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081.悪魔の道具

 ──金物屋──


 魔道具店からの帰路。

 少し遠回りをして牛乳とチーズを露店で購入してから金物屋へと引き返す。


 金物屋に戻ると、再び勝手知ったる他人の工房、と言う流れを繰り返す。

 ハルナが魔道具店で購入した携帯コンロのを取り出す。

 そして、その調子を確かめながら夕食用にシチューを作り始める。

 またその隣では、ダーハがパスタマシンを使ってパスタ麺を作っていた。


 その様子を、ベスが横目で何か言いたそうにしていたが、皆で無視する。

 そして、ベイル達が仕事を終えるのを待って、全員で夕食を囲んだ。


 そのテーブルの上には、パスタとシチューとグラタンが、ズラリと並んでいる。


「あと、サラダも作ったよぉ」


「それ、ポテトサラダじゃないか……」


 そして、当然のようにポテトサラダの中にはパスタ麺が(あえ)えられていた。


 これらが美味しいであろう事は認めるが、どれも材料と味に大差が無い。

 せめてパスタを、クリームソースじゃなくてトマトソースにして欲しかった。

 マサトは、そんな事を思いながら、共有の腕輪の中をあさる。

 そして、収納内からパンや串焼き、果物などを食卓に並べていった。


「おおっ、今日の晩飯は豪勢だな」


 ベイルが、テーブルの上の見た目の豊富さに喜びを表す。

 その(かたわ)らでマサトは、味に大差が無い事を申し訳なく思う。


 マサトは夕食を取りながら、ベイルに魔道具店で購入して来た物を見せる。

 コネコネメイカーとパスタマシンに関しては、軽く実演も見せた。

 そんな感じで、ベイルに麺作りについて一通り教える。

 その横ではベスも、同じく二つの道具の説明を聞いていた。


 あとはベイルが、これらの便利道具を、どうするかだ。

 自作するのか、魔道具店に特注するのか。それはもう本人の問題だ。


 そんな感じもあって、ベイルの口から魔道具店についての話題が自然と出た。


「あの店も昔は同業者で、そこの息子とも顔馴染みだ。

そいつは頭が良くてな、王都に行って魔工技師になって戻って来てから

店を引き継いで、魔道具店を始めたんだよ。

同じ魔工技師の美人の嫁さんを連れて帰って来たって事で、

よく話題に上がっていたもんだったぜ」


「そうなのか。でも、その息子って言うのは見なかったな」


 マサトは、ベイルの話を聞いて、魔道具店の様子を思い出して言う。


「ああ、そいつは、戻って来てすぐに亡くなったって事らしい。

王都から戻って来た時の様子を知っている連中が言うには、

大分変わっていたらしいから、何か重い病気にでも掛かっていたのかもな」


「ベイルは、その息子には会わなかったのか?」


「その当時の俺は、大きな仕事の手伝いに呼ばれていて留守にしていたんでな。

今の店主になってからの事しか知らない」


「そう言えば、ミレディさんが、ベイルが気に掛けてくれている事に

感謝していたな」


「まぁ、俺も昔に、あの店に助けられた事があったからな」


 ベイルが、しんみりと過去を振り返って話す。


「マサト、デザートを下さい」


 ある意味天才か? とマサトはサントスに絶句した。

 それはベイルとの会話が、わずかに途切れたタイミングだった。

 サントスは、場の空気も読まずに、その欲望をぶちまけた。


 マサトは、ベイルとの麺作りに関する話を一通り終えていた。

 だからここで、話をぶった切られても問題は無かった。

 だが、さすがにこれはどうだろう?


 夕食も粗方(あらかた)片付いたと思っていた。

 それなのに、サントスは、まだ食べ足りないと要求して来た。

 しかも、他人の話をぶったぎってまで……


「サントス、まだ食うのか?」


「じ、自分が欲しいと言っているのではありません。

『女性の方』が、言い出せないでいると思って代弁をしているだけなのです」


 その『女性の方』に、明らかにサンディと言う人物が関わっている。

 その事実を知っているマサトは、その詭弁(きべん)に呆れてしまう。


 マサトは、ハルナ達が最初に一品の量を少なくしていた事を知ってた。

 だが、あれだけ似たような物を食べ続けて、まだ食べるのか? と思う。

 しかし、逆に、同じような物を食べ続けたからこそ、口直しが必要なのか?

