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083.発端

 ──製錬都市に訪れて8日目の朝を迎えた──


 その日も冒険者ギルドが貼り出している依頼ボードを見に来ていた。

 そんな中、なぜかサントスは、ボードから視線を反らしていた。

 その視線の先には、名物と化しつつあるニセの赤髪の剣士様御一行の長蛇の列。

 サントスは、その列の様子を(いぶか)しげに見つめていたのである。


「サンちゃん、さっきから余所見(よそみ)をしてどうしたの?」


 様子がおかしい事に気づいたハルナが言葉を掛ける。

 するとサントスは、希薄な反応を返して逡巡する。

 そしてしばらくしてマサト達に向き直って口を開いた。


「マサト、今日は例の特別昇格試験を受けてみたいのですが良いですか?」


 マサトは、サントスが予定になかった行動を提案をして来たので理由を訊ねた。


「まぁ、噂で聞いた感じだと、特別昇格試験の規定が今までのものとは違って、

個人の戦闘技能に重きを置いているようだから、

護衛依頼を受けていないオレ達にとっても貴重なチャンスなんだろうけど、

サントスは、そんなに受けたかったのか?」


「違います。調査と言うか、確認したい事があるのです。

昇格自体は目的ではありません」


「サンちゃん、それってどう言う事なの?」


「『ベイルブレード』がありました」


「「えっ!」」


 サントスの言葉に、マサトとダーハが反応して周囲を見渡す。

 その様子に、ハルナが一人だけ取り残されていた。


「え~と、まーくん達、どうしたの?

