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089.レッドキャップ

 ◇◇◇◇◇


 レッドキャップは、時折チカチカと顔に飛び込ん来る光に煩わされていた。

 それはこちらを見ている補助観測者(スポッター)者に違いないと分かってもいた。


 しかしながら、その者の所に辿り着こうにも距離が離されている。

 だから、最初に先制された時のような、単身で身を晒す事を止めた。

 常に雑兵共を蹴散らして、巻き込まれる者を多く近くにはべらせた。

 そうすると、弱々しげな魔法ですら飛んで来なくなった。

 やはり味方は巻き込みたくはないらしい。

 強力な魔法は厄介だが、所詮単純な思考ルーチンのNPCしかいないらしい。


 そうこうして無双ゲーを楽しんでいたら、補助観測者(スポッター)の動きが止まった。

 だから反攻に出るには良い機会だと考えた。


 レッドキャップとしては、矮小(わいしょう)な覗き魔の相手は好みではなかった。

 そんな者よりも武具を持った者達を相手にした方が楽しい。


 特に、あのグリーンコートは面白いキャラだった。


 そしてそのグリーンコートに与えたつもりでいた薙刀。

 これは、グリーンコートが逃走した事で、再度入手してから使い続けている。

 これがなかなか使い勝手が良かった。

 魔法が飛び交う中を回避しながら無双する僕って最高っ! 

 と、かなり楽しませてもらっている。


 だがそこで、いろいろと分かってきた。

 最初に撃ち込まれたスゴイ魔法。

 アレ以外では、自分にまともなダメージが与えられる攻撃が無いみたいだ。

 

