084.発見
◇◇◇◇◇
「サンちゃん、ゴールドランクへの昇格、おめでとう」
「おめでとうなのです」
「すみません。結局見つけられず、無駄足になってしまいました」
「まぁ、それはそれで良い情報が得られたと、前向きに考えようじゃないか」
サントスが、冒険者ランクを更新の終えて戻って来る。
「それにしてもアッサリとランクが上がったな」
「それは戦う相手にもよるので、必ずしも最後まで残っている必要が
無かったからでしょう。
逆に、自分よりも後まで残っていた者で、現状維持の者もいたようでしたよ」
「サンちゃんが言っていた、引き際を試験官が見ていたのかもだねぇ」
「そうですね。
ギブアップをしたら試験終了とは言っていましたが、
昇格させないは言っていませんでしたからね」
そう、サントスは、途中でギブアップしたのも関わらず、昇格は果たされた。
逆にサントスより後まで残るも、昇格を見送られた者もいた。
試験官達は、戦闘の実力だけを見ていたのではなかったのだろう。
おそらく、勇猛と無謀を履き違えている者を振るいに掛けていたのだ。
そう言った意味だと考えれば、サントスの昇格は納得が出来た。
しかしながら、サントスの顔色は優れなかった。
「まぁ、そんな些細な事は置いておくとして……」
「あのあの、ゴールドランクになる事って、些細な事では無いと思うのです」
「本来は冒険者にとって、一人前と認められるって事なんですけどね。
でも、マサトの言う通りで、今回ばかりは、そうも言ってはいられないですね」
マサトが、サントスがランクアップした事を軽視した事にダーハが戸惑う。
しかしサントス自身が、その事を認めた事でハルナ達も真剣な顔つきとなった。
「サントスは、試験の参加者全員を『観察』しているにも関わらず、
目的の刀身は見つからなかった。
これって、サントスの目から逃れられる手段を持っているって事だよな」
「そうだね。
少なくとも、やっぱりマジックバックのような物を持っているかもだよねぇ」
「もしくは、よほど変わった能力を持っているって事になりますね」
「えとえと、それじゃあ、どうするのです?」
「相手も分からず、下手に関わるのも厄介そうだ。
そうなると手を引くのが賢明だろうな」
「そうですね。
ダーハには申し訳ないですが、
新しい物はベイルに作ってもらう事になっていますし、
今回は諦めてもらえますか?」
「あのあの、わたしは大丈夫なのです。
そのぉ、ありがとうなのです」
サントスは、期待を持たせたのに諦めさせる言葉を掛けている事に心を痛める。
そしてダーハも、一度は諦めていた物を必死に探してくれた事に感謝をした。
「それじゃあ、サンちゃんがランクアップしたんだし、お祝いをしようよぉ」
「そうだな。今から狩りに出ても碌に回れないしな」
「はいなのです」
「では、自分はデザートを希望します」
「うん、まぁ、今回はサントスが主役だからリクエストは構わないけど、
手持ちの材料でのレパートリーなんて、そんなに多くはないからな」
「それじゃあ、まーくん。食材を探しながら行こうかぁ」
「そうだな」
マサトは、ハルナの意見に同意するも、そこで一度考え込む。
そしてサントスに向き直って言った。
「ただ、サントスは、先に金物屋に行ってくれるか?」
「えっ、自分だけ仲間はずれですか?」
マサトの突然な言葉に、サントスは衝撃を受けて立ち尽くす。
その様子に、マサトも足りなかった言葉を補足した。
「そう言う意味じゃない。
ただ、ベイルに今日の事を伝えておいて欲しいって事だ。
実際に盗まれた薙刀を見たのはサントスだけなんだ。
サントスが見た事と、ベイルが覚えている盗まれる前の事を摺り合せれば、
多少は目的の人物を見つける手がかりになるかもしれないだろう?」
「まぁ、確かにそうですね」
「記憶って言うのは時間が経つと、忘れるだけならまだ良いが、
変な先入観や思い込みで歪んでしまう。
そうなる前に少しでも情報を得ておきたい。
