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087.エラー

「さぁ、良い死合(ゲーム)をしよう」


 サントスは、一方的な蹂躙でしょ、と思う。

 そして、嬉々として宣誓をしたレッドキャップに近づく。

 放り投げられて路上に刺さった薙刀を手にする為に……


 ここは弱肉強食の世界。

 プラス思考の世界。

 言い換えれば、強い者には決して勝てない世界。

 だから、更に強くならなければいけない世界。 


【ガシャーーーンッ!】


 雷鳴のような激しい轟音が響いた。


 それは、対峙している両者の頭上に現れた(まばゆ)い光の直後。

 雷鳴と共に、激しい熱量を放つ巨大な赤槍が出現して地面を穿った。


 そのあまりにも無情な強襲は、両者の中央に……

 いや、レッドキャップに向けられて投射されていた。


 それは、レッドキャップからわずかに()れた位置に着弾した。

 そして、着弾と同時に巨大な赤砂の竜巻を発生する。

 その赤砂の竜巻は、レッドキャップを逃がすまいと引きづり込んでいく。

 レッドキャップは全身を竜巻に飲み込まれて、焦熱地獄へと叩き落される。


 その見覚えのある現象を前にして、サントスは後退した。


 竜巻に巻き込まれないように、そしてレッドキャップに捕捉されないようにと。

 そして、無人となった建物の中に身を潜めて退避し、それを投じた者を探す。

 すると、程なくして遠い建物の上から戦況を見守る一人の人物を発見した。


 その者は、紅く長い髪、仮面とマントを身に着けた人物。

 そして、自身の正面に三つの透明な円形の物体を浮遊展開させていた。


 赤髪の魔女とも言うべき特徴の人者。

 それは、サントスが思い描いていたダーハの姿とは大きく掛け離れていた。


 そしてその人物には、大きな問題があった。

 それは、その者もまた、サントスの鑑定に情報が開示されない者であった。


「見つけた!」


 サントスは背後から肩を掴まれ、心拍を跳ね上がらせる。


 そのくぐもった声に恐怖する。

 サントスは肩に置かれた手を振り払って、身を返すと同時に後ろに飛び退いた。


 そして視界に捕らえた声の主。

 その者もまた、紅い髪をした未知なる者(アンノウン)であった事に再び恐怖する。


「な、何者です。あのレッドキャップの仲間ですか!」


 パニックに(おちい)り、ガチガチと歯が震えているのが(おさ)まらない。

 それでも、サントスは必死に目の前の者を追及した。


「サントス、落ち着け。オレは『本物』だ。見覚えがあるだろう?」


 サントスは、自身の名前を呼ばれて、いくらかの平静を取り戻す。

 そして改めて見た赤髪の剣士の姿に緊張の糸が途切れて、大泣きをした。


「お、おい、サント…… サンディ、落ち着け。

こっちも、すぐに確認したい事があるんだ。

だから……一泣きまでは待つから、今は好きなだけ吐き出せ」


 赤髪の剣士は、嗚咽交じりで泣きじゃくるサンディを抱き寄せる。

 そして、気が済むまで溜め込んだ感情を吐き出させた。


 ◇◇◇◇◇


「赤髪に変色させるバレッタは、あたしが持っているのに、

なんでマサトは、わざわざ髪を染めて、赤髪の剣士の姿に変装しているの?」


 マサトに、ひとしきり泣き喚いて落ち着きを取り戻したサンディが訊ねて来る。


「まぁ、今は、こっちの姿の方が、いろいろと都合が良いんでな。

それでだ、サンデイは街中に出現したって言う魔物の事は知っているんだよな。

ソイツの事は視たのか?」


 マサトは、最も確認したかった事を訊ねる。

 なぜなら、その答えを知り得るのがサンディ以外に思い当たらなかったからだ。


「ええ、視たわよ。

でも、『errar(エラー)』表示が出ていて、まともな情報が得られなかったわ。

ただ、途中からエラー表示の隣に、

レッドキャップって言う名前が現れたかしら」


「『error(エラー)』表示? サンディの中古鑑定って、

そんなシステムのようなものなのか?」


「システム? よくは分からないけど、今まで見た事が無い状態なのよね。

そう言えば、マサトともう一人。

赤髪の魔女を視た時にも、似たような感じで、まともに視えなかったわ」


「そうか……」


 マサトは、サンディの話を聞いて考え込む。

 その様子を不安げな表情でサンディは視つめ返して来て……


「あれっ、マサトの表示も、おかしくなっているのに、

レッドキャップのようなエラー表示が無いわね?」