ベイルさんの剣があったって事?」


「違う。ダーハの槍が見つかったって事だ」


 マサトの言葉を聞いて、ハルナも周囲を見渡す。

 しかし、この場には槍のような長い武具を携帯している者は見当たらなかった。


「サントスは、確かに視たんだな?」


「はい。あの武器は、仕様変更の話を聞いたベイルが、

面白がって命名した特注の刀身(ベイルブレート)を使用しているので、

ダーハ用に作成した物以外に、あのような表記は現れません」


「あっ、なるほど、そうだったんだぁ。

確かベイルさんに頼んだのって【薙刀(なぎなた)】だったよね?」


「ですです。でもこんな人の多い所で、よく見つけられたのです」


 サントスの説明を聞きながら、マサト達は何度も周囲を見渡す。


「赤髪の剣士の姿をしながら、携帯している武器が長物だったら

違和感を感じるのは当然でしょう。

そこで思わず視たら、ベイルブレードの表記が確認出来たのです」


 サントスは答えながら、赤髪の剣士達が流れて行く試験会場に視線を向ける。


「それで、ソレを持っていたヤツの確認は出来たのか?」


「いいえ。直後に列になっていた集団が移動を始めたので、そこで見失いました。

ですが、今日試験を受けている者の中に、所持者がいるのは間違いありません」


「だから調べようと思った訳か」


 マサトは、サントスの話を聞いて考え込む。


「まーくん達は、ダーハちゃんの薙刀を取り返すつもりなの?」


「どうしたものかな。

相手によっては、見つけられたとしても、

こちらの主張を通して取り戻せるかが分からないからなぁ」


「ですから相手の素性や実力をつかんでおきたいです。

なので、この昇格試験を利用したいと思います」


「なるほど、よし、サントス行ってこい」


「えっ?」


 マサトは、サントスの提案をアッサリと認めて送り出す。

 逆にサントスは、唖然とした反応を返して来た。


「あのぉ、もしかして試験を受けるのは自分だけなのですか?」


「そうだよ。別に全員で試験を受ける必要は無いだろう。

オレは強制依頼とか受けたくないからランクを上げるつもりも無いし」


「あっ、そっかぁ。じゃあボク達は、サンちゃんの応援をしに行くねぇ」


「がんばってなのです」


「えーっ、ちょっとは手伝って下さいよ……」


 サントスは、自分から言い出した事なのに、ふてくされ始める。


 しかし、そこはマサトが、しっかりと反論を返す。

 ベスが居ない状態で昇格試験を受けるのは、あまり良くないと。

 パーティの冒険者ランクの管理と言う点から避けたいと。

 マサトは、そう言ってサントスを誤魔化して送り出した。


 ◇◇◇◇◇


「このクソったれども、これから特別昇格試験を始める。

だが、今日も妙な格好をした集団ぞろいじゃねぇーか。

もう、まともに相手すんのも面倒くせぇから、オマエら潰し合いをしろ!」


 どうやら、試験官達も連日のコスプレツアーの客達に疲れていたようだ。

 手っ取り早く人数を絞る為に、今日からバトルロイヤル方式を導入していた。


 そうなると試験会場では、ブーイングの嵐が沸き起こる。

 しかし、次第に口を開いた者達が大人しくなっていく。

 どうやら周囲を取り囲んでいた補佐官達の手によるもののようだ。

 ある物は魔法で眠らされ、ある者は拘束される。

 こうして無力化された彼らは、この瞬間をもって試験終了となる。

 そして、周囲に流された参加者の約四割が降格処分となっていった。


「オーケー、オーケー。

オマエ達は、人の話を聞くと言う知能と理性を持ち合わせている

マシな部類のクソったれ共だ。

それでは説明を続けるぞ。

最終的に4人になるまで潰し合ってもらう。

途中で補佐官達によって敗北判定された者と、ギブアップをした者達は、

そこで試験は終了だ。オーケイ?」


 試験官は、参加者達が頭を縦に振っているのを確認すると話を続ける。


「オーケー、オーケー。

あとコレは試験だから、殺しは禁止だぞ。

不慮の事故で死にたくなければ、さっさとギブアップしな。

逆に殺したヤツは、降格が確定だ。

試験のルールは分かったな。

それじゃあ始めるぞ、レディー・ゴー!」


 唐突に始められる特別昇格試験。


 すでに、先ほどの不意打ちでの脱落者達を見ていた参加者達に動揺は無い。

 自らの武器を武器を構えて、戦闘態勢に入っていた。


 彼らが真っ先に狙ったのは、赤髪の剣士の姿をしていない参加者達。


 それは彼らが、参加者達の大多数が持つ武器とは異なる武具を持っていた為。

 彼らと相対した時に、実力以外の武具で優劣が付く事を極力無くす為の共闘。

 赤髪の剣士達は、先に数の暴力で異端者達を潰しに掛かる。


 そして、その狩られる側には、当然サントスの姿もあった。


 サントスは、襲い掛かって来る剣士達に対して槍を構えて応戦する。


 剣士達の眼前に穂先を突きつけて間合いを制す。

 対峙した者の視線を穂先に引き付けて誘導し、肩口を叩き、脚を突く。


 それは決して大きな損傷とはならなかった。

 しかし、確実に相手の戦闘能力を削り、動きを鈍らせる。

 そして動きが鈍った狩猟者達は、新たな獲物として認識されて狩られていく。


 サントスは周囲の捕食者を、次々と被食者へと変えていく。

 弱肉強食の法則に(のっと)って同士討ちを誘発させる。


 そして残りの人数が絞られて来る。

 そこでサントスは、ギブアップを宣言して試験を終了した。


「おおう、サンちゃんって強かったんだぁ」


「はわわわ、すごかったのです」


「あなた達は、今まで自分の事を、どう言う目で見ていたのですか……」


 サントスは、二人の純粋な賞賛に肩を落とす。


「そうは言うが、槍を使ったのって、バッファローを狩った時くらいだからな。

それもパーティを組んでの戦闘だ。

個人技を見せられたのは初めてだったからなぁ」


「はぁ、分かりました。そう言う事にしておきます」


「でもでも、なんでギブアップしたのです?

まだまだ大丈夫そうだったのです」


「そうでもないですよ。

あの時点で残っていた者達が相手では、分が悪すぎましたから。

自分の状態や周囲の状況の見極めが出来ないと引き際を見誤ります」


「は、はいなのです」


「それで、目的の物は見つかったのか?」


「あっ、そうだったよぉ。昇格が目的じゃなかったんだよぉ」


 マサトがサントスに質問した事で、ハルナ達も当初の目的を思い出す。

 そしてサントスは周囲を見渡した後、こう答えた。


「いいえ、見つかりません。

試験結果が出ていない以上、退出者は居ませんよね?」


「ああ、それはオレが確認している。

それらしい形状の長物も見ていないな」


「そうですか。

自分もギブアップする直前に、残っていた者の中に、

それらしい所有者が居なかったのを確認したで、

確認をする前に脱落した者が所持していたのかと思って、

切り上げて来たのですが……

これは一体どう言う事なのでしょう」


「それって、今はマジックバックとかに収納されていて

使っていなかったって事になるんじゃないの?」


「えとえと、そうなると、試験で良い評価をもらいたい訳なので、

今はもっと強い武器を使っているって事です?」


「もしくは使い慣れた武器を使っているのかもな。

ダーハの薙刀は、あくまでダーハの身長に合わせた物として作られている。

だから他人が使おうとした場合、本来の想定とは違って来るはずだ。

乱戦となる事が分かった今回の試験では、使えないと判断したのかもな」


「う~ん、マサトの考えは分かるのですが、

ハルナやダーハの意見を踏まえると、やはりおかしいですね」


「あのあの、どうおかしいのです?」


「そもそもマジックバックを持っているような者が、

ベイルの店から火事場泥棒のようなマネをするのでしょうか?」


「「「あっ!」」」 


 サントスの疑問を聞いて、マサト達は薙刀が盗まれた経緯を思い出した。


「そうだよぉ、

もともとはギルドが炎上していた時に起こった火事場泥棒なんだよ。

薙刀って、確かに変わった武器だろうけど、

高価なマジックバックや強い武器を持っているような人が、

盗んでまで欲しがる物とは思えないんだよぉ」


「と言う事は、あってもそれほど高価ではない予備の武器で戦っている、

と考えるのが正しいのか?」


「えとえと、そうなると肝心の薙刀が行方不明なのです」


 サントスが、周囲を再度確認する。

 しかし、目的の物が見つからず、時間だけが過ぎていった。


 そして手をこまねいていると、昇格試験は終了する。

 そうなると参加者達は自然とバラバラに散って行ってしまった。

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