091.選択
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衛兵達の動きが組織的なものへと変わった。
マサトは、その陣形が包囲殲滅の形となった事で一時撤退を決定する。
この形になってしまえば、いくらレッドキャップとは言え、脱出は困難である。
「やっと指揮官らしき者が出て来てくれたか」
マサトは、ポーションを一気に飲み干して一息つく。
そして、衛兵達の消耗を抑えていた効果が実った事に安堵した。
「それにしても、まーくん、よくあんな状態で衛兵さん達を守りながら戦ったね」
ハルナもマナポーションを飲んで、魔力の回復に努めている。
その顔には当然、疲労の色が浮かんでいた。
「本当よ、あんな無謀な者達を庇って何をしているのかと思ったわよ」
そしてサンディからも手厳しい言葉が掛けられる。
「ぶっちゃけ、オレにとって彼らの命は、オマエ達と比べれば重くは無い」
そう言ってマサトは、レッドキャップを抑えている衛兵達を見守る。
「だからマシな戦い方で、有効に時間を稼いでもらいたかっただけだよ」
マサトは、空になったポーションのビンを収納して立ち上がる。
そして、逃走の為とは言え、金物屋から離れ過ぎた事を後悔する。
これでは、まともにベス達と合流する事は難しいだろう。
マサトは思案にふける。
手持ちのカードでは、レッドキャップ討伐の目処が立たない。
それは、ベス達と合流したとしても変わらない。
だがレッドキャップとの決着は、ここで決めなければならないだろう。
少なくとも逃げられてはダメだ。
それは連帯責任の呪縛があるからに他ならない。
「サンディ、ベス達とのつなぎを付けて欲しい。行ってくれるか?」
「……あたしがここから離れたら、マサト達はどうするつもりなの?」
怪訝そうな顔をしたサンディが、マサトの要望に答えずに質問を重ねて来る。
「オレ達はレッドキャップから目を離す訳にはいかないから見張に付く」
「まーくんとボクなら、いくつか逃げる手段があるからねぇ」
「それにサンディには馬車を預けてある。いざと言う時の為に備えていて欲しい」
「その、いざと言う時って、どんなケースなのかを聞いておきたいわね」
「そうだな。大まかには二つだ。
一つは、オレ達との合流を急ぐ必要が出来た時。
もう一つは、レッドキャップが逃走した時に追走する為だな」
「……そう、分かったわ。マサト、無理はしないでよね」
「ああ、気をつけるよ」
マサトが、サンディを送り出すとハルナが寄り添って来た。
「まーくんは、サンちゃんを逃がす為に、ああ言ったんだよね」
さすがにハルナも、レッドキャップがサンディを狙っていたのに気づいていた。
ゆえに、そこはもう隠す必要は無いだろうとマサトも認める。
「半分は、そうだな」
「半分?」
「まぁ、それはそれとしてだ……」
マサトは、レッドキャップへの対策を思案する。
同時に連帯責任の呪縛の影響を考えた。
マサトの目に映るハルナの外的変化は、髪の紅化だけである。
しかしながら、その内在している魔力は、かなり高まっていた。
その影響と反動だろう。
先程ハルナと合流した時に、かなりの疲労を抱えていた。
それはマサトも同様であった。
内から湧き上がるような感じで、ゆっくりと力が増大していく。
普段以上の力や技を発揮出来るようになっていく。
それはおそらく、今はまだ人の身に収まるものでしかない。
だがいずれは、レッドキャップが振るう暴力の域にまで達するであろう。
それは、レッドキャップに対抗する為には有効なものではあった。
しかし、そうなった時に、人の身でいられる保証は無い。
そして現状でも、この現象は有効を通り越して害となっていた。
ゆっくりと湧き上がるように来る力とは言ったが、それは唐突に起こる。
その為、急に訪れる力の変動に、マサトは翻弄されていた。
無駄に力が掛かった攻撃は狙いがズレる。
これは、単に暴力を振るうタイプであったなら影響は少なかったであろう。
しかし、こちらは周囲の人間を巻き込む訳にはいかない。
そんな事になれば、レッドキャップと同様に、討伐対象にされかねない。
だからマサトは、その力の変動への対応に徹して戦っていた。
だがそれも、これ以上は無為に体力と精神を削がれ続けるだけだと考え直す。
そして、もう引き伸ばせないと思い、ハルナに訊ねた。
「ハルナの方には、レッドキャップに有効そうなカードって何か残っているか?」
「残念だけどボクには思いつかないね。
窒息攻撃も払い除けられちゃってるからね。
あとは普通に全力で『流水』をぶつけてみるくらいかな。まーくんは?」
マサトは、レッドキャップと衛兵団の戦闘に視線を向ける。
「そうだな、単純だけど可能性がありそうなのが、一つ見つかったかな」
「おおっ、さっすが、まーくん」
「で、その前提条件にサンディが邪魔だった」
「サンちゃん……」
がんばっていたサンディを理解しているだけに、ハルナも複雑な表情を見せる。
「ただそれも、相手の土俵で戦う事になるから、本当は良い手段では無いな」
「でも、まーくんは、それを試すつもりなんだよね?」
「ああ、だからサンディを引かせた」
そしてマサトは、ハルナに自分が考えている策を伝えて協力を求める。
しかし、ハルナは顔を青くして、それを拒否した。
「まーくん、いくらなんでも、それは危険すぎるよ!」
「まぁ、そう言われるのは分かっていた。
でもこの後で連帯責任の呪縛が、どんな影響を生み出すかが分からない。
だから、このリスクは許容する」
「あっ、もしかして、サンちゃんが居たら多数決で負けるから追い払ったんだね」
「さぁ、なんの事だろうな」
マサトは、そう言う思惑もあった事を、バレバレの態度で誤魔化す。
そして次の瞬間、真面目にハルナに向き合って答えた。
「だがオレの蒟蒻切じゃ、まともな斬撃は放てない。
代わりに頑丈なのが取り得だ。
そこは利点なんだから利用しない手はないだろう?」
「でもこれって、失敗したら大ケガだけじゃ済まないんだよぉ」
ハルナは、マサトの身を案じて声を震わせた。
「無い頭を振り絞って捻り出した苦肉の策だ。他の手が思いつかない。
上手くいけば倒せないまでも動きを止めるところまではいけるだろう。
ケガをした時は、素直にハルナに頼らせてもらうよ」
そう言うとマサトは、ハルナを抱きしめて最後の一押しを頼む。
そして、レッドキャップの下へと向かった。