「何っ、どう言う事だ?」


「えーと、よくは分からないんだけど、マサトにはエラー表示がないのよ」


「意味が分からないな。

サンディ、とにかく知っている事を最初から話してくれないか?」


 マサトは、起きた出来事を順番に聞いていく。

 その中で最も興味を引いた出来事があった。

 それは、レッドキャップが出現する前に起きた二人の冒険者達のトラブル。

 その様子を聞いて、顔をしかめて考え込む。

 腕を組みながら天を仰ぎ、エラー表示の件を聞いて、もう一度考え込む。


「サンディ、もしかしてなんだが、それってエラー表示とは別物じゃないか?」


 マサトは、辿りついた推論からサンディに訊ねる。


「とにかく、もう一度よく思い出して欲しい」


 マサトの中では、一つの結論が出ている。

 だが、それを確定させない事には、今後の行動が決められない局面であった。


 マサトは、サンディが視た記憶を歪めない為にも、これ以上は言えなかった。

 もう一度、正確に思い出してもらえないかと頼むしかなかった。


「ええと、アレってエラー表示以外の何者でも無かったと思うわよ。

間違いなく『errar』って……あれっ? 

エラーの(つづ)りって、『error』だっけ? そうなると……」


 改めて口に出した言葉に、サンディが違和感を示し出す。


「あれは、err……an……t つまり、異常なアリ?」


【それだっ!】


 サンディが思い出したキーワードとマサト達が置かれている状況が合致した。


「な、なんなのよマサト。いきなり大声を出して」


「これで状況が確認出来た。『errant(エラント)』だ。

あの魔物は間違いなく、運命の女神が言っていた【逸脱者(エラント)】 

エラント・レッドキャップ。それがアイツの正式な名称だ」


「えーと、運命の女神様の名前が出て来るって事は、

あのユウタとケンジって言う冒険者達も、マサト達のような転移者なの?」


「サンディ……そいつらの名前を知っていたのなら最初に言って欲しかった。

もう、その名前だけで確定で良かったくらいの情報だ」


「えっ、そうなの?」


 マサトは、その日本人らしい名前を聞いて、間違いなく同郷の者達だと思う。

 しかしながら、それをサンディに求めるのは無理だったと言った後で反省した。


「とにかく、簡単に現状を説明すると、オレとハルナは、

一緒に転移して来た集団内で起きた身内殺しによる

連帯責任の呪縛(チェーンライブラリー)】を受けている」


「呪縛! 呪われているって事?

そんなものは、お父様から聞いていないわよ」


 サンディは、元転移者であった父親からの話を思い出していた。

 どうやら本当に知らなかったようで驚きの表情を浮かべている。


「それは、当時は連帯責任の呪縛(チェーンライブラリー)なんてものが起きていなかったのかもしれない。

だが、現にその影響を受けたオレやハルナは、

髪が紅く変化して、その兆候が現れている」


 マサトはサンディの父親が、わざと話さなかった可能性を伏せて話を続ける。


「それは、髪を染めているんじゃなくて呪いなの?」


「だろうな。エラント化と言うものの兆候だろう。

あのレッドキャップの影響を受けて、アイツと同じ特徴が現れているのだろう。

このままだとオレ達もアイツのように変質する事になるな」


「マサトが魔物になるって言うの! それを回避する方法は?」


「運命の女神が言うには、

元凶となった始祖のエラントを討伐すれば解呪されるらしい」


「それは……分かりやすいけれど、ずいぶんと無茶な条件ね。

最初の頃なら、まだ力に振り回されている感じがあったから

可能性は見れたけれど、

最後に見た時は、変化に慣れてしまっていたわ。

一瞬で六人を瞬殺するような相手を、どうやって倒すのよ」


「やりようはあると思う。

今のオレ達は、エラント化への影響なのか、

それとも対抗能力みたいなものなのかは分からないが、

レッドキャップ程ではないが、身体が活性化している。

一撃での即死だけは避けられると思う」


「それって、気休めにもなってない気がするわよ……」


「生きていれば、やり直しがきく。

生き残った分だけ、チャンスもあるんだよ。

あとは移動しながら対策を考える。ハルナ達と合流するぞ」


 マサトは、サンディに声を掛けてから建物から出る。

 そして戦闘音を探って、レッドキャップが暴れている現場へと向かった。

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