これはサントスにしか出来ない事だから頼む」
「そう言う事なら分かりました」
マサトの意図を理解してサントスは了承する。
しかし別れ際に、再度デザートの事を念押しをして行った。
それに対してマサトは、ヤレヤレと思案する。
そして、ひとまず卵と牛乳は見つけて帰ろうと言う結論を出した。
◇◇◇◇◇
製錬都市に張り巡らされた無数の水路。
これによって街中を行き交う人々の動線は、最短距離を辿れてはいない。
近そうに見えても遠回りを強いられる通りには、多くの店舗は軒を連ねている。
人々は、目的の有る無しに関わらず、店舗の前に並べられた商品を見せられる。
その内の何人かは、目に入ってしまったがゆえに、予定外の出費に導かれる。
そしてそれは、店主達にその日の糧を供給した。
それは、通りをオフモードに入って歩いていたサンディにも当てはまる。
視界には否が応も無く、いろいろな商品が飛び込んで来ていた。
そんな時はサンディも、ちょっと意識を露店に向けて掘り出し物を探す。
基本的には、冒険者として役に立ちそうな物はないかと小物に視線がいく。
ストレージコートがあるので、武具に関しては、あればあったで良い。
しかし、常に身に着けられて動きに制限が掛からない物の方が好みであった。
とは言っても、サンディが求めているのは中古能力を宿すアイテム。
そう言った物は、そうそう見つかるような物ではない。
体感で荷物が少しだけ軽く感じられる背負い袋。
山歩きが気持ち分、楽になる鉈。
視界には微妙なアイテムは視えている。
そんなサンディの視界に、また微妙な品が入ってくる。
それは入れたお湯が、ぬるま湯になってしまうと言う中古能力を持つアイテム。
名称には、ぬるま湯の桶と言う表示出ている。
いつものサンディであれば、スルーしたであろう困ったちゃんな商品。
しかしながらマサト達が、こんな感じの物を魔道具屋で探していた。
なので、ひとまず購入しておく事にする。
仮にマサト達が思っていた物と違っても、転売してしまえば良いのだから。
サンディが、購入した桶をストレージコートに収納しようと人目を避ける。
そうして踏み込んだ路地の奥から騒がしい声が聞こえて来た。
そこには最近流行している赤髪の剣士のコスプレをした二人組みが居た。
その二人は、何か激しく言い争いをしているようだった。
何気なく見たその二人は、先ほどの昇格試験で見た者達であった。
なぜそんな事を覚えていのたかと言えば、双子だったからだ。
一人は最後まで残り、みごとに昇格を認められた者。
もう一人は、サントスより後まで残った者の一人だった。
しかしその彼は、無謀な突進攻撃を敢行した結果脱落していた。
当然昇格も見送られ、顔を真っ赤にしていたのが印象的だったので覚えていた。
「(見覚えのある顔ですね。確か……
そうそう、ユウタとケンジとか言う双子でしたね)」
サンディは、マサト達と比べて少し幼く感じる二人を視て、名前を再確認する。
そして確認を終えた直後、彼らは取っ組み合いを始めて争い出した。
血の気が多い冒険者が殴り合って、燻っていた思いを発散させる光景。
それは、野良のパーティでもよく見せられていた。
サンディは、これも通過儀礼だと思いながら通りに戻るつもりでいた。
しかしそれも、剣を抜きあってのものへと推移した事で状況が変わってしまう。
ユウタが抜いた剣がケンジを襲い、それに対応すべくケンジも剣を抜く。
しかしながら、その剣は無常にも手からこぼれ落ちて乾いた音を響かせた。
「あなた達、こんな所で何をしているのですかっ!」
サンディは、遅れながらも冒険者サントスとして、私闘を諌めに入る。
そして駆け寄ったケンジに、取り出したポーションを与える。
その時、ケンジの身体と手からこぼれ落ちた剣が紅く発光して変化した。
その変わりゆく剣の様子を視せ付けられて驚愕する。
そこに現れた物は、一度は見失った見覚えのある長物。
視界に捕らえたそれには、『ベイルブレード』との表示が現れていた。




