。


 その策とは、マージで二人が同一線上に向かい合ってしまう事を利用した挟撃。


 赤髪の魔女の『流水圧砲(ハイドロプレッシャー)』とは、生活魔法の『流水(ストリーム)』を攻撃特化した魔法。

 それは現代の放水車と同じく、高圧が掛けられた水流を高速で射出する。

 赤髪の魔女は、二人が同一軸に立ったのを確認すると、マージを解除した。

 そして、赤髪の剣士にレッドキャップのコントロールを(ゆだ)ねる。

 そこからは、マージの合図の観測に使用していた水鏡レンズを操る。

 そして、水鏡レンズを再利用して、流水圧砲(ハイドロプレッシャー)を完成させていた。

 その一連の流れで放たれた魔法は、攻撃対象者に高威力の打撃力を見舞わせる。


 赤髪の剣士の『武零駆(ブレイク)』とは、宝刀に留めておいた『刃路軌(ハジキ)』を開放する技。

 それは、最初に会得したのが刃路軌(ハジキ)であったがゆえに、修得が逆となった技。

 

 宝刀に刃路軌の力を充填して強化する技と、その力を解放する技。

 そんな、ある意味で基本とも言える技を遠回りした挙句に統合して修得した技。

 それが、装填済みの刃路軌を任意に開放する技、武零駆(ブレイク)であった。


 赤髪の剣士は目を瞑り、レッドキャップへの軌道を赤髪の魔女に託した。

 それはマージの使用タイミングの合図。

 そして同時に、自身は武離路で使用した一発分の装填を行っていた。

 赤髪の剣士は、まだ不慣れだった刃路軌の充填に集中する。

 そして最大の六発までの装填を完了させた。

 それと同時に、刀身がわずかに(かす)み、歪んで見えるようになる。

 それは、宝刀の周囲に不可視だった力が満ちたがゆえの現象。


 ここに、両者の準備が全て整う。

 赤髪の剣士と赤髪の魔女が、同時に最終工程へと移行する。

 互いが、自らが持ちえる最大のカードを同時に切った。


 流水圧砲(ハイドロプレッシャー)が、レッドキャップの背中を打撃と同時に(えぐ)る。

 そして、その打撃によってレッドキャップを直立させた状態。

 それこそ、内部破壊を狙った武零駆(ブレイク)が、最大限に威力を発揮する体勢。

 身体の内と外。その同時破壊攻撃はレッドキャップを絶命させた。


 サンディは、二人が敢行した『合流挟撃(マージストライク)』に戦慄する。


 そこには、この結末をもたらした威力も含まれている。

 しかし、それだけではなかった。


 赤髪の剣士が、自分の身を投げ出して敢行した決死の攻撃。

 赤髪の魔女が、二つの魔法の発動と解除を見極めた決断の攻撃。

 同士討ちが起こり得て、常に綱渡りとなっていた攻撃。

 阿吽の呼吸で合わせられた二人だからこそ出来た攻撃。

 それら全てを支えていたのは、パートナーを信じて疑わなかったと言う事実。


 ハルナが、人狼を倒したと言う事は聞いていた。

 しかし、それはこのような激しい魔法ではなかった。

 マサトが、慎重で用心深いのを知っていた。

 だから、あのような賭けに出る行動を取るとは思わなかった。


 レッドキャップが、同じ転移者であった事で、倒す事に躊躇(ためら)いを見せていた。

 その事を(たしな)めたのは自分だった。しかし、自分の方が考えが甘かった。

 この二人が覚悟と決断をしたのなら、ここまでの事が出来たのだと。


 ベスの事を思い出す。

 不可能とされていたグレイライズ鉱石を使った武具を複数製作して見せた。

 しかもそれは、決意してたった数日の出来事だった。


 レッドキャップの事を振り返る。

 凶暴なまでの攻撃性と驚異的な戦闘適応力。

 今ならそれが、ベスの生産能力とは別の彼の特性だったのではと思える。


 そして、近すぎて気づかなかった元転移者のお父様。

 その中古鑑定とは、人の想いを汲み取り伝えて残す能力。

 

 サンディは、改めて転移者という存在の異常性と特殊性を認識する。

 そして、そんな彼らの事を軽視して(あなど)っていた自分を自覚した。


「おい、大丈夫か?」


 サンディが、呆然としていた所に声が掛けられる。 


 そこには、紅い光を纏った赤髪の剣士と赤髪の魔女が近づいて来ていた。

 その紅い光は、レッドキャップが討伐された際に放出された物。

 そして、ケンジが死亡した際にレッドキャップに溶け込んでいった物。


 その事に気づいたサンディは、思わずギョとして二人を鑑定する。

 しかし、そこには以前に見た時との差異は無く、エラントの表記も無かった。


 その事にホッと胸を撫で下ろして安堵する。

 そして再度、赤髪の剣士の方を向くと、彼は周囲を見渡して誰かを探していた。

 その間に赤髪の魔女は、気を失っている二人の共闘者へ回復魔法を施している。


「それと、離れていた所で熾輝夏砂(しきげしゃ)を目撃したが、二人は無事か?」


 そして、目の前にいる本人達に気づいていない事を知らされる。

 そこでサンディは、張り詰めていた緊張が一気に抜けてしまった。


「はぁ、そこで倒れている二人がそれよ。とにかく話は後にしましょう」


 サンディは、それだけ伝えるとヴィジランテを召還する。

 そして周囲の喧騒(けんそう)を払い退けて、その場から離脱した。

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