 そう言う風に考えが回ってしまうと、いろいろと考え直してしまう。


「まぁ、構わないか」


 マサトは、共有の腕輪から、事前に作っておいた物を取り出して提供する。

 それを見た面々は、一瞬動きが止まり、そして次の瞬間に声を震わせた。


「な、なんじゃこりゃーっ!」


「えっ、何これ!」


「はわわわ、キレイなのです」


「ほほう、透明な塊の中に、オレンジの果肉が入っているのにゃ」


「まーくん、ゼラチンを作る事が出来たんだぁ。ああ、美味しい」(パクリッ)


 その場の全員がデザートの見た目に目を奪われていた。

 そんな中ハルナは、いち早く食べて満面の笑みを浮かべる。

 それはマサトが、改めて作っておいたゼラチンを使ったゼリーだった。


「ああ、ベスが持っていたニカワが良い物だったみたいで、なんとかなったよ」


 そしてマサトは、自分の分のゼリーをベイルに譲る。

 一応、試食はしたのだが、人数分しか用意していなかったので、致し方なし。


 ハルナの様子を見て四人が逡巡する。

 形を崩すのを、もったいないと思っているのだ。

 しかしながら、ついにスプーンを使って口へと運ぶ。

 そしてその顔には、幸せそうな笑みが浮かんでいた。


 マサトは、全員が思い思いに美味しそうに食べる様子を見て満足する。

 昨晩に試行錯誤して作った甲斐があったなと思った。


 しかし、そんなマサトの視界に何気ない違和感が映る。

 そしてマサトは、率直な疑問から口を滑らせてしまった。


「サントス、太ったか?」


 マサトの一言に、室内が凍りつく。


「そっちの兄さんが、多少太ったからと言って、なんだって言うんだ? 

むしろ男なら恰幅(かっぷく)が良くなったって事で良い事じゃないか」


「そ、そうですよ。マサトは急に何を言っているのでしょうね。はははっ」


 サントスはベイルの言葉を受けて、フードを深く被り直す。

 そして、乾いた笑いを上げながら、食べる速度を落とした。

 しかし、決して食べるのを止めはしなかった。


「ごちそうさまなのです。お片づけをするのです」


 そう言ってダーハは、ゼリーを半分残して後片づけを始めようと立ち上がる。


「子狐は育ち盛りなのにゃ。ちゃんと食べないと立派に成長しないのにゃ」


 そしてベスは、遠慮がちにしているダーハから食器を取り上げる。

 そして後片づけを代わって座らせた。


「そ、そうだよ、ダーハちゃん。

それにゼリーってカロリーが、かなり低いんだよぉ。

だからそんなに気にしなくても大丈夫だからね」


「それは良い事を聞きました!」


「ちょっと、サンちゃんは黙ってようか。

あと、女の子は少しふくよかな方が健康的で良いって、

まーくんも言っていたんだよぉ」


「ベスの言う通りダーハは、ちゃんと食べないとな。

ただ、ハルナは、その免罪符が自分にも適応するとは考えていないよな?」


「えっ!」


 そして、室内に沈黙が訪れる。


「まぁ、いろいろと美味しい物が作れるようになってきたから、

お互いに気をつけようって事だ。

特にオレが、最近になって甘味を用意した事も一因だろうから、

誰か一人でも酷くなるようなら甘味断ちもあり得るからな」


「了解にゃ」


「はいなのです」


「自分も大丈夫ですよ……」


「ボクだって大丈夫だよぉ」


「まぁ、そう言う事なら、俺から嬢ちゃんにコレを譲ってやるよ」


 そう言って、ベイルは工房の棚から四角い箱を持って来てハルナに手渡した。


「な、なんでコレがあるの!」


 そしてハルナは、手渡された悪魔の道具を見て恐怖する。


「以前に魔道具店の開店祝いの品だとか言って配られた物らしい。

俺は留守にしていたんで後から渡されたんだがな」


「ああ、これか。じいさんの所で見た事がある。

バネとギアで出来ているアナログタイプの物だな」


「なんで異世界に来てまで、

体重計の顔色を(うかが)わなければいけないんだよぉぉぉ!」


 ハルナが珍しく声を荒げたのを見て、ダーハが目を大きく見開いて驚いた。


「あっ、いや、そのぉ、なんでもないんだよぉ。気にしないで……」


 ハルナが、顔を赤らめながら誤魔化す。

 そして一息ついて落ち着いてから、ダーハに体重計の使い方を教えていた。

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