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082.職人達の絆

「まぁ、なんだ、俺の方の仕事も順調だから、

早ければあと二日もあればベスを戻してやれそうだぞ」


「それはありがたいな。だけど、そんな短時間で鍛冶の腕って上がるのか?」


 それは、ベイルの話を聞いたマサトの率直な感想だった。

 するとベイルは、木箱に詰められる前の釘を一本取り出してマサトに見せた。


「アレは自分の事を二流だなんて言っているが、

かなり金属の扱いに精通しているぞ」


「そうなのか?」


「ああ、かなり勘所が良い。

だから鈍った腕と、グレイライズ鉱石の特徴を掴む目的で

数をこなしているって感じだ」


「そうか。まぁ、ベスは、時々変な方向に考えを巡らせる事があるし、

実態が掴みづらいんだよな」


「まぁ、腕の良い職人は大歓迎だ。嫁に来てくれるなら尚良しだ」


「お断りにゃ!」


 ベイルが、ドサクサに紛れて勧誘と求婚をする。

 しかし、今まで大人しくしていたベスが、間髪を入れずにツッコミを入れた。


「オマエ、ネタにしても、いい加減にしろにゃ」


「そうだねぇ。ボクの目が黒いうちは、ベスにゃんをお嫁さんには出さないよぉ」


「つまり殺してでも奪い取る、ってヤツになる訳だな」


「あのあの、今はどう言う話になっているのです?」


「仕方がないにゃ。いざとなったら私が暗殺するしかなさそうにゃ」


「はわわわ!」


「ベスにゃん、冗談だから止めてね」


「本当に、どうしようもない人達ですね」(パクパク)


「なんか、エセ商人に言われると腹が立つにゃ」


 ツッコミを入れるべき人間がボケに回ると、ボケの連鎖が続く。

 そうなるとダーハのように、混乱する人間が出てくる。


「と言うか、聞いた話だと、金物屋も魔道具店の店主も、

互いに気に掛けたり、感謝したりしているのなら、

付き合うとかって話にはならなかったのかにゃ?」


 ベスが単純に、二人の関係性を結びつけて言う。


「ベスにゃんにしては珍しい、小学生のような単純な発想だねぇ」


「そうかにゃ?」


「止めてくれ。あくまで商売上の付き合いだけだ」


「あのあの、店主さんは美人さんだったのですよ?」


 ベスの意趣返しの意味を込めた言葉に、ダーハは素直な反応を返していた。


「う~ん、美人だとは思うが、なんと言うか、馴れ馴れしいと言うか、

距離感が近いと言うか、とにかく落ち着かない相手で苦手だ」


「ああ、確かにそんな仕草があったな。

もしかしたら目が悪くて近眼なのかもな。

そう言う人は、相手の顔を見ようとして自然と距離感が近くなるからな」


 マサトは、ベイルが感じている苦手意識には、身に覚えがあった。

 しかしながら、ここは一応、魔道具店の店主にもフォローも入れておいた。


「そうなのか? 

まぁ、魔道具を作れるのだから、職人仲間としては良いが、

美人でも近くに居て落ち着かない相手を嫁にしたいとは思わないだろう?」


「そうか、ベイルの考え方は良く分かった」


 マサトは、なぜか自分に異様な威圧感を含む視線が向けられているのを感じた。

 なので、ベイルが同意を求めて来た問いに答えず、理解を示すだけに留めた。


「ところで、先ほどからベイルとレディオスさんの

結婚話をしていたように聞こえたのですが、

なぜそんな不毛な話をしていたのですか?」


「「「「「えっ?」」」」」


 サントスの一言に、その場に再び沈黙が訪れる。


「サンちゃんは、何を言っているのかな? 

どう聞いてもベイルさんとミレディさんの話だったよね?」


「いやいや、ちょっと待て。なんでそこでレディオスの名前が出て来る!」


 ハルナが、サントスの間違いを指摘する。

 それに対してベイルが、顔を青ざめながらサントスに訊ねる。


「あのあの、そもそもレディオスさんとかミレディさんって誰の事なのです?」


そしてダーハも、かなり混乱していた。


「ダーハは何を言っているんだ。

魔道具店で会った店主がミレディじゃないか」


「あの店主さんの名前がミレディさんだったのです?

初めて知ったのです」


「えっ? ダーハちゃんもミレディさんと会った時に一緒にいたよね?」


「自分とダーハは、マサト達よりも遅れて行ったので、

あの店主の名前は聞いていませんよ」


「あっ、確かにそうだったよ!」


「いや、だから待てって! そもそも今の話のどこに、

ミレディの亡くなった旦那のレディオスの名前が出て来る要素があったんだ?」


 ベイルは状況が飲み込めず、サントスを問いただす。


「えっ、もしかしてサンちゃんって幽霊とか見える人?」


「魔物化したものならいざ知らず、そんな体質は持っていません」


「じゃあ、なんで死んだ人間の事を、見ず知らずのオマエが知っているんだよ?」


「えっ? それは自分の『観察』の能力で視たからですが?」


 そしてその場に、三度(みたび)の沈黙が訪れた。


「あのあの、どう言う事なのです?」


「ダーハちゃん、ちょっとボクと一緒に後片付けを手伝ってくれるかな?」


「あっ、はいなのです」


 ハルナは場の空気を読んだ。

 そして食事の後片付けの為にダーハを連れて、その場から離れた。


「つまり、エセ商人が視た魔道具店の店主の本名って言うのが、

亡くなったと言われていた旦那のものだったって事かにゃ……」


 ベスが、全てを察して重い口を開くと、周囲の様子を見回した。


「うおっ、鳥肌が立ってきた。

レディオスのヤツが、王都から戻って来た時の事を知ってた連中が、

大分変わってたって言ってたのは、そう言う意味だったのかよぉぉぉ!」


 ベイルは、今まで自分が感じていた違和感の正体を知ってしまった。

 そして込み上げて来た思いが、溢れて絶叫した。


「だから、なんでそんな不毛な話をしていたのかと聞いたのですが……」


 マサトは、魔道具店でハルナがスルーした店主の言葉を思い出す。


『うふふ、女性も魔道具も、ロウソクの灯りで浮かび上がった姿が、

最も美しく見えると思いませんか?』


 マサトは、今ならなぜ魔道具店の店内が妙に薄暗かったのかの理由が分かった。

 それは、視覚的に真実に辿り着く事を阻害する為のものだったのだ。

 そして一連の流れから、店主に協力者がいた事実も浮かび上がって来る。


「まぁ、なんだ。良い連中じゃないか。

あの店主の事を、そっとしておいてやっている訳だからな」


 マサトは、製錬都市に根付いている職人達の懐の深さをシミジミと感じた。

 そして、彼らに敬意を(いだ)くのであった。

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