 そうなると今度は、あの魔法を撃ち込んだ者を見つけたくなる。

 やはり、いつまでも放置しておく訳にはいかないだろう。

 今までのお遊びムードから考えを少し切り替え始める。


 それからは、ストイックに敵を倒す事を突き詰め始めていった。


 目の前の敵を倒すと同時に、次の敵を倒す算段と位置取りをする。


 時折覗き込んで来る光と視線。

 そして魔法の射線を意識して、周囲の建物の配置を記憶して身を隠す。


 そうした下準備を整えていると、間抜けな補助観測者(スポッター)の動きが止まった。

 レッドキャップは、その間抜け面を拝みに嬉々として光の下へと強襲を掛ける。


 だが、相手が間抜けであっても、さすがにこちらの動きを察知したらしい。

 標的の光は二手へと分かれた。


 レッドキャップは迷わず、その内の一つに襲い掛かる。


 逃げると言うのであれば、相手は戦う準備が出来ていない。

 だから、最初のような強力な魔法が飛んで来る事もない。

 準備が出来ていない相手を怖がる道理はない。


 だったら迷う必要は無い。叩き潰してやるだけだ。


 プチッと、サクッと、ブニョッと。

 小さな虫を潰すように……でもやっぱり、ブニョッとはイヤだな。

 だって気持ちが悪いんだもん。

 やっぱりサックッとが一番良い。

 後片付けは、他人に任せちゃえば良よね。

 って言うかさぁ、死んだなら、さっさとキレイに消えてくれないかなぁ。

 それで、ドロップ品は、ちゃんと道具袋に入れていって欲しい。

 あと、処理落ちでラグって、タイミングがズレるのってキライなんだよ。

 ああもうっ、さっきから横から出て来るモブがウザイなぁ。

 碌なアイテムも装備も落とさないのを相手にするのって、そろそろダルい。


 あっ、今度は紅い敵が出て来た。しかも二体だ。


 一体は前のイベントに出て来た、赤髪の剣士ってヤツだ。

 後ろにいるのは始めて見るタイプだ。

 しかも、さっき逃げて行ったグリーンコートが射撃武器を持っている。


 そうか。奥にいる赤髪の魔女が、ここのボスか。

 モブを一定数倒すと出て来るんだろう。


 よし、まずは邪魔な取り巻きから処理して行こう。

 相手は、イベントボスだ。

 この薙刀以上のお宝アイテムを持っているに違いない。


 レッドキャップは、物理耐性が低そうな赤髪の魔女を目指して直進する。


 その行動を阻止するべくグリーンコートが矢弾を浴びせてくる。

 しかしながらその矢弾の雨は、自身の強固な身体を碌に傷つける事が出来ない。


 その予想外に味気の無い矢弾の威力に、レッドキャップは(あなど)りの笑みを見せる。

 しかし、次の瞬間、ガツンッとした衝撃と共に、身体が後方に押し戻された。


 集中して飛来する矢弾を見てみると、そこに通常弾以外の物が混在していた。

 レッドキャップは、毒や麻痺の付加効果が加えられている物がある事に気づく。


 レッドキャップは推測する。

 距離を詰めた時に、更に別の本命弾が放たれたのだと。


 レッドキャップは、逃走を続けながら撃ち込まれて来る矢弾を処理する。

 そして再び間合いを詰めた。


 相対的な速度では、レッドキャップの方が圧倒的に優位に立っている。

 そのレッドキャップが、再び間合いを10メートにまで詰める。

 すると再び衝撃と共にレッドキャップは弾き飛ばされた。


 今度は注視していた。

 だから、この攻撃がグリーンコートの矢弾による物では無いと分かった。


 そうなると、グリーンコートの前後に位置する二匹の赤髪のどちらかだ。


 そして三度目のアタックで、邪魔をしていたのが赤髪の剣士の方だと分かった。


 赤髪の剣士が、訳の分からない空振りをした直後に、正面から衝撃が訪れる。

 つまりあの攻撃は、後ろの二つのユニットへの接近を妨害する為の攻撃だ。


 マンガとかであるカマイタチ現象とか言うドキュン攻撃の(たぐい)だ。

 確かに風とか真空とか言う物での攻撃なら見えなかったのにも納得がいく。


 でも、そう言う攻撃って、普通はものすごくスパッと斬れる攻撃じゃないの?


 ただ吹き飛ばすだけって、ぬるいユニットだなぁ。

 コイツもザコキャラじゃん……


 って思っていた時期が僕にもありました。


 ウゼェーッ! 超ウゼェーッ! 邪魔すぎ。接近しづらい。

 それに近寄っても、今度はバリアみたいな物を持っている。

 しかも、後ろの魔女と連携して、目潰しや拘束。

 挙句の果てには、緊急離脱して逃げて行く。


 もう面倒だから放置しよう。

 と思ったら、今度はあの魔女が、顔面に水溜りをぶつけて来やがった。

 危うく地上で溺死しする所だったぞ。エゲツねぇ!


 なんだよ。赤いクセに水を使うとか、カラーイメージおかしいだろ!

 マジでムカついた。もう絶対許さない!


 レッドキャップは、(わずら)わしいが、矢弾は無視する事にした。

 そして赤髪の剣士に肉薄すると、バリアによる抵抗が消えた。


 どう言う仕組みなのかは分からない。

 しかし、そのあまりにもな謎の仕様に、バカにされている気になってくる。


 だがレッドキャップは、容赦なく豪腕に物を言わせて殴打する。

 下手な防御や回避を見せたなら、容赦なく手甲剣を伸ばして赤髪の剣士を刺す。


 赤髪の剣士が負傷すると、グリーンコートが剣を構えて立ち塞がってきた。

 そして後方に控えた赤髪の魔女が回復を施す。


 赤髪の剣士が持つ刀は、切れ味こそ無かったが、ものすごく頑丈だった。

 だけど、グリーンコートが持つ武具は、最初の槍を除くと非常に脆かった。

 だから、その一本の槍を破壊した後は、もうやりたい放題となっていた。

 出て来る剣や槍が気持ち良いくらい軽快に壊れていく。

 そうなると、その小気味良い破壊音が楽しくなってくる。


 ただ、そのうちに、無尽蔵に出てくる武具に飽き飽きして来た。

 だからすれ違い様に振り回した右腕で殴りつけて、吹き飛ばしてやる。


 その時、グリーンコートのフードがめくれて、その素顔が(あらわ)となった。


 グリーンコートは、すぐにフードを被り直して後退する。

 しかしその時、僕の目は、しっかりとその姿を捕らえていた。


 色白で美しい、金髪のエルフの女性。


 それは、ファンタジー世界での有名種族。

 噂で、この世界にも居るって聞いてはいたけど、実際に目にしたのは初めてだ。

 僕は、思わず興奮していた。


 そして僕は、全てを理解した。


 これは、僕と彼女が出会う為のイベントだったんだ。

 そうだ。僕は彼女と出会ってパワーアップした。

 彼女こそ、僕の為にいるヒロインだったんだ。

 すれ違いによる戦いを通して、二人は惹かれ合っていくんだ。

 そうだ。彼女は僕の物となるべき【存在】だ。


 これは、僕が彼女を手に入れる為に用意されたイベントだ。


 そうと分かれば、やる事は一つだ。

 彼女を手駒にしている悪い魔女と、目の前にいる邪魔な剣士を倒す。

 そして、開放された彼女は、魔女の手から救い出した僕の下へとやって来る……


 待っていてね。すぐに僕の物にしテ、アゲル、カラ、ネ……


 レッドキャップの紅い瞳が、怪しく、そして力強い輝きを放ち始める。

 そしてその顔は、先程までとはまた違った醜悪なものへと歪んでいった。

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